ミニレビュー
デザインだけじゃない。Beatsってどんなヘッドフォン?
BluetoothとNC搭載「Studio Wireless」の実力
(2015/8/17 00:05)
大きな「b」のロゴを冠したヘッドフォンやイヤフォンを、街の中や電車内で見かけることは、珍しくなくなってきた。米Beats by Dr. Dre(ビーツ)は、既に日本のヘッドフォンの中でも確固とした地位を築いたといって間違いないだろう。筆者の率直なイメージは「デザインと低音の強さが特徴のヘッドフォンだが、最近は“高音質”という印象も持たれている」というものだが、実際のところ、これまで長時間使い続ける機会は無かった。そこで、Bluetoothとアクティブノイズキャンセリングに対応した多機能な上位モデル「Beats Studio Wireless」を使って、Beatsヘッドフォンがどんな製品なのかを改めてチェックしたい。
分からないことも多いBeatsのヘッドフォン
簡単にBeats by Dr. Dreについておさらいすると、ラッパーであり音楽プロデューサーのドクター・ドレ(Dr.dre)氏と、元レコーディングエンジニアでレコードレーベルを手掛けてきたジミー・アイオヴァイン(Jimmy Iovine)氏によって、'08年に誕生したのがBeats Electonics。オーディオケーブルなどで知られるMonster Cableとパートナー契約を結び、ヘッドフォンなどを製品化。その後もHPやクライスラー、HTCなどと協力し、様々な分野にオーディオ製品を展開してきた。
'12年1月にはMonster Cableとの契約を終了し、自社で製品制作を開始。そして'14年7月にAppleがBeatsを30億ドルで買収したことが大きな話題となった。その後、ソフトバンクとも提携し、Apple Storeや量販店などに加え、ソフトバンクショップでも販売されている。
今回使ったモデルの「Beats Studio Wireless」('14年6月発売)は、Bluetooth搭載でスマートフォンとワイヤレス接続して音楽を聴けるほか、アクティブノイズキャンセリング(NC)機能も搭載し、周囲の騒音を軽減できるのが特徴。ワイヤレスでNC機能も使えて、様々な場所で利用できることを考慮すると、37,800円という価格は、決して高すぎることはないだろう。
Beatsといえば、“赤と黒”のカラーが象徴的だが、今回使ったモデルBeats Studio Wirelessのカラーは淡いブルーの「メタリックスカイ」。ブラックやホワイト、レッドといった定番カラー以外に、ブルーやチタニウムといった様々な色を用意しているので、人と同じなものがイヤだという人にも、選択肢の幅が広い。メタリックスカイは、bのロゴ部分もそれほど強く主張せず、表面がマットな仕上がりとなっており、スーツにも合わせられそうな落ち着いた印象。モノとしての満足感も確かに得られる。
ただ、Beatsのヘッドフォンは製品資料だけを見ても、よくわからない部分も多い。その一つが、独自開発のDSP「Beats Acoustic Engine」だ。
Beatsのサイトによれば、「親密で、パーソナル、そしてリアルなリスニング体験ができます。Beatsの有名なDSPソフトウェアは、Dr. Dre、Jimmy Iovineやその他の音楽業界の偉大なロック、ヒップホップ、ポップ、エレクトロニック、R&Bプロデューサーが求めるように、リスナーに感動的な体験を届けるために作られています。アーティストが目の前で演奏したときと同じサウンドです」とある。これを、どういう方法で実現したかということは、特に説明されていないようだ。どのあたりが違うのかを、実際に聴いて確かめたい。今回は、主にウォークマンAの「NW-A16」と、iPhone 5sをプレーヤーとして使った。
高いフィット感。心地よいビートが持ち味
装着すると、やや強めな側圧もあって、NCをONにする前の段階でも遮音性は高い。ただ、耳に当たるイヤーパッド部の低反発素材が適度に圧力を吸収しているため、耳が痛いとは感じない。イヤーパッドは大きめのアラウンドイヤー型。重量は260g。
右ハウジング部の小さなボタンを長押しすると電源ONとなり、すぐにNC機能も動作。エアコンなど周囲の騒音がスッと消えて静かになった。同時にBluetoothのペアリング待ち受け状態になり、接続するプレーヤー側のBluetooth機能をONにするとペアリングが完了。コーデックはAACとSBCに対応し、ウォークマンA(SBC/LDAC/aptXに対応)との接続時は自動でSBCが選択された。なお、NFCによるワンタッチでのペアリングには対応していない。
