レビュー
バズーカ復活! 薄型テレビらしからぬ迫力のサウンド。東芝「REGZA 55BZ710X」
2017年6月22日 08:00
東芝の「バズーカ」が復活した。バズーカ? という方もいまは多いのかもしれないが、東芝が1990年代まで展開していた音にこだわったブラウン管テレビで使われていた名称だ。ブラウン管は表示面の後方に蛍光体を刺激して発光させる電子銃があるので、奥行きが長い。だからテレビ自体も箱形だった。ブラウン管時代のスピーカーは、箱形のボディの空いたスペースを活用できるので、容積も確保しやすく音質的な条件は有利だったのだ。
しかし、薄型テレビはその名の通り薄く、スピーカーが入る余地は少ない。しかも、テレビの大画面化に伴い、部屋に置けるサイズに収める省スペース化も進んできたため、ますますスピーカーは小型化され、画面の下にこっそりと収められることが増えている。
結果として、テレビの音質は良いとは言いにくいものになってしまった。だから、音質のグレードアップのために、小型のアクティブスピーカーを組み合わせたり、サラウンド再生に対応するサウンドバーのようなホームシアター機器が増えてきている。
5.1chなどのサラウンドシステムを組み合わせる人ならば、テレビの内蔵スピーカーはなくても困らない。だが、大多数の人は「テレビの内蔵スピーカーの音」=「テレビの音」のはずだ。
薄型テレビ時代に入り、大画面や設置性では大きな進歩を見せてきた一方で、ややおざなりにされてきた「音」。しかし、この2~3年は各テレビメーカーのラインナップにも、画質だけでなく音質にもこだわり、大きなスピーカーを搭載した製品が増えてきた。一体型で、テレビ1台で完結して良い映像と良い音を楽しみたいというユーザーは少なくないのだ。
そして東芝は、同社の代名詞といえる「バズーカ(BAZOOKA)」サウンドを冠したREGZA「BZ710Xシリーズ」を発売した。55型「55BZ710X」(実売価格24万円)と49型「49BZ710X」(同22万円前後)の2モデル展開だ。復活したバズーカの実力を、「普段づかい」で検証してみよう。
地デジ画質にこだわり。「レグザエンジンBeauty PRO」を搭載
「55BZ710X」は、IPS液晶パネルを採用し、高画質エンジンには「レグザエンジンBeauty PRO」を搭載する。エンジン自体は上位機のZ810Xシリーズと同じだ。
パネルはZ810XがVA型で、エリア駆動の分割数も多いが、BZ710Xシリーズも前作のZ700シリーズに比べてエリア分割数を倍に増やし、バックライトの点灯制御も一般的なPWM制御に加えて電流制御も行なうことで、より緻密な明暗の再現を可能にしている。開発者によれば、IPSパネル採用のモデルとしてはトップクラスの高コントラストを実現したとのこと。音質面が注目される製品だが、映像面でもその実力はかなりのもの。IPS方式は、広視野角という大きなメリットがあり、広いリビングなどで家族みんなで楽しむような使い方に適しているからだ。
2段再構成型超解像やアダプティブフレーム超解像、絵柄構造適応型MPEG-NRなどなど、東芝の高画質技術は、そのまま継承されている。しかも、BZ710Xシリーズでは、これらの機能を活かして地デジ放送をよりリアルで美しく再現する「地デジBeauty PRO」を新採用した。
地デジ放送に最適化して、ノイズを除去しながら精細感を高める機能で、BZ710Xで初搭載したもの。この地デジBeauty PROは、5月末のアップデートで、上位機の有機EL X910シリーズやZ810Xシリーズにも追加されたが、最新世代のBZ710Xシリーズのみの処理も入っている。
BZ710Xでは、地デジ放送の1,440×1,080を1,920×1,080にスケーリングするとき、一般的なスケーラー回路ではなく、前述の超解像技術を使って解像度変換も行なう。これにより、より精密な映像の再現ができるというわけだ。これは、X910シリーズやZ810Xシリーズには採用されていない。つまり、“地デジ画質にこだわったテレビ”がBZ710Xなのだ。
