レビュー

4K/HDRの不満解消! パナソニック本気のプレーヤー「DP-UB9000」が熱い

PANASONIC DP-UB9000

4K/HDR作品の高品位再生にこだわる映画ファンがパナソニックの最上位BDプレーヤー「DP-UB9000」に熱い視線を送っている。

UB9000は、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)再生においてトップクラスの性能を誇った同社製BDレコーダー「DMR-UBZ1」を超えることを目標とし、設計を全面的に変更。画質改善に、積極的にコミットする姿勢を打ち出した注目機である。価格はオープンプライスで、実売は21万円。

本機の一歩踏み込んだ設計が実際にどんな成果を上げているのか、自宅の視聴環境に持ち込んでじっくり検証した。

UB9000の設計陣が画質改善への関与を強めた背景には、HDR映像を取り巻く再生環境の課題が存在する。4Kテレビや4Kプロジェクターで見るUHD BDの画質にいまひとつ納得できないことがあるが、その主な原因はディスプレイ側の限られた輝度レンジでHDR映像の高輝度を再現しきれないことにある。

最大輝度よりも強い輝度ピークが存在すると、ディスプレイ側で画面全体の輝度を下げたり、高輝度信号をカットするなどの処理を行なうわけだが、そのプロセスが機種ごとに異なるため、同じシーンなのに映像のトーンがディスプレイによって変わってしまうこともある。

画質の差が大きくなると、どれが本来の映像に近いのか、判断するのは難しい。Dolby VisionやHDR10+など動的メタデータを持つ作品であれば、そうした違和感は抑えられるが、まだ対応ディスプレイも、動的メタデータを採用するタイトルも少なく、いまの段階では決定打とはなりにくい。

具体的な課題として、テレビでは白飛びや色味の変化が気になり、プロジェクターでは明るさやコントラスト不足に不満を感じることが多いのだが、いずれも作品への集中を妨げられ、不満が募る。

その不満を解消するためにUB9000はかなり思い切った対策を導入した。

通常ならディスプレイ側で行なうマッピングをプレーヤー側で処理するという大胆な手法である。コントラストを最適化するためにHDR10のメタデータを参照するが、マッピングの精度を高めるためにあらかじめ市販ソフトの輝度分布とメタデータの相関を解析し、輝度補正と色補正を最適化したことが重要なポイント。ピーク部分の飽和、色味の変化、画面全体の輝度低下などの好ましくない現象をていねいに対策して違和感を抑えているという。

トーンマッピング処理イメージ

組み合わせるHDR対応ディスプレイの輝度は6種類の設定から選べるようにしており、明るめの液晶テレビから絶対輝度が低いプロジェクターまで、多様なディスプレイでコントラスト感の改善を狙っている。

プロジェクターは高輝度(500nit)と低輝度(350nit)の2種類から選べるが、これはJVCの4Kプロジェクターを組み合わせて実際に検証した結果から設定した数値だ。

HDRディスプレイタイプの設定メニュー

日本限定仕様ならではのこだわりは、特に音質対策に顕著だ。不要振動を抑える剛性強化やノイズ対策の徹底、グレードの高いDACの採用など、競合機を上回る物量を投入した成果をどこまで聴き取れるのか。今回はアナログ出力も含め、ハイファイの再生システムに組み込んで実力を検証してみたい。

UB9000はコアとなる回路だけでなくメカニズムや筐体まで新規に設計しており、同社のBDプレーヤーとしては異例ともいうべき重量級のプレーヤーに仕上がっている。重さは12kgを超えるので支えもしっかり強化すべきと考え、ヤマハのGTラックやクリプトンのオーディオボードなど、ハイファイ機器と同格のセッティングで視聴した。

