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ソニー・ホンダ「アフィーラ」乗ってきた。まるで「移動するAV空間」

「アフィーラ」のプロトタイプ

CES会場のソニーブースには、ソニー・ホンダが2025年の発売を予定しているEV(電気自動車)「アフィーラ(AFEELA)」のプロトタイプが展示されている。

会場なので走らせるわけにはいかないが、そのプロトタイプに「座る」ことができた。内部のAV機能やユーザーインタフェースを含めて、現状実装されている機能について聞いてきた。

そこで分かったのは、ソニー・ホンダはかなり本気で「移動するAV空間」を作ろうとしている、ということだった。

ディスプレイ+センサーでドライバーとコミュニケーション

アフィーラがどのようなEVかについては、すでにいくつか記事が出ているのでここで詳細な説明は省く。以下の記事を併読いただきたい。簡単にいえば、ソニー・ホンダは「カスタマイズ可能で、ソフトによって進化するEV」を作ろうとしている。

ソニー・ホンダのブランドは「AFEELA」。プロトタイプ披露

ソニーホンダ新EV「アフィーラ」は成長する“スマホっぽい”クルマ

では、それはどんなものになるのだろうか?

外見を見てやはり目立つのは、フロントとリアに用意された「メディアバー」と呼ばれるディスプレイだ。ここにはさまざまな情報がアニメーションの形で表示される。

アフィーラ(AFEELA)の特徴であるメディアバー(1)
アフィーラ(AFEELA)の特徴であるメディアバー(2)

なぜこのようなディスプレイが搭載されたのか? それは、車から外部への「コミュニケーション」のためだ。

さらにそこには2つの意味がある。それは「自動車からドライバーへのコミュニケーション」であり、「ドライバーから外部へのコミュニケーション」だ。

例えば今のプロトタイプでは、駐車中でメディアバーが消えている状態のところにドライバーが近づいていくと、それを認識してアニメーションを表示する。アフィーラが自律的に動作し、ドライバーと対話しているようなイメージを出したいからだ。

その時、出かける先で雨が降っていれば天気予報を表示する。それを見てドライバーが傘をとりに戻る……といったことだってあるだろう。

ドライバーが近づくとアニメーションがスタート

また、車のリアに突然クーポンが出ることもある。それを見た後の人にはお得な情報だ。リアのディスプレイに「駐車場を使う予定時間」が表示されていれば、空きスペースを探している人に役立つこともあるだろう。

いきなりディスカウントクーポンを後の車両に見せる……ということもできるかもしれない

EVには自動運転やADASのために多数のセンサーが搭載されている。そのセンサーは、EVを走らせるためだけに使われるわけではなく、EVとドライバーの間をつなぎ、EVが自律的にコミュニケーションするための目であり耳として使われるわけだ。

フロントガラスの上にもLiDARがついていた

アフィーラのドアにはノブがない。ならばどうやって開けるのか……と思うが、近づくと自動的に開く。ドア近くに内蔵されたカメラがドライバーや家族を認識する機能が備わっているためだ。

ドライバーをカメラが認識してドアを自動で開ける

こうした部分も、大量に搭載されたセンサーを生かした機能と言える。

OSはAndroidベース、スマホ感覚の車内

では中に入ってみよう。

ドライバーズ・シートに座ると、正面には巨大なディスプレイが見える。いわゆるコントロール・パネルとカーブミラーがディスプレイ化されているわけだ。

前面のコントロール・パネルは巨大なディスプレイになっている

2020年に公開されたソニーの試作EV「VISION-S」でも同じようなコンセプトだったのだが、ちょっと違う点もある。当時は「複数のパネルが組み合わさった」ような構造であったものが、2023年のアフィーラでは「一枚のパネル」になっているのだ。

2020年公開「VISION-S」のコントロール・パネル。同じような考え方だが、ブロック状にディスプレイをつないだものだったことがわかる。

これはなにも、ディスプレイとして一枚であることだけが重要なのではない。ディスプレイ上にあるコンポーネント、例えばナビや動画のウインドウなどを、より自由に配置し、入れ替えることができるようになっている……ということでもある。

実際、助手席の前に表示されていた動画の領域を、指でタッチして「ドライバーとパッセンジャーの間」に再配置してナビと入れ替える、なんていうこともできた。また、場合によっては「全部1つの絵にする」ことだってできる。

配置は自由に並べ替え可能
全体を1つの画像にしてしまうことも

機能が表示される場所も含め、コントロール・パネルのデザインはかなり大幅に変えられる。イメージとしては、スマホやゲームの「ユーザーインターフェース・スキン」だ。今回も映画などのテーマに沿ったスキンが用意されており、例えば「スパイダーマン」のスキンなら、アイコンから背景の色、さらにはナビの色調まで変化する。

