レビュー

とろける響きに緻密なディテール。約18万円のDALI小型スピーカー「MENUET SE」

今回紹介するDALI「MENUET SE」

北欧デンマークのスピーカー専業メーカー、DALIをご存じだろうか。

DALIは、エントリークラスからハイエンドまで幅広いラインナップと、高級家具のようなデザインを特徴とし、オーディオ専門店のみならず家電量販チェーンでも見かける比較的身近な存在のスピーカーブランドである。

国内で広く知られるきっかけとなったのは、2003年にデノンラボが輸入代理店を担ってからだろう。当時のラインナップは、ブックシェルフスピーカーの「Royal Menuet II」とトールボーイの「Royal Tower」がメインだった。本稿で紹介するMENUETシリーズが国内で一気に認知されたのがこのタイミングだ。現在は、ディーアンドエムホールディングスが輸入代理店を引き継いでいる。

筆者が思うにDALIのサウンドカラーは、一言で表すと「まろやかな中域と美音」だった。何を隠そう、初めて自宅に導入した高級オーディオはRoyal Towerだ。日本でMenuet IIが人気を博した当時、同一のシリーズに連なるモデルである。甘く芳醇な中域を魅力としており、一度聴いたら虜になってしまうような、まさに「美音」と呼ぶにふさわしい個性豊かなスピーカーだった。

それから15年以上の時が流れ、当時のラインナップは刷新。ほぼ全てのモデルが現代的な流行に沿って、よりナチュラルで解像度を重視した音質へと進化した。そんなDALIの変遷の中で、今も往年のサウンドを受け継ぎながら進化を続けているモデルがMENUETである。

DALIが3月下旬に発売したブックシェルフスピーカー「DALI MENUET SE」は、現在も続くMENUETシリーズのニューモデルとなる。SEというのは、Special Editionの略だそうだ。価格はペアで184,000円だ。

MENUETシリーズの歴史はDALIで最も古い。1992年に発売された「DALI 150 MENUET」から始まり、1994年発売の「ROYAL MENUET」、2009年発売の「MENTOR MENUET」へと続く。MENTOR MENUETは、「MENTOR2」をリビングで今も使っている私にとって、思い出深いモデルだ。同モデルは、DALIの創業30周年記念モデルとしてグレードアップ版「MENTOR MENUET SE」が2年間限定で販売された。

リビングで今も使っている「MENTOR2」

そして2015年、現行モデルの「DALI MENUET」(ペア145,000円)へと続く。このたびSEが発売されたが、無印のDALI MENUETは継続して販売される。

MENUETシリーズの歴史

SEの進化点は大きく3つ、ロゴにも注目

SEと共通の基本スペックを見ていこう。外形寸法150×230×250mm(幅×奥行き×高さ)、重量は4kgというコンパクトサイズに、28mm径のソフトドームツイーターと115mm径ウーファードライバーを備える。再生周波数特性は59Hz~25kHz(±3dB)、インピーダンスは4Ωだ。

左からMENUET SE、既存の無印MENUET

DALI MENUET SEは、ベースとなる見た目はキャビネットの仕上げこそ違うも、搭載されているドライバーは同一のもの。28mmと大きめのツイーターは、強力なマグネットにより中高域をパワフルに再生。再生帯域を下に拡大することでウーファーとの音の繋がりをよくしたという。

ウーファーには、DALIではおなじみのウッドファイバーコーンを採用。フレーム、ボビン、ダンパーに至るまで、すべてにおいて、内部のエアーフローを最適化した。DALIの基幹技術であるロー・ロス・テクノロジー(低損失技術)と合わせて、このサイズのスピーカーとしては驚異的な低域再生能力を誇るという。

SEになって進化したのは、ネットワーク回路、スピーカーターミナル、キャビネット仕上げの3点だ。

背面。左からMENUET SE、無印MENUET

まずネットワーク回路から。内部配線が一般的な銅線から、DALI独自の銀メッキ無酸素銅線(DALI SILVER PLATED COPPER)へと変更。音質に大きな影響を与えるコンデンサーも変更した。無印モデルは、低域高域ともにBennic製の汎用電解コンデンサーを使用していたが、SEではドイツのMundorf製の高級コンデンサーに変更されている。

