レビュー

Anker最高音質、ウルトラノイキャンも進化「Soundcore Liberty 3 Pro」

Soundcore Liberty 3 Pro

Ankerから11月4日に発売された完全ワイヤレスイヤフォン「Soundcore Liberty 3 Pro」は、Soundcoreブランドの新たなフラッグシップモデルであり、同ブランド“史上最高クオリティの音質”を謳う注目機だ。価格は19,800円。そのサウンドをチェックしてみよう。

また、音質だけでなくノイズキャンセリング(NC)機能も進化。独自の「ウルトラノイズキャンセリング」が2.0にバージョンアップしており、外の騒音を認識してNCの効き具合を自動的に最適化するようになっている。こちらも注目だ。

ダイナミックとBAを同軸配置

Soundcore Liberty 3 Pro、まずは音質の特徴を見ていこう。ドライバーは、低音を担当するダイナミックドライバーと、中高音域担当のバランスドアーマチュア(BA)を各1基搭載したハイブリッド仕様。

面白いのは、ダイナミック型とBAを1つのモジュールに統合して同軸上に配置している事。この構造は「A.C.A.A(同軸音響構造)」と名付けられており、高音と低音を調和できるという。なお、モジュール設計を再構築することで、従来のA.C.A.Aと比較して30%の小型化しているそうだ。

ダイナミック型とBAを1つのモジュールに統合して同軸上に配置している

音質面ではBluetoothのコーデックにも注目。SBC/AACに加え、新たにLDACもサポート。SBCよりも3倍の情報量を伝送でき、原音に忠実な再現が可能という。2万円を切る完全ワイヤレスでLDAC対応は大きな魅力だ。

また、音質モードの1つとして「3Dオーディオ機能」も搭載。仮想スピーカーを設置し、複数の位置から音が再生されている空間を再現するというもの。独自のアルゴリズムでリアルタイムに処理し、「より現実に近い広がりのある音響体験を提供する」としているので、これも後ほど試してみよう。

充電ケースはコンパクト。蓋はスライドで開閉する。最大連続再生時間はNC使用時で6時間、充電ケース併用では最大24時間。LDAC通信時は再生時間が短くなる。充電時間は約2時間。ワイヤレス充電にも対応している

ウルトラノイズキャンセリング 2.0を試す

Ankerのウルトラノイズキャンセリング機能は、高いNC能力を備えていると人気だが、その機能がさらに進化した。

単純にNCをON/OFFするのではなく、周囲の騒音の種類をイヤフォンで検知。そのシーンに最適な強さのノイズキャンセリングモードに、自動的に切り替わるようになった。

つまり、NCをONにしたら常時100%でNCを効かせるわけではなく、騒音が多い地下鉄に移動したら「NC強モード」、屋外でもそれほど騒がしくない場所に移動したら「NC弱モード」に自動的に変更されるといった具合だ。手動操作が不要なので便利だ。

また、風の音が気になるシーンでは「風切り音を低減」をオンにもできる。

では、実際にウルトラノイズキャンセリング 2.0を試してみよう。その前に、アプリの「Soundcore」をスマホにインストール。「HearID ANC」という、ユーザーの耳の形状と聴力に合わせてNC効果を最適化する機能のセットアップを済ませておく。セットアップ自体は、騒音のある環境でテストをスタートして、短いテスト音楽を聴くだけなので簡単だ。

「HearID ANC」のテスト画面

セットアップ完了後、地下鉄に乗ってみる。イヤフォンを装着し、アプリからNCモード「標準」を選択。電車が走りだすと、電車の走行音が地下鉄のトンネルの中で反響する盛大なノイズはかなり軽減される。モーターの「グォオオ」という中低域も、「フォオオ」という薄い音になるため、不快な感じが解消される。これは快適だ。

自動でモード切り替えを選択

次に、新たに搭載された「自動モード」へ切り替えると驚く。ノイズがさらに低減され、消し残っていたモーター音が、さらに小さくなり、「シュオオ」と高音部分が少し残るだけになる。イヤフォンを外すと、隣の人の声もよく聞こえないほどの騒音なのに、装着するとこの静けさ。NC能力としては、間違いなく完全ワイヤレスでトップクラスだ。

