ミニレビュー

注目のヤマハHDMI搭載2chアンプ「R-N1000A」聴いてみた。約14万円「R-N800A」との違いは?

R-N1000A

HDMIを搭載した2chアンプが各社から登場し、ピュアオーディオにおけるトレンドの1つになっているが、ヤマハからも注目の製品が昨日発表された。9月1日に発売となる「R-N1000A」(198,000円)だ。なお、HDMI非搭載だが143,000円と価格を抑えた「R-N800A」も9月29日に登場する。その特徴を紹介すると共に、短時間ではあるが、試聴したファーストインプレッションをお届けする。

R-N800A

2機種の特徴と違い

ヤマハからは5月に、Amazon Music HDやSpotifyなどの音楽配信サービスの再生に対応し、HDMI ARC端子も備えた2chアンプ「R-N2000A」(429,000円)が発売されており、今回登場したR-N1000AとR-N800Aは、その弟分のような製品だ。

R-N2000A

2機種とも、筐体デザインは兄貴分のR-N2000Aと良く似ており、R-N2000Aの特徴的なアナログメーターは備えていないが、フロントパネル下部に日本語表示対応の有機ELディスプレイを搭載。ネットワーク音楽再生での曲名表示などで便利に使えるようになっている。

R-N1000Aのフロントパネル。下部に日本語表示対応の有機ELディスプレイを搭載している

機能的な違いとしては前述の通り、R-N1000AはARC対応のHDMI端子を備え、テレビなどと連携できるが、R-N800AはHDMI非搭載だ。

その代わりに、同軸デジタル入力がR-N800Aの方が多く、R-N800Aが光デジタル入力×2系統、同軸デジタル×2系統に対して、R-N1000Aは光デジタル×2、同軸デジタル×1系統となっている。

R-N1000Aの背面。HDMI ARCを備えている
R-N800Aの背面。HDMIは無いが、同軸デジタル入力が多い

なお、HDMI端子搭載のR-N1000Aには、音途切れや音質劣化の原因となるジッターに対し、専用のチューニングを施して音質を高めている。また、オプションメニューからPLL(位相同期回路)の設定(3段階)も可能で、DACチップと高精度水晶振動子の組み合わせによりオーディオ機器からの音声だけでなく音楽ライブ番組など、テレビからの音声も高音質で楽しめるようにしている。これはR-N2000Aでも効果的だった機能で、弟分のR-N1000Aにも採用されたカタチだ。PLLの設定は光デジタルと同軸デジタルでも可能だ。

HDMI-CECにも対応しているので、テレビのリモコンで電源ON/OFF連動などのコントロールも可能になっている。

機能面の大きな違いはそのくらいで、ネットワークプレーヤーとしての機能は同じ。Amazon Music HD、Spotify、radiko、Deezerなどのストリーミングサービスが再生できるほか、ハイレゾ/ロスレス音源ならではのハイクオリティな音をそのまま楽しめる。AirPlayやBluetoothもサポートする。

ネットワークプレーヤーとしては、DSD 11.2MHz、PCM 384kHz/32bitまでの再生が可能だ。DACチップとしてはどちらのモデルもESS製品の「ES9080Q」を搭載。USB DAC機能も備えている。

また、ヤマハならではの機能としてYPAO(Yamaha Parametric room Acoustic Optimizer)も備えている。付属のマイクを使って部屋の形状や壁の材質、スピーカーの性能や設置場所などによって生じる再生音の違いを測定し、その環境で音質が最適になるよう補正自動音場補正機能だ。

AVアンプでお馴染みだが、2chアンプでも使用できる。機能としてはR-N2000Aに搭載しているものと同等だ。

ステレオ再生の音質で重要となる初期反射音を積極的に制御する「YPAO-R.S.C.」と、192kHz/24bitの信号まで対応し64bitの精度で演算、イコライジング処理するハイプレシジョンEQが使える。さらにこれらの測定結果を反映させることでラウドネスコントロールの効果をより高め、小音量再生時に自然な音質補正効果が得られる「YPAO Volume」も活用できる。

筐体内は2機種とも、シンメトリカル(左右対称コンストラクション)で、ダイレクト(信号経路のストレート化・最短化)にこだわったHi-Fiアンプらしい回路レイアウトだ。

