レビュー

マランツ「ND/PM8006」でなんでもHi-Fi再生 “2chオーディオのススメ”

左からマランツのアナログプリメインアンプ「PM8006」、CDプレーヤー「ND8006」

“ピュアオーディオ趣味”を始めるのに最適な時代

昨今、数千万もの楽曲が聴き放題の定額制ストリーミングサービスが普及し、個人がアクセスできる音楽ライブラリの世界がぐんと広がっている。旬の新しい楽曲から青春時代の懐かしい楽曲まで、様々な音楽との出会いが増えると、それらをより良い音で聴きたくなるものだ。

ただ、近年は自宅にオーディオプレーヤーやステレオスピーカーが無く、音楽はもっぱらスマートフォンで手軽に鳴らすという人も多いだろう。しかし、せっかく手にした膨大な音楽ライブラリを、スマホとイヤフォンで聴いているだけではもったいない。最高の音楽体験を求めるなら、やはりスピーカー再生である。実際、このご時世で家にいる時間が増えていることもあり、2chオーディオに興味が出て来た方も多いのではないだろうか。

さて、せっかく本格的な単品コンポを求めるなら、ベストエフォートなプレーヤーとアンプの組み合わせを探したいところ。その最適解の1つが、今回ご紹介するマランツのCDプレーヤー「ND8006」と、アナログプリメインアンプ「PM8006」(価格は各159,500円)である。ただ音楽を聴くだけなら様々な方法がある中で、筆者がこの組み合わせを推す理由は大きく4点ある。

1点目は、国産の総合オーディオビジュアルブランドのエントリーからミドルクラスに属す製品で、安価なオーディオ製品とは違う根本的な音の良さがあり、既にコアなオーディオマニアからも評価が高い事。

2点目は、CDプレーヤーのND8006がCDからハイレゾ、ストリーミングと新旧様々な音源へ万全の対応力がある事。つまり、旬のストリーミング再生だけではなく、これまでにコレクションしてきたCD資産も一緒に楽しめるわけだ。

3点目はプリメインアンプPM8006で、音の良さとスピーカー駆動力の高さを両立し、日本のオーディオ市場にある様々なスピーカーと相性良く組み合わせられる事。そして4点目は、単品オーディオ製品なので購入後にケーブルを交換して音の変化を追求するなど、オーディオ的な面白みを享受できる事だ。

この4点の特徴を総合的に考えると、2機種の組み合わせはかなりコストパフォーマンスが高く、購入後の満足感が高いのである。両製品とも、発売は2017年と決して新しくないものの、これら4点の理由により現在も安定したセールスを誇っているのが何よりの証拠である。

CDプレーヤーだが、音楽配信サービスも楽しめる「ND8006」

CDプレーヤー「ND8006」

それでは早速、2機種の特徴を見ていこう。まずはCDプレーヤーのND8006から。本機はマランツが“ネットワークCDプレーヤー”と呼称する製品で、ネットワーク再生とCD再生という新旧ソースをサポートしている。その強力な対応力こそ、筆者がND8006を推したい理由だ。

本機はオーソドックスなCD再生の他に、HEOSと呼ばれるネットワークオーディオ再生システムを搭載し、同一ネットワーク上に設置したNASや本体に接続したUSB外付けハードディスク/メモリ内のデジタル楽曲ファイル再生、加えてAmazon Prime MusicやAWA、Spotify、Sound Cloudなどの定額ストリーミングサービスの再生が行なえる。世界中のラジオ放送が聴けるインターネットラジオの「TuneIn」も利用可能だ。

さらに、USB-B端子によるデジタル入力も可能なので、パソコンをトランスポートとした、いわゆるPCオーディオに対応するD/Aコンバーターとしても利用可能だ。また、Appleの「AirPlay 2」やBluetooth接続機能も搭載するので、スマホとの親和性も高い。

「ND8006」の背面。USB入力やLAN端子、光/同軸デジタル入力も備えている

操作系については、本体での操作や付属の専用リモコンも使えるが、やはり便利なのはiOSやAndroidデバイスにインストールできるアプリ「HEOS」。ネットワークのファイル再生やストリーミング再生、ソース切り替えなどを快適に行なえる。さらに、Amazon EchoやEcho DotなどのAmazon Alexa搭載デバイスと連携させてのボイスコントロールにも対応している。

ハイレゾファイルなどの再生で気になる対応レゾリューションについては、ネットワーク再生やUSB外付けハードディスクからはPCM最大192kHz/24bit、DSDは最大5.6MHz 、USB-DACを使うとPCM最大384kHz/32bit、DSDは最大11.2MHzに対応している。