天面
背面
内部
リモコン

テレビで調整しきれなかったHDRの不満が「HDRトーンマップ」で解消された

筆者の仕事場でソニーの4K有機ELテレビ「A9F」と組み合わせ、まずはUB9000の核心となるUHD BDの再生クオリティを確認した。

HDRディスプレイタイプを“有機EL”に設定し、HDRトーンマップを“オン”にすることによって、1,000nitを超える輝度信号をUB9000側でマッピングして飽和を抑えた自然なコントラストを実現する。A9F側でもピーク輝度3段階に調整できるため、1,000nitを超えるような高輝度部を含む映画でもそれほど不自然な白飛びは起こりにくく、さらにコントラストの自動調整機能も3段階から選べるため、最大輝度が1,000nit前後の作品ではほとんど破綻を見せない。

しかし、小面積とはいえ強いピークが存在する場面ではピーク輝度を抑えないと眩しく感じることがある。しかも輝度を抑えると、ピークだけでなく中間輝度の部分も暗くなる場合があるため、人物の表情や背景の立体感など、重要な情報を読み取りにくくなってしまう。作品によってどの設定を選ぶべきか、迷うケースも出てくるのだ。

そこでUB9000のHDRトーンマップをオンにすると、タイトルごとにテレビ側で設定を切り替えなくても、ほぼ適切なコントラスト感が得られる。同機能の大きな長所として挙げておきたいのは、最大輝度を抑えても中低輝度部のレベルはほとんど変わらず、階調に影響を及ぼさないことである。

HDRトーンマップ

A9FにもHDRの自動コントラスト調整機能があり、それなりに高い精度で動いてくれるのだが、極端に明るい領域を含む場面など、同機能では制御しきれない場合もある。

そのような時は前述したA9F側のピーク輝度などの設定を変更する。しかし、ピーク輝度を“中”以下に抑えると中間輝度の領域も一気に暗くなることが多く、ちょうどよい設定を選ぶのに苦労してしまう。テレビ側とプレーヤー側のどちらでトーンマッピングを行なうか? ということになるが、A9Fとの組み合わせではUB9000側に任せた方が手順が少なく、明るさと階調を両立させやすいと感じた。

具体的な例をいくつか紹介しよう。

飛行シーンが多い「バリー・シール/アメリカをはめた男」は日中のシーンでも1,000nitsを超える場面がそれほど多くないこともあり、明るい場面でのマッピングの効果は気付きにくい。しかし夜間飛行の場面など、画面全体が暗いときの遠景の光や空の暗さなど、暗部の描写はUB9000側でHDRトーンマップをオンにした方がなめらかな階調が出てくる。

日中の飛行場面でも雲の立体感や夕日の色調を適切に再現しており、遠近感の描写にも違和感がない。4K/HDR映像はたしかに見栄えが良く鮮やかな印象を与える半面、作品の意図を忠実に再現できているのか、疑問に感じることがないわけではない。「バリー・シール」の場合は、1970年代の空気感を意識した色調とトーンを狙っているので、見栄えの良い鮮やかさよりは穏やかなコントラストで温度感を伝える方が説得力がある。

UHD BD「バリー・シール アメリカをはめた男」

「ハドソン川の奇跡」は、機長のジョギングの場面で非常に輝度の高い電飾看板が出てくる。ピーク輝度の高さとコントラストの強さという点でかなり特殊な場面だが、ピーク輝度を適切に制御すれば人物の表情と華やかな街の景観描写を両立させ、対比の妙を伝えることができる。

A9F側で設定する場合はピーク輝度設定を中にしないと、顔の表情を読み取りにくいが、そこまで抑えると看板の飽和は抑えられても明るい夜景と、トム・ハンクスの表情の対比が弱まり、もどかしさがある。一方、UB9000側でHDRトーンマップをオンにすると、ピークは眩しすぎない程度に明るさが抑えられるとともに、中間輝度で描かれる人物の描写が曖昧にならず、ハンクスの表情から注意が逸れることがない。

UHD BD「ハドソン川の奇跡」

「イコライザー2」では、デンゼル・ワシントンがタクシードライバーとして夜の街を移動する場面がわかりやすい。多くの場面では最大輝度はそれほど高くないのだが、緊張が高まる状況では街灯やヘッドライトの強い光を入れ込み、照らされた建物の立体感や路地裏の暗さを際立たせる場面を効果的に挿入している。

UB9000のHDRトーンマップをオンにした状態で見ると、微妙なコントラスト感を場面ごとに描き分け、演出の巧みさが伝わってきた。ここでも人物など暗部の情報はマッピングのオン・オフでほとんど変化しないので、表情や視線の動きを確実に読み取ることができる。

UHD BD「イコライザー2」
プロジェクターで観るHDRならではの最暗部の階調表現に目を見張る

プロジェクターとの組み合わせでは、どのようなパフォーマンスを見せるのだろうか。自宅とパナソニックの視聴ルームそれぞれで見た印象を紹介しておこう。前者はソニーの「VPL-VW1100ES」でSDR映像を視聴、後者ではJVC「DLA-V9R」でHDR映像を確認した。

自宅のシアタールームでは、VW1100ESとの組み合わせで「マリアンヌ」、「バリー・シール」のそれぞれを、冒頭から最後までUB9000のHDR→SDR変換の映像で視聴した。

SDR変換では明るさや階調に不満を感じることが多いので普段はUHD BDではなくBDで再生することが多い。しかしUB9000の場合は、メニューのシステムガンマ調整などの機能を併用すれば、SDR変換のまま映画一本まるごと見てもほとんど違和感を感じることがない。

「マリアンヌ」ではカサブランカのアパート屋上の場面、深みのある背景の夜空と人物のなめらかなスキントーンがバランス良く両立し、微妙な色のトーンが荒れることもない。システムガンマ調整をややマイナス方向に動かすことで周囲の暗さを際立たせるなど、好みに合わせて自在にガンマの微調整もできる。もちろんVW1100ES側でもほぼ同様なガンマ調整ができるので、調整に慣れているならそちらを使ってもいいだろう。

「バリー・シール」のように、場面ごとのコントラスト感が大きく変わる作品の場合は、プロジェクターで見るHDR→SDR変換映像の課題が浮き彫りになる。

コックピットや空港の場面はあえて低階調で描写し、ニカラグアの場面は強い色調で描くなど、ドキュメンタリー的要素も交えながら多様な映像が交錯するのだが、変換処理によってはそれぞれの場面を意図通り再現するどころか、破綻寸前のまとまりのない映像になるリスクもある。それならBDのSDRをそのまま見た方が安心できるが、UB9000では前述のシステムガンマを数ステップ抑えた状態で最後まで違和感なく楽しむことができた。

V9Rでは、UB9000専用のカラープロファイル(編注:3月中旬提供予定)で視聴を行なった。UB9000側では「高輝度のプロジェクター」(500nit)または「ベーシックな輝度のプロジェクター」(350nit)のどちらか一方を選び、HDRトーンマップをオンに設定。V9R側は、UB9000の設定に応じ、「Pana_PQ_HL」(高輝度のプロジェクター用)か、「Pana_PQ_BL」(ベーシックな輝度のプロジェクター)を選べばよい。

UB9000用の2つのプロファイル
プロファイル設定時の動作イメージ

限られた作品の視聴ではあったが、プレーヤーとプロジェクターで映像処理を分担する意義はあり、そこに大きな可能性を秘めていることが伝わってきた。

具体的には高輝度領域のトーンマッピングをプレーヤー側で処理することによってプロジェクター側の負荷が減り、そこで生まれた余裕を活かして緻密な階調表現を実現できるメリットが大きいのだ。いまのところUB9000とDLA-V9R/V7/V5の組み合わせに限定されたアプローチだが、他の製品でも同様なコンセプトでプロジェクターで見るHDR映像の画質改善を図ることができるはずなので、メーカーとの協業の実現も含め、今後の展開を期待したい。

筆者が視聴した3つの作品のなかでは「マリアンヌ」の映像に、強い印象を受けた。

カサブランカの夜の街の情景は有機ELテレビで観るとコントラストが過剰と感じることが多い。室内のシャンデリアの煌めきも場の雰囲気を描く上でたしかに大きな効果を発揮するが、ピークが強すぎるとそこにばかり目がいってしまうことになりかねない。

一方、ターゲット輝度を抑えた設定(350nit)で専用カラープロファイルPana_PQ_BLを選んだV9Rの映像を見ると、画面全体のトーンに統一感があり、照明の明るさにも誇張がなく、安心して映像に集中することができる。

危うく空襲の難を逃れる場面の前後では、プロジェクターで観るHDR映像ならではの最暗部の階調の豊かさには目を見張るものがあった。これまで何度も見てきたシーンだが、低輝度領域にもかかわらず立体的な描写と微妙な色の描き分けができており、人々の不安や恐怖がいっそうリアルに伝わってくる。低輝度領域でのこだわりの描写は、映画ファンなら目を凝らしてじっくり見たい部分であり、HDR本来の威力が伝わる最大の見どころである。

UHD BD「マリアンヌ」

徹底した振動・電源対策により純度が高く情報量にも余裕が感じられる

最後に、再生音の印象も紹介しておこう。

振動対策や電源の強化、上位グレードのDACの採用などの手法は主にアナログ出力の音質改善に向けられたものだが、ノイズ対策と未使用の回路への電源供給の遮断など、きめ細かい設定を駆使することでHDMIを含むデジタル出力の音質も入念に吟味されている。

アナログ回路部
音声出力端子

BDの音質評価で筆者が常用している「ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 ベートーヴェン:交響曲第5番&三重協奏曲」をサラウンド環境(HDMI接続)で再生すると、重心の低いオーケストラとソロ楽器それぞれを立体的な音像で再現し、直接音とホールトーンのバランスもきれいに整っている。余韻の広がりなど微小な空間情報を忠実に再現しているためか、ホール空間の空気の動きまで耳で追うことができた。

アレーナ・ディ・ヴェローナでライヴ収録されたビゼー《カルメン》を同じくHDMI接続のサラウンドシステムで再生すると、屋外劇場ならではの開放的な音響に加え、力むことなく歌っても隅々まで声が届くソプラノの浸透力の強さを見事に再現してみせた。オーケストラの各楽器の動きを鮮明に鳴らし分け、多人数の合唱がフォルテで歌ってもハーモニーが混濁しないことにも感心させられた。

BD「ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調Op.67 “運命”」と「ビゼー:歌劇“カルメン”」

アナログ出力で聴いたCDの再生音は、分解能の高さと質感描写のきめの細かさが際立ち、グレードの高いDACの真価を十分に引き出している。

アレッサンドロ・ガラッティ率いるピアノトリオはドラムのアタックに付帯音が乗らず、一音一音にテンションの高さがそなわる。ベースは低重心だがアタックには緩みがなく、最低音域まで骨格がしっかり定まっている。ドラムも含めて余分なふくらみがないので、ピアノの澄んだ音色がとても美しいのだ。

CDだけでなく、ネットワーク再生とUSBメモリーで聴いたハイレゾ音源も非常に純度が高く、情報量の余裕はミドルクラスのCDプレーヤーやネットワークプレーヤーに肉迫すると言っていい。

ここまで基本性能を高めながらSACDに対応していないことは非常に残念だ。それさえクリアすれば、本機を選ぶという音楽ファンは少なくないはずだ。

そしてもう1点注文しておきたいのが、ギャップレス再生への完全対応。今はUSBメモリーでの再生時のみ対応するが、残念ながらネットワーク再生においてはまだ実現できていない。ファームウェアの更新で実現できるのかは不明だが、対応を強く望む。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。