レビュー

実はネトフリ/アマプラ利用者にも便利!? 新「Apple TVアプリ」を使う

アップルから新しい 「Apple TVアプリ」が5月14日に登場した。これは「アップルが始めた新しい映像配信サービス」ではなく、シンプルに言うと「映画やドラマなどの各配信サービスの作品を一括して管理する」ことを目的としたアプリだ。

中央の「TV」と表示されているのが新しいApple TVアプリ

ただ、日本と海外ではコンテンツ配信事情の違いもあって、海外で発表された内容と、実際に日本で使える機能には違いがあるようだ。そこで、現在日本のユーザーは何ができて、どんな時に使えるものなのか、iPhoneでの利用を中心にまとめた。

Apple TVアプリでできること

「配信サービスの映画やドラマは、多すぎてどれを観ればいいのかわからない」、「ある映画/テレビ番組を観たいが、どのサービスで配信されているか分からない時がある」、「デジタル配信開始された映画などの新作をいち早くチェックしたい」といった人に役に立ちそうなのが今回のApple TVアプリ。

NetflixやAmazon Prime Videoなどに加入している場合、個別のアプリを開かなくても、とりあえずApple TVアプリを開いて作品名を検索すれば、それがiTunesで販売(レンタル/セル)されているのか、Amazon Prime VideoやNetflixなどで既に見放題なのかが分かり、スムーズに視聴できる。

まずは使い方の基本から。今回は主にiPhone XやiPad Pro 9.7インチ(2016年発売)で利用している。iPhoneでApple TVアプリを使うには、App Storeからダウンロードするのではなく、OSを「iOS 12.3」にアップデートすることが必要。従来の「ビデオ」アプリが、自動で「Apple TV」アプリに変わる。なお、tvOS搭載Apple TVの場合は「tvOS 12.3」にアップデートすると利用できる。

Apple TVアプリの初回起動時

アプリの名称が、アップルのハードウェアであるApple TVと同じため少しややこしいが、ハードのApple TVを持っていなくてもアプリは利用可能。もしハードのApple TVを持っていれば、iPhone/iPadだけでなく、HDMI接続したテレビでもコンテンツを再生できるので、利用の幅が広がる。

Apple TVでAirPlay再生してテレビで視聴も

なお、筆者が使っている(ハードの)Apple TVは第3世代のためtvOS搭載ではないが、起動時に新機能として「Apple TVアプリ」が紹介された。指示に従って操作を続けると、画面上にApple TVアプリが表示。このままリモコン操作で検索/視聴できたほか、iPhoneで作品を選んでApple TV経由でテレビ視聴、という方法も使えた。

(ハードの)Apple TVメニュー画面に、Apple TVアプリも表示されている

NetflixとAmazon Primeユーザーは意外に重宝?

iOSのApple TVアプリを起動すると、「今すぐ観る」、「ライブラリ」、「検索」の3つのメニューが用意されている。「今すぐ観る」を選ぶと、おすすめ作品や、注目作、トップ映画チャート、期間限定価格などのカテゴリが表示。コレクションというカテゴリの中には、Apple TV 4Kを使った場合の4K/HDR対応作品をまとめた特集ページも用意され、「ボヘミアン・ラプソディ」や、「ファンタスティックビーストと黒い魔法使いの誕生」などの作品が並んでいた。なお、4K/HDR対応はApple TV 4Kのみだが、iPhone 8以降とiPad ProはHDRをサポートしている。

「今すぐ観る」のメニュー画面

「ライブラリ」メニューでは、iTunesで購入/レンタルした映画などが表示される。iPhoneなどで再生できるほか、ホームネットワーク内にある(ハードウェアの)Apple TVにAirPlay接続して、テレビ画面で視聴することも可能だ。

「ライブラリ」画面

「検索」では、「今人気の映画」と「今人気のテレビ番組」がリスト表示される。映画は「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」や「ボヘミアン・ラプソディ」といった大型タイトルが並ぶが、画面の印象としては、“新アプリ”として想像していたよりシンプルなもの。テレビ番組のリストは、音楽ビデオ作品が並んでいるようだが、「日本で誰もが知っているようなテレビ番組」とはちょっと違うイメージだ。

「検索」画面
「ウォシャウスキー」と入力した時の結果

上記3つのメニューを見て分かってくるのは、現状の使い方の流れは、まず新作などを「iTunesで購入/レンタルする」ことを基本に、そこに観たい作品がなければ(または検索で出てこなければ)、NetflixやAmazon Prime Videoで配信されているものを各サービスで観る、という形のようだ。一部はVideo Marketの配信作品もあるが、それ以外のHuluやdTV、GYAO! といった配信サービスは、今のところ対象に入っていないようだ。

他社サービスにある作品の場合、該当アプリ(サービス)を表示。そのアプリへ移動できる
ドラマ「代償」(Huluオリジナル作品)は、Video Marketから視聴する形になっていた

現時点では、「今すぐ観る」画面で表示されたジャンルのタブは「映画」のみ。iTunesではテレビ番組などの配信がまだ少ないため、タブで表示して絞り込めるほど、テレビ番組などのジャンルは充実していないということだろう。

