レビュー

雑誌付録の工作スピーカーを“魔改造”してみた

「これならできる特選スピーカーユニット 2022年版マークオーディオ編」と「これならできるスピーカー工作 2022」を使って“魔改造”

音楽之友社から刊行されている、スピーカー工作のムック本をご存じだろうか。だいたい1年に1度の頻度で発売されているもので、「スピーカーユニット」と、それを収める「エンクロージャー・キット」の2つを購入すれば、手軽にスピーカー工作を楽しむことができる。

いま発売中の最新版は、2022年9月15日に発売された「これならできる特選スピーカーユニット 2022年版マークオーディオ編」(7,975円)と、「これならできるスピーカー工作 2022」(8,800円)。いつもの中古オーディオレストアと趣向を変え、今回はこのスピーカー工作にトライしてみたい。

もちろん、僕がやるのだから、ただ組み立てるだけではない。当然のことながら独自のチューンを盛り込んで音を自分好みに仕立ててみたい。今流行りの“魔改造”っていうやつだ。

アレンジを検討。ポイントは第1キャビ容量とダクト

このエンクロージャーの設計は生形三郎さんで、彼が作ったスピーカーを彼の自室で聴かせてもらったことがあり、その音の素晴らしさは十分理解している。手元にあるのはワンセットなので、オリジナルのものと比較ができないのが残念だが、そういう野暮なことは言わないことにする。なお、オリジナルバージョンの作り方は月刊stereoのYouTubeページに動画が掲載されていたので、こちらをご覧いただきたい。

これならわかる⁉︎ スピーカー工作2022 ONTOMOMOOK付録エンクロージャー組み立てガイド

スピーカーのエンクロージャーをムック本の付録にするのは、サイズや重さの点で相当苦労があったと思う。いろいろな制限があるなかで、これを実現させた関係者には賛辞をおくりたい。

もっとも大変だったのは板厚なのではないだろうか。実は最初に驚いたのは板が薄いという点だ。9mmと5.5mmの2種類の厚さのMDFを使っているが、いずれも決して厚いとは言えない。自作スピーカーでは21mmから12mmくらいの厚さが一般的で、9mmは工作精度の面で限界に近く、5.5mmに至っては僕は使ったことがない。

音質的に大丈夫なのだろうか、という疑問がよぎったが、ユニットが6cmと小口径なのでたぶん問題ないのだろう。また組み立ては接着剤のみで行なう方法であり、釘やネジは使わないので、釘を打ち損ねたり、板が割れたりする心配もない。非常に効率的で優れた設計だと言える。

オリジナルのエンクロージャーの動作方式はダブルバスレフである。普通のバスレフの内部に仕切りが一枚入っていて、仕切り板には丸穴がひとつ開いている。単純な構造だがスピーカーとしての動作は複雑で、バックロードホーンや共鳴管よりも動作理論は難しく、さらに設計通りに動作させるのが非常に難しい。しかし、裏を返せば設計の許容値が広いわけで、同じサイズでもあらゆるバリエーションが考えられる。

アレンジの内容を考える

オリジナルの組み立て説明を読み、そして現物をみながらアレンジの内容を考えた。

オリジナルの設計では、ユニットのすぐ後ろにある第1キャビネットの容積は2.7L、続く第2キャビネットは2.17L、合計の容積は4.8Lである。第1キャビのほうが第2キャビよりも少し大きい。僕の考えでは第1キャビをもっと小さくしたい。小さくすることで空気のバネ圧が強くなり、ユニットの低音共振のピークと周波数を高め、聴感上の低音感を増加させる狙いである。

続いて注目したのはダクトの面積と共振周波数だ。ダクトは、その面積で低音のレベルが決まり、共振周波数でレンジが決まる。オリジナルの第1ダクトは面積が1.8cm2で、計算上の共振周波数が119Hz、第2ダクトはそれぞれ7.1cm2、153Hzとなっている。どちらも低音の増強よりも空気バネの効きをコントロールするのが狙いだと思われる。ここもアレンジのポイントである。両方とも面積や奥行きを変えて低音の増強を狙う。

具体的にはまず内部の仕切り板をユニットの取付穴ギリギリのバッフル上端から105mmの位置まで上げる。これによって容積は第1キャビが1.92L、第2キャビが2.96Lとなる。できれば第1キャビを1Lくらいにしたかったが仕方ない。

第1ダクトには紙筒を装着する

ダクトは大幅な変更となる。第1ダクトはΦ40mmに広げて、さらに紙筒を取り付けて板厚を含めて長さ2.9cmに延長する。第2ダクトは底板のセンターにΦ50mmの穴をあけ、設置時に底板を数ミリ浮かせて置台との隙間をダクトの一部とする。オリジナルのダクトは抜き板で塞ぐ。

