レビュー

Shure完全ワイヤレス「AONIC FREE」の実力は? ソニー、Apple、ゼンハイザーと聴き比べ

「AONIC FREE」をソニーやApple、ゼンハイザーと聴き比べ

12月3日にShureブランド初となる、一体型完全ワイヤレスイヤフォン「AONIC FREE」が発売された。音質に定評があり、ファンも多いShureブランドの完全ワイヤレスだけに、その音に期待しているファンは多いはず。そこで、同じく高音質で支持を集めているソニー「WF-1000XM4」、アップル「AirPods Pro」、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 2」、と聴き比べてみた。

実はShureの完全ワイヤレスは、これが初の製品ではない。2020年に「AONIC 215」という製品を発売している。ただし、これは有線イヤフォン「SE215」に、MMCXコネクターを備えたワイヤレスモジュールを接続した、要するに“有線イヤフォンをTWS化した”製品だった。そうではなく、“イヤフォンと無線モジュールを完全に一体化したTWS”としてはAONIC FREEがブランド初というわけだ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は25,960円前後と、TWSの中では高級モデルと言える。カラーはグラファイトグレイとクリムゾンレッドの2色。

「AONIC FREE」。今回はクリムゾンレッドを試用した

そんなAONIC FREEの基本スペックと外観をチェックしよう。Shure IEMで培った構造やコンポーネントなどを活かした完全ワイヤレスとなっており、6mm径のダイナミックドライバーを採用している。

内部の工夫としては、音響領域をシールドする“振動ダンピング機構”や、ドライバーの性能を存分に発揮するために、ドライバーを安定して固定する“ドライバーサポートフレーム”などを搭載。ドライバー自体にかかる衝撃から保護する音響シールドも配置しているそうだ。

ハウジング部分はツルッとした凹凸の無いデザインだが、内側は耳に装着しやすい形状になっている。詳細は後述するが、アクティブノイズキャンセリング(ANC)を搭載していないかわりに、耳とのフィッティングを高め、遮音性を追求して外のノイズを遮断している。

通話品質にもこだわっており、左右それぞれに、通話に特化した設計のビームフォーミングマイクを2基ずつ搭載。本体には物理ボタンも装備し、音量調整、再生/停止、着信応答などが操作できる。外音取り込みモードも備え、イヤフォンのボタンを押すか、専用アプリ上のPausePlus機能を使用して、音楽を一時停止すると自動で外音取り込みがオンになる。

無骨な充電ケースとイヤフォンデザインが目を引く

充電ケースはかなり大柄
WF-1000XM4のケースと比べたところ
AirPods Proのケースと比べたところ
MOMENTUM True Wireless 2のケースと比べたところ

外観でまず一番最初に驚いたのは、そのサイズ感。特に充電ケースはWF-1000XM4、AirPods Proのものと比べるとかなり大柄。MOMENTUM True Wireless 2とは横幅はほぼ変わらないものの、AONIC FREEのケースは高さもあるので“巨大さ”を感じる。

筆者は完全ワイヤレスイヤフォンを使う際、ケースをズボンのポケットに入れて持ち歩くのだが、AONIC FREEのケースは大きすぎるため、つねに脚に“異物感”を感じてしまうこと、傍目からも分かるくらいポケットが膨らんでしまうことが気になり、今回はカバンやジャケットの胸ポケットなどに入れて持ち歩いた。

ケースは大柄だが持ちにくさはあまり感じなかった

一方で、大柄なケースではあるが、梨地のような表面処理と、下に向かってスリムになっていく台形デザインにより、持ちやすい形状になっている。

イヤフォンプレートは大型だが耳に挿入する部分は他社のものと変わらない大きさ

イヤフォン自体も、耳のくぼみにフィットするプレートのような部分が張り出しているため大型に見えるが、耳の穴に挿入する部分は他社のものと変わらない大きさで、他社イヤフォンと比べて重いということもない。このプレートと同梱のフォームイヤーチップによって、耳にしっかりホールドされるので、装着感は良好。フォームイヤーチップは少し圧迫感を感じる部分はあるが、首を激しく左右に振っても、装着位置がズレてしまうことはない。