「スパイダーマン」スキンにコントロール・パネルを入れ替え

助手席や後部座席では、さらに色々な娯楽を楽しめるようになっている。音楽や映像の再生はもちろん、ゲームまでできる。例えば、自宅にあるPlayStation 5にアクセスし、車の中からリモートプレイでゲームの続きをすることだってできるわけだ。

車内からPS5をリモートプレイ

「なんだかスマホみたい」

そう思った方は正しい。実際、スマホのようにカスタマイズ可能な形で作られているのだが、車内体験に関わる部分は、OS自体としても「Android Automotive OS」をベースに開発されている。だから、Android向けに作られた各種アプリをさらに自動車向けにカスタマイズして実装すれば、アフィーラのコントロール・パネル上で動作させられる。スマホ用アプリストアならぬ「EV用アプリストア」だって用意できそうだ。

目指すは「動くAVルーム」、空間オーディオ対応にセンサーを活用

それだけの性能を備えているため、映像の表示や音の再生といった「アウトプット品質」の部分も、かなりこだわった作りになっている。

ディスプレイは後部座席にもある。フロントのディスプレイで再生できるのはもちろん、後部座席側で別々に流すことも可能。それだけでなく、フロントから「どの座席にどの映像を流すか」を切り替える機能もある。

動画配信の再生機能は充実

カーオーディオというと、自己主張を含めて低音重視……といったパターンもあるが、アフィーラで目指しているのはまさに「自宅内」に近い環境である。

音楽については空間オーディオである「360 Reality Audio」にも対応している。スピーカーは各部にハイエンドオーディオ並みのものが搭載されているとのことで、かなり自然で「良い音」が楽しめた。

ドアやピラーにはハイエンドなスピーカーを内蔵

空間オーディオのため、座席の首のところにもスピーカーが内蔵されている。そのため、座っていると、ちょうど自分を包み込むように音場が形成され、体験としてかなり良い。

座席の首の部分にもスピーカーが。それぞれの座席で、最適な音場で空間オーディオを楽しめる

ここで面白いのは、空間オーディオの最適化にも「センサー」が活用されている、ということだ。

EUでは法制度化されたこともあり、今の自動車では、ドライバーの居眠り防止やよそ見防止などの目的から、距離センサーを使って姿勢を認識する仕組みを搭載する場合が増えている。

アフィーラも当然載せているのだが、その機能を使って頭の位置を把握することで、「うまく音が頭を包むように」「頭からの音伝達が理想に近い形で進むように」空間オーディオを補正して、音質を向上させているのである。

車内のドライバー認識用センサーを使い、空間オーディオの品質最適化を行なっているという

これはなかなか面白い。実際、体験も良かった。自動車メーカー単独では出てきづらい発想だろう。

「運転していない時も重視」して変化していくEV

なぜソニー・ホンダは、アフィーラのAV性能にこだわったのだろうか? それは「高級車なら必要」とか、「ソニーが作るから」というシンプルな話だけではない。

それはEVが「運転していない時にも重要な空間」になっていくと想定されているからだ。

例えば、街のEVステーションで30分充電をする、としよう。その間ドライバーは車内で待つわけだが、できるならそこは快適な空間であってほしい。

さらには、自宅で「一人の環境」が欲しかったとする。家に部屋が多数あるならいいが、そうもいかない場合、「快適なEVの中」は、独立した小さなAVルーム、のような存在になり得るのだ。

もちろん、移動中の重要性も変わらない。さらに、自動運転が進化してドライバーが運転する必要性がない時間が増えていくとしたらどうだろう? EVの中は「運転する空間」や「移動を我慢する空間」ではなく、「移動する部屋」になる。

アフィーラは「完全な自動運転車」ではないし、現状それを目指してもいない。技術と法制度の両面で困難だからだ。だが、「運転の必然性が薄れた未来」に向けて、アップデートできる車である必要がある。

だから、車内のエンタメにこだわり、車の外にはディスプレイをつけるのだ。

ただ、今実装されているものは、そこまで突飛な発想で作られた機能ではない。

だが、それを課題とするのはちょっと早計だろう。

ソニー・ホンダは他社とのコラボレーションを標榜している。今回示した機能などから、さらに自由な発想を持って価値を高めるパートナーを探してもいる……ということなのだ。

そういう意味では、今回のプロトタイプは「最低限のアプリしか入っていないスマホを公開した」ようなものなのかもしれない。