レビュー

約2万円でストリーミングもハイレゾも! 超コスパの注目機「FiiO M6」

比較的安価に手に入るハイレゾオーディオプレーヤーの選択肢が増えている。最近の注目は、実売2万円前後のFiiO「M6」だ。FiiOの現ラインナップの中ではエントリークラスだが、DSD 5.6MHzのネイティブ再生や、USB Type-C接続によるUSB DAC機能、デジタルトランスポート機能などを搭載。音楽ストリーミングサービスアプリの追加も可能で、Bluetooth 4.2のレシーバー機能や、LDAC、aptX HDなどのコーデックにも対応する、価格のわりに多機能な点が特徴的だ。

FiiO M6

ストリーミングサービスも楽しめるポータブルプレーヤーが安価に

筆者は日頃、スマートフォンにストリーミングサービスのアプリを入れて音楽を楽しんでいるが、「もう少し良い音質で楽曲を楽しみたい」という気分にもなる。PCと同じく、1台あればほぼなんでもできてしまうのがスマートフォンの便利なところだが、ある程度の音質にこだわるのであれば、専用機であるポータブルプレーヤーの出番だろう。保存した音楽だけでなく、ストリーミングサービスの楽曲も、ポータブルプレーヤーらしい高音質で楽しめるのが魅力だ。

M6は専用にカスタマイズされたAndroidで動作しており、初期状態では日本未サービスのものも含まれているが「KKBOX」、「MOOV」、「NetEase Music」、「TIDAL」のアプリがプリインストールされている。さらに、ホワイトリストに登録されたサービスについてはAPK形式でアプリの追加が可能。具体的には、「Spotify」や「Amazon Music」、「SoundCloud」などが選べるほか、「ES file manager」や「Sony | Headphones Connect」などのユーティリティアプリも追加できる。ただし、APKはM6のサポートサイトから入手し、ユーザーの手でインストールする必要がある。

なお、個々のアプリの使用についてはサポート外となっている。ユーザーの自己責任でインストールしていこう。

背面
起動画面。アイコンが大きめに表示されている
メニュー画面。Androidベースだがプレーヤー向けにシンプルなデザインになっている
オーディオ設定。USB DAC機能やAirPlayなどの設定はここから行なう
ワイヤレス再生品質の項目ではBluetoothのオーディオコーデックが選べる
Bluetooth設定。レシーバーとしての機能はここで切り替えられる
OSはAndroidをベースとしてカスタマイズされている

M6のサポートページではこのほか、ファームウェアのアップデート方法やFAQ、既知の不具合などの情報を案内しているので、M6を使う際には一度目を通しておくといいだろう。特にファームウァアは、直近のアップデートでホワイトリスト内のアプリが追加されているほか不具合対応なども適用されているので、使い始める前の段階で更新しておきたい。

今回は、M6に筆者が普段使っている「Amazon Music」を導入し、ストリーミングプレーヤーとして2週間ほど使ってみた。

サポートページではホワイトリストに登録されたアプリのAPKファイルがダウンロードできる

M6の使い勝手についてお伝えする前に、APKによるアプリ追加の手順について軽く触れておこう。特にややこしい操作はないが、初回の接続手順がやや煩雑だ。

M6をUSBでPCに接続して内部ストレージにアクセスするには、内蔵のMTPドライバを手動でPCにインストールする必要がある。サポートページによれば、この時、インストーラをPC側の任意の場所にコピーして実行するよう指定されている。

初期状態ではFiiOのストレージは認識されず、ドライバーインストール用の「FiiO driver」フォルダだけにアクセスできる仕様

正常にインストールが完了すれば、M6の再起動後にPCから内蔵ストレージへのアクセスが可能。サポートページからダウンロードしたAPKを「内部共有ストレージ」内にある「Download」フォルダに移す。ここに保存したAPKをM6の「ファイル管理」から実行することで、アプリの追加が完了する。

M6の内部ストレージにPC側からアクセスできるようになった状態

カスタム版Androidで動作しているということで、既存のアプリがAPKという形で使えることがメリットだが、普通のAndroid端末よりも、ファイル転送の一手間が増えているのは面倒なところではある。

なお、1月に配信された新ファームウェア「FW1.0.1」において、「FiiO Music」アプリで使える「WiFi楽曲伝送」機能が拡張され、スマートフォンもしくはPCからM6へAPKファイルの無線転送が可能になった。この機能は、送信元がスマートフォンの場合は同名のアプリ(Android/iOS)から、PCの場合はブラウザのURL入力欄にM6のローカル側IP(ポート番号は12345)を入力することで利用できる。