低域用には電解コンデンサー、高域用にはフィルム(ポリプロピレン)コンデンサーを使用した。ネットワークボードは、従来のハードボードからさらに堅牢さを増したベークライト(合成樹脂)に変更されている。

スピーカーターミナルもグレードアップ。無印モデルは、RUBICONグレードのターミナルを採用していた。これでも本体サイズからすれば十分立派なターミナルだ。それをなんとフラグシップのEPICONシリーズと同じターミナルに変更している。写真ではちょっと分かりにくいかもしれないが、よく見ると差し込めるケーブルの許容太さが大きくなっていた。たかがターミナルと思われるかもしれないが、ケーブルの接続のし易さはもちろん、そのグレードは音質にも影響する。金属部の導通率・接触抵抗の問題はもちろん、ターミナル自体の堅牢性・耐振性の向上は、音質に確実に効いてくるのだ。

無印MENUETのターミナル
MENUET SEのターミナル

キャビネットの仕上げは、一目瞭然だろう。無印モデルでもハイグロス(光沢)のピアノブラックはあったが、SEは光沢と木目を合わせたより流麗で精悍なルックスを実現している。高剛性MDFをベースに、外装は天然木の突板を使用。仕上げは、SE独自のマルチレイヤーでのハイグロス塗装となっている。これが音質にも良い影響を与えているそうだ。

無印モデルはハイグロス(光沢)のピアノブラックをお借りした

現物を見てみると、EPICONシリーズのルビーマッカサルを彷彿とさせる高級感ある佇まいだ。写真では伝わらないのがもどかしいが、無印モデルのピアノブラックと比べて格段に美しく、所有する満足感を刺激するだろう。天然木の風合いを生かすため、木目は個体により異なる。ペアリングの際は、まず音質を優先するそうだ。ルックスより音質を優先にしてくれるのは嬉しい配慮だと思う。

音質の最適ペアを追求した上で、できるだけ近い木目で選ばれているそうだ。なお、前面と後面が若干ラウンドしているのは、回折による音質悪化を抑えるための工夫だろう。バスレフポートがリアにあり、かつ斜め下を向いているのは、背面の空間を広く取れないリスナーへの配慮だ。

細かいアップデートとして、シリアルナンバーがシールから真鍮製のプレートに変更された。

シリアルナンバーがシールから真鍮製のプレートに変更された

また、ぱっと見で分からなかった変更点として、DALIのメーカーロゴが変わっている。2019年に新しくなったロゴがスピーカーに記されたのはDALI MENUET SEが初めてだという。(ヘッドフォンなどでは既に採用)写真でご覧いただけるとおり、歴代のロゴに比べて、フォントが今風にアレンジされていて柔らかい印象を持った。個人的には新しい方が好きだ。

「MENTOR2」のロゴ
RUBICON2のロゴ
無印MENUETのロゴ
MENUET SEのロゴ

とけるような響き+音像のディテールが緻密に

では、いよいよ実際のサウンドを聴いていこう。レビューでは、同じ曲でスピーカーを交換しながら試聴した。音を忘れないように2曲掛ける毎にこまめにスピーカーを交換している。

コンサートホールで録音されたオーケストラ曲は、中域が芳醇でとろけるように甘い。最低域が少しだぶつき気味でやや臨場感に惜しいところを認めたものの、無印モデルからSEに変更するとホールにズシンと響く低音がクリアに淀みなく聴こえてくる。ホールの容積感はこっちの方が分かり易い。

MENUET SEを聴いているところ

同じくホール録音のピアノジャズトリオ。軽快なリズム感は、SEに替えるとシンバルやベースの刻みがよりシャープに緩みなく鳴るようになった。サウンドステージがクリアになって濁りが減る。結果、空間がより広く知覚できるようになった。中低域がたっぷりと鳴っており、ローエンドこそ大型スピーカーのそれとは違うが、ライブ音源を楽しむ上で、それほど気にならない。過度な帯域バランスの誇張がないのも影響しているのだろう。この辺りは、絶妙なバランスだと思う。

