レビュー

もはや“反則”のDC入力サウンド、FiiO超弩級DAP「M17」の衝撃

FiiO「M17」

完全ワイヤレスイヤフォンが人気を集め、スマホで音楽配信サービスを利用する人が増えた今「ポータブルオーディオプレーヤー(DAP)の出番が減った」という人もいるかもしれない。かくいう筆者も以前よりDAPを持ち出す機会が減り、「もう驚くようなDAPはしばらく登場しないのかも」などと思っていたのだが、そんな顔面にパンチを打ち込まれたようなとんでもない化け物がFiiOから登場した。「M17」(12月10日発売/オープンプライス/実売24万2,000円前後)というDAPだ。

通常のDAPと比べると、かなり大きい「M17」

見た瞬間「なんだこのデカさは」と驚く。普通のDAPより一回り、いや1.5回りくらい巨大で、本当にこれが“ポータブルなのか?”と疑問が頭をよぎる。サイズは88.5×156.4×28mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は610g。

ポータブルオーディオに詳しい読者なら「ポータブルと言いつつ、持ち運ぶのはツライサイズの超弩級プレーヤー」という製品ジャンルがある事をご存知だろう。ある種“ゲテモノ”的に見られる事もあるのだが、いったいどんな音がするのかは、誰もが気になるところと思う。

そこで実際に使ってみたのだが、良い意味で完全に予想を裏切られた。“ゲテモノ”とか言っておきながら、「もしかして、“未来のDAPの姿”を先取りしたのがこのM17ではないのか?」とすら思ってしまう。理由はこのM17が、DAPの出番が減った今だからこそ、“DAPに求められる性能とは何か”を真摯に追求した製品だったからだ。

外観もスゴイが、中身もスゴイ

左からAstell&KernのA&norma SR25 MKII、A&ultima SP2000T、FiiO「M17」
本体右側面

とりあえず外観的なデカさは置いておいて、中身をチェックしよう。超弩級プレーヤーだけに、中身もかなりトンデモナイ事になっている。キーワードは「真価を発揮する高級パーツ」だ。

まずDAPで重要となるDACチップだが、ESS Technology製の「ES9038Pro」を採用している。これは、数十万円するような据え置きのピュアオーディオ機器にも採用されているハイクラスなDACなのだが、M17はポータブルなのにこれを採用するだけでなく、なんとこのDACチップを2基も搭載している。

もう1つDAPで重要なのがアンプだが、これもM17は他と一味違う。THXの特許技術「THX Achromatic Audio Amplifier(AAA)」を使い、FiiOとTHXが共同で、新たに開発した「THX AAA-788+」というヘッドフォンアンプ回路を2基搭載している。

THXは、映画とかAVアンプとかで良く耳にする、あのTHXだ。ルーカスフィルムの1部門としてスタートし、主に、映画館の音響や、AVアンプなどの家庭用オーディオ機器を、THXが定める基準をクリアしているかチェック。合格すると“THX認定を受けた製品”としてマークがつくのは、AV Watch読者ならご存知だろう。

そんなTHXが、独自に開発したアンプ技術が「THX AAA」だ。TXHというと、ホームシアターのイメージが強いので、DSPでサラウンド再生するような印象を持つ人もいるかもしれないが、まったく異なり、THX AAAは超ピュアオーディオ向けな、アナログアンプ向けの技術だ。

特徴をかいつまんで説明すると、オーディオ用アンプの多くには、安定性を高めたり、ノイズを減らすためにNFB(Negative Feedback:負帰還)回路を使っている。アンプの出力を反転させ、逆相の“負の”波形にして、入力へと戻すもので、増幅回路で生まれる歪を打ち消すことで、ノイズの少ない音になるというものだ。

THX AAAでは、このフィードバック補正に加えて、入力信号をモニタリングして、システムの前段で補正信号を適用する“フィードフォワード補正”を組み合わせている。これにより、フィードバック補正の応答時間の遅さという問題を克服し、複数回ループすることで、エラーをゼロにできるという。

