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NHK「ダーウィンが来た!」など、作りたて“フル4K”番組を体験。制作現場の声も

 日本放送協会(NHK)は27日、今後の4K/8K(SHV)放送実用化を見据えたコンテンツ制作の取り組みとして、既に制作が完了した4K番組を紹介する試写会をマスコミ向けに開催した。ドラマやドキュメンタリーなどの“フル4K”で制作された番組を上映し、特徴的な画質の違いや制作の課題、今後の展開などについて説明した。

 今回上映されたのは、ドキュメンタリーの「月の魔法が命をよぶ グレートバリアリーフ大産卵」、「人体・ミクロの大冒険 ようこそ! 細胞のミラクルワールドへ」の予告映像(各2~3分程度)と、「正月時代劇・桜ほうさら」、「ダーウィンが来た! ~歩いて冬眠!? ホッキョクグマの秘策」の本編の一部(各10分程度)。東芝の4K対応テレビ84型「REGZA Z8X」で視聴した。今回のような作品数を一度に上映するのは、NHKにとって初めてだという。

自然ドキュメンタリー、CG、ドラマそれぞれの4K制作

 最初に上映された「ダーウィンが来た! ~歩いて冬眠!? ホッキョクグマの秘策」は、カナダ・ハドソン湾の周辺で撮影。同番組は毎週日曜午後7時30分から放送されており、今回上映された内容が初の4K収録となった。マイナス20度を下回る過酷な環境での撮影で、通常のロケはカメラマンとディレクターの2名で行なうが、今回はビデオエンジニアを加えて3名体制とし、専任のフォーカスマンはいないが、途中でHDモニターをつないでフォーカスを確認する作業もあったという。「苦労もあったが、撮影は思いのほかスムーズだった」とのこと。なお、4月のオンエアでは4Kではなく通常のHD画質となる。

 カメラはソニーのPMW-F55を使用し、XAVC形式で60p撮影。レンズはフジノンのシネレンズ「ZK4.7」や「ZK3.5」をメインに使用したが、望遠側が足りない場合はHDレンズも使用したという。

 実際の映像を観ると、白一色の雪景色のなかでも、細かい雪や氷の粒を精細にカメラでとらえており、降り積もった雪が凍って硬くなった質感も確認できる。もちろん、ホッキョクグマの毛並みの細かさも潰れずに表現されており、実際には近付けなそうな距離感で、温かい毛皮の“モフモフ感”が大画面から伝わってくるようだ。

ダーウィンが来た! ~歩いて冬眠!? ホッキョクグマの秘策

 「人体・ミクロの大冒険 ようこそ! 細胞のミラクルワールドへ」もドキュメンタリーだが、ガラリと雰囲気が変わって、こちらは大半が実写ではなくCG。「人体の中を旅しているようなディテールにこだわった」という。NHKで初の本格的なCGによる4K映像とのことで、HDに比べるとレンダリング時間は約4倍かかったという。この番組は既にHDで放送されたが、元のテクスチャから9~10倍の精密さにして、レンダリング時間が4倍以内に収まるように計算。一部はクラウドでレンダリングを行なったという。CGがメインだが、カメラでの撮影にはF55を使用。特殊に開発した接写カメラも使った。

 番組で使われているのは実際の研究に基づいた映像とのことだが、通常のテレビ番組だと“顕微鏡で観た映像”のイメージしかない細胞が、まるで1体の大きな生き物が意思を持っているように目の前で動きまわる。大画面だからといって引き延ばした感じは無く、よくできたCGがまるで実際の写真に見えるのと同様に、映像に説得力を持たせていた。

人体・ミクロの大冒険 ようこそ! 細胞のミラクルワールドへ

 「月の魔法が命をよぶ グレートバリアリーフ大産卵」は、「ダイオウイカ」の制作プロデューサーらがオーストラリアに4Kカメラを持ち込み、年に1回、満月の数日後に起こるというサンゴの大産卵を撮影したもの。光の関係で難易度が高いという海中撮影のため、RAWデータで収録して、ポストプロダクションの段階で、肉眼に近い色合いを再現したという。カメラは水中がF55 RAWで地上がF55 XAVC、空撮にはREDを使用。一部はアクションカメラのGoProも使うなど、状況に応じて使い分けたという。基本は30pで、一部は60p映像を使用した。