オフィスを舞台にしたTVドラマのサントラを聴いた。弦楽器のまろやかな響きは素晴らしいのだが、無印モデルではスピード感に欠ける。SEに替えると低域が引き締まって、打ち込みのリズムトラックは高域にわたって俊敏に鳴るように変化、つまりは本来の疾走感が出てきた。

スタジオ録音のストリングスはSEで聴くと、奥行きが格段に向上。解像度のアップと相まって、生演奏の説得力はまるで別物だ。試聴は筆者の防音スタジオで行なったため、左右の距離は広すぎたと思うが、普通のニアフィールドの距離感だともったいないくらいだ。サウンドステージの表現力は、ルックス以上だと特筆しておこう。

無印MENUET

CD音源も試した。カントリー系のJ-POP。無印モデルは、どうしても低域の緩さが気になる。また音像も広がり気味だ。SEにすると、アコースティックギターのつまびくディテールがハッキリと聴けるように改善。ベースの音階変化も見えやすい。音の減衰がもたつかず、陽気で軽快な楽曲の雰囲気がより伝わるようになった。

最後に聴いたのは、女性ボーカル。DALIらしい美音を継承した本機ではどうしても試したいジャンルだ。ストリングスセクションとバンドをオケに、大作映画のような壮大なバラード。やはり女性ボーカルとの相性は抜群だ。個人的にあまりスピーカーで相性の良い悪いを語りたくないのだが、これはもう膝を叩きながらのけぞるしかない。とろけるような響きに酔いしれる。SEになると、音像のディテールが緻密に表現できるようになって楽器音のリアリティも高まるし、中域の個性に+αとして基礎力が上乗せされた印象だ。

バンドとストリングスもやや混濁気味だった無印モデルに対して、SEは分離がよく改善している。楽曲のドラマチックな展開は、低域がタイトに鳴ることでより没入感を高めている。

せっかくなので、Blu-rayも確認してみた。音の傾向から、アクションやSFなどを避けて、TVアニメ「月がきれい」と映画「沈まぬ太陽」を視聴した。スピーカー出力は、フロントスピーカーのみでチェックしている。

「月がきれい」最終話を再生。男性の台詞は音量を上げていくと、低域がだぶついて耳障りだったものが、SEに替えるとかなり改善された。環境SEは空気感、劇伴には奥行きが生まれて、没入感は倍増した。立ち上がり・立ち下がりがシャープになって、一つ一つの音に真実味がある。

「沈まぬ太陽」はオープニングから序盤を再生。効果音が無印モデルより、明らかに耳に入ってくる。音数が増えると、特に弱いレベルで入っている物音が聴き取りにくくなるのだが、SEはそれが極端に少ない。台詞の輪郭はくっきりと、俳優の熱演が温度感を持って伝わってくる。映像ソースとのマッチングは想像以上だ。映画向けにサブウーファーを加えれば、テレビサイドのスピーカーとしても十分いけると思う。

個性を失わず、現代的にブラッシュアップされたMENUET SE

ということで、凡庸なSecond Editionと思ったらどっこい、格段に進化を遂げていることが明らかになった。ネットワークパーツやスピーカーターミナルのグレードアップは、損失を最小化し、よりピュアな信号をドライバーユニットに伝えることに貢献しているのだろう。ドライバーユニットを変更していないのに、ここまで音が改善するのは驚きであった。

ジャズ/クラシックに留まらず、現代的な打ち込みを使用したPOPSでも、比較的正確で緻密な再生が実現されている。メインスピーカーとしてだけでなく、小型で威圧感もないので、セカンドシステムとして、寝室や書斎のミニマムオーディオにも適任だろう。ペア18万円超と決して安くはないが、従来のMENUETシリーズを持っている人には文句なしにお勧めできる。

MENUETの確かな個性を失わず、現代的なブラッシュアップを施したモデルMENUET SE。DALIのラインナップにおいて、今も個性派のモデルであることは否定するつもりはない。往年のDALIらしい美音を引き継ぎつつも、より広い音楽ジャンルに対応したコンパクトスピーカーとして、2020年の春、新しいアンサーが北欧からもたらされた。

ちょっと大仰な言い回しだが、本当にそう思う。DALIの進化した美音を貴方自身の耳で確認して欲しい。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト