レビュー

ロスレス音楽配信の最強プレーヤー!? FiiO「M11Plus LTD」を聴く

M11Plus LTD Aluminum Alloy

いきなり個人的な話で恐縮だが、愛用中のスマホはGoogleの「Pixel 3 XL」。バッテリがヘタってきた以外、大きな不満も無かったのだが、最近、定額制音楽配信の「Amazon Music HD」でハイレゾ楽曲をバンバンダウンロード&再生していたら、内蔵ストレージがカツカツになってしまった。Pixel 3には、microSDカードスロットが無いので、増設もできないのだ。

程度の差はあれ、私と同じような状況の人は多いだろう。そんな悩みを察知してくれた……のかはわからないが、“高音質・高機能・かつリーズナブル”でお馴染みのFiiO Electronicsから、気になるポータブルオーディオプレーヤーが登場した。「あなたの音楽ストリーミング体験を根本から変える、圧倒的高音質」をテーマに掲げた「M11Plus LTD」だ。

ポータブルオーディオに詳しい人はご存知かもしれないが、最近のFiiOプレーヤーは、AndroidベースのカスタムOSを搭載しており、ユーザーが好きなアプリを自分で追加できる。要するにAmazon Music HDとかApple MusicとかSpotifyなどのアプリを追加し、それらのサービスを高音質で楽しむプレーヤーとしても使えるわけだ。

ポータブルプレーヤーにWi-Fiは内蔵されているが、モバイルルーターやテザリングを使わないと、移動中にストリーミング再生はできない。ただ、お気に入りのプレイリストの楽曲を事前にプレーヤーにダウンロードしておけば、オフライン再生が可能。スマホのストレージを圧迫せず、さらにスマホより格段に高音質に再生できるというわけだ。

“格段に高音質”という以前に、そもそも最近のスマホはアナログのイヤフォン出力端子を備えていないものも多い。“Bluetoothイヤフォン必須”が当たり前なので、せっかく配信サービスがロスレスやハイレゾで高音質な楽曲を届けてくれても、Bluetooth伝送の段階で情報が欠落した状態で聴く事になってしまう。高音質な音楽配信を楽しむために、高音質なポータブルプレーヤーを使うというのは大いにアリというか、“そうしないともったいない”とも言える。

M11Plus LTD Aluminum AlloyでAmazon Music HDを利用しているところ

THX AAA-78採用の第2世フルバランス・アンプ回路

音を聴く前に、M11Plus LTDのスペックを振り返ってみよう。M11Plus LTDには筐体素材の違いで2モデルがあり、実売はアルミニウム合金を使った「M11Plus LTD Aluminum Alloy」が99,000円前後、ステンレススチールの重厚な「M11Plus LTD Stainless Steel」が125,950円前後となっている。違いは筐体素材のみで、性能などは同じだ。今回はアルミ合金製モデル「M11Plus LTD Aluminum Alloy」を紹介する。なお、予約受付はすでに開始されており、発売日は8月27日だ。

ステンレススチールの重厚な「M11Plus LTD Stainless Steel」

M11Plus LTDという型番からわかる通り、2019年12月に発売された「M11Pro」の後継機がM11Plus LTDだ。型番だけを見ると、限定のマイナーチェンジモデル? と思ってしまうが、実は内部回路は大幅に変わっており、筐体も一回り大きくなっており、ほぼ“別物”と言える進化を遂げている。外形寸法は136.6×75.7×17.6mm(縦×横×厚さ)で、重量は310g(ステンレススチールモデルは405g)。

左がM11Plus LTD Aluminum Alloy、右がM11Pro。一回り大きくなった
厚みはあまり変わらない

高音質の鍵となるのがDACチップは、旭化成エレクトロニクスの電圧出力タイプの2ch DACチップ最高峰であり、既に生産が完了している「AK4497EQ」を2基、左右独立構成で搭載。低ノイズ・低歪と、高出力を追求している。MQAフルデコーダーも搭載する。

アンプ回路の進化点として、「THX AAA-78」というアーキテクチャを使ったフルバランス・アンプ回路が第2世代になった。THXというのは、映画とかAVアンプとかで良く耳にする、あのTHXだ。ルーカスフィルムの1部門としてスタートした会社で、映画館の音響や、AVアンプなどの家庭用オーディオ機器を、THXが定める基準をクリアしているかチェック。合格すると“THX認定を受けた製品”としてマークがつく。