そんなTHX AAAには、いくつかアンプ回路のグレードがあるが、M17では「THX AAA-788+」という回路を搭載している。これは、THXから買ってきたアンプ回路を、FiiOが単に搭載した……というものではない。

そもそも「THX AAA-788」は、据え置き機器での使用をイメージした技術で、回路規模や消費電力、発熱などはポータブル機器を想定していなかったという。そこで、オペアンプを変更するなど、FiiOとTHXが共同でこの問題に挑戦。低発熱化や、出力の安定化などを追求して共同開発したのがTHX AAA-788+というわけだ。

要するに、前述のDACである「ES9038Pro」も、アンプ回路の「THX AAA-788」も、本来は据え置き機を想定したようなパーツを、ポータブルDAPに惜しみなく投入している。

ボリューム部分

ここまでであれば、「とりあえず高級パーツを詰め込んだDAP」という話で終わりなのだが、M17が面白いのはここからだ。

というのも、単に“高音質なパーツ”や“ハイエンドなパーツ”を詰め込めば音が良いのかというと、そんなにオーディオは単純なものではない。使いこなしも重要となる。例えば、これらパーツの能力を十分に発揮させるためには、クリーンかつ大量の電力が必要になる。据え置き型オーディオ機器を開けると、巨大なトランスを中心とした電源部が目に入るが、ハイグレードなパーツの能力を活かすためには、あれくらい電源部分にもこだわる必要がある。ポータブルプレーヤーの内蔵バッテリーでは限界があるわけだ。

そこでM17にはなんと、DC入力端子があり、DCアダプターが標準で同梱されている。つまり、ポータブルプレーヤーとして内蔵バッテリーで使うモードに加え、屋内で電源コンセントに繋いで使う据え置きモードの2種類を用意してしまったのだ。

底部。左端にあるのがDC入力端子
右側面に内蔵バッテリー駆動とDC入力モードを切り替えるスライドスイッチを用意している

専用DCアダプターを接続すれば、当然ながらDACとアンプ部に大電流を供給でき、性能をフルに発揮できるようになる。具体的にはDCモードになると、THXアンプの動作電圧が±8.5VDCから±11.5VDCにアップする。つまり、「とりあえず高級パーツを詰め込んだDAP」のではなく、「それらの性能をフルに発揮できるモードもちゃんと搭載している」事が特徴なのだ。

DCアダプターが標準で同梱されている

上記を踏まえると、M17には

  • ポータブルプレーヤーとして持ち歩きながら使う
  • 電車・飛行機の中、喫茶店などのテーブルに置いた状態でバッテリー駆動で使う
  • 家の中や喫茶店など電源が確保できる場所で据え置き機としてフル性能発揮で使う

という3つの使用スタイルがあるわけだ。

これを踏まえて底部の端子を見ると「わかってるなぁ」というポイントがある。USB-C端子を備えているのだが、これが2系統あるのだ。1つは、PCと接続して音楽ファイルを転送したり、USB DACとして動作させたり、充電したりと、いわゆる普通のDAPにもあるUSB端子。もう1つは、USB HOST用の端子で、屋内でM17をデジタルトランスポートとして使う場合、単体のDACやデジタル入力付きのディスクプレーヤーを接続したり、ストレージを繋ぐためのもの。用途にあわせてUSBを分けているのが便利だ。

DAPの多くがUSB DAC機能を備えており、「外出先だけでなく、宅内でパソコンや据え置きのオーディオ機器と連携できる」と謳っているが、M17の場合は、そこで終わりではなく「実際にそうやって使った時に、便利に使える機能を用意している」ところが、さすがFiiOと唸る部分だ。まあM17が巨大なので、搭載できる端子数が普通のDAPより多いというのもあるだろうが。

