レビュー

これぞ新時代AKサウンド、「AK ZERO1」×新スタンダードDAP「SR25 MKII」

イヤフォン「AK ZERO1」×DAP「SR25 MKII」

ポータブルオーディオの人気ブランドAstell&Kernの、スタンダードモデルとして知られる「A&norma SR25」が大きく進化。名称を「A&norma SR25 MKII」(直販価格99,980円)とし、新たに4.4mmのバランス出力を搭載したほか、Amazon Music HDなどの音楽配信サービスを高音質で楽しめるプレーヤーとして磨きをかけた。そのサウンドを体験してみたい。

DAP「A&norma SR25 MKII」

さらに、Astell&Kernから、同ブランド初となるオリジナルIEM「AK ZERO1」も同時発売された。その名も「AK ZERO1」(直販価格99,980円)。平面駆動ドライバーなど、種類が異なる3つのドライバーを内蔵したトリプルハイブリッドドライバー方式の意欲作だ。

イヤフォン「AK ZERO1」

今後のAstell&Kernの代名詞となりそうなDAPとイヤフォン。両方試してみよう。

A&norma SR25 MKII

高音質音楽配信サービスが一般的なものになり、完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)が人気の昨今、「スマホ+TWSばかり使っていて、DAPや有線イヤフォンを持ち出す機会が減った」という人もいるだろう。

だが、高音質配信サービスをしばらく使っていると「お金を払ってハイクオリティな音楽を受信しているのだから、スマホじゃなくもっと良い音で聴きたい」とか「オフライン再生用に沢山曲をダウンロードするとスマホのストレージがいっぱいになってしまったので、専用の端末が欲しい」なんて欲求も湧いてくる。

音楽配信サービスに対応したDAPであれば、スマホのストレージを圧迫しなくて済むし、有線の高音質なイヤフォンでサービスが楽しめる。ついでに、ダウンロード購入したハイレゾファイルライブラリも持ち運べる。DAPに求められる機能も変化し、次世代DAPへと進化した。その代表的なモデルになりそうなのが、A&norma SR25 MKIIだ。

左側面に操作ボタン
右側面にボリュームノブ。デザインやサイズはSR25と同じだ

前モデルの「SR25」は、もともと“高音質”“コンパクトさ”“長時間再生”のバランスがとれており、“定番DAP”の1つとして高い人気を誇っている。SR25 MKIIの外形寸法は108.3×63.5×16.1mm(縦×横×厚さ)、重量約178gと、SR25とまったく同じ。連続再生時間は約20時間で、これもSR25とほぼ同じだ。

DAPで重要なDACチップは、Cirrus Logicの「CS43198」をデュアル構成で搭載。この部分も前モデルと同じだが、SR25 MKIIでは、多数の部品が動作しているときに発生するノイズや電磁干渉が、オーディオブロックに影響を与えないようにシールド缶を施しており、そのシールド缶自体も、上位モデル「A&ultima SP2000T」と同様の、導電性の高い超高純度銀メッキを施している。つまり、音質の底上げが行なわれているわけだ。

オーディオブロックに影響を与えないように、超高純度銀メッキを施したシールド缶を内蔵
ブロックダイアグラム。Cirrus Logicの「CS43198」をデュアル構成で搭載している

さらに大きな進化点として、A&normaシリーズとして初めて4.4mmのバランス出力を搭載した。スゴイのは、従来から搭載している3.5mmシングルエンド出力、2.5mmバランス出力を削らずに、4.4mmバランス出力を追加している事。「AKのプレーヤーは4.4mmの出力が無いから……」と敬遠していた人にも、嬉しい進化だ。

A&normaシリーズとして初めて4.4mmのバランス出力を搭載

内蔵ストレージは64GBで、1TBまでのmicroSDカードも追加可能。豊富なストレージ容量は、音楽配信サービスでダウンロードを活用する際にも心強い。BluetoothのコーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、LDACに対応。スマホが古くて対応コーデックが少ない場合は、ワイヤレスイヤフォンの接続相手としてSR25 MKIIを使うのもアリだ。