そんなTHXが、自分で開発したアンプ技術が「THX Achromatic Audio Amplifier(AAA)」。THXと聞くと、サラウンド音声を連想する方もいると思うが、それとは無関係で、ピュアオーディオ向けな、アナログアンプ用の技術だ。

このTHX AAA技術を使うと、通常のヘッドフォンアンプ回路と比べて、高い出力が高効率で得られるほか、ノイズレベルや歪を低減する効果がある。安定性を高めたり、ノイズを低減するために、ピュアオーディオのアンプで良く使われるNFB(Negative Feedback:負帰還)回路の原理的な欠点を根本的に対処するための技術が使われている。

筐体内は、新規設計の内部レイアウトで基盤回路の相互干渉を抑制するモジュール型の回路設計になっている。各回路モジュールをシールドカバーで覆い、デジタル部分とアナログ部分を完全に分離している。また、電源部は、前段ローパスフィルター部、小信号増幅部、増幅拡張回路、それぞれに独立した電源を用意するなど、かなり気合の入った作りだ。

イヤフォン出力端子は、3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスの3系統。出力端子は同軸デジタル出力も兼ねている。豊富なイヤフォン・ヘッドフォンに接続できるほか、ライン出力としてスピーカーの用のアンプに接続したり、アクティブスピーカーと接続するなどの使い方もできる。また、ライン出力においては、4.4㎜端子からのバランスライン出力も可能になっており、据え置きシステムと連携する場合も、より高音質を目指せるようになっている。

イヤフォン出力端子は、3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスの3系統

イヤフォン出力は、3段階のゲイン調整も可能。バランス接続時で最大588mW(32Ω)で出力できるので、低能率なイヤフォンでもドライブできるだろう。音量調整は120ステップで、本体左側面にシーソー式のボリュームボタンを備える。他のボタンと形状がまったく違うので、ポケットの中で手探りで操作する時も使いやすい。

左側面にシーソー式のボリュームボタンを備える
右側面には操作ボタン。ホールドスイッチも備えている
プルダウンメニューからゲイン切り替えなどが可能

有線イヤフォンだけでなく、ワイヤレスイヤフォンも利用可能だ。Bluetooth送受信にも対応しており、コーデックはSBC、AAC、LDACをサポート。LDAC対応のイヤフォン/ヘッドフォンと組み合わせれば、ワイヤレスでもハイレゾサウンドが楽しめる。

先日、ソニーから人気完全ワイヤレスの新機種としてLDAC対応の「WF-1000XM4」が発売されて、さっそく買ったという人も多いかもしれないが、「持っているスマホがLDAC対応じゃなかった……」という場合でも、このプレーヤーを買えば問題ないわけだ。

先ほど“スマホのストレージを圧迫せずに音楽配信が楽しめる”と書いたが、内蔵ストレージは64GBと大容量で、microSDカードスロットで2TBのカードも増設できる。

ディスプレイは5.5型と大きく、アスペクト比は18:9。タッチパネル液晶で、解像度は1,440×720ドット。SoCはQualcommの「Snapdragon660」で、OSはAndroid 10ベースのカスタムOSだ。M11ProはSamsung「Exynos 7872」採用で、Android 7.0ベースのOSだったのと比べると、大幅に進化している。

もうお馴染みの機能と言えるが、通常のAndroidモードだけでなく、Pure Musicモードも用意。Pure Musicモードでは純粋に音楽リスニングに集中するために内蔵のFiiO Musicアプリだけが動作し、より高音質で楽しめる。

処理速度が高速なので、動作は非常にサクサク。音楽再生アプリ操作でもたつく事は無く、ストレスフリーだ。最新の高級スマホを触った感覚に近い。音楽配信アプリのAmazon Music HDやApple Musicのアプリもサクサク動作する。Google Playにも対応しているため、音楽配信アプリのインストールも手軽にできる。

Google Playにも対応

充電端子はUSB-Cで、USBデジタル出力も可能なので、ここに外部のUSB DACを接続する事もできる。バッテリーは6,000mAhと大容量で、連続再生時間は11.5時間と長持ち。3時間で満タンになる急速充電も可能だ。

なお、PCMデータをDSDに変換して再生する「All to DSD」という機能も搭載しているが、それが第3世代に進化。変換再生時の消費電力を30%抑える事で、DSDのサウンドを、より長時間楽しめるようになったという。

