【CES】「2013年に米国一位のCEメーカーに」米Sony Molyneux社長

-IPTVでも画質重視。ネット配信「Qriocity」はモバイルも


 CES会場にて、ソニーは日本人記者向けに、米Sony Electronics社長兼COOのPhil Molyneux(フィル・モリニュー)氏を囲んでのラウンドテーブルを開催した。モリニュー氏は昨年9月に着任したばかりではあるが、アメリカでのTV戦略やGoogle TV、ネットサービスなどについて興味深いコメントがあった。



■IPTVでも「画質」にこだわり
 Music Unlimitedはウォークマン/モバイル展開も視野

米Sony Electronics社長兼COOのPhil Molyneux(フィル・モリニュー)氏

 今回のCESでは、LG電子およびサムスン電子が「SmartTV」というキャッチフレーズを使い、テレビの高機能化を打ち出している。それに対しソニーはどのように対抗するのか? モリニュー氏はアプローチのありかたを次のように解説した。

モリニュー氏(以下敬称略):今回27種類のBRAVIAを発表したが、そのうち22種類はネット接続機能を持っている。

 それらの機種の中には、新しいエンジンである「X-Reality PRO」を搭載したものがあるが、IPTV・ネットストリーミングであっても高画質化する能力を持っている。これは、他社との大きな違いだ。我々はIPTVであっても、画質・音質に大きなこだわりを持っている。


液晶テレビBRAVIAでは、最上位モデル「XBR HX929シリーズ」を含む9シリーズ27モデルが発表された「Google TV」こと「Sony Internet TV Powerd by Google」

 ソニーの、テレビにおけるネット戦略の特徴は、俗に言う「Google TV」こと「Sony Internet TV Powerd by Google」を持っている点になる。10月から販売を開始しているこの商品の売れ行きなどにも話は及んだ。

モリニュー:「Sony Internet TV Powerd by Google」の売れ行きは堅調なものだ。12月のセールスも、予想通りのものとなっている。

プレスカンファレンスでストリンガーCEOが、2011年のテレビのテーマとして掲げた「Television Redefined(テレビ再定義)」

 Internet TVは、これまでのIPTVとは大きく異なる。これまでのテレビはパッシブ(受け身)な存在だったが、この商品はよりインタラクティブに利用する。放送だけでなく、ネットのコンテンツまで含め「自分に入って来る情報」を自ら積極的に利用する形の製品だからだ。Internet TVはとても面白いプロダクトで、アップデートで常に進化していく。また、ケーブルTVサービスともシームレスに連携する。

 この点も含め、ソニーは2011年「Television Redefined」というキーワードで推進する。

 今回のCESでは、LG電子とサムスンが「SmartTV」というコンセプトを打ち出した。またパナソニックも、「VIERA Connect」という形で、テレビ内にアプリを追加するサービスをスタートする。ユーザーが自由にコンテンツを選び、「アプリを買って追加する」という形で進化させていくコンセプトは同様だ。

 これらのライバルが「テレビ向けアプリストア」に向かう点については、次のようにコメントし、短期的に「ソニーが運営するテレビ向けアプリストア」展開がない、と説明した。

モリニュー:BRAVIAにはすでに40以上のアプリがあり、今後もどんどん登場する。それらで楽しいエンターテインメントを演出できることと思う。

 また、Internet TVはGoogleのサービスが利用できる。サードパーティーのアプリを利用する環境としては、ヤフーのTV WidgetをBRAVIAで採用している。

 そもそも大切なのは「何万個アプリがあるか」ではなく、ユーザーが使いたい、利用したいと思う物がいくつあるか、ということだ。


月額課金制の音楽配信サービス「Music Unlimited powered by Qriocity」

 特にBRAVIAにとって大きな存在となるのは、ネットサービス「Qriocity」だ。現在アメリカとヨーロッパでは動画配信「Video On Demand powered by Qriocity」が、イギリス・アイルランドではそれに加え、月額課金制の音楽配信サービス「Music Unlimited powered by Qriocity」がスタートしている。アメリカでもこちらはサービス開始が予定されており、今回も会見などでは大きく時間を割いて紹介がなされていた。

モリニュー:Qriocityは、我々のネット戦略のコアだ。Music Unlimitedでは600万もの楽曲を自由に選んで聴ける。

 音楽はヨーロッパから、映像配信はアメリカからスタートしたが、それぞれのマーケットの事情を見ながら決断したもので、特に大きな理由があるわけではない。

 音楽といえば、ソニーにとって代名詞となるのは、やはりウォークマン。日本では12月に一時シェアがアップルを抜いて5割に到達したが、アメリカでは圧倒的にiPodが先行している。


PSPで「Music Unlimited powered by Qriocity」が動作しているデモ。モバイルにも展開していくという

モリニュー:率直にいって、アップルは非常に強い。なかなか良い仕事(pretty good jod)をしていると思う。そこに追いつくのは簡単なことではないが、ソニーとしてはMusic Unlimitedのようなバリューチェーンを打ち出して戦っていきたい。

 現在、Music UnlimtedはBRAVIAとVAIO、プレイステーションでの利用となっているが、今後は他のモバイル機器にも広げていきたい。

 すなわち、ウォークマンなどでも、なにがしかの形でMusic UnlimitedやQriocityに対応する計画がある、ということである。ただし、実現の時期については明確なコメントがなかった。また中長期的には、電子書籍事業などのQriocityへの統合も予定されているという。




■クリスマスセールスは好調、2011年は「パーソナルコンテンツ」を起爆剤に

 ソニーは全社を挙げて「3D」を後押ししている。では、アメリカでの3Dのセールス状況はどうだったのだろうか?