左ハウジングの「b」ロゴのある部分がボタンになっており、再生/一時停止や、曲送り/戻しなどの操作も行なえる。再生/一時停止はボタン1回押し、曲送りは2回押しで、2回目を押し続けると早送り。曲戻しは3回で、3回目を押し続けると巻き戻しとなる。同ボタンの周囲部分がボリュームボタンで、上側を押すと音量増、下が音量減となる。BluetoothのプロファイルはA2DP/AVRCP/SDP/ DID/HFP/GAVDPに対応する。
iPhoneのミュージック(標準の音楽再生アプリ)利用時は、これら全ての操作ができた。一方、ウォークマンAでは、再生/一時停止や、曲送り/戻しはできたが、早送り/巻き戻し(2回/3回クリックで長押し)の操作はできなかった。
音質は、イメージ通り低音のパワフルさが印象的で、広い音場で響かせるというよりは、ドラムやベースなどの分厚さがダイレクトに耳へ届く。女性ボーカルが聴きどころの曲だと、周囲の音が強すぎると感じるものもあったが、極端にバランスが崩れているほどではない。それよりも、ダンスミュージックなどのビート部分にキレがあり、気持ちよく聴かせてくれる恩恵の方が大きい。スピーカーでゆったり聴かせるような曲よりも、ヘッドフォンで音にどっぷり浸れる曲と相性が良さそうだ。
時々、Beatsを使っている人の感想として「●●(他社)のヘッドフォンよりもいい音」というコメントを見かけることがあったが、おそらくその人の好みの曲やジャンルにピッタリ合ったのだろう。筆者が、このヘッドフォンに合うと思った楽曲は、Daft Pank「Get Lucky(feat. Pharrell Williams)」や、Orbital「Stingy Acid」、やくしまるえつこ「ノルニル(RADIO ONSEN EUTOPIA)」などだ。ジャンルとしてダンスやエレクトロニック、ヒップホップだけというわけではなく、J-POPやアニソンなどでもEDM調にアレンジをした曲が好きな人にもハマりそうだと思う。
バッテリの連続使用時間は、ワイヤレス約12時間。ステレオミニのケーブルも付属し、有線のヘッドフォンとしても利用できる。有線でNC機能だけを使うことも可能だ。リモコンマイク付きの「RemoteTalk」ケーブルと、ストレートなケーブルの2種類が付属。給電用のUSBケーブルやUSB-ACアダプタも同梱する。
基本はBluetoothで接続する製品なので、有線で使うケースは少ないと思うが、一つだけ気になることもあった。iPhoneで音楽配信サービスの曲をストリーミング再生しつつ、ワイヤレスで聴いていたところ、特定の箇所で音が割れたような部分があった。有線だと普通に聴こえたので、Bluetoothの問題だろう。配信側に原因があるのか、コーデックが理由なのか分からないが、せっかく有線だと出ている音が、Bluetoothだと正しく出ないのはもったいないと思う。
NCだけ利用することも。トータルで実力の高いヘッドフォン
周囲の雑音を軽減するNC機能は、電源ONにすると自動で入るため、OFFにして音楽だけを聴くことはできないが、鼓膜への圧迫感は少なく、長時間着けていても負担はあまりなかった。他社製ヘッドフォンにあるような「ノイズ低減率●%」といった表示は特にないが、地下鉄(主に通勤時の東京メトロ有楽町線など)で使っている限りでは、走行時に発生する低周波のノイズを低減しているのが感じられた。ワイヤレスで取り回しやすいので、ちょっとした外出先にでも持っていけて、NCも使える点は大きな魅力と言える。
音楽を聴かないときに、NCだけを利用する「ANC(アダプティブノイズキャンセリング)」モードも利用可能。同モード時はNC機能のレベルが上がるため、例えば飛行機や電車などの長時間移動時に、一旦音楽を聴くのを中断したい場合などにも使える。持ち運び時には、ヘッドバンド部を折り曲げてコンパクトに収納可能。セミハードのキャリングケースも付属し、出張などにも持ち運びやすそうだ。
今回使っていて感じたStudio Wirelessの良さは、何といっても多機能と使い勝手の良さにある。音質についても、最初の想像よりも低音が締まっていてバランスも良く、“高音質”をウリにしていることもうなずけた。iPhoneなどの付属イヤフォンや、低価格なイヤフォンでは物足りなく感じ始めた人にも勧められる。Beatsというブランドがヘッドフォンにもたらした大きな流れの一つは、その特徴的な“デザイン”だが、Studio Wirelessを使ってみて、使い勝手や音質といった“中身”も重視していることを実感できた。
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