「月の魔法が命をよぶ グレートバリアリーフ大産卵」の撮影風景

 「正月時代劇・桜ほうさら」は、今年1月に放映されたもので、収録は4Kで行なった。カメラはF55で、ほとんどが30p。制作担当者によれば「特に4Kの違いが一番出たのがナイトシーン。江戸時代のため照明は炎だが、色のつややかさ、闇の怖さなどが生々しく表現され、物語を盛り上げてくれた」とのこと。ただ、ドラマの場合は「どのサイズ(画角)で見せるか」にまだ明確な答えが無いという課題も指摘。ポスプロ時は150型モニタで確認しており、「小さい画面では4Kがさみしくなるので、大画面で観る方を大事にした」とのこと。

 カメラワークについては、HDのように細かいカッティングをしすぎると観る人の目が追い付かなくなるため、これを避け、長回ししても役者が動くことで次の場所に移動するといった方法を意図的にとったという。

正月時代劇・桜ほうさら
収録の模様
編成局編成センター 長野真一副部長

 「4Kならではの撮り方」については番組ジャンルなどによって異なるが、かつてSDからHDへ移行するときも、同様の議論があったという「引きで見せる方がいいと言われ、そう作っていても、視聴者の目が“進化”することもあるため、それに合わせた演出に切り替えていく。2Kだから、4Kだからこうでなくてはいけないというのではない」(編成局編成センター 長野真一副部長)としている。60p/30pのどちらで撮るかは、基本的には演出によって決めているとのことで、番組の内容や今後の技術の進化などにもよるが、ドキュメンタリーなどで動きが早い場合は60p、ドラマなどは30pが多いという。

 いずれの上映も短い時間ではあったが、現在のHD放送と同じような構成の番組が4K化されたことで、展示会などで上映される「デモのための映像」よりも身近に高精細を感じられた。今回の4K映像の一部は、4月にフランスで行なわれる業界関係者向け展示会「MIPTV 2014」などでも上映される予定。

 なお、今回予定されていたが、制作の都合で上映されなかった「ミラクルボディ3 サッカーワールドカップ編」(3月22日放送)も、4Kで制作。4Kハイスピードカメラの「FT-ONE」(朋栄)や4Kウェアラブルカメラ、4Kデジタルビデオカメラなどを使用し、サッカー・ブラジル代表のネイマール選手らのスーパープレイを映像から分析している。

4K/8Kどちらも「SHV」の呼称に。4Kは'15年に向け10本を制作中

編成局計画管理部 黄木紀之部長

 編成局計画管理部の黄木紀之部長は、まだ視聴者に向けて放送はできない4K番組をいち早く制作する狙いの1つとして「国際展開力の強化」を挙げる。「NHKがフル4Kを始めているジャンルは、フラッグシップである『自然』、『科学』、『ドラマ』、『スポーツ』の大型コンテンツ。これらは世界に通用し、国際展開強化につながる」とした。また、2つ目の狙いは「8Kに向けてのノウハウの蓄積」を挙げ、撮影や業務フローなどの習熟により、高精細映像の可能性を追求していくという。

 なお、NHKはこれまで8Kをスーパーハイビジョン(SHV)と呼び、4Kと区別していたが、総務省が4K/8Kをどちらもスーパーハイビジョンと呼ぶという方針を決めたため、NHKもこれに合わせるという。ただし、「NHKの最終目標は8K。重点は8Kに置き、4Kからシームレスにつなげていく」(前述の長野真一氏)という。ただし、世界的にはUltra HD(UHD)など他の呼び方もあるため、最終的には定着した呼び名に合わせていく方針。

 現在、4Kでの制作は「量産体制ではない」とのことだが、'15年に向けて少なくとも10本以上のタイトルは4Kで制作される見込み。具体的には明らかにしていないが、ドラマや自然、ドキュメンタリーなどが予定されている。

(中林暁)