後で詳しく述べるが、4Kの解像度で再現されたBZ710Xの地デジ映像は、一般的な地デジ放送の印象とはその精細さや映像のリアリティーが格段に高まっており、その違いに驚かされる。
なお、上級機との機能的な差として、地デジ6chの全録機能「タイムシフトマシン」は省略され、通常録画用として地デジ/BS/110度CSチューナ数は各3基となる。スカパー! 4K対応のスカパー! プレミアムサービスチューナも内蔵する
番組視聴中に関連する他の番組をリストアップしたり、録画番組やお気に入りのテーマの番組、YouTubeの人気動画を表示したりできる「次みるナビ」や、クラウド経由で好みにあった番組を探せる「みるコレ」、キーワードでお気に入りの視聴者などの出演場面を探せる「シーン検索機能」なども備える。
全録機能については、同社の「タイムシフトマシン」搭載BDレコーダとネット連携し、BZ710Xからの操作で過去番組表の表示やDLNA経由の再生を可能にする「タイムシフトマシンリンク」を搭載する。
なお、前述の「地デジBeauty PRO」は、内蔵チューナでの地デジ視聴時でないとその効果を存分に発揮できず、BDレコーダで録画した番組をHDMI経由で見た場合は通常の処理となる。HDMIでは地デジ映像もレコーダ側で1,920×1,080に変換されて出力されてしまうからだ。
そのため、同社レコーダと連携する「タイムシフトマシンリンク」では、ネットワーク経由で番組を再生(DLNA再生)する。DLNA再生では、地デジ番組は1,440×1,080のまま送られてくるので「地デジBeauty PRO」により高画質化する。そのため、DLNA再生なら、他社製を含む外部機器で録画した地デジ放送も、より美しく楽しめるというわけだ。少々マニアックな使い方ではあるが、筆者のようにテレビ視聴は録画中心という人は、覚えておこう。もっとも、録画した放送を見るだけであれば、外付けHDDを増設してBZ710Xで録画するのがシンプルで使い勝手が良い。
地デジ番組を視聴。見慣れた番組が驚くほどきれい
さっそく、地デジ放送を中心に番組を見てみた。オンエアの映像は内蔵チューナで受信したもの、録画映像は自宅のBDレコーダで録っておいたものをDLNA経由の再生で確認している。
今回はいつもの視聴室ではなく、リビングに55BZ710Xを設置して確認している。一般的な環境での映像をチェックするためだ。
オンエアで地デジ放送を見てみると、まずはノイズ感の少なさに驚く。地デジ放送というと、テロップ文字が表示されればその周囲にもやもやとしたモスキートノイズが出るし、ちょっと動きが激しくなったりするとブロックノイズも目立ちやすい。画面の動きの少ないドキュメンタリー系の番組ではそれなりにきれいな映像だが、ドラマを見ていても、遠景のぼけた景色が潰れてみえたり、ノイズが気になったりしがちだ。アニメもそれは同様だし、筆者のように毎回のアニメでもオープニングとエンディングを欠かさずに見て、いちいちキャストやスタッフを確認しているような場合、ノイズが多いと確認がしずらいのだ。
しかも、4Kテレビの場合、およそ4倍に拡大(アップコンバート)されることもあり、ノイズまで余計に目立ってしまうことがある。4Kテレビに買い換えて、4K放送や4K映像配信、Ultra HD Blu-rayを見始めると、地デジが決してきれいではないと感じる人は多いと思うが、地デジがではなく、「地デジのアップコンバート映像がきれいではない」という場合も少なくない。
だが、55BZ710Xの地デジ映像は、明らかに映像の緻密さが増し、より品位の高い映像になっていた。テロップの文字もすっきりとして見やすいし、ドラマなどでは細部のディテール感も良好だ。
