ミニレビュー
final、“BAの固定”こだわる「S3000」を聴く。ウォームとクリアの絶妙な融合がクセに
2025年6月20日 08:00
finalから登場したイヤフォン「S3000」。バランスドアーマチュア(BA)ドライバーを搭載する「S series」の「S5000」(54,800円)、「S4000」(44,800円)に続く最新モデルで、S3000はシリーズの中では一番手の届きやすい29,800円となっている。
finalでBAドライバー搭載イヤフォンというと、「Heaven」シリーズや、ハイエンドイヤフォンの「FI-BA-SS」、あとはB seriesなどがあるが、近年の有線モデルはヘッドフォンが多かったほか、ワイヤレスイヤフォンも含めてダイナミックドライバーの製品が多かったので、S seriesは久々のBAドライバー搭載イヤフォンだ。
S seriesは、外観だけ見るとE seriesと似た、円柱形のシンプルなデザインにまとまっている。だが、新シリーズだけあって設計面でも新しい要素が多い。
BAドライバーの固定方法が最大の特徴!? ノズルも新開発
S5000とS4000はBAドライバー2基と、筐体の素材の響きを活かすトーンチャンバーシステムが主軸となっていた。一方で、S3000はフルレンジのBAドライバー1基の構成となっており、また異なったアプローチをしているようだ。
BAドライバーは、固定方法によって音質が大きく変化するそうで、S3000はその固定方法にこだわっている。一般的な接着剤を使った組み立てを行なわず、ネジ止めで固定。O ringとパッキンを使って、ドライバーが常にリアからフロントに力のかかった状態にすることで、適切な位置にBAを保持しながら、製造の誤差も抑えているという。
BAドライバーには、抵抗を直列に入れており、背面のベント(低音を出すための開口孔)にフィルターを使用することで、独自のチューニングを施している。このあたりは内部設計の話になるので外観から見てもわからないが、よく見てみると、筐体の側面にネジが付いているのがわかる。
そして、特徴的なのがノズルの形状。新開発の「ファンネルノズル」という、外側にかけて広がっていく漏斗形状のノズルを採用している。この形状には、高域減衰を適切に抑制する効果があり、「十分に伸びながら刺さることがない滑らかな高音と、クリアさと十分な量感を両立した低音を同時に実現している」そうで、気になるポイントだ。
リケーブルにも対応しており、端子は0.78mm 2ピン。イヤフォン側がピンに被さるような形になっていて、折れやすい2ピン端子をカバーしているのも嬉しいポイント。
ケーブルを耳に掛けるIEM風の装着にも対応しており、イヤーフック状のカバーも付いてくる。ケーブルをそのまま耳掛けしてしまうと、被膜部分が劣化が進みやすいので、嬉しい心遣いだ。もちろんリケーブルできるので、耳に掛ける部分を強化しているケーブルに変えてしまうのもアリだ。
BAのスッキリした音とウォームな低域が混ざり合うまったりした聴き心地
実際に音を聴いてみると、真っ先に温かみのある低域が響き、想像していたBAドライバーのスッキリした音からかけ離れたウォーム寄りの音でおや? と思ったのだが、ボーカルやアコースティックギターなどの音が出てくると、こちらはパキッと解像感が高い。
低域はウォームな響きなのだが、相対的に見るとクリアな印象の方が強くなる、というちょっと不思議な音の感覚。これは再生する曲によってはかなり印象が変わりそうだ。
「平行線-『め』弾き語りver.-/さユり」のような弾き語り曲は、ギターの弦の揺れまでクッキリ見える目の覚めるようなクリアさがしっかりと目立つ。高めの女性ボーカルと、激しくかき鳴らされるギターの響きはスーッと伸びていき、気持ち良く背後の方へと抜けていく。そうそう、BAドライバーのイヤフォンってこんな音、とそういう意味でしっくり来る聴き心地だ。
一方で、「唱/Ado」のような音数の多いEDM調の曲は、音同士が程よく混ざり、曲全体のまとまりが良く感じられる。低域は量感たっぷりだが、温かみがあってキツく感じ過ぎないところに聴き心地の良さを感じる。ガンガンノっていく、というよりかは、リラックスして聴いたり、ながら作業で使うのに合っているような気がする。
そして、聴いていて一番気に入ったポイントが、音量を上げても高域がまったく刺さらない点。アコースティックギターをかき鳴らしているようなシーンでも、弦の揺れを感じられるくらいの解像感がありながら、まったく耳に刺さらないので、まったりと気持ち良く聴ける。シャウトするシーンなんかは、刺さる要素を一切感じないまま、声の伸びていく様子が見える。漏斗状のファンネルノズルの効果をしっかりと実感できる。
イヤフォンながら、空間表現も広めに感じられる。すっきりクリアな要素を持ちつつも、低域が柔らかく、まったり聴けるサウンドが特徴的なので、Lo-Fiな曲をのんびり聴くのが心地良い。低域が多いの楽曲を聴くと、全身が包み込まれるような感覚になれる。
解像感の高いクリアな声と、刺さらない音という点では、ASMR向けの機種でのチューニングにも似ている。声の高さや男性女性関わらずボーカルも明瞭で、低域が少し温かいまったりとした聴き心地のバランスなので、SE500 for ASMRなどが好みの人は、S3000の音も気に入りそうだ。有線でちょっと良いイヤフォンを買ってみたいと思っているのであれば、候補の一つに是非オススメしたい。