有線イヤフォン「SE215 Special Edition」(右)と比べたところ

AONIC FREEはアクティブノイズキャンセリング(ANC)非搭載だが、上述のフォームイヤーチップによって遮音感は高め。室内で装着してみると、エアコンや空気清浄機、パソコンのファンノイズなどはマスクされて、音楽に没頭できる。電車での移動時に使ってみたが、こちらはANC搭載モデルと比べると遮音感は少し低く感じられた。

電車での移動時にも使ってみたが、電車の走行音や車内アナウンスなどが聴こえてくるものの、音楽が聴こえないほどではなく、音量を上げる必要もなかった。とはいえ、やはりANC搭載イヤフォンと比べると遮音感は少し低く、“無音の環境で音楽を楽しむ”感じにはならない。

物理ボタンを操作すると、楽曲の再生/停止や、外音取り込みモードも使える。また、ボタンを一度押すだけで再生を停止しつつ、同時に外音取り込みモードをオンにする「PausePlus」機能も用意されている。駅のアナウンスなどをとっさに聞き逃したくない時などに使えるだろう。

iOS/Android用アプリ「ShurePlus PLAY」を使えば、ハードウェアEQや外音取り込みモードのレベル、ボタンクリック時の挙動などを変更できる。なお、設定したEQはイヤフォンに保存できるため、ShurePlus PLAYを使っていない状態でもEQ設定済みのサウンドが楽しめる。

低域は弱めだがバランスの取れたShureらしいサウンド

用意した4機種を聴き比べてみた

それでは音質をチェックしよう。前述の通り、AONIC FREEだけでなく、ライバルとなりそうな3機種も用意した。なお、AONIC FREEはANC非搭載だが、比較用に用意したWF-1000XM4、AirPods Pro、MOMENTUM True Wireless2はいずれもANCを搭載している。これらの機種はANC ONで使うことが一般的なので、今回の比較でもANCはONで聴いている。

比較機種一覧

  • Shure「AONIC FREE」実売25,960円前後
  • ソニー「WF-1000XM4」実売33,000円前後
  • ゼンハイザー「MOMENTUM TrueWireless 2」実売36,300円前後
  • アップル「AirPods Pro」30,580円

まずAONIC FREEから聴いていこう。最初に再生したのは、映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」で印象的に使われていて、最近ヘビロテしている「Hotel California/イーグルス」。

試聴にはiPhone 13 Pro+Apple Musicを利用した

AONIC FREEのサウンドは極めてクリア。バランスの取れたShureらしいサウンドだ。低域は、ズシンと響くような派手さはないが、ドラムの鳴りは自然で心地良い。中高域も自然な描写で、キツくて高域だけが目立つような鳴り方ではない。ボーカルは少し遠めに定位するが、埋もれてしまうわけでなく、くっきりと響く。アウトロのエレキギターは、やや大人しめだがシャープなサウンドだった。

Airpods Pro(左)とAONIC FREE(右)

同じ曲をAirPods Proで聴くと、今度はボーカルが近めに定位。アウトロのギターも“ギラギラ”したサウンドで心地良い。MOMENTUM True Wireless 2ではギターの撥弦音が際立ち、低音がズシンと響いてくる一方、アウトロのギターはAONIC FREE以上に大人しく感じられた。4モデルのなかで、もっともバランス良く感じられたのはWF-1000XM4。定位感もしっかりしていて、低音の量感もちょうどいい。アウトロのギターもキレがよく、それに負けじとベース、ドラムのサウンドも聴こえてくる。

続いて、エド・シーランが今年発表したアルバム「=(イコールズ)」から、クラップが印象的なアップビートの「Shivers」を聴いてみると、AONIC FREEでは、まるで目の前で手が叩かれているかのようなクラップの生々しさに驚かされる。ボーカルも前面に押し出されてくるが、バックコーラスや楽器隊が埋もれてしまうこともない。ただ低域は少し控えめに感じられ、サビでコーラスが重なる部分は高域がほんの少し耳に刺さるような感覚もある。これはエージングによって変化するかもしれない。