「ファイル管理」アプリで内部ストレージにアクセスしたところ
内部ストレージ内にあるAPKファイルを開いてインストールできる
PCのブラウザから同じローカルネットワーク内にあるM6へ直接接続し、APKファイルを転送しているところ。楽曲データも転送できる

使い勝手は良好、画面の小ささを感じる部分も

ポータブルプレーヤーを日常的に使うにあたって気にしたいポイントはいくつかあるが、筆者の場合は大きく「UI」、「操作レスポンス」、「音質」の3つを挙げたい。また「内蔵ストレージ」や「電池の持続時間」も実用上大切な要素だ。

UIについては、スマートフォンを使い慣れていれば操作に迷うこともないだろう。M116はOSがカスタムAndroidということもあり、設定を含めてどこで何ができるのかは直感的に理解でき、おおむね不満はない。

ただし、Androidの基本的なUIにあるナビゲーションバー(ホームボタンや戻るボタンなどが配置されたバー)は無く、現行のAndroidでナビゲーションバーを呼び出す「画面下端部から上に向けてスワイプする」操作で、アプリ起動中にホーム画面へ戻れるようになっている。

スマホと比べると、画面サイズが3.2型と小さいので、使うアプリによっては誤タップしやすかったり、文字が小さすぎて読みにくかったりはする事もあるだろう。今回使ったAmazon Musicもその傾向がある。

メニュー画面を操作しているところ
画面上部のバーを引き出すと、Bluetoothや外部ストレージの接続状態などが表示される

ただ、操作レスポンスは、楽曲再生中のメニュー操作、一時停止からの復帰、頭出し、曲送り、音量調整などでストレスを感じることはなかった。一方で、楽曲の再生開始時やOSの設定変更時など、ある程度処理負荷のかかるタイミングでは、もたつく場面もあった。

側面には一時停止ボタンとボリュームの操作ボタンを配置
音量の調整はタッチ操作にでも行える
上面には電源ボタンと3.5mmピンジャックを備える

“さすが専門機”と唸る高音質

音質については、さすがに専用機ということもあって、筆者が普段音楽やゲームを楽しんでいるスマートフォン+Bluetoothヘッドフォンという構成とはひと味違う体験が楽しめる。今回は音質を詳しくチェックするため、有線イヤフォンのfinal「E1000」を接続して聴いてみた。

まずM6の音質をチェックしよう。M6とスマートフォンにE1000を挿し替えながら、The Yellow Monkeyの「I don't know」を聴き比べてみると、M6の方が中高音がよく伸びてボーカルをより艶やかに表現する。さらにパーカッションの輪郭がより明瞭に浮き上がる。低音域についてもベースの低音が強い存在感を帯びて、音場の空気感や雰囲気のようなものがよりはっきりと感じられた。

イヤフォンのE1000は、長時間聴いていても苦にならない、破綻もないニュートラルなサウンドで、ある程度「均されて聴こえる」傾向があると感じるが、それでもドライブするプレーヤーによってハッキリ違いが出るのがオーディオの魅力だ。

こうしたプレーヤー側の実力の違いは、より高性能なイヤフォン/ヘッドフォンでは、さらに明確に実感できる。時には劇的な違いに驚くこともある。そういった意味でも、M6+E1000は、自分の中に“音質の基準を作る“入門機としておすすめできる組み合わせだ。

安価ながらお値段以上の高音質で評価の高いfinal「E1000」

E1000は実売2,500円前後というお手頃さに見合わぬ実力だ。聴こえ方としては低音から中音域が強く出てメリハリがあり、高音も大音量時に破綻せず聴き取りやすく、イヤフォン入門機として高い評価を得ているのも納得の完成度だ。

ずっと聴いていても疲れにくく、音量を上げても気持ちよく聴けるE1000の特性はSpotifyやAmazon Musicといった聴き放題のサブスクリプションサービスとも相性が良い。正直この品質で2,500円はかなりコスパが高く、プレーヤーとイヤフォン合わせて、2万円台前半で済むというのは非常に魅力的だと感じた。