ちなみに、M17の内蔵バッテリー容量は9,200mAhと超大容量。ステレオミニで再生した場合の持続時間は約10時間だ。

3.5mmシングルエンド、2.5mmバランス、4.4mmバランスに加え、6.35mmシングルエンドも備えている

ヘッドフォン出力端子を見てみよう。3.5mmシングルエンド、2.5mmバランス、4.4mmバランスに加え、なんと6.35mmシングルエンドも備えている。ほぼ据え置きヘッドフォンアンプと言っていい充実具合。

なお、3.5mmと4.4mmはラインアウトとして使うこともできる。さらに、同軸デジタルの入出力端子を備えているのも“ほぼ据え置き機”なポイント。M17を据え置きのオーディオアンプにアンバランス/バランスに繋いだり、同軸デジタルを使って単体DACや、ディスクプレーヤーなどと接続し、M17をデジタルトランスポーターのように使う事もできる。同軸デジタル入力を使い、M17をDAC兼ヘッドフォンアンプのように使うことも可能だ。同軸のデコードは最大192kHz/24bit、DSD64をサポートする。

据え置き機すら超えるドライブ能力

リッチなDACチップやヘッドフォンアンプを内蔵し、DC入力でフル性能を発揮するなどユニークかつ豪快な仕様だが、ヘッドフォン/イヤフォンのドライブ能力も圧倒的と言えるレベルだ。

内蔵バッテリー動作時の出力は、ゲインL/M/Hとヘッドフォンモードの4種類備から選べる。さらに、DCモードをONにすると、これらのゲインで恩恵が受けられるだけでなく、ヘッドフォンモードの上に「MAX Gainヘッドホンモード」が出現する。

バッテリー駆動での出力ゲイン切り替え画面
DC入力モードに切り替えると、このような確認画面が出た後で
MAX Gainヘッドホンモードが出現する

ヘッドフォンモード時の出力電圧は、アンバランスで≥740mW(16Ω)、≥500mW(32Ω)、≥63mW(300Ω)。バランス時で≥1.5W(16Ω)、≥3W(32Ω)、≥250mW(300Ω)と強力。さらに、DCアダプター接続にすると、アンバランスで≥1.4W(16Ω)、≥1.1W(32Ω)、≥126mW(300Ω)となる。バランス時は≥1.5W(16Ω)、≥3W(32Ω)のままだが、300Ω時では≥500mWを実現。もはやポータブルプレーヤーの数値ではなく、据え置きのヘッドフォンアンプの中でも最強クラスと言っていい。

ちなみに、この出力に決めた理由もFiiOらしい。市場の定番ヘッドフォンであると同時に“鳴らしにくさ”でも知られるゼンハイザー「HD 800 S」(インピーダンス300Ω/感度102dB)をドライブした時に、「歪みのない音で120dBの音圧を出せるパワーを持つこと」を、M17開発時の1つの指標にしたそうだ。

その結果、バッテリー駆動時でもバランス出力の300Ω時は250mW、DCアダプター接続では500mWとなる。特にDCアダプター接続時は、HD 800 Sを駆動するのに理想的な出力と言っていいだろう。

それにしても、大事な出力を決める時も、「FiiOのイヤフォンを使った場合……」とか言わずに、いきなり他社の人気ヘッドフォンを持ち出すあたりが“ユーザーのマニアックな声にも応える製品を作る”FiiOらしい姿勢が見えて面白い。

ゼンハイザー「HD 800 S」

ほかにも、最新世代XMOSチップ「XUF208」と、2系統のNDK製超高精度水晶発振器を使ったデュアル・フェムトクロック構成になっていたり、Qualcomm製8コアSoC「Snapdragon 660」を搭載してサクサク動作を実現しているなど、細かい部分も抜かりはない。