なお、日本語の検索性で機能改善してほしいと感じた点もあり、例えばジャッキー・チェン作品を探そうとしたら「ジャッキー・チャン」と表示されたり(検索結果の作品名などは正しく表示)、作品名を平仮名だけで入力した場合と漢字交じりで結果に違いが出ることがあった。こうした点は今後修正されていくことだろう。

検索の文字が平仮名(右の画像)だと結果が変わってしまった

気になる点はありつつも、このアプリが役に立つのは、Prime VideoやNetflix加入者に相性が良いところ。もしこれら2つに入っている人なら、作品を観たいときに、どちらかで配信されているかをすぐチェックできる。例えば「ウォーキング・デッドやゲーム・オブ・スローンズは、どのサービスで何シーズンまで観られるのか」といったことがすぐに分かる。

検索結果から、iTunes以外で配信されているサービスの作品を選ぶと、Netflixなどの各アプリへ移行。再生などの操作は、使い慣れたそれぞれのアプリで行なう形だ。

Prime Videoで配信されているものは、視聴画面でPrime Videoアプリへ

まずはコンテンツ充実を。作品との出会いを増やせるかがカギ

米国のアップルが4月に発表した内容を見て、「いよいよアップルが日本でも映像配信に本腰か?」と予想した人もいるだろう。確かに発表内容は「映画やテレビ番組などの膨大なコンテンツを、Apple TVアプリで一括管理して視聴できる」ことをイメージさせたが、今のところ対象サービスが限定的なため、従来のiTunesで作品を購入する方法に比べて、劇的にコンテンツが増えたわけではない。

“アップル公式”のApple TVアプリ画像では、上部にある豊富なカテゴリから選べるようになっている

背景としては、5月の本田雅一氏によるコラムでも詳細が言及されていた通り、米国などと日本で対象配信サービスの数が大きく違うことがある。もちろん海外ドラマなどはNetflixやPrime Videoでも配信されているが、例えばFOXチャンネルのような、現地の放送と少ない時間差で観られる形をイメージしていた人は、今のApple TVアプリを見ると物足りなく思うだろう。また、日本のドラマも制作年が新しい作品は少ないのが現状だ。この点は、アップルも「番組放送、配信アプリの提供状況は国ごとに異なる」と発表時に説明している。

今の日本向けアプリにある「今すぐ観る」のページでは、自分がレンタルした作品に関連する他の作品をお勧めしてくれたり、「期間限定価格」や「ティーンSFファンタジー」のようなテーマの特集も用意されている。それが自分の趣味に合えば、今までより作品を視聴する機会が増えるだろう。

ただ、テレビ番組が少ないこともあって「今クールのドラマ」や、「ネットで話題のアニメ」のようなコーナーは用意されていない。こういった視聴への誘導は、現状だとNetflixなどの方が先行していると感じるので、これからの機能強化に期待したい。音楽配信サービスでいう“人気のキュレーターが作るプレイリスト”のような見せ方も増えていけば、「今まで知らなかったが自分の好みに合う作品」との出会いも増えるはずだ。

もしもNHKオンデマンドなどのテレビ番組配信や、Hulu、dTV/dアニメストア、GYAO!のような国内作品にも強いサービスが全てApple TVアプリからも探せる対象になったら、作品との出会いの機会はかなり増えるだろう。また、アプリで見つけたのを機に、お試しでそれらのサービスに契約してみる人もいるはずだ。筆者がこれまで初めて新しいサービスへの加入を決めた時も、“この作品が観たいけど他サービスでは観れないから”というのがきっかけだったことは多い。

一方、具体的に観たいタイトルが思い浮かばない時でも、ネットで話題になったドラマや、好きな監督/俳優の作品などを空いた時間にパッと観られるような気の利いたサービスがあったら、使ってみたい人はいるはずだ。観たいのは作品であって、どの配信サービスだからというのは、多くの人は意識しないはず。そうした形を目指しているのが新しいApple TVアプリなのではないだろうか。

なお、既報の通り米国での「WWDC 2019」で発表された新しいmacOS「Catalina」では、これまでの「iTunes」が無くなり、Apple Music/Apple Podcasts/Apple TVの3つのアプリに置き換わることが発表された。また、秋にスタートが予告されている、アップル独自の映像サブスクリプションサービス「Apple TV+」も、Apple TVアプリから利用できる予定。このサービスでは、スピルバーグのドラマなど、多くのオリジナルコンテンツが楽しめるようだ。

アップルは秋にApple TV+のサービスを開始すると発表

日本の放送局などのコンテンツホルダーが、こうした動きを機に最新作を他社配信サービスへ積極的に提供するようになっていくのかは分からない。ただ、映画/テレビ番組などの違いは関係なく、作品そのものの魅力やネットでの話題をきっかけに再生数が大きく伸びてヒットする作品が実際にあるのは事実。もしApple TVアプリがそんな作品と人を結び付ける機会を増やせたら、多くの人にとって手放せないアプリになるはずだ。

今後のコンテンツの充実具合で、日本のApple TVアプリが“項目が少ないただの目次”のようになってしまうのか、それとも強力なプラットフォームになるのか変わるだろう。1人のユーザーとしては、映像を観るためにアプリを毎度切り替えるような面倒を省き、観たい時間にすぐ視聴までできる、そんなアプリに今後なって欲しいと期待している。

中林暁