レビュー

ソニーのカメラをWebカメラ化するアプリで、Web会議してみた

α6600をWebカメラ化してみた

コロナの影響で、デジカメをWebカメラとして活用する動きが

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、リモートワークやステイホームの推奨に伴う新たな動きが各方面で起こっている。国内でも、Web会議やオンライン飲み会の需要が高まり、Webカメラやヘッドセットが飛ぶように売れて入手困難になったのは記憶に新しい。パソコンにマイクを取り付けて高音質にオーディオの入出力を行なう、オーディオインターフェースも安価なモデルは軒並み入荷待ちの状態だ。

リモート会議には、Webカメラを必要とするが、PC内蔵のWebカメラを使用している方がほとんどだろう。筆者は、以前購入していたロジクールの「C615」というWebカメラをとりあえず使用していた。

そんな中、今年の春頃からカメラメーカーに動きがあった。各社が相次いでリリースを始めたのは、自社のデジタルカメラをPCに接続し、Webカメラ代わりに使用できるアプリだ。写真撮影用(動画撮影用)に特化したデジタルカメラは、当然画質や機能性も優れているから、Webカメラとして使っても有用だろうと考えるのは至極当然の話ではある。各社の対応状況は、デジカメWatchのこちらの記事を参照いただきたい。

そんな中、8月20日に、ミラーレス一眼で高い人気とシェアを誇るソニーも、自社のカメラをWebカメラ化するアプリ「Imaging Edge Webcam」を公開した。筆者はソニー製のカメラを使っていたので、さっそくこのアプリをPCにインストールしてみた。

ソニーが公開した「Imaging Edge Webcam」を使ってみた

具体的には、このアプリを使うと、ソニー製の対応デジタルカメラを解像度1,024×576ドットのWebカメラデバイスとして認識させることができる。現在のところWindows版のみの提供となっている。対応機種は、コンパクトデジタルカメラはもちろん、Eマウントのミラーレス一眼、Aマウントの一眼レフまで幅広く、業界最多クラスだ。

【対応機種】

  • Eマウント
    α9 II、α9、α7R IV、α7R III、α7R II、α7S III、α7S II、α7S、α7 III、α7
    II、α6600、α6500、α6400、α6300、α6100、α5100
  • Aマウント
    α99 II、α77 II、α68(日本未発売)
  • コンパクト
    RX100 VII、RX100 VI、RX100 V、RX100 IV、RX10 IV、RX10 III、RX10 II、RX1R II、RX0II、RX0、HX99、HX95(日本未発売)、WX800、WX700、VLOGCAM ZV-1

ハイエンドなミラーレス一眼はもちろん、エントリーモデルであるα5100にも対応。コンデジは、WX700といった実売4万円台のお手頃なモデルまで対応している。

筆者は、α6600を所有しているので、矢も楯もたまらずアプリをインストールして試してみた。

まず、アプリをサイトからダウンロードしてPCにインストール。カメラ側を動画モードに設定してから、USBケーブルでPCに繋ぐ。FacebookのMessengerやZoomなど、ビデオ通話のアプリ側の設定で、カメラデバイスを「Sony Camera(Imaging Edge)」を選択すれば準備完了。いとも簡単にデジタルカメラならではの美麗な映像でリモートミーティングを楽しめた。

なお、事前のカメラ側の設定は、機種毎に異なる。詳細はソニーのページを参照して欲しい。

注意ポイントはおおまかに2つあり、「スマートフォン操作設定:切」、「PCリモート:入」にする事。“PCリモートとスマートフォン操作”、両者の機能は両立できないため、必ずこの組み合わせとなる。

なお、スマートフォンと接続して、カメラ内の写真をImaging Edge Mobileでスマートフォンへ転送する際は、スマートフォン操作設定は「切」のままで問題なかった。

利用できなくなるのは、スマートフォンからのカメラの撮影など、リモート操作を行なうことだ。「PCリモート」は、今回のImaging Edge Webcamだけでなく、既に公開されているImaging Edge Desktopの「Remote」など、PCからカメラ操作を行なう際にも使用する設定なので、慣れ親しんだ人もいるかと思う。

会議のためにカメラの設定を変えるのは面倒と思う人もいるかもしれないが、筆者の場合は、普段スマホからカメラを操作する事はなく、Webカメラとして使う以外で、PCとカメラをUSB接続することもないため、変更した設定はそのままにすることにした。

以下が筆者が使っていたWebカメラ「C615」と、α6600それぞれを、Zoomで使った時のキャプチャー画像だ。設置場所の都合で、同じ画角には追い込めなかったが、その画質の違いは明白ではないだろうか。なお、Zoomの機能である「外観を補正する」は使っていない。

