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オーテク、最上位カートリッジの音を引き出す約50万円のMCトランス「AT-SUT1000」

オーディオテクニカは、アナログレコードプレーヤー向けのMCトランス「AT-SUT1000」と、バランス伝送用のトーンアームケーブル「AT-TC1000」を11月22日に発売する。オープンプライスで、店頭予想価格は「AT-SUT1000」が50万円前後、「AT-TC1000」が各15万円前後。MCカートリッジのフラグシップ「AT-ART1000」の能力を最大限発揮させる製品と位置づけられ、3製品全てを「AUDIO TECHNICA EXCELLENCE」という新ブランドで訴求する。

MCトランス「AT-SUT1000」

なお、「AT-SUT1000」と「AT-TC1000」は、「AT-ART1000」専用の製品ではなく、他のカートリッジなどとも組み合わせられる。

「AUDIO TECHNICA EXCELLENCE」ブランドの製品。左から時計回りにMCトランス「AT-SUT1000」、トーンアームケーブル「AT-TC1000」、MCカートリッジの「AT-ART1000」

MCトランス「AT-SUT1000」

既発売MCカートリッジ「AT-ART1000」(約60万円)は、発電コイルをスタイラスチップの真上に配置する、独自のダイレクトパワー方式を採用したカートリッジで、非常に繊細なサウンドを実現している。そのサウンドをしっかりと受け止め、性能をいっそう引き出す製品として開発されたのが、MCトランス「AT-SUT1000」となる。

MCトランス「AT-SUT1000」
カートリッジ「AT-ART1000」

熟練の職人による手巻きのトランスで、ボビンの中に、刀の鍔(つば)のような特殊な構造を採用。静電容量をなるべく抑制させるために、巻き方や線間の距離にもこだわり、「適切なインダクタンスを保ちながら、キャパシタンスの成分を極限まで抑えるよう、試行錯誤を繰り返した」(商品開発部 ホームリスニング開発課の小泉洋介マネージャー)という。

商品開発部 ホームリスニング開発課の小泉洋介マネージャー

トランスコアは、内鉄型の大型Lコアを採用。従来モデルのAT5000TはL36サイズだったが、SUT1000ではL58サイズを採用。インダクタンスを大きくとることで、低域の減衰を抑え、昇圧特性を最高レベルまで向上させたという。

さらに、透磁性の高いパーマロイをラミネート構造にする事で、漏れ磁束を低減。優れた昇圧性能を実現している。

電流は、高周波領域において電線の表面を流れるため、撚線コイルを採用。表面積を最大化した。さらに、1次側、2次側で、最適な線径・本数も選んでいる。これら、特殊分割巻きトランス、大型Lコア、撚線コイルの組み合わせにより、超広帯域の周波数特性を実現。100kHzでも、周波数特性にほとんど暴れがなく、低域も減衰がほぼゼロを実現。「一昔前のMCトランスでは、低域、高域でワイドレンジを確保しづらかったが、そういった問題が大いに払拭された広帯域な製品が実現できた」(小泉マネージャー)という。

入出力は各1系統だが、端子はRCAピンジャックと、XLR(2番ホット)の2種類を用意。XLR各端子のコールド側はグランドと独立して、バランス伝送が可能。グランドターミナルも2個備えている。なお、排他利用となるため、RCAとXLRの同時利用はできない。

背面

筐体にもこだわっており、ベース部分に厚さ8mmの重厚な鉄鋼材を採用。フロントにも8mm厚のアルミ材を使っている。トランスは振動吸収特性の高い素材を介し、ベース部に固定。

トランスはチャンネル毎にパーマロイケースでシールド。その外側にあたる筐体にも、全方位に鉄板を配置しており、2重のシールドを構成している。「開発時には、(製品を設置した)ラックに振動を与えるとどうなるのかも測定、振動の振幅がより短く、さらに振動自体が素早く収まる事が確認できた」という。

昇圧比は22dB。対応カートリッジは2~17Ω。推奨負荷インピーダンスは47kΩ。チャンネルバランスは0.5dB以内、チャンネルセパレーションは100dB以上。外形寸法と重量は、196×150×92mm(幅×奥行き×高さ)で、約5kg。1mのアース線を同梱する。

トーンアームケーブル「AT-TC1000」

MCカートリッジのバランス出力を、そのまま高品位にバランス伝送するためのトーンアームケーブル。低出力のMCカートリッジに最適という、低抵抗設計になっている。

端子の違いによって4モデルをラインナップ。DIN 5ピン-RCAの「AT-TC1000DR」、DIN 5ピン-XLRの「AT-TC1000DX」、RCA-RCAの「AT-TC1000RR」、RCA-XLRの「AT-TC1000RX」を用意する。長さはいずれも1.2m。

左から「AT-TC1000DX」「AT-TC1000DR」
左から「AT-TC1000RX」「AT-TC1000RR」

4本の芯線が、L/Rのホット、コールドで独立したバランス構造のケーブル。最大の特徴は、導体に三菱マテリアルの「7N-Class D.U.C.C.」という高純度銅を使っている事。

この素材は特殊レベルで品質管理された原料・製法で製造される7Nクラスの銅で、ハイエンドオーディオケーブル専用の導体となる。銅の純度を高め、熱処理によって結晶粒を大きく成長させ、結晶と結晶の境界面を少なくしているだけでなく、結晶の配向性も最適化しているのが特徴。

ケーブルの内部構造
三菱マテリアル「7N-Class D.U.C.C.」の特徴

RCAプラグを採用したモデルの端子部には、PBT充填中空ホットピンを採用。グラスファイバー配合のPBT樹脂がピン内に充填されており、電気が流れた時のピン自体の機会的な振動、いわゆる金属鳴きを抑制している。

静電容量は線-線間で70pF/m、線-シールド間で120pF/m、導体抵抗は44mΩ/m。

接続イメージ

音を聴いてみる

MCカートリッジはフラグシップの「AT-ART1000」を使用。MCトランスのみ、前モデルの「AT5000T」(アンバランス接続のみ)と、新モデル「AT-SUT1000」(バランス接続)を切り替えて比較試聴した。ケーブルは既存の「AT6209」だ。

ART1000はもともと、繊細な表現を得意とするカートリッジで、広々とした音場に、細かな音まで精密に描写される。前モデルのAT5000Tでも、その傾向はよくわかるが、新モデルのSUT1000に切り替えると、音場が大幅に拡大。微細な音がよりクリアに、クッキリと聴き取れるようになり、SN比が格段に向上しただけでなく、音の鮮度もアップしたのがわかる。

細かいポイントに注目して聴き比べて違いを実感するというレベルではなく、切り替えた瞬間に、まったく音が違うとわかるレベルの大きな差がある。女性ボーカルでは音像が立体的に、周囲に浮かぶのパーカッションも、音像間の距離がより広く、定位がより明瞭に、そして余韻が広がる空間も広大になる。空間表現の向上は、バランス接続が可能になった事で、チャンネルセパレーションが向上した事も寄与しているのだろう。

コーラスの分離感、ヴァイオリンの弦の響きなども格段に良くなる。MCトランスでここまで大きく変化するのかと驚きだ。同時に、ART1000の本領発揮というか、真の実力を聴いたという感じもする。

さらに、トーンアームケーブルを「AT-TC1000」に変更すると、前述の音質進化が、さらに一歩先へと進む。情報量の多さ、微細な表現力は、最新のハイレゾファイルを聴いているかのようで、それでいて音自体はアナログレコードらしい自然で落ち着く音という、新旧のオーディオが共存するような新鮮な感覚が味わえる。