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Shure、カーボンファイバー&新振動板で実売5万円の密閉型ヘッドフォン「SRH1540」

SRH1540

 Shureは24日、密閉型ヘッドフォンの最上位モデル「SRH1540」を発表した。12月下旬発売を予定しており、価格はオープンプライス。店頭予想価格は5万円前後。10月26日(土)と27日(日)に開催予定の「秋のヘッドフォン祭2013」で試聴機が用意される予定。

 密閉型ハウジングを採用したヘッドフォンで、ユニットは40mm径。振動板に特徴があり、APTIVというフィルムを使っている。PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂で作られたフィルムで、一般的に振動板に使われるPC/ABS、ポリプロピレンなどと比べ、剛性が高く、汗などに強く、温度や湿度への耐久性も優れているのが特徴という。

SRH1540の内部構造

 この素材を6μm程度の薄さの振動板に加工できる技術を持った会社があり、そこに依頼し、振動板を作成している。できるだけ薄くする事で、音のレスポンスは向上するが、通常の素材では薄くすると壊れやすくなり、剛性が足らずに動きにムラが発生し、歪が生まれる。しかし、APTIVフィルムは強度があるため、この薄さでも歪が生まれにくいという。さらに、マイラー素材などと比べても、温度や湿度へ高い耐性を持つとしている。

 この40mm径振動板を、ネオジウムマグネットを使ったドライバで駆動。通気孔のあるセンター・ポール・ピースを備えたスチール製のドライバーフレームを用いる事で、内部での共鳴を低減。ハウジングを覆い、密閉型にするためのキャップには、カーボンファイバーを使用。ハウジングの共振を抑える役目がある。

SRH1540
ハウジングのキャップにはカーボンファイバーを使っている
フォルムは開放型の「SRH1840」をベースにしている
ヘッドパッド部分

 ヘッドフォン自体の基本的な形状は、開放型の上位モデル「SRH1840」をベースにしている。これは、「1840のデザインや軽さ、装着感の良さについて世界中から良い反響を頂いたので、密閉型でも、そのプラットフォームを採用する事になった」(開発担当のマイケル・ジョーンズ氏)という。

 しかし、細部で1840から進化した点がある。1つはイヤーパッド。Alcantara(アルカンタラ)という、肌触りが良く、柔らかで、形状復元能力も備えた素材を使用している。パッドには水玉のような模様があるが、これは空気を循環しやすくする工夫だという。イヤーパッドにも同じ素材が使われている。

Alcantaraを使ったイヤーパッド。肌触りはしなやかで、指でつまめば簡単にカタチが変わる柔らかさを持つ。しかし、指を離すとすぐに元通りになる
長さ調整したヨークをホールドするスライダーエンドキャップも改良

 さらに、ユニットとヘッドバンドを繋ぐヨーク部分にはアルミ合金を採用。このヨークは、長さ調節ができるが、決めたポイントでシッカリと固定するため、スチールバネを使ったスライダーエンドキャップを搭載。装着し、最適なポジションに調整した後、その状態がシッカリと維持されるという。

 細かい点では、ヨークの端の処理を変更。1840はパーツを削りだした後の、断面に残るギザギザした加工跡が見えていたが、SRH1540では滑らかな湾曲に仕上げており、質感や、触った時の感触も良くなったという。こうした細部の改良は、今のところ未定ではあるが、将来的に1840にも反映される見込み。その際に1840の型番が変更になるか否かは、現在検討している段階だという。

SRH1840のヨーク断面。よく見ると、加工時のギザギザが見える
SRH1540のヨーク断面。滑らかな仕上げになっている

 再生周波数帯域は5Hz~25kHz。感度は99dB/mW。インピーダンスは46Ω。最大許容入力は1,000mW。重量は286g。

 OFCのケーブルには、ケブラー素材も用いて性能や耐久性を向上。長さは1.83m。両出しで着脱が可能。端子にはMMCXを使っている。プレーヤー側の接続端子はステレオミニ。交換用ケーブル、保管ケースなどを同梱する。

ケーブルは着脱可能。MMCX端子を使っている
入力端子部分

型番でマーケットでのポジションを伝える

開発担当のマイケル・ジョーンズ氏

 開発担当のマイケル・ジョーンズ氏は、ターゲットユーザーとしてオーディオファンだけでなく、サウンドエンジニアなどのプロ向けに、モニタースピーカーの補助的な、リファレンス・ヘッドフォンとしても使えるように、音質や装着感を追求したと説明。

 型番の「SRH1540」に使われている1540という数字については、「密閉型で240、440、550DJ、750DJ、840、940という数字を使ってきて、3桁の数字が無くなってしまったので(笑)、4桁にした。しかし、1040とか、1140、1240などの数字は使いたくなかった。それは、開放型のSRH1440(実売約36,800円)、SRH1840(実売64,800円)が存在するため。マーケットのポジショニングを、数字で簡単に理解していただけるように、1440と1840の間に入るSRH1540(想定売価5万円)と名づけた」という。

試聴してみた

 発表会場において、ハイレゾポータブルプレーヤーのAK120で試聴してみた。

AK120で試聴してみた

 第一印象は「ハイスピード」だ。従来の密閉型ヘッドフォンで、SRH840は重低音が印象的な重厚サウンド、SRH940はタイトな低域を持ったイスピードなサウンドだが、方向としては940寄りだ。だが、1540はさらにトランジェントが良く、細かな音を俊敏に描写。高域の抜けが良く、音場も広大で現代的なサウンド。同社のバランスド・アーマチュアイヤフォンのイメージに近い。

 同時に、高域は不必要に硬質にならず、カリカリ感は抑え、しなやかさが同居。弦楽器の微妙な表情もシッカリ描いている。密閉型だが、開放型のヘッドフォンを聴いているような印象を受ける。

 かといって高域寄りで、低域が出ないかというとそんな事はなく、沈み込みが深く、量感のある低音がキチンと出ている。タイトな940と比較すると、低域のクオリティは大幅な向上と言える。同時に、その低域も“モッタリ”せずにハイスピード。ベースの弦の動きなど、うねる低域の中でも、細かな情報が聴き取れる。分解能の高い高域とマッチした低音だ。

 開放型の最上位モデル「SRH1840」を聴いた事がある人は、そのサウンドに密閉型らしい厚みのある中低域をプラスしたようなサウンドを想像するとSRH1540に近い。全帯域に渡ってハイスピードで、軽やかだが低音の迫力もあるサウンドが心地良い。要注目の実力派モデルだ。

(山崎健太郎)