QCC5124搭載で、Bluetooth送信時はSBC/AAC/aptX/aptX HD/LDAC、受信時はSBC/AAC/aptX/aptX Low Latency/aptX HD/aptX Adaptive/LDACに対応するなど、ワイヤレス利用の母艦としても超ハイスペック。AirPlay接続にも対応している。

付属ケースは、装着した状態でも各端子やボリュームノブにアクセスできる

まさに異次元のサウンド

いろいろな接続が可能なプレーヤーだが、まずは普通に3.5mmのステレオミニ、アンバランスで聴いてみよう。Acoustuneのイヤフォン「HS1300SS」を接続し、ハイレゾファイルや、Amazon Music HDを聴いてみる。Google Playストアにもアクセスできるので、Amazon Musicなどの音楽配信サービスを楽しむプレーヤーとして使えるのも大きな魅力だ。

Acoustuneの「HS1300SS」
Amazon Musicなどの音楽配信サービスを楽しむプレーヤーとして使える

細かな音が多い「宇多田ヒカル/One Last Kiss」を再生してみると、ぶったまげる。“目が覚める音”とはまさにコレだ。まず驚くのは、低域の沈み込みの深さと、ビートのキレの良さ。ふくらみがちな低音の輪郭がビシッとシャープで、一切のにじみが無く、それが稲妻のようなハイスピードで描写される。

「マイケル・ジャクソン/スリラー」冒頭の嵐や、向かって左方向にコツコツとあるく靴音のSEが、本当に微細で今まで聞いたことがない音がする。コツコツと地面に響くわずかな音の広がりから、音像が歩いている地面の高さまでわかりそうな情報量だ。

低域か高域までとにかくワイドレンジで、広大な帯域に、様々な音がストレートに踊りだしてくる。1つ1つの音は引っ込まず、前へ前へとせり出す、パワー感がある。それでありながら、音が広がるかすかな余韻も同時に描写してみせる。HS1300SSはそれほど音場が広くないイヤフォンなのだが、M17でドライブすると、まるで別物のように背景の情報量も増加する。

レンジが広く、音圧が豊かで、空間描写も広いため、イヤフォンを聴いているのに、スピーカーで音を聴いているような感覚がちょっとする。それもただのスピーカーではなく、ブックシェルフスピーカーを、物量を投下したパワーアンプで強力にドライブしたようなサウンドだ。

先ほどから書いている「中低域のキレの良さ」は、アンプの駆動力が高く、ユニットを完璧に制御できているからこそ聴こえる音だ。ユニットを強力に振幅させるだけでなく、音が出ていない時はビシッと止められ、次の音が来たら素早く出す。そうしたアンプの基本的な性能の高さが伺える。

イヤフォンをアンバランス接続で聴いただけだが、音の満足感は非常に高い。「普通のポータブルとは次元が違う音だな」とかつぶやいていたのだが、冗談じゃなかった。DCアダプターを本体に接続し、本体側面のスイッチでDC入力モードに切り替え、メニューから「MAX Gainヘッドホンモード」に切り替えると、“次元の違う音”がもっと突き抜けて“異次元の音”に行ってしまう。

世界が一変する。あらゆる音にパワーが注入され、1つ1つの音が生命力にあふれ、よりハッキリと聴き取れるようになる。低音が強くなるとか、高音が突き抜けるといった些細な変化ではなく、“音の勢い”そのものがアップする。

“乱暴な音”になるのではない。強い音も、弱い音も、等しく明瞭に聴き取れるようになるため、音楽全体では大味にならない。力強く前に押し出す音がありつつ、その背後には音場が果てしなく広がり、その空間に余韻が広がっていく様子も同時に聴き取れる。

DCモードの圧倒的なサウンドに打ちのめされていて、しばらく忘れていたが、まだアンバランス接続だった。そこで、DCモードのまま、4.4mmのバランス接続ケーブルにチェンジすると、異次元だと思っていたサウンドが、さらに進化する。