Webカメラ「C615」の映像
α6600をWebカメラ化した映像

なお、C615はフルHD解像度だが、Imaging Edge Webcamは1,024×576ドットなので、入力した解像度ではむしろ劣っている。しかし、筆者の環境と機材では、C615はピントが曖昧であり、背景まで人物と同じくらいハッキリ映るので生活感がモロに出てしまっている。これでも人物にピントが合っている方なのだが、自分がWebカメラ側に寄ってピントを合わせ、元の位置へと戻ると、ピントが戻らず、ボケてしまう状況もあった。

全体的なノイズの少なさや、色味の自然さ、顔や服の質感のリアリティなど、多くの面でα6600の画質は圧倒的だった。APS-C Exmor CMOSセンサーとBIONZ Xの貫禄を感じる。

今回α6600には、ズームレンズではなく単焦点レンズ「Sonnar T* E 24mm F1.8 ZA(SEL24F18Z)」を装着した。開放F1.8のレンズで、テストでもF1.8いっぱいまで絞りを開けている。これにより、背景のキッチンをぼかして人物をクッキリと際立たせられた。ズームレンズを使ったとしても、動画モードかつAモード(絞り優先)にして、絞りを開放にすればある程度ぼかすことは可能だろう。PC内蔵のWebカメラとは一線を画す、実に印象的な映像が実現できた。

実際にビデオ会議をしてみた

一方で、1つ注意点がある。Imaging Edge Webcamは映像のみに対応しており、音声はカメラのマイクからは集音できない。そのため、PC内蔵のマイクか、PCに外付けしたマイクで対応することになる。

なお、シグマの小型フルサイズカメラ「fp」は、USB Video ClassとUSB Audio Classに対応したハードウェアになっているので、別途アプリを入れなくても、USB接続するだけでWebカメラになり、マイクデバイスにもなるようだ。

編集部と、Messengerのビデオ通話も行なってみた。ボケ味を実感できるようにキッチンをバック(背景)にして三脚にα6600をセット。マイクは、PC内蔵のマイクとオーディオインターフェースに接続したピンマイクの「PRO70」を切替えて使用した。

カメラのモードは動画モードに設定。F値は自動で1.8になった。ホワイトバランスは、AUTOでも構わないが、蛍光灯の明かりに合わせて「蛍光灯:白色」に設定。たまにZoomで顔が真っ赤になっている人を見かけるが、内蔵WebカメラやUSB接続のWebカメラではホワイトバランスを変更出来ない機種も少なくない。デジタルカメラなら、シーン(光源)にあった色味に補正できるし、なんなら白い紙を使ってマニュアル設定もできる。これはカメラ専用機ならではの強みと言える。

また、顔/瞳AF機能があれば、ぜひ使ってみよう。会議中に顔の位置が動いても、フォーカスをリアルタイムで合わせてくれる優れものだ。特に瞳AFは、見事。片目しか映ってなくてもほぼ追従するし、自分がカメラに対して前後左右に動いても素早くピントを瞳に合わせてくれるのでとても便利だ。

AF駆動速度は、「高速」へ変更することも出来たが、Webカメラの前でひたすら動くケースもそうなさそうなので、「標準」で問題ないだろう。USB給電はあれば「入」にしておこう。使用中のバッテリーの減少速度を大幅に遅くすることができた。

以下が、Messengerによるビデオ通話の映像だ。受信した編集部側で録画してもらったもので、映像ビットレートの関係で、ブロックノイズは目立つものの、非常に綺麗な映像になっていると思う。複数人でリモート飲み会をやったら、1人だけ目立てるかもしれない。

実際に編集部とビデオ通話してみた。顔/瞳AF機能も便利だ

カメラ機能の「クリエイティブスタイル」を使えば、白黒やセピアといった変化も可能だ。ウケを狙えるかはわからないが、TPOに応じて活用してみるのもいいだろう。

「クリエイティブスタイル」でセピアにしてみた
こちらは白黒
背景のボケを調整したいときは、絞りを変更する。暗くなったら、露出補正で調整しよう(画像はF7.1 露出補正+0.3)

一点気になったのが、リップシンクだ。口の動きと実際の音が微妙にずれている。これは、ビデオデバイスとオーディオデバイスが別々の機材であること、アプリを用いて仮想的にWebカメラデバイスを生成していること、などが影響していると思われる。

ただ、実際にビデオ通話した相手である担当編集によると、「確かにずれは感じるが、普通のビデオミーティングで、支障があるレベルではない」とのこと。

ソニーカメラを使ったビデオチャットテスト - AV Watch

続いて、政府の提唱する“オンライン帰省”もZoomで行なってみた。最近、実家が引っ越したのだが、未だに見に行けていないので、パソコンを持って家の中を歩き回ってもらった。