また、いわゆるBluetooth受信機能として「BT Sink」も備えているので、スマホなどで再生している音を、SR25 MKIIに飛ばして、有線イヤフォンで聴くといった使い方も可能だ。

先ほどからも記載しているが、音楽ストリーミングサービスを聴く事もできる。保証の対象外となるが、ユーザーが自分でアプリの追加できる「Open APP Service」に対応しており、実際に編集部でやってみると、特に難しい操作も無く、一覧からAmazon Musicのアプリをインストールでき、問題なく動作した。自分が持っているハイレゾ楽曲のライブラリを、高音質で再生できるだけでなく、膨大なまだ聴いた事のないライブラリを、高音質なプレーヤーで聴き放題できるというのは、実際に使ってみると非常に魅力的だ。Amazon Musicだけでなく、Spotify、AWA、Apple Musicなどのアプリをインストールすることもできる。

Amazon Music HDアプリを使っているところ

A&norma SR25 MKIIの音をチェック

外観的には“4.4mmのバランス出力端子が増えただけ”に見えるが、音はかなり進化している。Acoustuneのイヤフォン「HS1300SS」で試聴すると、特に低域の深さ、高域の伸びやかさがどちらもグンとアップし、全体的にワイドレンジなサウンドに進化しているのがわかる。

上下の広がりだけでなく、奥行きや左右といった空間の広がりもアップしており“MKII”というより、ワンランク上のクラスのDAPに進化した印象だ。また、低域の沈み込みの深さ、安定感にも磨きがかかっており、“ドッシリとした余裕を感じさせる音”になった事も、上位モデルっぽく感じる理由だろう。

上記のような進化具合は、バランス接続ではなく、3.5mmのアンバランス接続時点で実感できる。「マイケル・ジャクソン/スリラー」冒頭でも、コツコツと響く足音が左に向かう移動感の明瞭さ、その足音が響く空間の広さ、その空間の奥まで響くオオカミの遠吠えなどで、描写力の向上を実感できる。AKのDAPらしい、色付けの少ないニュートラルなサウンドも好印象だ。

次に、4.4mmのバランス接続に変更すると、こうした進化ポイントがさらに一歩前へと前進する。空間はさらに広く、そこに定位する音像も立体感が増すため、音楽の構造が聴き取りやすくなった。

また、バランス接続にすると低域のキレや、沈み込みの深さも増す。これも“上位モデルっぽさ”に繋がるポイントだ。もちろん、例えば上位機の「A&ultima SP2000T」のようなプレーヤーと比較すると、低域の馬力や空間描写などは一歩ゆずるが、SR25 MKII自体に何か弱点があるわけではなく、バランスの良い機体に仕上がっているため、「お、上位機にかなり肉薄しているな」とか「SP2000Tよりだいぶ小さいのに、ここまでの音が出てるってスゴイんじゃない?」と、逆にポジティブに感じる。

価格が近いライバル機として、ソニーのウォークマン「NW-ZX507」と聴き比べてみたが、低域の深さ、重さ、そして全体のメリハリといった面で、SR25 MKIIの方がクオリティが高い。ただ、高域のなめらかさ、繊細さではNW-ZX507にも魅力があり、良い勝負ではある。このあたりは好みにもよるだろう。

最近気に入っている「コールドプレイ&セレーナ・ゴメス/Let Somebody Go」を聴くと、肉厚な中低域がゆったりと流れてきて、非常に気持が良い。この重心の低さ、安定感は、完全ワイヤレスイヤフォンではなかなか味わえない。「DAPと有線イヤフォン持っててよかった」と感じる一時だ。

別売で専用PUレザーケース「A&norma SR25 Case」も7,980円で用意されている。イタリア・ミラノに拠点を置くポリウレタンメーカーSynt3が製造しており、柔らかく耐久性のあるLASKINAポリウレタン生地を使用。高級レザーのような質感が特徴だ