毎年正月にNHK Eテレで放送される「ウィーン・フィル/ニューイヤーコンサート2017」をDLNA再生で見てみたが、ウィーンにある楽友協会ホールが美しく再現された。美しく彫刻された壁や柱、色とりどりの花で飾られたステージなどが色彩感豊かで驚く。ニューイヤーコンサートはBDでも発売されているが、放送の録画でここまで再現できるならば、わざわざBDを買う必要はないと感じるほど。
IPS液晶だが、明るい環境のコントラスト感も十分。楽団員の黒いスーツの質感もしっかりと再現されるし、照明が当たらず暗く沈みがちな客席の観衆のスーツやドレスも生地の質までわかるような鮮明さ。もちろん、暗部のざわざわとしたノイズも目立ちにくく、実に見通しが良い。
また、深夜アニメを見ても、MPEGノイズの発生が明らかに減っていることが確認できるし、キャラクターの輪郭の描線もすっきりとしてきれいだ。このあたりは、アニメの映像的な特徴をよく解析して最適な映像処理を行なう映像メニュー「アニメプロ/アニメ」の出来の良さもあるが、実にすっきりとして見やすい映像だ。鮮やかな色もしっかりと出るし、暗色の再現も十分なレベルだ。
いつもの深夜の視聴と違い、昼間の視聴では外光による映り込みは少々あるが、それによってコントラスト感が低下して黒が浮いたような感じにはならないのも良い。明るい場所では黒浮きはあまり気にならないが、暗部はもちろん明部でも色が抜けたような感じになり、本来の豊かな色が失われたあっさりとした映像に感じることがある。このような印象を感じることもなく、十分なコントラスト感が得られた。
先月連載でも書いたが、筆者は有機ELテレビの「55X910」を購入した。それ以来、液晶テレビの画質チェックが辛口になりがちなのだが、一般的な明るさの環境で見るならば、極端なコントラストの差や黒の再現性の違いが目立つこともない。
そして、思った以上に満足度が高いのが音の充実度だ。ふだんはテレビにサウンドバータイプのスピーカーを組み合わせているので、それなりの音質で番組を見ているのだが、テレビ本体だけで、その印象に遜色がない。テレビの内蔵スピーカーと考えると驚異的だ。
さらに、サウンドバーのように、“テレビの周りに物がない”ため、見た目がすっきりとして気分が良い。掃除がしやすいなどのメリットもあるし、最近はリビングをシンプルにするのが流行でもあるので、単体で高画質と高音質を両立できるテレビの価値は高い。
爆音から日常まで。バズーカならではの音の良さ
ここからは、55BZ710Xの音質を中心にレビューしていこう。スピーカー構成は、大容量バスレフボックスを採用し、3.0×9.6cmのフルレンジユニットと3.0cmツィータによる2way構成。これをバイアンプ駆動としている。オンキヨーとの共同開発によるものだ。
実はこのスピーカーはX910シリーズにも搭載されているものと同じ。こちらはバズーカウーファを組み合わせた2.1chとなるので、細かな音質チューニングは異なるが、最上位モデルと同じユニットを使っているというのは贅沢だ。開発者によれば、専用に設計するよりも、もともとしっかりとコストをかけて開発したものをそのまま使うほうが、かえってコスト負担は少ないとか。
しかも、X910シリーズはスピーカーの存在感を極力なくすため、ユニットは下向きに配置されているが、55BZ710Xではきちんと前向きになっている。これだけでも音の抜けや広がり感の優れた再生になることが期待できる。
背面にはバズーカウーファが内蔵される。ユニットは6.0cmユニットを1個使い、バスレフ方式のダクトで低音の増強を図っている。バズーカというとブラウン管時代の共鳴管方式を思い出す人もいるかもしれないが、BZ710Xではワイドレンジ再生を意識し、帯域の狭い共鳴管ではなくバスレフ方式としている。