そのまま地下鉄が地上に出ると、走行ノイズ自体がかなり減るため、ノイズキャンセル後の静けさもさらにアップ。時折、走行の振動でドアが「ガタガタ」と鳴る音は残るが、それ以外のノイズはほとんど気にならなくなり、音楽に集中していると、走行中の電車の中だということをつい忘れてしまう。

次に、街中を歩きながら「自動モード」の動作をチェックしていたが、これも面白い。あまり人やクルマが存在しない住宅街では、NCモードは「弱」なのだが、クルマと何台かすれ違ったり、強い風が吹いてきたりするとすぐにモードが「強」になる。

周囲の騒音を検知し、その場所に適したNCモードに切り替えてくれる。自動だけでなく、手動での切り替えも可能だ

なお、NCモードが切り替わっても、再生している音楽や、圧迫感などに違いはほどんど感じられない。また、モードが切り替わってNC効果が強くなっても、弱くなっても、最終的に“静かな空間+音楽”が聴こえている状況自体に変化はないため、アプリのモード画面を見ていない限り、「いま強モードになった」とか「弱モードになった」というのは、わからないだろう。これは逆に、“ユーザーはモードをまったく気にせず、常に最適な静かな空間で音楽が楽しめる”事を意味している。通常は「自動モード」にしておくのがベストだろう。

また、外音取り込み機能も備えているので、駅のアナウンスなどをイヤフォンを装着したまま聞く事ができる。外音取り込みモードは、全ての外音を取り込むものと、音声にフォーカスして取り込むモードが選べる。音声フォーカスモードにすると、車掌さんの声が、他の騒音からクッキリと浮き上がって聞こえるようになるので、何を喋っているのかがわかりやすいのでオススメだ。

ノイズリダクション機能はマイクにも搭載しており、左右の筐体に各3つのマイクを搭載。周囲の雑音を除去し、通話相手にユーザーの声をクリアに届けられ、「テレワークやWeb会議にもおすすめ」だという。

音質チェック、その前に再生音を最適化!

音質をチェックする前に、再生音をユーザーの耳の形状や聴力に合わせて最適化してくれる「HearID」のテストをしておこう。先ほど、NC効果を最大限に発揮するための「HearID ANC」を紹介したが、その音質最適化バージョンがHearIDというわけだ。

「HearID」のテスト

テストをスタートすると、低音から高音まで、様々なテストトーンが流れ、それが聴こえたかどうかを選択していく。左右のイヤフォンそれぞれでテストするので少し時間がかかるが、一度HearIDのユーザープロファイルを作ればそれをずっと使用できるので問題はない。

また、Soundcore Liberty 3 Proには4種類のイヤーピースと、4種類のイヤーウィングを同梱し、装着具合をかなり細かくカスタマイズできるのだが、アプリには“ちゃんとイヤフォンが装着できているか”をテストする機能も備えている。「最適なサイズのイヤーピースを選べと言われてもよくわからない」という人もいるので、これは便利な機能だ。

4種類のイヤーピースと、4種類のイヤーウィングを同梱している
イヤーウィングを外したところ
イヤーウィングを装着したところ
イヤーピースとイヤーウィングを、正しく装着できているかもチェックできる

これらのテストを経て、HearIDのプロファイルを作成すると、再生音がかなり変化する。変化の方向や変化量は人によって違うと思うのだが、筆者の場合は、HearIDをONにすると音のコントラストがハッキリして、よりメリハリのついたサウンドになるのが確認できた。

では、音質をチェックしよう。

「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生。音が出てすぐにわかるのは、非常にクリアで、メリハリの効いたサウンドだという事だ。色付けは少なく、中高音には透明感があり、描写は非常にシャープ。女性ボーカルの口の動きもよく見える。ちょっとシャープ過ぎて、サ行がキツく感じる部分もある。