すぐにわかるのが、ボーカルや楽器の定位がより安定し、背後の空間との距離などがわかるようになり、音場に立体感が出た。低音の重量感がさらに“重く”なり、「藤田恵美/Best of My Love」のアコースティックベースの「ズーン」という低音が、頭蓋骨を通り越して背骨に広がっていくような迫力がある。

先ほど「ブックシェルフスピーカーを強力なパワーアンプでドライブしたような音」と書いたが、DCモード×バランス接続の低音は、そのパワーアンプをハイエンドモデルに買い替えたような感覚だ。

「鬼束ちひろ/流星群」の空間描写の広さ、ドッシリとした安定感のある低域、そして立体感のあるボーカルの伸びやかさ……あらゆる要素が高次元で両立しており、“気持ちいい”の一言。試しにアンバランス接続に戻すと、音場が平坦に感じられ、「グォオオ」と胸に迫る低域が少なくなってしまう。テストとはいえ、もうアンバランス接続には戻れない。一秒でもはやくバランス接続に戻したくてたまらない。まさに魅惑のサウンドだ。

これだけの駆動力があれば、ポータブルプレーヤーでもホントにゼンハイザー「HD 800 S」を鳴らしきれそうだ。DCアダプターを一度抜いて、バッテリー動作の状態でHD800Sを実際に接続してみると、最大ボリューム値120のところ、100~110あたりで十分な音量が得られる。それだけでなく、ちゃんとドッシリとした低音が出ている。

HD 800 Sは、据え置きの、かなり強力なヘッドフォンアンプでドライブしないと、重い低音は出ない。まさか持ち運べるM17で、このクオリティの低音が味わえるとは驚きだ。そしてDCアダプターを接続してMAX Gainヘッドホンモードにすると、その低音がさらにパワフルに迫力を増す。据え置きのヘッドフォンアンプでも、これだけHD 800 Sをしっかり鳴らせるアンプはなかなかないだろう。

フォステクス「T40RP mk3n」

HD 800 Sと同様に、低音を出しにくいヘッドフォンとしてフォステクス「T40RP mk3n」(インピーダンス50Ω)を愛用しているのだが、M17はこの難敵も余裕で鳴らしてくれる。DC接続ではない、バッテリー駆動のヘッドホンモードでも、ボリューム値100程度で十分な低音が出る。ズシンズシンと重さがありつつ、平面駆動方式を活かした超ハイスピードでキレキレの重低音。「T40RP mk3n、お前こんな低音出せたのか……」と驚くほかない。

調子にのって、手持ちの様々なイヤフォン、ヘッドフォンを繋いでみたが、どんな製品でも生き返ったような素晴らしい音で鳴らしてくれる。困るのは「繋いだイヤフォンの真の力を発揮する」というより、「どんな相手でも良い音で鳴らしてしまう」感じであり、「スゴイアンプ」を通り越して、なんだか「このアンプは反則だろ」と思えてしまう事だ。

据え置き機器としても高い実力

ヘッドフォン出力がスゴイのはわかったので、ライン出力も試してみよう。パソコンまわりで使っているクリプトンのアクティブスピーカー「KS-11」のアナログ入力と接続。ソースはノートパソコンで、M17をUSB DACとして使ってみた。

KS-11は、スピーカーの内部に高音質なDDCを搭載しているので、これ単体でもUSBスピーカーとして動作するわけだが、M17のDACを使うと音がどう変化するのか試してみたわけだ。なお、電源はDCアダプター接続から給電している。

結果としては、ヘッドフォンで感じた驚きがそのままスピーカーでも味わえる。スピーカー内蔵DDCを使った時より、M17の方が音圧が明らかにアップし、音の1つ1つがパワフルになり、低音がお腹にズシンズシンと響いてくる。広がる音場の空間も、一回り広い。