これらのユニットは、総合出力66Wのマルチアンプで駆動されるが、「レグザサウンドイコライザーアドバンス」と呼ばれる緻密な補正が加わっている。周波数特性では、帯域を1,792に分割し、よりフラットな特性に補正。インパルス応答や、広いエリアのどこでも心地良い音を楽しめるようにする3次元空間測定と時間軸解析による4次元補正技術でリスニングエリアを拡大、画面の下からではなく、画面と一致した位置から音像が得られるようにする音像補正など、緻密な信号処理を加え、音質を磨き上げている。
このウーファの搭載が当然ながら音質面での大きな特徴。リモコンの[重低音]ボタンでウーファの調整なども行なえ、[オフ]でははウーファは完全に[切]の状態になるという。これはどういうことかと言うと、前方を向いた2つのボックススピーカーだけで必要十分な帯域は確保してあるということだ。X910シリーズはこの2つだけで十分な再生音を出し、電気的にもう少し低音の再現を強化しているというが、BZ710Xではこれをリアルなウーファで補っているというわけだ。
実際に、低音のしっかりと入ったソースで確認してみると、「重低音:オフ」でもそれほど物足りない印象にはならない。コンサートならばコントラバスのような低音楽器がやや不足がちになる程度、アクション映画だと爆発音などの迫力がちょっと物足りない感じになるが、基本的な帯域が確保されているので、バランスが崩れて中高音だけの薄い音にはならない。普通に音の良いテレビだ。
測定したわけではないが、おそらくは100Hz付近を境として、それより上を2ウェイスピーカー、下をウーファが担当している感じで、事実上サブウーファと呼んでいい使い方をしていることが確認できた。ちなみに、開発者によると、重低音の設定は、「弱」がフラットな特性で、「中」でやや低音盛り気味、「強」は爆音設定というイメージで調整しているという。
本格的な視聴をする前に、55BZ710Xを置く位置をいくつか試してみた。これは言わばスピーカーの設置位置の調整でもある。スピーカーは壁との距離で主に低音感が変化するので、低音が足りないならば壁に近づけると低音が増すし、壁から離せば逆となる。低音が出すぎるというよりも中低音が張り出して声の明瞭度が下がるといった場合の微調整が行なえる。本格的なスピーカーを持った55BZ710Xだけに、このあたりもじっくりと検証してみた。
開発者に聞いたところ、基本的には一般的なテレビの設置を想定して音のチューニングをしており、壁際やコーナー設置で良好なバランスとなるようにしているという。普通にテレビを置けば問題ないが、薄型テレビは壁際のギリギリまで寄せて置く人もいるし、配線や掃除を考えてある程度距離を空ける人もいるだろう。それらによって低音感は微妙に変化する。この違いを確認してみた。
まずは壁からおよそ20cmほど。55BZ710Xは壁際ギリギリまで寄せてもスピーカー部の張り出しがあるので配線などもなんとかなるスペースが確保できるが、掃除などのことを考えるとこのくらいで置く人が多いと思う。
この状態のバランスもまずまずで、中低音がしっかりと出て聴き心地のよい音となる。壁の反射もあって低音感もしっかりと出ている。「重低音」は「弱」がちょうどいいバランスだ。「中」になるとやや低音が多く感じ、「強」になると壁の反響が目立ってしまう。家の壁の強度にもよるが、壁が鳴ってしまうようだと音の明瞭度が下がり、近隣への影響も大きくなる。一般的な音量ならばそれほど神経質になることはないと思うが、大きめの音量だと低音が変に目立ちすぎ、せっかくの重低音を生かし切れないとも感じた。
今度は壁から50cmほど。壁の反射の影響が減るのか、音の明瞭度が増しすっきりとした音になる音場の広がりや見通しも良好だ。低音感は控えめになるので、音楽番組やアクション映画などならば「中」あたりが好ましいバランスとなる。