USBメモリからのハイレゾファイル再生も可能だ

余談だが、現時点で国内のハイレゾ配信サイトの「e-onkyo」や「mora」でダウンロード可能なレゾリューションの99%がPCM192kHz/24bit、DSD 5.6MHz以下であることを考えれば、本機の対応スペックで全く問題ないだろう。また、一昨年くらいからレゾリューション競争は終焉を迎えたと言ってよく、安心して購入して大丈夫だ。加えて本機は最大192kHz/24bitで配信している定額ストリーミングサービスAmazon Music Unlimitedに対応している事も見逃せないポイントである。

もちろん機能性だけではなく、その内部は高音質化対策も徹底されている。本機も含め、マランツ製品の魅力の1つは、上位モデルで開発された技術が下位モデルにもスライド投入される事だ。

デジタル回路部では、まずDAコンバーターチップに122dBもの広ダイナミックレンジと低ジッターを実現した電流出力タイプのESS「ES9016K2M」を搭載する。さらに音質を大きく左右するといわれるクロックには、同社上位モデルSA-10などと同様の超低位相雑音クリスタルクロックを採用し、44.1kHz系、48kHz系のクロック発振回路、DACの動作専用のクロック発振回路という、独立した3つのクロックを搭載する徹底ぶりである。

超低位相雑音クリスタルクロックを搭載している

加えて、接続したPCのUSBやネットワーク機器のLAN経由から流入する高周波ノイズ、および本体のデジタル回路部から発生する高周波ノイズを低減させるため、高速デジタルアイソレーターを12素子×18回路分使用した「デジタル・アイソレーション・システム」も投入されている。

PCやネットワーク機器からのノイズなどを遮断するデジタル・アイソレーション・システム

アナログ回路の音質対策も充実しており、D/Aコンバーター以降のアナログ回路ステージは、フルディスクリート回路構成。同社上位モデル同様に高速アンプモジュール「HDAM」「HDAM-SA2」を用いており、上述したDACチップからの信号を外付けのI/V(電流/電圧)変換回路と組み合わせている。つまりただDACチップを仕入れて搭載しただけではなく、デジタルからアナログ段の信号の流れを総合的にコントロールする作りとなっている。

HDAM搭載のフルディスクリート・アナログ出力回路

そして電源部は、低域の迫力やノイズフロアを左右する大きな要素だ。ND8006では、水平方向の磁束漏れを抑える珪素鋼板シールドを加えた2重シールドを、アルミ製ショートリングに施した大容量トロイダル型電源トランスを搭載する。さらにCDドライブメカを動作させる回路、デジタルオーディオ回路、アナログオーディオ回路、ディスプレイ、それぞれに専用の二次巻線を用い、整流回路や平滑回路まで独立させた電源回路構成としている。

デジタル機材では、デジタル回路部とアナログ回路部それぞれの音質対策が総合的な出音のクォリティを左右するが、ND8006はその両方に充実した高音質化対策を実施しているわけだ。そして極め付けは、マランツの中でたった一人だけが許される音決めの責任者、サウンドマスターの尾形好宣氏が入念なリスニングテストを行ない、音をチューニングしている。

“瞬時電流供給能力”にこだわったアンプ「PM8006」

プリメインアンプの「PM8006」

次に、プリメインアンプのPM8006を見ていこう。本機はマランツのアンプ群の中で、エントリーからミドルクラスに位置するモデルだ。プリアンプ、パワーアンプ、トーンコントロールの各ブロックが独立構成となっており、特に信号経路の前段部となるプリアンプ部に、高品質なJRC製ボリュームコントロールICを使用している事、さらに同社お家芸となる「HDAM-SA3」回路を組み合わせ、プリアンプ部とパワーアンプ部の両方でフルディスクリート構成の電流帰還型増幅回路を採用している事が大きな特徴だ。

特にボリューム部については、同社最上位モデルのPM-10でも採用する高精度な電子制御ボリュームを搭載し、左右チャンネル間のクロストークやギャングエラーを大きく低減。回路基板は、左右チャンネルの等長、平行配置を徹底し、左右の信号経路を徹底的に均一化するなど、まるでセパレートアンプシステムの単体プリアンプのような設計思想がとられている。

また、アンプ部は瞬間的に大きな電流を流せる瞬時電流供給能力にこだわって開発されており、45Aを超える瞬時電流供給能力を持つ。大容量トロイダル型電源トランスによる電源部の根本的な強化や、パワーアンプ用電源回路と出力段を一体化する事で信号経路を最短化した「ショート・パワーライン・レイアウト」、低インピーダンス化など、アンプ回路全体の最適化が行なわれている。本機の出力は100W + 100W(4Ω、20Hz~20kHz)とこのクラスのアンプでは低くないが、数値以上のスピーカードライブ能力を達成している。

