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4K/リモート/Hybridcastの第3世代STBが「ケーブル技術ショー」に。HMDでCATV視聴も
(2014/7/29 17:07)
ケーブルテレビ(CATV)関連の新製品や技術、サービスなどを紹介する「ケーブル技術ショー 2014」が東京国際フォーラムにて7月29日から30日まで開催されている。入場は無料(登録制)。今年は69社が出展しており、出展社や業界団体による技術セミナーも行なわれている。開場時間は10時~17時。
出展内容で注目されているのは、日本ケーブルラボが策定中の「第3世代(3G)STB」関連の製品とサービス。9月の規格化が見込まれており、主な必須要件が「4K放送対応」と、スマホなどを使った「リモート視聴」、放送通信連携の「Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」の3つ。そのほかにも、著作権保護のHDCP 2.2への対応も必須となっている。
今年のケーブル技術ショーでは、上記の必須要件に対応予定のSTBをパナソニックやパイオニアなどが参考出展していたほか、4K放送を見据えた映像/伝送技術などを各社がCATV局向けに提案している。
パナソニックは第3世代STBを年内提供へ。HMDの360度映像や「乙女電芸部」も
2020年の東京オリンピックや、4K/8K放送、IP配信との連携などを見据えた“将来のCATV事業の具体的なイメージ”を展示している。
同社が年内のサービス提供開始を予定しているのは、前述した第3世代STBの機能のうち、「リモート視聴」と「Hybridcast」。この他にも、スマホ/タブレットからのミラーリングや、HTML 5を活用した新しいUIも、年内の導入を目指している。
4K関連では、4K/60p HEVC映像をRFとIPのどちらでも受信できるハイブリッドSTBを参考展示。同社の4K対応テレビ「VIERA AX800シリーズ」とHDMI 2.0で接続し、高解像度を活かしたデモとして縦12×横12の144画面から好みの番組を選べる(今回の展示は放送ではなくデモ用映像)といった使い方を提案している。なお、今回の出展に合わせて同社AVCネットワークス社のSTBネットワークビジネス ビジネスユニット長 理事を務める安藤誠氏に、CATV関連の取り組みについてインタビューを行なった。その内容は別記事でお伝えする。
アクトビラがCATV事業者にプラットフォームを提供している「ケーブルアクトビラ」関連のコーナーも用意。同サービスは現在40局で採用されており、CATV局にとって低コストでスマホ/タブレット連携などを含む最新機能をユーザーに提供可能なほか、コンテンツ調達の費用を抑えられることなどが特徴。このケーブルアクトビラにおいても、インターネットを利用したCATV STB向け4K映像配信サービスを予定している。回線速度に応じた画質(ビットレート)でストリーミング配信できるほか、ダウンロード配信にも対応。4K配信向け仕様の「アクトビラ ビデオ・4K」は、9月に策定が完了する見込み。
STBやテレビといった受信側の4K対応だけでなく、コンテンツ制作側にも製品を提案。4K動画撮影が行なえるミラーレス一眼の「GH4」や、XLR端子などを追加できる業務用のインターフェイスユニット「AG-GH4U」などを紹介している。さらに、局の映像アーカイブ関連の製品として「LTOアーカイブシステム」や、既存ノンリニア編集機と連携したダイレクトアーカイブシステムも紹介。メタデータ検索などを活用した素材の効率的な運用や、省スペース/コスト削減といった利点をアピールしている。
「将来コンセプト」というコーナーでは、従来のCATVの枠を超えたユニークな提案を行なっている。「全方位パノラマ映像」は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使って360度どの方向を見ても楽しめる音楽ライブやドラマなどの映像を“次世代コンテンツ”として訴求。今回のデモでは、HMDの「Oculus Rift」とヘッドフォンを装着して視聴できる複数の映像コンテンツを用意している。360度映像コンテンツとしては珍しい試みとしてショートドラマ作品を楽しめる。このドラマ「派遣の言い分」は、HMDを装着することで、出演者の中に自分が入り込んでいるような感覚で楽しめるのがユニークだ。