このアレンジにより、計算上では第1ダクトの共振周波数は216Hzとなる。第2ダクトは浮かせる間隔によって周波数が変わるが、恐らく100Hz前後になる計算だ。

自在ノコ
自在ノコを使って穴をあける
自在ノコを使って加工を施す

アレンジの工作は組み立て前に板に穴あけるところから始める。今回は自在ノコというツールを使った。これは両刃のコンパスのような形状をしていて、電動ドリルに取りつけて使うものである。今回はドリルスタンドを併用した。板厚9mmなのでそれほど難しくはない。左右の仕切り板と底板で計4個の穴をあける。

ダクトの抜き板を加工して、オリジナルの第2ダクトを塞ぐ

次にオリジナルの第2ダクトを板で塞ぐ。今回はダクトの抜き板を木工用接着剤で貼りつけた。

重石を乗せて1~2時間くらい養生する

あとは説明書の手順を参考にして組み立てていくのだが、仕切り板を移動させた関係で裏板を上下逆さまに取り付ける。組み立てに際しては、接着剤をたっぷりと使うことが重要で、接合部からはみ出る程度の量を塗る。接合したらしっかりと圧着してから乾く前に板のズレを修正し、重石を乗せて1~2時間くらい養生する。はみ出た接着剤は濡れ雑巾でふき取るといい。

側板などに補強桟を追加
吸音材は手芸用エステルウールに変更

今回は追加のアレンジとして側板とバッフルに補強桟を追加した。側板は5.5mmと薄いので特に効果が見込める。あと吸音材はスポンジが付属しているが、手持ちの手芸用エステルウールを使った。これは音質ではなくスポンジの経年劣化が気になったからだ。

接着剤が完全に乾くまで24時間以上かかるので、組みあがったエンクロージャーは丸一日以上養生させる。ネジや釘を使っていないので、この点は留意したい。

仕上げは接合部の段差を平やすりで削ってから、サンドペーパーをかけて全体を滑らかにする。時間があれば塗装するのもいい。塗装は手間ひまかかるが、うまくやれば市販品と見まごうばかりの外観になり、愛着度も増すだろう。

配線やユニットをねじ止めして完成

あとはターミナルを取り付けてから配線をおこない、ユニットをねじ止めすれば完成である。今回はアレンジの設計を含め、4日かけてじっくりと作った。

“魔改造”完了。狙い通りの音になったか確かめる

完成した“魔改造”スピーカー

完成したら早速鳴らしてみよう。底板を浮かさずに設置すると密閉型となり、スペーサーで浮かせればダブルバスレフとなる。また、スペーサーの厚さを変えることで低音の量感やレンジをコントロールできる。実際にやってみたら音がコロコロ変わる。狙い通りである。

底板を浮かさずに設置すれば密閉型、スペーサーで浮かせればダブルバスレフ型になる

スペーサーは1mmから4mmまで1mm刻みで試したところ、2mmがちょうどいい感じだった。周波数特性は16kHzのピークをのぞけば極めてフラットである。低音は50Hzまでフラットに再生していて、これは6cmフルレンジドライバーとしては驚異的だといえる。

“魔改造”スピーカーの性能を測定

インピーダンス特性は山が3つある典型的なダブルバスレフの形状である。これによると第1ダクトの共振周波数は233Hz、第2ダクトは77Hzとなっている。

音の印象はやはり低音の量感にまず驚かされる。こんな小さなユニットからこれほど豊かな低音が再生されると、見た目と音のギャップに戸惑ってしまうほどだ。ただ、当然のことながら6cmの限界は超えられないし、能率が低めなので大音量は出せない。しかし、5mの距離でも、普通の音楽を普通の音量で聴く分にはまったく問題ない。

フルレンジにはウーファータイプとスコーカータイプがあり、このユニットはウーファータイプだと思われる。豊かな低音としっとりとした中音と高音は、アコースティックな女性ボーカルなどによくマッチすると思い、まずはジャズボーカリスト、カレン・ソウサの「HOTEL SOUZA」を聴いてみた。

録音はやや硬質なのだがこのスピーカーとは相性がいい。硬さをうまく中和してくれて、耳元でささやくようなセクシーなハスキーボイスを堪能できる。そして、僕が愛してやまない坂本冬美の「夜桜お七」を聴いたところ、演歌にありがちな作為的なエコー処理が幻影のような響きに変化して、僕を異郷に連れ去っていくのだった。音楽の美味しいところだけを強調するような巧妙な味付けに感心してしまった。

また、2~3m程度の距離で聴いても、デスクトップなど近くで聴いても耳あたりが柔らかで聴き疲れしないのもいいし、ポピュラーのみならずクラシックとの相性も意外と良く、室内楽や独奏など小編成でいい味を聴かせてくれる。

バッハの無伴奏バイオリン曲やチェロ曲などを聴いたところ弦の朗々とした響きが堪能できた。大編成オーケストラの大音量再生は難しいが、近距離で聴くと箱庭的な音場感が楽しめる。

最後に手前味噌で恐縮だが、今回のアレンジは成功だったと思う。それは僕の狙い通りに豊かで弾力のある低音が聴けたからだ。こうしてひとり悦に入るのも魔改造の醍醐味だろう。よしよし。

【注意】

分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

市川二朗