高効率で振動と漏洩磁束の少ない大容量トロイダル型電源トランスを搭載

また、プリメインアンプの評価尺度の1つである入力端子についても充実しており、5系統のアナログ入力(RCA)、パワーアンプにダイレクト入力できる「POWER AMP DIRECT」入力、また近年のアナログレコードブームにも対応すべくフォノ入力も備えている。フォノイコライザー回路には、MMカートリッジに対応する新型のNF-CR型フォノイコ「Marantz Musical Phono EQ」を搭載する。

背面。フォノ入力も備えており、新型のNF-CR型フォノイコ「Marantz Musical Phono EQ」を搭載

SN比が良く、躍動感のあるサウンド

ブックシェルフスピーカーでサウンドをチェック

筆者宅の試聴室にて、北欧デンマーク・ディナウディオの2ウェイブックシェルフスピーカー「The Special Forty」と組み合わせて鳴らしてみた。筆者は普段このスピーカーで、主にシステムのオーディオ的な再生能力……解像度や音像表現、サウンドステージ、ヴォーカルや楽器の質感や音色などをチェックしている。

設置して改めて2台を見てみると、その薄いシャンパーンゴールドのシャーシは、筆者所有のシルバーのオーディオ機器群とも色相的な相性が良く、適度な存在感があって好印象。ND8006はセンターに表示部を持つシンメトリックなデザインで、PM8006も左右2つに大きなノブ(左がインプットセレクター、右がボリューム)、中央に4つの小さなノブを持っていて高級感があり、ステータスを表示するブルーのLEDが美しい。

筆者所有のシルバーのオーディオ機器群と、見た目的にも相性バツグン

単体コンポーネントとはいえ、設置とセッティングは容易だ。CDを聴くだけであれば、ND8006とPM8006とスピーカーをRCAラインケーブル/スピーカーケーブルで繋ぐだけ。ストリーミングやハイレゾファイルなどを快適に再生したい場合は、ND8006を有線LANケーブルかWi-Fiでホームネットワークに接続して、スマホやタブレットに「HEOS」をインストールすれば良い。

今回は有線LANでネットワークに接続したが、フロントパネルにあるディスプレイに表示される対話式メニューを利用してWi-Fi設定も行なえる(Amazon Musicなどのストリーミングサービスを使いたい時は、事前に契約を済ませておこう)。

接続中に気づいたのは、ND8006とPM8006の両モデルとも、品質の良い接続端子を採用している事だ。ND8006は、固定出力端子に真鍮削り出し端子を搭載しており、さらにアナログ出力端子と同軸デジタル出力端子には金メッキ加工が施され、経年変化や信号の劣化を防止している。PM8006は真鍮削り出しによる大型のスピーカーターミナルを搭載。A/B 2系統の出力端子があるので、スピーカー側も対応していれば高域と低域を分割して接続できるバイワイヤリング接続もできる。細かい部分だが、こういったところにオーディオマインドを感じて嬉しくなる。

まずはCD再生から。筆者が数十年前に購入した大切な1枚、1998年発売のマライア・キャリーの名盤「#1s」をND8006のCDトレイに乗せてPlayボタンを押した。

音が出た瞬間「おお」と思わず声に出た。#1sは発売当時、良質なマスタリングが施されていた事でオーディオファンからも愛されたタイトルであった。それが改めて判る音質に、懐かしさと同時に新鮮な気持ちも湧いてくる。彼女のヴォーカルは自然な音像でセンター定位し、楽曲を引き立てるコーラスは当時らしい自然な広がりで分解能も高い。

特に良いなと思ったのは静寂感の高さ。マライアの声が出る一瞬の間の息継ぎもリアルに聴こえてくる。これはSNが高い証拠ともいえるが、実はND8006はCD再生時にネットワークや/USBメモリ再生、Wi-Fi、Bluetooth、ヘッドフォン出力回路等の動作を止め、これらからのノイズ発生を抑えることができる。筆者は懐かしの音源の予想を超えた音の良さに、仕事であることを忘れてアルバム1枚通して聞いてしまった。懐かしのCDを聴いたときに、新しい発見や感動をもたらしてくれるクォリティである。

次にiPadでHEOSアプリ立ち上げ、定額ストリーミングサービスのAmazon Music Unlimitedから、米国billboardランキング常連のThe Weeknd 「Take My Breath」を再生してみる。明るくて躍動感がある音で、センター定位するヴォーカルの口元はリアルな表現。秀逸な音の分解能は、主にプレーヤーであるND8006の実力だ。一方で、エレクトリックバスドラムなど低域がダブつかず音量を下げても音のディテール表現が曖昧になりづらいのは、アンプのPM8006良さが出ているのであろう。

JBLの大型スピーカーも、グルーブ感豊かに再生

L100 Classic 75でも聴いてみる

続いて、もうひとつの試聴室に2台を移動して、JBLのスピーカー「L100 Classic 75」を駆動させた。本環境でチェックするのは、ズバリ音楽性だ。音楽との一体感やグルーブを左右する迫力、抑揚表現への追従力を確認するのである。

JBLといえば多くの方がJazzやロックを鳴らしているだろうから、ここではfidataのNAS「HFAS1-XS20」から、ハイレゾ楽曲ファイルのリー・モーガン「キャンディ」を再生してみた。本楽曲は、ブルーノートレーベル現社長のドン・ウォズ肝煎のプロジェクトによってリマスターされたDSD 2.8MHzのファイルで、ここだけの話、ブルーノートの数あるハイレゾタイトルの中でもかなり音が良い。そしてND8006とPM8006の組み合わせは、その良さを全開で出してくれた。アート・テイラーのドラムはスピードがあり、ダグ・ワトキンスのベースは重量感満点。30センチの大口径ウーファーを十分に制動する駆動力の高さを実感する。リー・モーガンのトランペットはスピーカー前方へ展開し、抜群のグルーブ感を伝えてくれる。まさにこの音が聴きたかった。

ND8006は、デジタルフィルター「Marantz Musical Digital Filtering」と「ロックレンジ切り替え機能」を搭載するので、ここでそれぞれを試してみた。まずはデジタルフィルターから。フィルター1は一聴して音の分解能やディテール表現に優れ、音像とバックミュージックの対比も明瞭と、いわゆるHi-Fi的な音の出方だ。対するフィルター2は、音の繋がりが良く滑らかな表現で聴き応えがある。ロックレンジ切り替えは、ワイド、ミディアム、ナローの3段階で切り替え可能で、ワイドからナローに可変させると、全帯域の音が少しずつ明瞭になってくる。ただしナローにすると音源によっては音飛びが発生する事もある。

操作アプリHOESのユーザビリティについては、iPadなどのタブレットとiPhoneなどのスマホそれぞれ専用の画面デザインを持つ事、さらに再生ソースの選択から楽曲再生までの一連の操作は比較的スムーズで、レスポンスも秀逸だった。

ヘッドフォンでもサウンドをチェック

最後にヘッドフォンリスニングも試した。これはND8006がHDAM-SA2型高速電流バッファーアンプ回路によるフルディスクリートヘッドフォンアンプを搭載しているので、その音を確認したかったのだ。ヘッドフォンは駆動力が要求されるゼンハイザーの「HD 800 S」を用い、ポップスからクラシックまで複数ジャンルの楽曲を再生。3段階ゲイン切り替え機能により音量も稼げるし、全帯域のディテール表現も明瞭、少し陽性な音色を持つので、情報量豊かで鮮度の高いサウンドで音楽を楽しめた。

セットでも、個別に導入でもOK

ND8006とPM8006の強みをまとめると、CDからUSB/ネットワーク、そしてストリーミング再生まで、新旧ほぼ全てのミュージックソースすべてをHi-Fiクォリティで再生できることだろう。2つの全く違うスピーカー環境で最上の音を出す事ができたので、様々なスピーカーとの相性がよく、自分が気に入ったスピーカーと組み合わせれば、極上の音楽再生環境もたらしてくれるはず。

小音量で音楽を心地よく聴いても良いだろうし、時にはいつもより少しだけ音量を上げて、アーティストの思いを体全体で受け止めるのも良いだろう。また、自分の好きなスピーカーを選んでシステムを構築するのはもちろん、プレーヤーとアンプをセパレートしたことで、それを結ぶケーブルを交換して音質変化を楽しめるなど、購入後の楽しみも残されている。スピーカー再生がもたらす至極の音楽体験は、ライフスタイルに新しい楽しみを生んでくれるはずだ。

さらにいうなら、この2機種、それぞれがプレーヤーとアンプとして長所を持っているので、現在使用中のシステムの一部を、どちらかひとつに置き換えるところから始めるのも良い。

例えば、ヘッドフォンリスニング環境を、ヘッドフォンアンプ部の能力が高いND8006に置き換えてグレードアップして、あとからアンプやスピーカーを追加するという計画も良いだろう。PM8006は通常のアナログ音声出力端子に加え、ボリューム調整が可能なRCA可変出力端子を搭載するので、近年にわかに人気上昇中のアンプ内蔵アクティブスピーカーと組み合わせることもできる。

つまるところ、この2機種は、単体で使用してもペアで使用してもアリなのだ。お家時間を充実させる2機種にぜひ注目していただきたい。

(協力:マランツ)

土方久明