ラックの前側ギリギリまでテレビを前に出し、80cm~1mほどの距離としてみると、音場のスケールはもっとも広くなる。ここまで壁との距離が広がると重低音は「強」がいい。コンサートならば音場のスケール感や雄大さがかなり増すし、55型の画面を超えるくらいの迫力だ。壁の影響による低音の不自然な反響などもほとんど感じないので、大音量で楽しむならばこのくらいの位置もなかなか楽しい。とはいえ、逆に音量を絞ると迫力が減ってしまい、落差が大きい。
音量を出せる日中に限るならば、壁から1m弱の距離で「重低音:強」とする雄大なスケールも良いが、ふだんの音量だと物足りなさも募る。爆音セッティングとでも命名して、いざという時にテレビを前に動かすのもアリだ(面倒ではあるが)。
大音量から小音量まで、バランスが大きく変化することもなく使いやすいと感じたのが、壁から50cmほどの距離で「重低音:中」とするもの。アクション映画の迫力も十分に楽しめるし、音楽などでは音の粒立ちがよく、スケール感も十分に広いので、満足度が高い。
試してみると、低音感の変化はもちろんだが、その影響で声の明瞭度や細かな音の再現性も思った以上に変化することがよくわかった。設置する部屋の広さや天井の高さ、壁との距離などの、環境が持つ音響特性の影響は大きい。今回はやや大げさに設置位置を変えてみたが、せっかくの高音質スピーカーを活かすために、できる範囲内でセッティングを変えてみると面白いだろう。
なお、壁掛けや壁際ギリギリに置くという場合は、壁掛け設置用の音質切り替えも用意されている。
テレビの設置位置を壁から50cmほどとして、「重低音」は「中」というセッティングで、いくつかブルーレイソフトを見てみた。本機は擬似的なサラウンド機能も持つが、HDMI入力からのサラウンド音声には非対応。ドルビーTrueHDなどのビットストリーム出力では音が出ないので、再生機器側でPCM変換出力を行なう必要がある。
音声メニューは、「おまかせ」のほか、ダイナミック、標準、クリア音声、映画などが用意されている。テレビを見る場合は、放送の番組情報に連動するため基本的に「おまかせ」でOKだ。
最初は音質モードに、音楽向けのものがないことが気になったが、画面の説明を読むと「ダイナミック」が音楽に適したモードとなっている。ド派手な店頭向け音声のようなイメージがあったが、実際はバランスよく迫力を楽しめるもので、これは積極的に使える。
「標準」はもっともフラットなバランスで常用するにはちょうどいいし、「映画」も過度な低音感の強調はなく、豊かな音を楽しめるので好ましかった。「クリア音声」は、高音域の強調感が強く感じるが、これは、シニア世代向けに聞きやすさを向上するモードだからだ。
せっかくの高音質スピーカーを搭載しているのだから、サラウンド対応も欲しいと感じる人も多いと思うが、そこは割り切って、あくまでテレビ放送をメインとしている。ただし、AAC 5.1などの地デジのサラウンド放送にはきちんと対応している(ダウンミックス2ch再生)。また、BDビデオの再生時のサラウンド音声は、ステレオにダウンミックスを行なう必要があるため、プレーヤー側のHDMI音声出力を[リニアPCM変換]に設定しておこう。
サラウンド再生にこだわる場合は、内蔵スピーカーの音のレベルを考えると、サウンドバーではなく、AVアンプを使ったリアル5.1chにステップアップするのが正しいと思うし、本格的なホームシアターを考える人ならば、BZ710Xではなく、上位のZ810XやX910シリーズを選ぶという選択肢も出てくるだろう。テレビ放送を中心にした画質と音質、そして価格のバランスの良さが、BZ710Xの狙いといえる。
さておき、BDソフトをステレオ再生で楽しむために、ここでは「シン・ゴジラ」のBD版を視聴してみた。「シン・ゴジラ」はモノラルに近い音作りをした映画で、BD版でも3.1ch音声と2.0ch音声を収録している。この2.0ch音声で視聴した。