スマホ+Bluetoothヘッドフォン/イヤフォンの組み合わせも利便性という点で悪くはないのだが、両方の製品の電池残量を気にする必要があるのは面倒だ。単純に音質の面でも、スマホと比べるとM6の方がノイズが少なく、アンプの出力など、有利な点が多い。ちなみにM6はESS Technology製のDACと、アンプ内蔵SoC「ES9018Q2C」を採用しており、歪みを抑えつつ高出力が可能だ。

プレーヤーの外形寸法は53.3×92.5×11.5mmとかなり小さく、重さも83gと軽量。鞄の中に入れておいても邪魔になることはほぼないだろう。だがストリーミングプレーヤーとして使う際に問題になるのは、ネットワーク機能がWi-Fiのみである点だ。外出時に持ち歩きながら聴く運用を考えると、モバイルルータを使うか、スマートフォンなどからテザリングする必要がある。外出時にネットワークへ接続する手段がなければ、あらかじめ楽曲をダウンロードしておいてオフラインでも聴けるようにしておく必要があるが、それができるかどうかはサービスと契約プランによる。このあたりはスマホと比べると面倒な部分ではある。

Amazon Musicの画面。画面構成はスマホと同じ
楽曲によるが歌詞表示機能も利用できる

オフライン視聴のために楽曲をダウンロードする場合は「アーティストの楽曲すべて」とか「プレイリストをまるごと」というケースが多いと思うが、そうなるとストレージ容量も気になるところ。M6の内蔵ストレージは2GBしかないので、別途microSDカードを追加するのが無難だろう。後々ハイレゾの楽曲データを扱うつもりがあるなら、できるだけ大容量のmicroSDカードを用意しておきたい。

満充電からの電池の持ちは、公称で連続再生時13時間とされているが、体感ではもう少し持つ印象。試しにある日の仕事中ずっと再生させてみたところ、15時間くらいは再生できた。ただこれは環境にもよる部分もあるだろう。

画面に向かって右側面にあるmicroSDスロット
USB Type-C端子は底面にある

スマホをリモコン代わりに操作可能

スマートフォンアプリ「FiiO Music」を導入することで、スマートフォンからM6をリモート操作できる「FiiO Link」という機能も注目だ。スマホとM6をBluetoothでペアリングし、両方でFiiO Linkを有効に設定することで利用可能になる。

M6はサイズのわりに電池は持つ方だが、ディスプレイを表示しない状態でもプレーヤーとして使えるのが便利だし、電池残量の節約にもなる。本体に触れずに済むという点で、M6をポケットの中に入れたままでスマホから操作するなど、外出先ではずいぶん助けられた。M6に有線ヘッドフォンを繋いでいても恩恵は得られるが、どちらかといえば、M6とBluetoothヘッドフォンを無線接続していると、さらに高い利便性が感じられる。

ただし、FiiO Linkから再生できるのは、内蔵ストレージおよび追加ストレージ内に存在し、アプリ「FiiO Music」で再生可能な音源に限られる。これはFiiO LinkがFiiO Music内の一機能であるためだ。また、FiiO Link使用時はスマホ側のFiiO Musicで楽曲をモニターすることはできない。あくまでリモコンとしての機能を提供するだけだ。

FiiO LinkでスマートフォンからM6を操作できる
スマホアプリ側のFiiO Link設定
M6側のFiiO Link設定

ストリーミングサービスの魅力UP、ハイレゾプレーヤー入門機にも

M6は、SpotifyやAmazon Musicなどのストリーミングアプリに対応した多機能ハイレゾプレーヤーとしては非常に手の出しやすい価格で、入門機としてお勧めできる。もちろんBluetoothヘッドフォンとの無線接続で使ってもいいが、M6の音質をしっかり楽しむためには、有線接続がオススメだ。

繰り返しになるが、M6の魅力は「お手頃価格でハイレゾ音源とストリーミングアプリの両方が楽しめる」という点だ。Bluetooth周りはAndroidスマホとほぼ同様に使えるので、Bluetoothスピーカーと接続してもいいし、日常の音楽環境をM6ひとつにまとめてしまっても十分堪える性能を持っている。

オーディオ機器は上を見ればキリがないが、低価格な製品に魅力が無いかと言うと、そんなことはない。M6はコストを抑えつつ、音楽をよりカジュアルに、便利に楽しむ機能が、よくまとまっている。日頃はスマホでストリーミング音楽を聴いていて、オーディオ機器にあまりお金はかけたくないが、実はちょっとハイレゾにも興味がある……そんな方におすすめしたい。

関根慎一