“オンライン帰省”もしてみた

私の顔を見た両親曰く、背景のボケは「まるで映画みたいだね」とのこと。また、顔/瞳AF機能によるフォーカスの素早い追従も分かり易かったようだ。ただ、リップシンクのズレについては高齢の両親の目にも明らかだった。口パクが先に終わってしまう(音が残る)こともあれば、Webカメラをロジクールに切替えたあとα6600に戻ると、今度は音が先に終わってしまう(口パクが残る)こともあった。Zoom側の設定で専用グラフィックスカードによるハードウェア加速を有効にしても解消できなかった。

ただ、両親の感想としては、「口元に集中して見ていれば違和感はあるが、普通にリラックスしてビデオ通話している分には許容できるレベル」とのことだった。

ちなみに、筆者のWindowsノートのスペックは以下の通りだ。

  • CPU:Core i7-8750H
  • メモリ:16GB DDR4-2400 8GB×2
  • ストレージ:512GB NVMe SSD(システム用)
  • グラフィックス:NVIDIA GeForce RTX2060/6GB
  • 上記にTASCAMのオーディオインターフェース「US-366」を接続し、有線のピンマイクを使用

ビデオ通話には十分過ぎるスペックだろう。リップシンクのずれは、ネットワークへの送信前の時点で確定しているため、回線速度は影響しない。マシンのスペックが十分であれば、あとはソフトウェア側の設定で補正するしかない。

ただ、ZoomやMessengerには該当の補正機能がないので、リップシンクの問題を手軽に解決するのは困難なようだ。どの程度、音がずれるのかは、使用するオーディオデバイスやPCのスペックにも左右されるだろう。Imaging Edge Webcamのアップデートである程度解消されていくことを期待する。というのも、ロジクールのC615とオーディオインターフェースを組み合わせた時は、リップシンクのズレを指摘されたことはなかったからだ。

YouTubeの生配信でも使ってみた

最後に、Webカメラを使ったライブ配信もテストしてみた。YouTubeの生配信は、ゲーム実況からトーク番組まで一般の方が広く楽しまれるようになって久しい。照明を工夫するなど、映像的にハイレベルな配信を行なうノウハウもネット上で共有されているが、本格的なカメラをWebカメラ化して、自撮りをさらにクオリティアップしようという人も、今後増えるだろう。

なお、ゲーム配信などでは、既にHDMIキャプチャー製品を使っている人も多いだろう。ソニーのα6600は、リアルタイムに映像と音声をHDMI出力できるため、HDMIビデオキャプチャー製品を別途用意すれば、高画質の映像がそのまま配信できる。

ただ、Imaging Edge Webcamの場合は、音声こそ非対応となり、解像度も1,024×576ドットとなるが、USBケーブルで繋ぐだけで映像を入力できるという手軽さが最大のメリットだ。

配信ソフトのOBS(Open Broadcaster Software)を使って、実際に生配信をしてみた。YouTubeの生配信は、ブラウザからも手軽にできるが、画質と音質が今ひとつだ。無料のOBSを使えば、クオリティを任意に調整できるので使わない手はない。

OBSの細かな設定方法は本稿では触れないが、映像キャプチャーデバイスにSony Camera(Imaging Edge)を選ぶようにしよう。リップシンクのずれを解消するには、音声入力キャプチャーにおいて、該当のオーディオチャンネルの「同期オフセット」を調整する。筆者の環境では、「US-366」からの音声を150msほど+側へ補正すると、ほぼ違和感なく口と音声が合ってくれた。

OBSを使用しているところ

テスト配信は、筆者の防音スタジオから行なった。照明「YN600LII」を設置し、カメラを三脚にセット。最初、安価な卓上三脚でやろうとしたが、高さと安定性の問題から上手くいかなかった。

照明「YN600LII」を設置
カメラを三脚にセット
SONY Imaging Edge Webcam / α6600 / AV Watch ~リップシンクのテスト~

ご覧いただいている動画は、生配信後に前後をカットしているが、オンエアのままだ。OBS側でフルHDにアップコンバートしているとはいえ、カメラをUSB接続するだけで、ここまでの映像を配信できるのはちょっと感動ものだ。

なお、長時間の使用になると本体がだいぶ熱を持つ。動画撮影をしたことのある方は既に周知の話であろうが、発熱の状態によっては強制的に電源がOFFになってしまう。換気や冷房など本体冷却に配慮することは当然として、「自動電源OFF温度」を「高」に設定するとよいだろう。

YouTube生配信が広く普及した今、映像面でライバルと差を付けたい配信者の方は、キャプチャー製品を追加で買う必要もないので、ぜひ挑戦してみて欲しい。

ソニーのImaging Edge Webcamは、他のカメラメーカーと比べ、後発となったが、対応機種が35機種と豊富なところがポイントだ。可能であれば今後のアップデートで、フルHDや音声への対応を期待したいところだ。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト