本田雅一のAVTrends
第190回
有機ELテレビに“さらなる可能性”。UB9000 + JVCプロジェクタが実現したこと
2019年3月29日 07:30
'18年末に発売されたパナソニックのUltra HD Blu-rayプレーヤー「DP-UB9000」は、本連載でもHDR処理の素晴らしさをお伝えしていたが、今年1月にはJVC製プロジェクターと連動することで“明るさに制約が大きい”プロジェクターにおいて、さらに高画質を実現するためのコラボレーションを実現した。
本誌でも3月7日に視聴レポートが掲載されている。各コンテンツにおける仔細な画質の変化は、その記事におまかせするとして、筆者が最も関心を惹かれたのは“暗部階調の滑らかさ”が良好になることだ。
なお、DP-UB9000(実売21万円前後)は発売以来、市場で極端な品薄が続いていたが、パナソニックによれば国内での増産スケジュールを確保し、既に解消へと向かっているとのことだ。
有機ELにも連携の可能性を感じさせるSDR領域の画質向上
DP-UB9000(以下UB9000)の美点は、32bit演算による従来の常識を越えた高精度演算によるHDRデータの極めて高精度な、しかも実際に発売されているHDRコンテンツパッケージの実情に合わせたロールオフ処理が行なわれている点。
滑らかにロールオフされる変換カーブは、コンテンツごとに多次元関数による滑らかなトーンマップが行なわれるが、一般的な被写体(ここでは“SDR領域”と表現する)が描かれる100nits以下の輝度領域は、ロールオフ処理が行なわれない。
故に暗部階調が良くなるとは想像していなかったのだが、実際には暗部階調を中心にSDR領域の絵が大幅に改善する。もちろん、高輝度部の表現力も重要なのだが、SDR領域の画質が良くなるのであれば、UB9000 + JVCプロジェクターという、組み合わせとしては決して多くはないペア以外でも、同様の”連携”で画質が高まるはずだ。
現在、「高画質テレビならばOLED(有機EL)」というのが国内市場の常識となっているが、LGディスプレイのOLEDパネルは、RGBW画素方式で制約も多い。最大1,000nitsまで出るとはいえ、全画素を同時に出せるわけではない。いくつもの制約の中で、ひとつの映像としてまとめ上げているのがOLEDテレビだ。
同じパネル、同じドライバ(T-CON:Timing Controller)を使いながら、これほどまでに階調表現が異なるのかと驚かされるのも、パネルの使いこなしで得手・不得手や質の違いが現れるからに他ならない。
言い換えれば(比較的、無理なく表現できる)800nits以下、あるいは、もっと低く照明を落とした環境で見ることを前提に500nits程度にまで上限を抑えた上で楽しむならば、もっと素直に絵作りが行なえる。テレビ単体では、およそ1000nitsと定められている「HDR10コンテンツ制作時の目安」に合わせなければならないが、UB9000のような出力する映像の最大輝度を設定で変更できるプレーヤーを使うなら、UHD BD再生時のHDR処理はまかせてしまった方がいい。
単なる“たられば”で書いているわけではない。
というのも、今年からLGディスプレイのOLEDパネルは、社外のT-CON採用を許すようになったからだ。OLEDパネルを駆動する際、階調の割り当てを行なうT-CONは、筆者が把握しているところでは、少なくともパナソニックが今年のモデルから自社製に切り替えている。
こうした独自T-CONによる作り込みを行なうのであれば、冒頭のUB9000 + JVCプロジェクターのような高画質コラボの成果を、OLEDテレビにまで拡げていける。
なぜ“プレーヤーまかせ”でSDR領域の絵が良くなるのか
パナソニックとJVCのコラボに視線を戻そう。
このコラボが発表された当時、担当者とのやりとりで「プロジェクター側の処理負担を軽減することで高画質化する」と聞いて混乱した。
同じように“処理負担の軽減? ”と訝しんだ読者はいるのではないだろうか。
しかし、よくよく話を聞いてみると、なるほどと納得できるものだった。それと同時に、どんなディスプレイであったとしても、同様のアプローチを採れば同じような効果を得られるだろう。
先ほど「OLEDテレビは1,000nitsまで出るというが、そこには制約があってシステム側で工夫している」と書いたが、同じようにJVCもプロジェクターの狭い輝度ダイナミックレンジにHDR10を収めるため、自動的にトーンマップを行なっている。
このトーンマップは、必ずしもデバイス(この場合はD-ILA + D-ILAのコントローラ)の表現できる輝度トーンに対してリニアではなく非線形に割り当てられることになる。実はD-ILAの内部システム的には18bit精度で階調が作られているが、この絵作りのために最終精度は12bitとなる。
これに対して、UB9000は内部32bit精度でHDRの500nits(あるいは設定によっては350nits)へのロールオフ処理を行ない、メタ情報を付け替えて送出する。プロジェクター側は、この情報をそのまま無変換でデバイスに割り当てればいいだけだ。
HDMIの制約で最大bit数は12bitとなるが、内部処理32bit、出力12bitで入って来た階調を18bitのデバイスに線形に割り付けて表示する。
この結果、高輝度部の表現で圧倒的な質を誇るUB9000の良さを活かせるだけでなく、大多数の被写体の表現力や、アラが目立ちやすい低輝度部の階調表現で目を見張る画質改善が図れたのだ。
パナソニックの画質担当者も「良くはなると思っていたが、まさかここまで低輝度部が良くなるとは……」と予想以上の結果だったという。まったく同感だ。
生き残った”高画質再生機”として対応の幅を拡げるべき
この成果を、JVC製プロジェクターとのコラボだけに留めるのはもったいない。
少なくともパナソニックは自社製テレビとの連携は行なうべきだ。
例えば上記と同じ効果が得られるかどうかはわからないが、ソニー製プロジェクターの上位モデル(VPL-VW745/VW555/VW255など)には「HDRリファレンス」というモードがある。
これは規定値では1,000nitsまでの輝度情報をリニアに割り付け、それ以上の輝度は再現しないというマスターモニターに近い設定だが、HDRコントラストの調整で上限値を下げることが可能だ。すなわち、UB9000が想定している500nits、あるいは350nitsといった上限数値に近い数字までをリニア表現にすることができる。
階調保護にどこまで寄与するかは不明だが、もし手持ちの製品が対応しているなら、トライしてみてはいかがだろう。
たとえば自社製テレビならば、世代ごと最適な最大輝度の範囲内でリニアかつ高精度な階調マップとしておき、ロールオフは色補償型で高精度はUB9000にまかせるといった連携をCECなどのコマンド、あるいはメタ情報の独自領域を用いてできる。もちろん、可能であることと、“実際にやる”ことには差はあるが。
前述したように独自T-CONを採用したパナソニックの最新OLEDテレビなら、そうした連携も可能であろう。
むしろテレビの中に、UB9000のノウハウを入れるべきという意見もあるだろうが、UB9000ほどの凝った処理をテレビに入れるのはコスト面(SoCの場所取り)という面で厳しいと思われる。将来的にはテレビ内でのNetflixやAmazonビデオ再生などHDRコンテンツ再生時に反映してほしいものだが、まずはレコーダーなど、よりカジュアルな外部デバイスへの拡がりを期待したいところだ。
OPPOがUHD BDプレーヤーから撤退し、市場にある高品位プレーヤーで最も画質が優れているのは現状でUB9000だ。幸い、画質面では他に類を見ない製品に仕上がっているだけに、生き残った最高画質の再生機として、自社製品を中心に幅広い対応を望みたい。