ドラマの映像は、アクションカムのGoProを6台組み合わせて全方位を撮影。「正距円筒図法」で2D映像として記録し、STB側の処理で球面映像化してHMDで視聴できるようにしている。ドラマ以外にも、花火を火の粉が降りかかるほど間近で見たり、スポーツイベントが行なわれているスタジアムの様子など、普通は味わえない視点で映像を楽しめるといった使い方を想定。「2020年の東京オリンピックに向けた未来型視聴スタイル」として提案する。
CATVは、コミュニティチャンネルなどで「地元密着のコンテンツを楽しめる」のが大きな特徴だが、その常識を越えた発想で提案しているのが、「ケーブルアワー」。これは、ある時間帯の枠に、特定の視聴者をターゲットにした番組を全国一律の内容で放送するという試み。例えば「高所得」で「スマホの機能にそれほど強くない」層をターゲットとした旅番組を放送する場合、番組の進行に従って画面にQRコードを表示。スマホのカメラをかざすことで簡単に情報へアクセスできるといった分かりやすい動線を用意する。ターゲットを絞り込むことで、広告の効果を高められることが特徴。ローカルなコンテンツを全国で放送することによる地方活性化も見込めるという。
“生活シーンにフィットするリモコン”として提案されているのが、「乙女電芸部」による「メイカーズ時代のリモコン」。これは、既存のリモコンの形にとらわれず、例えば「ルームシューズを履くとテレビがONになってニュース番組が始まる」といった身近な雑貨などをリモコン的に活用するもの。
乙女電芸部は、「電子工作とガーリー手芸をする部活」。前述のルームシューズは、履くと圧力センサーが感知してリモコン信号を発するというもので、こうした柔らかい手芸とセンサーのような工業製品を組み合わせたものづくりを目指しているという。
ルームシューズ以外にも、お茶を飲むためにティーコージー(ティーポット用の布カバー)を持ち上げると、照度センサーが反応してテレビから音楽チャンネルが流れたり、アロマディフューザーをオンにすると、アルコールセンサーが感知して、就寝前におすすめのチャンネルに切り替わるといった例を提案。展示しているこれらのリモコンは、部員が実際に秋葉原でセンサーを買ってきて手作りしている。ただのコンセプト展示ではなく、実際にリモコンとして動作することも確認できた。
このように生活に溶け込んだリモコンを提案しているのには、若年層がテレビを観なくなっている背景がある。説明していた20代の部員も「番組が気分に合わない時、わざわざリモコンでザッピングするのは面倒」とのことで、観る側がテレビに合わせるのではなく、「生活にテレビがついてくる」形を目指している。豊富なチャンネルから選べるCATVは、こうした考え方にマッチしているという。
アドオンで4K放送に対応するパイオニアのSTB用アダプタなど
パイオニアは、STBの今後の新機能について、「ハイブリッドBox」というコーナーで説明。現行STBの「BD-V372」を、秋に機能強化してUSB HDDとNAS(LAN HDD)の2番組同時録画や、YouTube視聴、J:COMのIP-VODサービス「milplus」に対応する。アップデート方法は、放送波ダウンロードも検討しているが、UIが自動で一新されることによってユーザーが戸惑わないよう、希望するユーザーだけにUSBメモリ経由でアップデータを提供することを計画している。
さらに、将来の機能強化として第3世代STBの必須要件である4K放送とリモート視聴、Hybridcastへの対応を検討中。IP/RFどちらの受信も可能な4K対応STBの試作機に加え、既存のSTBに追加できる「4K対応アダプタ」の試作機も参考展示している。
ブロードネットマックス(BN・MUX)のブースでは、RF/IP伝送の両方に対応したハイブリッド型の4K放送対応STB「ST4172」や、IP対応の4K STB「ST4171」を参考出展している。発売時期などは未定。現在の4K試験放送で稼動している256QAM変調器などと組み合わせて、4K放送システムをトータルで提案している。