AK ZERO1

AK ZERO1

Astell&Kernブランド初のオリジナルIEMが「AK ZERO1」だ。このネーミングには「Astell&Kernの新たなスタート」という意味と、「イン・イヤー・モニターのニュースタンダードになる」という目標が込められている。多くのDAPを手掛けてきたAKが、「自分達が意図した音が楽しめるイヤフォン」として開発しているだけあり、名前からもかなり気合が伝わってくる。

ドライバー構成は、特別な平面駆動型ドライバー×1、BA(バランスドアーマチュア)ドライバー×2、5.6mmのダイナミック型ドライバー×1の、トリプルハイブリッド構成だ。

中でも気になるのが“特別な平面駆動型ドライバー”だが、これは「マイクロ・レクタンギュラー・プラナー・ドライバー」と名付けられている。小さく作るのが難しく、ヘッドフォンなどに使われる事が多い平面駆動(プラナー)ドライバーを、IEMに内蔵すべく、特別に開発されたものだそうだ。

内部構造。ドライバーで、いちばん左に見える、BAっぽい外観がマイクロ・レクタンギュラー・プラナー・ドライバー。その右下に2つセットになっているのがBAドライバー、右上のグレーの丸いパーツがダイナミックドライバーだ

特徴は、非常に軽量な平面振動膜を採用している事。素材としては、高分子膜と金属薄膜を組み合わせた複合振動板になっているため、BAのようなクリアさと、平面上に作られたコイルで駆動する事でダイナミック型のような臨場感も追求。つまり、“BAとダイナミックのいいとこ取り”を狙っているわけだ。

なお、このマイクロ・レクタンギュラー・プラナーには、強力な磁石が使われているが、この磁石をメタルボディで封入することで磁束の漏れを抑え、磁束密度を高め、能率を向上させたという。

BAドライバーも、パーツを買ってきてそのまま搭載しているのではなく、カスタム設計されたアーマチュアとコイルを使ったもの。ダイナミック型は、「完全に自動化されたエラーフリーのプロセスで作られた」というもので、高精度な作りが自慢。手作業で組み上げられたドライバーと比べ、低歪で低域再生能力に優れるそうだ。

方式が異なるユニットを組み合わせる場合、ネットワークの作りも重要になる。AK ZERO1では、各ドライバーのパラメーターを把握した上でクロスオーバーネットワークを設計し、AKが求める理想的な周波数特性を追求。同時に、各ドライバーを配置する位置にもこだわり、μm単位で精密に管理された3Dプリント技術を用いて特別に製造された音響チャンバーに収めている。この精密さにより、ドライバーの不要な動きや共振を排除した。

外観的な特徴は、アルミニウム精製技術を使い、CNC機械加工で加工されたハウジングにある。“まさにAK”というカラーリングと形状で、光を当てた時の見え方の違いなどは、AKのDAPにも共通する。

角張っているので、“耳にフィットしやすいのかな?”と不安だったが、実際に装着すると、これが意外とピッタリ耳に収まる。というのも、角張っているのは表側で、裏側は内耳道に沿うように、ゆるやかなカーブがつけられており、耳にフィットする形状になっているのだ。

角張っているのは表側だけで
裏側は内耳道に沿うように、ゆるやかなカーブがつけられており、耳にフィットする

イヤーピースは、シリコン製のXS/S/M/L/XLサイズと、ウレタンフォームのフリーサイズが付属する。

ケーブルは、4芯構造の純銀コートOFC。イヤフォン側の端子はMMCXで、入力端子はステレオミニだ。

ケーブルは、4芯構造の純銀コートOFC
イヤフォン側の端子はMMCX

なお、別売だが「AK PEP11」(17,980円)の4.4mmバランスケーブルも用意。付属のステレオミニケーブルと同様に4芯純銀コートOFCを採用している。

4.4mmバランスケーブル「AK PEP11」
付属のステレオミニケーブルと同様にm4芯純銀コートOFCを採用

SR25 MKII + AK ZERO1の音をチェック

SR25 MKIIにAK ZERO1を、まずはアンバランスで接続して音をチェックしよう。これぞ「新時代のAstell&Kernサウンド」を体現するような組み合わせと言えるだろう。