1分過ぎからアコースティックベースが入ってくるが、この低音がスゴイ。「ズゴーン」と地面を揺るがすような深さがあり、音に重さも感じられる。パワフルでありながら、タイトさもある低域で、迫力に圧倒されつつ、気持ちの良さも味わえる。

驚くのは、これだけスゴイ低音が出ているのに、中高域がそれに負けていないところだ。普通であれば、低音に全てが覆い隠されてしまいそうだが、シャープな高域がその持ち味をしっかり発揮し、埋もれていない。同軸配置などの工夫が活きているのだろう。

メリハリのあるサウンドなので、ポップスやロック、打ち込み系の楽曲を聴くと鮮烈。「ジャネール・モネイ/Make Me Feel」のビートがソリッドで、ゾクゾクしてしまう。

その一方で、ジャズやクラシック、「手嶌葵/明日への手紙」ような、ピアノ+女性ボーカなどのシンプルでアコースティックな楽曲を聴くと、もう少し艶やかさや、高域の質感描写が欲しいとも感じる。このあたりはエージングが進むと変化はしていくだろう。

サウンドの傾向を一言で表現すると“パワフルでソリッドな低域、クリアでシャープな中高域”となる。これは、悪くいうと“ドンシャリ傾向”でもあるのだが、低域・高域ともにクオリティが高いので、あまり悪い印象ではない。“良くできたドンシャリ”というイメージだ。ソニーの完全ワイヤレス人気モデル「WF-1000XM4」が、モニターライクでニュートラルな音に進化しているのに対して、Soundcore Liberty 3 Proは多くの人にわかりやすく、満足感のあるサウンドを目指しているように感じる。

ふと思いついて、Soundcore Liberty 3 Proの個人最適化「HearID」をOFFにしてみたのだが、そうすると、メリハリがやや弱まり、先ほどアコースティック系の曲で感じていた質感描写が見えてくる。楽曲によっては、HearIDをOFFにして聴くのもアリだろう。

サウンドモードとして「3Dオーディオ」も搭載している。ONにすると、音像との距離が離れて、広いホールで聴いているような感覚になる。ただ、流行りの“空間オーディオ”のように、首を動かすと音の位置が変わるような驚きはない。映画を見る時などには良いかもしれないが、音楽用では、個人的に常用する事はないだろう。

また、BluetoothコーデックもAACとLDACで聴き比べてみたが、やはりLDACの方が音が広がる空間のリアルさ、高音の質感、中低域の厚みなどの面でクオリティアップが実感できる。最近は対応スマホも増えてきたので、“LDACを体験するイヤフォン”として選んでみるのもアリだろう。

LDAC使用時は、イヤフォンの再起動が必要

従来モデルの「Soundcore Liberty 2 Pro」や、スティック型で人気のある「Soundcore Liberty Air 2 Pro」とも聴き比べた。Liberty 2 Proとの比較では、低域の深さ、パワフルさは圧倒的にLiberty 3 Proの方が進化している。機能も豊富になっているので、着実に進化したモデルがLiberty 3 Proと言えそうだ。

Soundcore Liberty 2 Pro

Liberty Air 2 Proはスティック型で、あまり耳奥までイヤーピースを押し込まないので、音場に広がりがあり、開放感があるのが特徴。閉塞感が苦手という人は、Liberty 3 Proよりも、Liberty Air 2 Proの方が好みかもしれない。一方で、しっかりと耳穴に挿入して装着するLiberty 3 Proの方が、低域の深さ、パワフルさでLiberty Air 2 Proを凌駕する。音質を追求するならLiberty 3 Pro、気軽に開放的に使えて、音質面でもかなり上位機に肉薄できるのがLiberty Air 2 Pro……という印象だ。

Liberty Air 2 Pro

いずれにせよ、Liberty 3 Proは、音質面でも、NC能力面でも、そして機能面でも、Soundcoreブランドの1つの集大成と言って良いイヤフォンになっている。同時に、この内容で19,800円に収めているところに、Soundcoreブランドの強さを感じる。

山崎健太郎