4Kカメラ/アップコンバータなど放送局向け4K製品も充実
ソニーは、4Kコンテンツ制作で広く採用されている「PMW-F55/F5」を、ショルダーカムコーダとして使えるようにする「EFP スタイルビルドアップキット」を参考展示。発売時期は未定だが、既に製品化すること自体は決まっているという。
横から見るとL字型のアダプタとなっており、F55/F5の底面と背面に沿うようにして装着すると、ショルダーカムコーダとして利用可能。ショルダーパッドを前後にスライドさせてバランス調整ができる。装着時の重量は最大約7kg。ゲインなどのコントロール部も備えるほか、背面下部に入力インターフェイスを装備。ソニー製のワイヤレスオーディオレシーバにも対応する。
29日に発表したXDCAMメモリーカムコーダの「PXW-X70」も展示。本体重量約945gの小型モデルながら、今後のファームウェアアップデート(有償)で4K撮影にも対応予定となっている。また、アーカイブ関連の製品として、光ディスクを使ったUSB 3.0接続のドライブユニット「ODS-D77U」と、コンテンツ管理ソフト「Content manager」なども展示している。
6月から始まっている4K試験放送「Channel 4K」のCATV局向け再送信に配信プラットフォームを提供している日本デジタル配信(JDS)は、Channel 4Kの番組にCATV局が独自のコンテンツを加えて編成するというシステムを提案している。現在の試験放送は開始が午後(12時30分)からとなっているため、空いている午前中の時間に、CATV局が独自で撮影したローカル番組などを放送できるという点をアピール。アクションカムのGoProとラジコンヘリで撮影した空撮映像や、パナソニックのGH4で撮影した映像などをデモ展示しており、局が独自に4Kコンテンツを放送できることを紹介している。
朋栄(FOR.A)は、9月発売予定のHD-4Kリアルタイムアップコンバータ「URC-4000」を展示。「マルチスケール非線形エンハンサ」により、解像度変換時に生じるジャギーやシュートノイズなどを抑えて高画質な4K変換を可能にしたという。また、マルチチャンネルビデオ送出サーバーの「MBP-500VS」は、2Uラックマウントサイズに小型化し、6ch対応の場合に約1,300万円、8ch対応でも約1,500万円と低コストで導入できることなどを特徴としている。年内に発売予定だが、既にNHKで導入されているという。そのほかにも、ライブスポーツカメラとして各所で活用されている「FT-ONE」などを展示しており、トータルでの4K対応をアピールしている。
テレビのHDMIを有効活用できるスマートTV STBなど
J.COTTのcottio(コティオ)は、テレビとHDMI接続することでスカパー! オンデマンドやU-NEXTなどのIP VODサービスが利用できる小型のSTB。HDMIの入出力を各1系統備えており、既存のCATV STBから映像入力すると、cottioのUI画面にCATV放送番組をPinP(子画面表示)でテレビに表示できるのが特徴。HDMI 1本で、CATV番組とIP VOD番組を同じテレビで楽しめるため、HDMI端子の少ないテレビでも導入しやすいという。東京ケーブルネットワークと上野原ブロードバンドコミュニケーションズの2局が採用することが決まっている。
STBはピクセラ製の「PRD-MP500S-JT1」。回線キャリアを問わず利用できるため、CATV加入者以外にも、端末レンタルで提供するといったことが可能。STB本体にスピーカーも備え、災害情報を音声案内することも可能。「ゆれくるコール for cottio」とも連携している。
日本アンテナは、CATV用ではないがテレビ向けリモコンにスピーカーを内蔵したユニークな製品「きくリモ」(RMS01BK)を展示している。テレビのヘッドフォン出力またはRCAアナログ音声出力と接続することで、高齢者などの手元スピーカー兼リモコンとして利用できる。電源は単3電池4本を使用。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5,000円前後。