ミニレビュー

オンキヨーの虫ハネユニットで、スピーカー作りに挑戦する

AV趣味初心者の筆者が今まで使った事のあるスピーカーは、ハイコンポに付属していたブックシェルフくらい。スピーカーの中身も、実物は見たことがなく、“スピーカーを自分で作る”なんて未知の領域だ。

ユニット単体であれば、AV Watchで働きはじめて、取材先で見る経験もあったのだが、エンクロージャーの中身やそれを繋ぐ配線などについては、資料などで見て、「なんとなくこんな感じなのかな~」と空想を膨らませていた。

そんな折、音楽之友社から発売された「これならできるスピーカーユニット 2021年版オンキヨー編」(6,930円)と「これならできるスピーカー工作 2021」(7,700円)を入手。必要なパーツや素材が全て揃っており、ハンダ付けも必要ないし、木材の切断もなく、ボンドで貼り合わせるだけでスピーカーが作れるらしい。工作の経験があまりなくても、なんとかなりそう。

そこで、スピーカーの構造も勉強しつつ、スピーカー工作に挑戦。せっかくなので、吸音材の有り無しやバスレフとダブルバスレフの音の違いなど、キットだからこそできることを色々試してみた。

まずは開封

エンクロージャー側のキット「これならできるスピーカー工作 2021」を開封すると、穴の空いた前面の板と同じ大きさの背面の板、天地、側面の板がエンクロージャー2個分入っている。ムックの作り方に従って、ボンドで接着していくだけなので、簡単だ。

ネジ止めする箇所も穴が空いているのでキリも必要ない
バスレフダクトを貼り付けた。筒だけでいいのか

板同士を貼り合わせるときに、ズレないように気をつけて、指で微調整する程度。ヤスリなども使わないので、組み立てるだけであれば本当に手軽だ。貼り付ける、重しを乗せて放置を繰り返し、片面だけ残して組み立てた。

貼り合わせるときも、板同士がズレないように指で調節する程度
ユニットが付く面
ターミナルが付く面
重しを乗せて圧着

片側側面のみ残したのは、後に吸音材を貼り付けたり、バスレフとダブルバスレフの違いを試すため。せっかくなので、色々試してみたくなった。この1面だけ、貼って剥がせる粘着剤を使って固定した。その後、板同士がしっかり接着されるように、ビニール紐で縛った。

張って剥がせるセメダインBBX 普段は置物の下に薄く塗ったりして倒れ防止などに使っている
粘着剤を使って最後の板も張り付け。板同士がしっかり接着するように紐で縛ると、剥がすのに苦労する程度にしっかりくっついた

ユニット取り付けもコードの接続とネジ止めだけで簡単

ある程度箱が組み上がったところで、スピーカーユニットのキット「これならできるスピーカーユニット 2021年版オンキヨー編」もオープン。トンボの翅から着想を得たという独特の模様を持ったユニットが登場する。むき出しの状態だと、背面のマグネットも結構存在感がある。

独特な模様が入った10mmドライバー
トンボの翅が由来らしいが、葉脈にも見える
背面はこんな感じ。立派な磁石を装備
ターミナルとケーブルで繋ぐ端子

取り付けも簡単だ。エンクロージャー側のキットに付属しているスピーカーターミナルと配線材で接続するだけ。ターミナル側は色で、ユニット側は+と-で接続する部分の金具の大きさが違うのでわかりやすい。接続も差し込むだけ。エンクロージャーへの取り付けもネジ止めだけなので、一瞬で終わってしまった。

ターミナル部
ターミナル部に先にケーブルを繋いで
エンクロージャーに取り付け
前からケーブルを出すとこんな感じ
前から出したケーブルをユニット側の端子に差し込み
そのまま取り付ければ組み立て完了

早速試聴。吸音材の役割を思い知る

というわけで、まずは吸音材無しで組み立ててみた。市販されているスピーカーの内部に吸音材が入っているのは知っていたが、それが“無い”箱だけの状態でどんな音が鳴るのか聴いた事がないので、気になったのだ。

デノンのアンプ「PMA-60」と繋ぎ、初めて音を出してみる。組み立て直後は音が悪く、しばらく慣らしてエージングが必要らしいので、適当に音を鳴らして放置しようと思ったのだが、エージング前の状態だとしても、すでに何か嫌な予感がする音が鳴っている。

改めてインシュレーターの上に乗せて、じっくり聴いてみる。最近ずっと聴いている「ジュブナイル/ReoNa」を再生すると、輪郭がぼやけすぎていて、柔らかい音や優しい音というよりも、なんだか間の抜けた音で、聴いていると気が抜けてしまう。とくに出だしのチェンバロのような音がボワンボワンと混ざってしまっていて気持ち悪い。

「月姫 -A piece of blue glass moon」シエルルート オープニングアニメーション

再生中にエンクロージャーの上に手を乗せてみると、結構振動が伝わってくるのが分かる。「不要な振動でエンクロージャーが“鳴き”、そこから余計な音が出る」というのは、こういう事なのかと、貴重な体験ができたような気がする。

吸音材なしのボワンボワンサウンドは身にしみたので、貼り付ける吸音材を用意。正直、この厚さのスポンジに果たして効果があるのか疑問だ。粘着剤を使っていた側面を開いて吸音材のスポンジをボンドで貼り付け、とりあえず1日おいてみた。

吸音材を用意。長さを測ってサインペンで印をつけたもの
粘着材で貼り付けた板を剥がして、吸音材をボンドで貼り付ける

恐る恐る再生してみると、吸音材なしの時に感じられた“輪郭のぼやけ”が抑えられ、音の輪郭が見えるようになった。すごくシャープではないが、“響きがあって温かみのある音”くらいまで整ったように感じる。この音なら普通に聴いていられる。ボーカルの声もはっきりと聴こえるようになり、薄いスポンジの効力に驚く。

同じように、再生中にエンクロージャーの上に手を乗せてみると、スポンジを貼った部分については確かに振動が弱くなっている。これだけで変わるのであれば、もっとしっかりとした吸音材を詰めればさらに変わりそうな気がする。

そこで、「自作スピーカー」「吸音材」などの単語で検索してみたところ、材質の違いによる音の違いだとか、検証記事だとか、深淵に繋がる穴を覗いている気分に。ここにハマってしまうと、完成までに時間がかかってしまうので、またの機会に試してみることにした。

中板を入れてダブルバスレフに。“ちゃんとしたスピーカー”ができた

次に、もう一度箱を開いて、中板を配置。ダブルバスレフにしてみた。ユニットの裏側から出る音と、エンクロージャーに開けた穴、そこに取り付けたダクト(筒)の共鳴を使って低域を補強するのがバスレフ型。

それを二重構造にしたものがダブルバスレフで、箱の中に2つの部屋ができあがる。これによって小さな箱でも深く豊かな低音が出せるようになるのだという。ちなみに、ダクトの長さが2つで異なるのは、長さで共鳴する周波数が変わるかららしい。

組み立てる前に付けておいた印に合わせて中板を配置
天側から観るとこんな感じ

そのように書かれていたので、「低音がズンドコ鳴り響くようになるのか……」と思っていたのだが、実際に音を鳴らしてみると、音の輪郭が整ってスッキリとした聴き心地の音に変化。あの吸音材無しのときの音とは比較にならない別物に変わっていた。

吸音材有りのバスレフの状態で再生したときに、まだぼんやりとしていたり、楽器の音が混ざっているような印象だったシーンも、ある程度楽器が分かれた上で重なっているように聴こえるようになり、全体的に引き締まった印象になった。一方で、低域が強くなったかといわれると、そこまでドカドカ鳴っているようには感じられない。今の筆者としては好みの音なのだが、以前の元気なサウンドが好きだったときの筆者では少し物足りなく感じていただろうな、といった雰囲気だ。

改めてじっくり聴いてみると、上記でも挙げた「ジュブナイル/ReoNa」の場合では、出だしや最後に聴こえるチェンバロ風の音が心地よく拡がるのと、動画の11秒~13秒付近のピアノの音だけ鳴る瞬間がクリアに聴こえる部分などで、このユニットの特徴として書かれていた「トンボの翅を模して微細な音が再生できる」「聴感上のSN感を重視している」という点なのかな、と感じた。

「スピーカーの構造は、実は簡単なもの」という話は以前から聞いてはいたのだが、実際にキットを組み立ててみて、本当に箱とユニットを組み立てるだけでここまでしっかりとした音が再生できることに驚いた。正直、「構造自体は簡単でも、そこに手を加えて音を作っていくのだから、大した音は出ないんでしょ。スポンジも薄いし」と組み始めてからも思っていたのだが、ダブルバスレフの時の音で、貼り付けるだけのキットでこんな“ちゃんとしたスピーカー”ができてしまうのかと驚いた。

ムックの方を読むと、しっかりこだわったサイズ、設計が施された上で、素人でもそのように仕上げられるようにできているというわけなのだが、「では、もっとユニットの性能を引き出せるようにできないだろうか」と思い始めたと同時に、売られている他のスピーカーの中身がどうなっているのか、どういう経緯でその音に至ったのか、という構造と音作りに関する部分も気になってきた。

このキットのアップデート方法の候補として、内部配線を変えたり、吸音材を足したりという記載もあり、手の届く範囲で始めてみるのは面白そうだ。組み立てている間は思い至らなかったのだが、穴を塞いで密閉型にした音も気になる。自室にもサラウンドの環境を作ろうかと計画しているので、最初のうちはこのスピーカーを混ぜて使ってみるのも良いかもしれない。せっかくなので、表面の塗装なども行ないつつ、中身にも手を加えて、活かしていこうと思う。

もう少し改善を施してみたら、外側の色も塗って完成させたい
野澤佳悟