標準アプリで音を聴いてみる

「FiiO Music」の画面
細かな再生設定が可能だ

まずは通常のポータブルプレーヤーとして、基本の音楽再生アプリ「FiiO Music」を使ってハイレゾファイルを聴いてみよう。finalの「B1」や、FitEarの「TG334」などを使用した。

「藤田恵美/Best of My Love」を再生。音が出た瞬間にわかるのは、SN比の良さだ。音が鳴る前の音場が非常に静かで、その静かな空間の中に音がスッと出現。そしてスッと消える。音が無い部分が非常に静かなので、音の立ち上がり・立ち下がりの細かい音が聴き取れ、それにより音楽に立体感がある。

音の輪郭が明瞭でクリア。トランジェントもハイスピードだ。歯切れが良く、聴いていて気持ちがいい。単にSN比が良いだけで、こういう音にはならない。SNの良さに加え、ヘッドフォンアンプ部の駆動力が高く、なおかつ歪が少ないと、“静かな空間に、音がズバズバ展開する様子が丸見え”という非常に気持ちのいいサウンドになる。M11Plus LTDはまさにそういう音だ。

従来モデル「M11Pro」も高音質なプレーヤーなのだが、M11Plus LTDを聴いてしまうと、こちらの方が一枚、いや二枚ほど“上手”だ。SN比の良さ、アンプの歪の少なさが、M11Plus LTDの方がさらに進化しているので、M11Plus LTDを聴いた直後でM11Proを聴くと、立体感やメリハリの良さが乏しくなり、ちょっと“眠い音”に聴こえてしまう。音場の広さもM11Plus LTDの方が広大なので、長時間聴いていても開放感があり、ストレスが少ない。

SN比や音場サイズだけでなく、音そのもののクオリティもM11Plus LTDの方が上だ。低域はより沈み込みがより深く、高域の質感描写も細かい。「宇多田ヒカル/One Last Kiss」の序盤のビートの迫力と、ドッドッと迫ってくる押し出しの強さは、M11Plus LTDの方が圧倒的にパワフルで気持ちが良い。かすれるような宇多田ヒカルの吐息も、M11Plus LTDの方が生々しくてゾクゾクする。

低域の深さ、音圧が凄いので、クラシックでも「展覧会の絵」の「バーバ・ヤーガの小屋」などを聴くと、コンサートホールの空間ごとこちらに押し寄せてくるような“スペクタクル感”に圧倒される。M11Proも十分バランスの良いサウンドのプレーヤーと思っていたが、M11Plus LTDのドッシリしたハイスピードな低音を体験してしまうと、もう戻れないなと思ってしまう。

ちなみに標準の「FiiO Music」アプリには、FiiO Linkという便利な機能がある。FiiO MusicをインストールしたスマホとWi-Fi、もしくはBluetoothで連携して、スマホをリモコンのように使ってM11Plus LTDを操作したり、その逆をする事ができる(iOSデバイスの場合はWi-Fiのみ)。

FiiO Linkでスマホとリンクしているところ

個人的には“スマホをリモコンにする”のが便利で気に入っている。M11Plus LTDをポケットやカバンに入れた状態のまま、取り出さなくても、手に持ったスマホで曲の選択や音量調整ができるわけだ。

これは歩いている時や電車の中などで便利な機能だが、家でも使える機能で、例えば前述のようにM11Plus LTDとアクティブスピーカーを接続して“デスクトップオーディオ環境”を作った場合、スマホをそのオーディオ環境のリモコンとして使うことができる。

スマホアプリの「FiiO Music」から、M11Plus LTDの「FiiO Music」を操作しているところ。ボリューム調整もスマホから可能だ

音楽配信サービスを高音質で楽しむ

Amazon Music HDを使っているところ

では音楽配信サービスも楽しんでみよう。今回使ったのはAmazon Music HD。既に利用している人も多いと思うが、既報の通り、6月9日から利用料金が月額980円に値下げさたので、新たに加入してみたという人も多いだろう。

M11Plus LTDでAmazon Music HDを楽しむ方法は、スマホとまったく同じ。インストールしたAmazon Musicのアプリを起動し、IDやパスワードを入力するだけ。アプリの画面もスマホとまったく同じなので戸惑う事もなく使える。

「宇多田ヒカル/One Last Kiss」をハイレゾ音源をストリーミング再生してみたが、スマホ+Bluetoothイヤフォンで聴くのと比べ、クオリティの差は歴然だ。