ハイレゾや音楽配信サービスだけでなく、Netflixで配信されたばかりの実写版「カウボーイビバップ」も見てみたが、1話冒頭の銃撃戦の迫力がまるで違う。銃の鋭い発射音の迫力もアップするのだが、派手な音が飛び交ったあとで、一瞬の静寂が訪れた時に、次弾を装填する「カチャ」という小さな金属音が、M17ではドキッとするほど明瞭だ。セリフやSEと、BGMの描き分けも明瞭で、音からの情報が聴き取りやすい。映像作品を楽しむ時も、この圧倒的な高音質は武器になる。

ちなみにM17には、冷却ファン付きのスタンドが付属する。最初は「ファンで冷却しないといけないほど発熱するの?」と身構えていたのだが、数時間ヘッドフォンを聴いたり、スピーカーと接続してYouTubeを見ている限り、冷却が必要なほど本体は熱くならなかった。あくまで念の為ということだろう。ちなみにファンの回転速度は強弱調整でき、弱にすると回転音もほとんど聞こえないため、開放型ヘッドフォンと組み合わせても、あまり邪魔にはならないだろう。

冷却ファン付きのスタンドが付属するが、それほど発熱はしない

これからのDAPにもとめられるもの

M17のサイズと重量は、DAPというカテゴリに入れられるギリギリのサイズだ。胸ポケットには逆立ちしても入らないが、コートのポケットには入る。ただ、これを身に着けて通勤通学で愛用するというのは、なかなか覚悟がいるだろう。ただ、「この音をいつも聴き続けていたい」と思わせる、圧倒的な音質と駆動力を備えているのはM17の大きな魅力だ。

逆に言えば、このサウンドクオリティがあるからこそ、「サイズと重さに我慢しても、持っていきたい」と思わせてくれる。持ち運びながら使わなくても、例えば職場や飛行機など長時間の乗り物移動中にガッツリと音楽を集中して聴いて気分をリフレッシュさせたり、キレの良い低音のビートでノリノリになってテンションを上げて、何かに取り組むなんて使い方も良いかもしれない。「この音と共に過ごしたい」、「この高音質を活用したい」と思わせるだけの魅力がサウンド自体にある。これは重要な事だ。

サイズや重さからすると、M17のカテゴリはDAPではなく“トランスポータブル”になる。自宅と職場など、異なる場所に持ち運んで、同じサウンドクオリティを楽しむためのプレーヤーだ。そう考えた場合、当然ながら“家でも、外出先でも、どっちでも使いたい”と思わせる魅力が無ければ成立しない。M17の場合は、「家で使う据え置きヘッドフォンアンプをM17にしたい」と思わせる実力があるので、単に「音の良いヘッドフォンアンプ/USB DACを買ったら、それが他の場所でも使えた」という、トランスポータブルDAPである付加価値が魅力になる。要するに「デカくて重いので結果的に持ち歩かなくなっても、家で大活躍」しないと、トランスポータブルDAPとしてはダメなのだ。

M17のサウンドを体験すると、これからのDAPに必要なのは「圧倒的な音質・駆動力」だと痛感する。利便性の面では、スマートフォンで音楽配信サービスを受信し、完全ワイヤレスで音を聴く便利さに、DAP+有線イヤフォンは勝てない。であるならば、スマホ+完全ワイヤレスでは逆立ちしても勝てないサウンドクオリティのDAP+有線イヤフォンを使わなければ、わざわざDAPを買う意味がない。当たり前の話ではあるのだが、その原則をあらためて突きつけてくるような製品がM17だ。

ぶっちゃけ“巨大で重いDAP”を、ゲテモノと感じる人がほとんどだろう。ただ、一度お店やイベントなどで聴いてみて欲しい。一瞬フリーズするほど、普通のDAPとは次元の違う音に驚き、もしかしたら「このM17を、自分の日常に取り入れるにはどうしたらいいか」を考えはじめるかもしれない。これから先のポータブルオーディオ、そして据え置きオーディオのカタチを示唆するような、実に面白い製品だ。

(協力:エミライ)

山崎健太郎