モリニュー:アメリカでの3Dのセールス状況は好調だ。ブラックフライデー(11月の第4木曜日)からクリスマスまでの3Dテレビのシェアでは、アメリカNo.1になった。Blu-rayについても、アメリカではこのクリスマスシーズン、No.1のシェアを獲得できた。そこに、BD再生機能を持ったPlayStation 3を加えれば、圧倒的な量となる。

 3Dに関する認知度も、徐々にアメリカの消費者の間であがっている。映画コンテンツ、放送に加え、「グランツーリスモ5」のようなゲームの3Dコンテンツも登場し、ますます3Dの認知と魅力は高まっている。

 これからはそれに加えて「パーソナルなコンテンツ」が広がっていくと考えている。現状での、テレビ全体での3D比率は数字を持っていないのでコメントできないが、パーソナルコンテンツの3D化によって、普及率は爆発的に高まると考えている。(今年発売する)「3D Bloggie」や「3Dハンディカム」は、それを後押しする。特に3Dハンディカムは、デュアルのイメージャーもデュアルのプロセッサーも、裸眼式のディスプレイもすべてソニーが内製したもの。垂直統合型プロダクトだ。

すべて内製で作られたという3Dビデオカメラ「HDR-TD10」3D Bloggieもアピール。3Dの普及を後押ししていく

 今回、ブースでは「グラスレス3D」の技術も展示している。また、3D対応のヘッドマウントディスプレイも注目を集めている。3Dを推進する上で、既存のアクティブシャッター方式と裸眼をどう位置づけるのだろうか?

参考展示された、4Kパネルを採用した裸眼3Dテレビ。ほかにもフルHDパネルを採用した裸眼3D有機ELも展示された720pで3D体験できる有機ELヘッドマウントディスプレイも参考出展

モリニュー:我々もグラスレス3Dの技術をもっていることを発表した、と考えていただきたい。現時点では商品化のプランは公表できる段階にない。少なくとも現世代は、今の方式(アクティブシャッターでのグラス)に注力したい。

 テレビについては、特にサムスンとLG電子が「狭額縁」デザインを打ち出しており、会場でも強くアピールがなされていた。これらのデザイントレンドについては、「ちょっと見ただけだが」と補足した上で、次のようにコメントしている。

モリニュー:彼らはなかなか良い仕事をしたと思う。だが、我々のモノリシック・デザインも負けてはいない。フラットでベゼルの継ぎ目のないデザインは美しい。また、今回は表面ガラスにCorning社の「Gollira Glass」を採用したことも挙げておきたい。美しいだけでなく非常に堅牢なのが特徴で、子供がPlaystation Moveなどで遊んでいる際、エキサイトしてコントローラーをぶつけてしまっても、おそらくは大丈夫なほどだ。この点は他社と大きく異なる。

モノリシック・デザインを採用しつつ、40型以上のモデルには、表面のガラス部分に米Corningの「Gorilla Glass」を採用した。0.7㎜と薄いガラスでありながら耐久性が高く、よりデザイン性を高めることができたというサムスンのベゼル幅0.2インチの液晶テレビ「Series 8000」


■「店頭での理解」を改革し
 2013年までに「アメリカでトップのメーカー」を目指す

 モリニュー氏は、ソニーグループで20年以上のキャリアをもち、9月の着任までは、東ヨーロッパなど、21カ国のビジネスを担当していたという。アメリカでのビジネスに着任してからの約4カ月間も、全国の店頭・販売店網を精力的に訪問し、販売の状況を確認しているという。

モリニュー:リテールでは、いかに「商品をわかっていただくか」に力を入れている。率直に言って、まだまだ我々の製品の良さを販売店・担当者にきちんと理解していただけていなかった、という反省がある。バリューと性能が正しく消費者に伝わっているわけではない。

 例えばBestBuyでは、Internet TVを展示する場合、必ず「ライブ」にしてもらうようにお願いした。きちんと本当にネットにつなぎ、お客様が実際に試して購入していただけるように環境を整えた。そういったことを実行していくことに力を入れている。

 さきほど日本でのウォークマンの例があったが、ウォークマンのシェアが日本で上がったのも、ショップでの体験を改善し、実際に音質の差をわかっていただけるような形態にしたからだ。こういった施策は、アメリカのマーケットでも重要だろう。そういった改善でシェア50%を実現した栗田さん(ソニーマーケティング社長・栗田伸樹氏)は、とてもすばらしい仕事(excellent job)をしたと思う。

 ショップフロントの改善を含め、様々な施策を通して、2013年までに、ソニーがアメリカでトップのコンシューマ・エレクトロニクスメーカーになることを信念に活動していきたい。


(2011年 1月 9日)

[Reported by 西田宗千佳]