AK ZERO1のサウンドだが、まず音が出た瞬間にわかるのが「繋がりの良い自然な音」と「高精細さ」だ。

イヤーピースを外したノズル部分

BAとダイナミック型を組み合わせたハイブリッドイヤフォンの場合、各ユニットの特徴を発揮しようとして、「高域はBAでカリカリ」+「低域はダイナミックでウォーム」という組み合わせになってしまい、「なんか上の音と下の音がチグハグだな」と感じてしまうイヤフォンも多い。

だが、AK ZERO1のサウンドはとても自然だ。BAっぽいシャープさがありながら、BAほどキツくない、硬質ではない中高域から、ダイナミック型の低域までが同じ色付の少ない音で繋がっている。高域だけ強く主張したり、低音だけ元気だったりするのではなく、モニターライクな、バランスの良いサウンドに仕上がっている。

ネットワークの作り込みの凄さを実感できるポイントであり、しばらく聴いていると、3種類のドライバーを組み合わせたイヤフォンだという事を忘れて、出来の良いフルレンジユニットを聴いている気分になってくる。

次に、4.4mmのバランスで接続。「村治佳織/ドミニク・ミラー」の「悔いなき美女」を再生すると、静かで広大な音場が、アンバランス接続時より確かに広くなり、クラシックギターを爪弾く細かな音が広がっていく様子が良く見える。

音像も立体感が増して、厚みが出てくる。非常に繊細な描写で、ゾクゾクするような魅力的な音なのだが、音像のエッジはキツ過ぎず、自然さもある。この絶妙なサウンドに、マイクロ・レクタンギュラー・プラナーも寄与しているのだろう。

それでいて、腰高なサウンドにもならず、アコースティックギターの筐体で響く低音には「ズン」とした重さが感じられる。そしてこの中低音もトランジェントが良く、ハイスピードで、中高域のシャープな描写にまったく負けていない。秘めたポテンシャルの高さを実感する音であり、SR25 MKII + AK ZERO1の組み合わせで使うのであれば、4.4mmバランスケーブルの「AK PEP11」はぜひ用意したいところだ。

従来のイヤフォン市場には「BAユニットを沢山搭載するのが高級モデル」という風潮があったが、現在ではハイブリッドモデルが増え、振動板の素材や構造にこだわったダイナミック型のみの高級機も登場。“自然なサウンドならダイナミック型がいい”と感じているオーディオファンも多いだろう。

AK ZERO1は、そんなダイナミック型ファンにも一度聴いて欲しい。ダイナミック型のような自然さ、バランスの良さがありながら、ダイナミック型とは異なる中高域の描写力に、魅力を感じるはずだ。

新時代のAstell&Kernサウンドを体現する組み合わせ

SR25はもともと、サウンドとサイズと価格のバランスがバツグンで、完成度の高いDAPだった。それがSR25 MKIIになり、レンジや低域がさらに進化し、4.4mmバランス接続にも対応。弱点がほぼ無くなり、10万円以下でDAP選びをする時は、選択肢の中でも強力な1つになったと感じる。

そしてAK ZERO1も、AKブランド初のイヤフォンにも関わらず、いきなり完成度が高く、荒削りな部分がない。ソリッドなデザインで「耳に当たって痛いのでは?」と心配したが、裏側がなめらかで装着感の良さもバツグン。そのため、「次のモデルではここを改善欲しい」とか「こういう派生モデルが欲しい」みたいな要望が浮かばない。「もう、これでいいじゃん」感がスゴイイヤフォンだ。

SR25 MKIIは、どんなイヤフォン/ヘッドフォンと組み合わせても良い音を鳴らしてくれそうだが、その“基本的な再生能力の高さ”が、AK ZERO1と組み合わせた時にも活きており、普通のハイブリッドでも、BAでも、ダイナミックでもない、AK ZERO1の音の魅力をしっかり引き出している。

端子の種類や配信サービスへの対応など、様々なニーズに応えながら、“高音質”というDAPやイヤフォンの基本となる軸はブレずに進化させていく。SR25 MKII + AK ZERO1の組わせからは、Astell&Kernのそんな姿勢が伝わってくるようだ。

(協力:アユート)

山崎健太郎