ミニレビュー

沖縄×水族館の表現が最高。「白い砂のアクアトープ」に心掴まれた

(C)projectティンガーラ

7月末に「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝2nd SEASON-覚醒前夜-」や「ジャヒー様はくじけない!」のTVアニメがスタート。オリンピックの影響で中断されていた「ラブライブ!スーパースター!!」も放送再開したしたことで、7月開始アニメが出揃い、ちょうど1クールの中盤にさしかかっている頃合いだ。

人気作の第2期や、原作が有名な作品が多い7月期アニメだが、筆者が注目している作品はオリジナル作品の「白い砂のアクアトープ」。P.A.WORKS制作で、2018年10月に放送された「色づく世界の明日から」のスタッフが再集結したこともあって、放送前から注目していた人も少なくないと思う。

「やっべ、制作決定の時にチェックしてたのに忘れてたわ」という人は、ABEMA、Amazon Prime Video、U-NEXT、バンダイチャンネルなどで見ることができるので配信情報をチェックしてほしい。地上波では、TOKYO MX、MBS、琉球放送、富山テレビ放送、BSはBSフジ、そのほかAT-Xでも放送中だ。TOKYO MXでは「ひぐらしのなく頃に 卒」の後番組なので、すさんだ心を癒やせる時間になっている。

「白い砂のアクアトープ」は、「色づく世界の明日から」に引き続き、シリーズ構成の柿原優子さんと、篠原俊哉監督のタッグだ。篠原俊哉監督と言えば、2013年放送の「凪のあすから」も手掛けている。どちらも思春期まっただ中のメインキャラクター達の感情表現がとても印象的な作品だ。

「凪のあすから」では、海の中で呼吸ができて生活している汐鹿生(シオシシオ)の住人や守り神の海神様などの存在、「色づく世界の明日から」では、魔女や魔法が一般的に存在しているといった、どちらも“ファンタジーな要素”が含まれているのも特徴だった。

この2作に対して、今作の「白い砂のアクアトープ」は、沖縄県南城市にある廃館寸前の小さな水族館を舞台に、水族館の存続に奮闘する館長代理の少女 海咲野くくると、夢破れて東京から実家に帰る途中に気まぐれで沖縄に辿り着いた元アイドルの少女 宮沢風花の2人主役。一見すると、ファンタジー要素がなく現実的に思えるが、“沖縄が舞台”という部分がポイントだ。

作中では、沖縄の妖怪・精霊とされるキジムナーらしきキャラクターが、お供え物の魚の頭を丸かじりしていたり、散歩していたりと、所々に登場する。また、そんなキジムナーが悪戯で見せるという、海の中で魚や動物たちに囲まれる白昼夢のような現象も作中で登場し、そういった意味で今作もファンタジーな要素を含んでおり、どうやら作品のキーになってくるようだ。“がまがま”がどういう場所なのか、ということも何かメッセージがあるようにも感じられる。

魅力はやはり、背景の美しさや生き物たちの表現。夏の沖縄の自然、海、生き物、そして町並みも明るく描かれており、「いいな。沖縄行きたいな」という気分になる。今の時勢的に現地に出向くのが難しいのが非常に残念だ。

オープニング主題歌 ARCANA PROJECT「たゆたえ、七色」とともに流れる、色彩豊かな1話のエンディングアニメーションは必見。2話から使用されているオープニングアニメーションにも、この作品の美術的な要素の魅力がギュッと詰め込まれている。「凪のあすから」のときの幻想的な海中の表現と、「色づく世界の明日から」のモノクロと鮮やかで優しい色使いが融合したかのような見せ方が、観る者の心を掴んでくる。

TVアニメ『白い砂のアクアトープ』ノンクレジットOP / ARCANA PROJECT「たゆたえ、七色」

こだわりの“生き物描写”が重厚感を生む

舞台となる水族館の手作りの装飾や、生き物たちの説明が書かれたパネルなど細かい部分もしっかりと描かれており、そういった場面の背景からも水族館を守りたい主人公 くくるの水族館に対する想いが伝わってくる。

水槽の描かれ方だけでも臨場感があり、水族館に訪れたときの気分が味わえるのも魅力だ。残念ながら、がまがま水族館自体のモデルは存在しないのだが、富山県魚津市の魚津水族館が水族館監修を行なっているほか、足立区生物園、サンシャイン水族館、しながわ水族館、DMM かりゆし水族館、横浜・八景島シーパラダイスが取材協力している。

生き物たちの表現では、一見可愛いペンギンたちも、餌を持っている時に正面向かって集団で迫ってくると怖い、といった面や、魚たちのちょっとした変化、餌の準備や清掃など水族館の裏側も物語とともにしっかり描かれており、細かいところまでめちゃくちゃ力が込められて作られている作品だとわかる。それによって生み出される、アニメなのに実在するかのような“重厚な存在感”が画面から伝わってくる。

言葉にできない感情を表現する

(C)projectティンガーラ

そして、筆者が最も気に入ったポイントは、キャラクターの表情や仕草から感じ取れる感情表現が自然に伝わってくる描かれ方をしていて、頭を空っぽにして観ているだけで自然とキャラクターの気持ちに共感できる点だ。

喜怒哀楽があからさまにはっきり描かれていて表情から読み取れる…… というわけではなく、それぞれのキャラクターが感じる「自分の中では言語化するには難しいちょっとモヤモヤした時の気持ち」みたいなものが伝わってくる。それがあることで、その後の展開がものすごく自然に入ってきて、観ていて心地良くて、30分があっという間に感じられる。

とくに、第1話の風花が実家に帰らずに沖縄へ降り立つシーンは、十数秒のシーンなのだが、地元に帰るのをためらった理由とその表情、沖縄へ向かうきっかけというのが、高校生で、アイドルを辞めた(自分の夢を失った)直後で、自分で稼いだお金を持っていて、「そりゃ行くしかないわ」という納得感で思わず笑ってしまう。

「色づく世界の明日から」のときもそうだったのだが、序盤である今、6話放送時点では、1話ごとのストーリー展開は予想しやすい単純なものだと思う。そんな単純な展開でも、場面場面でキャラクター達が見せる表情や感情表現で、どんな人物像なのかが徐々に掴めてきて、終盤にその集大成として、主人公のくくると風花、その周囲のキャラクターがどんな行動を起こしていくのか、これから物語の進む先が楽しみだ。

なお、「白い砂のアクアトープ」は、公開されているBD情報によると、2クール全24話。ティザービジュアルのイメージや、Mia REGINA「月海の揺り籠」とともに流れるエンディングアニメーションの雰囲気が、どことなく儚げな印象なのも気になるところだ。

アニメ本編以外でも、公式Twitterでは、各話放送後に振り返りと次回予告を行なうミニアニメや、キャラクターたちが物語の中で感じていたことを話すボイスダイアリーのほか、くくる役の伊藤美来さんが、水族館取材協力で参加している横浜・八景島シーパラダイスで飼育員の仕事体験をしている動画なども公開している。

公式ファンクラブも用意されており、月額550円(初月は1,100円)で会員限定コンテンツを閲覧できるほか、入会特典としてキャラクター原案 U35さんのサイン入りフレームアートがもらえるという、気合いの入りっぷりだ。背景美術資料が公開されていたり、会員限定のグッズ販売なども行なわれていたりするのだが、筆者は、ファーストペンギンキーホルダーは販売してくれないのだろうか、と様子をうかがっている。

細かい部分ではあるのだが、Aパートの終了に入る3.5秒のサブタイトルデザインが毎回、2枚のグラデーションと文字の動きでその回を表現しているのも注目だ。放送終了後あたりにサブタイトルのモーションを担当している内古閑智之さん(@uchikoga)や、坪谷サトシさん(@ginrei)のTwitterアカウントでデザインや、動きの種明かしなどもされているので、放送後にチェックしてみると、よりこのアニメを深いところまで楽しめると思う。

野澤佳悟