また、振動を吸収・遮断する独自の特殊樹脂フレーム「アートベース」など、ヤマハのピュアオーディオ設計思想「ToP-ART」に基づいた設計になっている。

上位モデルとなるR-N1000Aはこれをさらに強化。シャーシ底面に1mm厚の鉄製制振板を加えたダブルボトムシャーシとし、制振・耐振性能をさらに高めている。コストがかかる部分だが、高音質化への効果は大きい。

シャーシ底面に1mm厚の鉄製制振板を加えたダブルボトムシャーシ

内部パーツにはどちらのモデルも、カスタムメイドの大型EIコア電源トランスや、大容量ブロックケミコン、ローインピーダンス化を徹底した大容量パワーサプライなどを投入。定格出力は100W×2(Ω)を実現しており、これは2機種共通だ。

R-N1000Aのスピーカーターミナル

R-N1000Aではさらに、音響用ハイグレードの高音質ケミコンや、アムトランス製の高音質抵抗などを投入している。

また、細かい部分だがメーカー保証がR-N1000Aが5年、R-N800Aは1年となっている。

音を聴いてみる

ヤマハのスピーカー「NS-5000」と組み合わせてサウンドをチェックした。

まずはR-N1000Aから聴いてみよう。YPAOはOFFだ。

ネットワーク再生で、女性ボーカルの「ダイアナ・パントン/Where Do You Start?」を聴く。ボーカルとピアノで構成されるシンプルな楽曲だが、驚くほど広大な音場が出現。そこに美しい歌声の高音が伸びやかに広がると共に、お腹から出ている声の低い部分や、ピアノの左手がズンと力強く張り出して来て非常に心地良い。

ここでYPAOの初期反射音の処理をONにしてみると、ふわっと展開する音場がより広大になり、声やピアノのコントラストもより深くなる。

「TEA/They Can't Take That Away From Me」では、冒頭のドラムもトランジェントが良く、駆動力の高さ、SN感の良さが実感できる。「上原ひろみ/ドリーマー (feat.アンソニー・ジャクソン/サイモン・フィリップス)」のピアノは、ドッシリとして安定感があり、高解像度で左手の動きも見やすい。ダブルボトムシャーシなど、物量投入の効果を実感できる。

R-N800A

同じ曲をR-N800Aでも聴いてみよう。「ダイアナ・パントン/Where Do You Start?」の音場の広がる範囲や、「TEA/They Can't Take That Away From Me」の冒頭ドラムの低域の鋭さ、安定感などを比べると、R-N1000Aよりはやや劣る。ただ、中低域の張り出しなど、迫力は十分あるため、143,000円という価格を考えると十分コストパフォーマンスは良いと感じた。

「上原ひろみ/ドリーマー」を聴いても、R-N1000Aと比べるとやや荒っぽい印象はあるが、個々の音の出方に勢いがあり、エネルギッシュで躍動的な描写なので聴いていて楽しい。R-N800AでYPAOをONにすると、ヤンチャな音が、多少まとまる印象があるので積極的に活用するのもアリだろう。逆に、R-N1000AはYPAOを使わず、ピュアダイレクトで聴きたくなる印象だ。

R-N1000AでHDMIのサウンドもチェック

最後に、映像配信のDisney+から、ビリー・アイリッシュがアルバム「Happier Than Ever」の全16曲をパフォーマンスする「ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター」をHDMIを介してR-N1000Aで聴いてみた。

「映像配信のサウンドをHi-Fiアンプ + スピーカーで聴く必要あるの?」と思う人もいるかもしれないが、実際に聴いてみると、音のクオリティは非常に高い。HDMI経由とは思えないほど情報量が多く、楽器やSEの細かなサウンドが、映像に負けない高精細さで耳に飛び込んでくる。

2ch再生だが、音場に包まれる感覚も味わえる。テレビ画面のサイズを遥かに越えて、自分の真横まで音楽空間が広がっているかのようだ。また、音場の奥行きも聴き取れるため、画面の奥にも空間が広がっているように感じる。サラウンドスピーカーが無くても、十分ホームシアターの満足感が得られるサウンドだ。

山崎健太郎