これが意外にマッチングがよくて感心した。実は「シン・ゴジラ」は我が家の4.2chのサラウンド環境では、スピーカーの音の傾向もあって、映画館のようなダイレクト感のある音にならず、作品が目指したドキュメンタリータッチの生々しい迫力が得られないと感じていた作品でもある(「良作×良品」で扱わなかったのはそれが理由)。
55BZ710Xのクリアーできちんとした音像定位が得られる粒立ちの良い音は、登場人物たちのセリフも実体感のある生々しい声で再現される。やや早口で繰り広げられる専門用語たっぷりのセリフもかなり聴き取りやすい。もちろん、ゴジラの咆吼や各種兵器の砲撃音や爆発音も迫力は十分。さすがに映画館の音量には及ばないが、“家庭で許される”音量で、映画館に近い感触と迫力を楽しめた。
そして、映像も十分以上に見応えがある。液晶では厳しいと思い込んでいた真夜中の首都炎上のシーンでも、十分な黒の締まりと暗部の再現性が確保され、悲惨さがしっかりと伝わってくる。昼間の場面では漆黒のゴジラの体表の感じが、やや黒の浮いた感じにも見えたのだが、夜間の場面では漆黒がそれらしく再現され、しかも夜の闇に溶け込んでしまうこともない。IPSパネルということを考えるとかなりの表現力だ。
もうひとつ。新海誠監督の「言の葉の庭」を2.0ch音声で見てみた。本作は45分ほどの短編で、個人制作の作品で注目を集めた新海誠の本領が発揮されている作品とも言えるもの。3DCGを積極的に採り入れながらも、手描きのタッチを濃厚に活かし、イラストとさえ思えるような豊かな色彩で描かれた景色など、見どころも山のようにある。
こちらでは画面のサイズ以上に広がる豊かな音場に感心した。梅雨入りの季節を中心に描かれるので、雨の降る場面が多いが、その雨がパラパラと四方に広がる。質の高いステレオ再生装置を使っている人だと実感してもらえると思うが、下手なバーチャル・サラウンドよりも豊かな音場感が得られる。遠くで鳴る雷が響く様子、公園内の虫の声や鳥のさえずりのような音も広がり感豊かで、しかも粒立ちのよい明瞭な音で展開する。
アクション映画を爆音で楽しむという点でも、55BZ710Xは内蔵スピーカーとは思えないパワフルな音を味わえるが、こうした日常を描いた静かな作品でも、その質の高さを十分に堪能できる。ふだんは薄型テレビの内蔵スピーカーの音は決して良くないと言っておきながら宗旨替えしたかのような褒めっぷりだが、実際それくらい、丁寧に仕上げられた音になっている。
それだけに少々の不満もある。この音をテレビ放送主体で楽しむだけというのはもったいない。Bluetoothでスマホの音楽をワイヤレスで聴く機能があってもいいと思うし、DLNA再生ではハイレゾとはいかなくても、CD品質の音楽再生機能も欲しくなる。このあたりは後継機ではぜひとも対応してほしいところだ。
“これ1台”でテレビがより楽しくなる
筆者自身も、高音質スピーカー内蔵モデルというと、サラウンドとか、ハイレゾとかを期待しがちなマニアックなタイプだが、シンプルなテレビの音の良さと使い勝手にこだわったBZ710Xを使ってみると、「テレビ放送の音が良いですよ」というのは、実は大事なことなのだと改めて思う。
同様に、4Kテレビとなると、4Kコンテンツの良さ、HDR映像のパワフルさをアピールしがちだが、「地デジがきれいですよ」という基本性能にもっとも力を入れている。これも大事なことだ。
それらにしっかりとフォーカスし、期待以上の充実した映像と音を楽しめるのが55BZ710Xの最大の特徴だ。リビングで使っている間、テレビドラマもふだん以上に楽しめたし、深夜のアニメ視聴もより面白く感じる。上級機の技術はしっかりと受け継いでいながらも、“テレビ”が楽しくなる性能を充実させた「ふだん使い」の親しみやすいモデルだ。
REGZA 55BZ710X |
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