WF-1000XM4(左)とAONIC FREE(右)

AirPods Proでもボーカルの存在感は変わらないが、AONIC FREEほどクラップの生々しさはない。WF-1000XM4はクラップの生々しさこそ、AONIC FREEに負けるものの、ボーカルのリップノイズが聴こえるほど細かな音が描写される。また、AirPods ProとWF-1000XM4では高域が刺さるような感覚はなかった。残るMOMENTUM True Wireless 2は、他モデルと比べるとボーカルの押し出しは少し弱く感じられる一方、低域は用意した4機種のなかでもっとも量感ある鳴り方。ギターの爪弾き音といった繊細なサウンドも丁寧に描写されていた。

MOMENTUM True Wireless 2(左)とAONIC FREE(右)

今度はジャンルを変えてJ-POPから「三原色/YOASOBI」を聴くと、AONIC FREEではikuraのボーカルが伸びやかに響き、クラップやパーカッションも軽やか。ポップスやロックなどでは、その本領を存分に発揮してくれる。ただ低域は大人しめなので、厚みが欲しい人はMOMENTUM True Wireless 2のほうが好みかもしれない。

またAONIC FREEは「木綿のハンカチーフ/橋本愛」のようなアコースティックな楽曲やインストゥルメンタルなどでは、ピアノの打鍵音や漏れ出るブレス、楽器の弦の響きなど細かな描写が聴き取れる一方、高域の描写、艶やかさに少し物足りなさを感じる場面も。このあたりの描写や艶やかさはWF-1000XM4のほうが得意に感じられた。

AirPods Proは、どんなジャンルでもそつなくこなす“優等生”的なサウンド。どこかの帯域が飛び出ているわけではないため、他機種と比べてしまうと低域の量感や、高域の艶やかさに物足りなさを感じることも。しかし、装着時の耳への圧迫感が少なく、音の傾向としても長時間でも聴き疲れしにくい印象だった。

4機種の特徴をまとめると、AONIC FREEはバランスは良好だが低域は少しおとなしめ。クリアで高解像度の音が楽しめ、中高域の描写も高精細だが、曲によってはキツさを感じる部分もあった。質感を豊かに表現するイヤフォンというより、音楽を克明に描くモニターライクなイヤフォンとも言える。

WF-1000XM4は、4機種の中でもっとも低域から高域までのバランスに優れ、多くのユーザーにオススメしやすいサウンド。艶やかな描写にも魅力がある。

MOMENTUM True Wireless 2は、4機種の中で、もっとも低域にしっかりとした厚みがあり、重厚感のあるサウンドを楽しめる。この厚みある低域は映像鑑賞にもマッチするだろう。その一方で、ボーカルの押し出しは少し弱めに感じられた。

AirPods Proは、耳の奥まで押し込まないタイプなので、圧迫感が少なく、サウンドも開放的。長時間の使用でも疲れにくい。サウンドは“優等生”的だが、特徴が少ないとも言える。

Shureならではの高音質と遮音性。好みが分かれるケースサイズ

Shureブランドから満を持して登場した完全ワイヤレスのAONIC FREE。充電ケースやイヤフォンの大きさなど、近年の完全ワイヤレスイヤフォンのトレンドとは一線を画している部分もあるが、同ブランドの有線イヤフォンの特徴である電気的な処理を行なわない高遮音性と、スタジオクオリティを標榜するサウンドといったShureならではの特徴を受け継いでワイヤレス化が果たされていた。

普段、完全ワイヤレスを持ち歩く際、筆者のようにケースをポケットに入れていたり、なるべくカバンなどを小さくしたいという人にとっては、ケースの大きさで好みが分かれるかもしれないが、“Shureサウンド”が好きなユーザーはもちろん、ANCが不要で音質を重視したいユーザーには最適なモデルだろう。

酒井隆文