M11Plus LTD+有線イヤフォンだと情報量が多く、音の響きが消える様子や、高域の質感・生々しさがアップするといった違いはもちろんあるのだが、それにも増して、やはりM11Plus LTD内蔵ヘッドフォンアンプが凄い。完全ワイヤレスイヤフォンの小さな筐体に内蔵しているアンプと比べると、文字通り“格が違う”。低域の深さ、押し出しの強さ、そしてそんなパワフルな低域の中でも、ベースやドラムの細かな音がしっかり聴き取れる情報量の豊富さに、大きな違いがある。

Amazon Music HDに加入してから、スマホ+ワイヤレスイヤフォンでしか聴いたことがないという人がいたら、一度M11Plus LTD+有線イヤフォンの音を体験して欲しい。「こんな音で配信されてたのかよ!」と驚くだろう。

ちなみにM11ProにもAmazon Musicアプリを入れて聴き比べたが、FiiO Musicで比較した時のような違いを、Amazon Music HDでも体験した。

「mora qualitas」も試してみよう

Amazon Musicばかり説明しているが、もちろん他の音楽配信サービスも利用可能だ。高音質配信といえば、AV Watch読者には「mora qualitas」もお馴染みだが、なんでもM11Plus LTDは、mora qualitasとして初の“mora qualitasビットパーフェクト再生確認済みDAP”になっているそう。

以前から、FiiOは単にAndroidをOSに採用するのではなく、OSレベルでカスタマイズする事で、FiiO Musicではないサードパーティー製アプリを使った場合でもビットパーフェクト再生できる事を特徴としているのだが、その強みが、mora qualitas側からも認められたカタチになる。要するに、M11Plus LTDは、mora qualitasの高音質をバッチリ楽しめる“お墨付きプレーヤー”になったというわけだ。ちなみに、製品に同梱されているクーポンコードを使うと、mora qualitasを初利用のユーザーは合計60日間、既に利用しているユーザーは30日間無料で使えるキャンペーンも実施されている。詳細はこちらのページを参照のこと。

そんなmora qualitasアプリもインストールして聴いてみたが、こちらの動作も高速でストレスが無い。楽曲検索だけでなく、見つけた曲のダウンロード指定、DLした曲の再生までのスピードなどもサクサクである。先ほどの「One Last Kiss」を含め、何曲か聴いてみたが、ハイレゾ楽曲のSN比の良さや、静かな空間に細かい音と、激しい音が同居する表現力の幅の広さなどがガッツリと楽しめる。ハイレゾというと、どうしても高域に注目してしまいがちだが、音楽を支えるビートやベースなどの低域の情報量が増える事で、視力が良くなったように、低い音から高い音までキッチリ聴き取れる満足感が大きな魅力だ。

mora qualitasの再生画面

最新ロスレス&ハイレゾロスレス配信がスタートして話題の「Apple Music」アプリもインストール可能。7月末にAndroid用のApple Musicアプリもロスレス&ハイレゾロスレスに対応しているので、普段はiPhoneでApple Musicを聴いているという人にも、M11Plus LTDがより魅力的な選択肢になるだろう。

「Apple Music」アプリもインストール可能

ポータブルプレーヤーを使わなくなった人にこそ、注目して欲しい

ポータブルプレーヤーに求められる機能が、“ユーザーが持っているハイレゾファイルを高音質で再生する”だけでOKだった時代は、もう過ぎ去りつつある。今の時代、それに加えて“音楽配信サービスを最高の音で楽しめる端末”としての役割も持たなければならない。

M11Plus LTDは、AndroidベースのOSとアプリの追加対応によりそれをクリアしつつ、強力・高音質なDACやヘッドフォンアンプを内蔵する事で、有線イヤフォンで最高の音質が楽しめる。それに加え、LDACまで対応したBluetooth送信機能を持つ事で、“ワイヤレスイヤフォン/ヘッドフォンでも高音質で楽しめる”のが凄い。あらゆるニーズに対応した“全部まとめて面倒みるぜ”的なプレーヤーと言える。

音楽配信サービスの広がりにより、“手持ちのハイレゾファイルを聴く”よりも“膨大なオンラインライブラリを楽しむ”人が増え、その結果「スマホの方が便利だよね」と、ポータブルプレーヤーを使わなくなってしまった人も多いだろう。だが、スマホで音楽配信サービスを使うと、様々な不満が出てくるのも事実。そうした部分をハイクオリティにカバーするM11Plus LTDのような新世代ポータブルプレーヤーの魅力は、そうした人にこそ体験して欲しい。

(協力:エミライ)

山崎健太郎