レビュー

薄くても多機能で高音質。マランツAVアンプ「NR1711」で2ch、シアター入門

マランツの薄型AVアンプシリーズの新モデル「NR1711」

105mmの薄型AVアンプでお家時間の充実を

全国的にコロナの感染状況が落ち着きつつあり、観光や会食など、以前のような日常を少しずつ取り戻しつつある人も多いだろう。一方で、寒い冬の到来にあたり、家で楽しく過ごす時間をさらに充実させたいという人も多いはず。思い切って、映画や音楽、ゲームなどのサウンドを強化したい、ゆくゆくはホームシアターに拡張したい……そう考えている人に、今回は導入しやすく機能も本格的なAVアンプをご紹介しよう。

AVアンプといっても、一般的にイメージするガチな“巨大サイズ”ではない。テレビラックやメタルラックの空きスペースにも収まる、高さ105mmの薄型モデルだ。製品名は「NR1711」。昨年9月に発売された、マランツの薄型AVアンプシリーズの新型だ。

マランツと言えば、日本はもちろん、世界でも認められるオーディオビジュアル製品のトップブランドの1つ。同ブランドが誇る人気シリーズがこの薄型AVアンプだ。価格は税別94,000円、税込みで103,400円。

外観は、マランツ特有のMを横から見たような印象的なデザイン。幅はフルサイズの440mmで、奥行きは378mmだが、高さは105mmと非常に薄い。写真のように不織布マスクと同じくらいの寸法だ。

高さは105mmと非常に薄い

AVアンプは機能が豊富なので、全部書くと大変長くなってしまう。そこで、実際の使用シーンや、使ってみての活用例、そして使ってどう感じたのかをお届けしよう。

AVアンプって何?

そもそも「AVアンプって何?」という人のために、一言で表すならば“オーディオの入り口に最適な何でも屋”だ。AVアンプを使えば、音楽から映像までどんなソースも豊かな音で楽しめる。

例えばNR1711の場合、音楽向けにアナログRCA入力はもちろん、光/同軸のデジタル入力を装備。CDプレーヤーなどと接続して普通のアンプとして使えるほか、LAN端子やWi-Fiも内蔵し、Amazon music HD、Spotify、AWAといったストリーミングサービスから音楽を再生する“ネットワークオーディオ”にも対応。

同一LANのNASに保存したハイレゾ音源も再生可能だ。AirPlay 2やBluetooth(コーデックはSBC)にも対応するのでスマホからも手軽に音楽を再生できる。

NR1711

ここまでは音楽だけの話しだが、“AVアンプ”は“テレビとソース機器との間に挟むオーディオアンプ”という側面が強く、その視点で見るとわかりやすい。例えば、Blu-rayレコーダーでテレビ放送や映画ソフトを楽しむ場合、普通ならレコーダーからテレビにHDMIケーブルを繋ぐところだが、テレビではなくNR1711に繋ぐのだ。

NR1711には、HDMIの出力があるので、そこからテレビに繋ぐ。これでテレビにBlu-rayレコーダーの映像が映る。AVアンプには基本的に、映像には手を加えずパススルーする機能が備わっている。

テレビの内蔵スピーカーは使わず、音はNR1711に繋いだスピーカーから聴く。ちなみに、テレビ側が対応していれば、NR1711とテレビを繋ぐHDMIケーブル一本で、テレビ番組の音など、テレビ側の音声もAVアンプから聞く事ができる。

昨今のテレビは、動画見放題サービスへの対応が進んでいるが、NR1711のeARC機能によって、テレビからAVアンプへの音声信号入力にもケーブルを繋ぎ替えることなく対応できる。従来のARCに加えて、新たに対応したeARCは、5.1chや7.1chのリニアPCM信号、Dolby TrueHD/DTS-HD Master Audio、Dolby Atmos/DTS:Xの伝送も可能になった(※AtmosでもDolby Digital Plusコーデックの場合はARCで対応可能)。

つまり、NetflixやAmazon Prime Videoなどのサービスを大画面で楽しんでいる方も、音質を向上できるというわけだ。6系統のHDMI入力には、レコーダーやプレーヤーの他に、ゲーム機を繋いでもいい。マルチチャンネルの臨場感はゲームの没入感を何倍にも高めてくれるだろう。

上記のように出来ることが多いので、尻込みしてしまう方もいるかもしれない。しかし、いきなり全部の機能を理解し、使いこなす必要はない。かくいう私も、初めてのオーディオはAVアンプから始めたが、「初代PlayStationのドルビープロロジック対応タイトルを迫力ある音響で楽しみたかった」というだけの理由で購入した。程なくPlayStation 2に買い換えてDVDで5.1chを堪能したのだが、要は“あまり深く考えなくていい”。AVアンプは、本来そのくらいラフで気軽な気持ちで手を出していい、懐の深い製品なのだ。

NR1711

箱から出したNR1711は、薄い見た目に反して重く、8.3kgある。本格的なオーディオ機器が初めての方は、きっと驚くだろう。薄くても重いのは、それだけ物量が投入されているためだ。

なんといっても、105mmの薄さが最大のメリット。一般的なAVアンプは190mm近くあり、薄い機種でも150mmや160mmだ。NR1711はそれと比べると圧倒的に薄い。奥行きはミニコンポと比べるとやや大きいが、AVアンプでは標準的。フロントパネルは、マランツ伝統のルックスでMの字を主張している。見るたびに、マランツの製品を所有しているという独特の満足感を味わわせてくれる。

背面。HDMI入力が6系統並んでいる。HDMI 6は8K入力までサポート
Wi-FiやBluetooth用のアンテナ端子、LAN端子なども備えている
奥行き

バックパネルを見てみよう。見ての通り、入出力の端子がいっぱいだ。AVアンプが大きくなりがちなのは、端子の種類と数がプリメインアンプなどと比べて非常に多いためでもある。多様なAV機器を接続し、統合するホームエンタテインメントの“核”なので、無理もないともいえる。

一方でNR1711は、豊富な端子を備えていながら、薄さも実現しているのがポイントだ。前述のとおり、HDMI入力は6系統、うち1系統は8K/60pと4K/120pのパススルーに新たに対応。すべてのHDMI端子が最新の著作権保護技術「HDCP 2.3」に対応している。

BS放送やネット配信、4K UHD Blu-ray、次世代ゲーム機など、より高画質な映像を楽しむために、HDR10、Dolby Vision、HLG(Hybrid Log-gamma)に加えて、新たにHDR10+およびDynamic HDRにも対応。ゲームを嗜む諸兄には、ALLM、VRR、QMS、QFTにも対応といえば、本機の隙のなさが伝わるだろう。

CDなどを接続するアナログ入力や、プリアウト出力なども備えている
HDMI出力の部分に、8K出力や、ARC/eARCに対応している事などが書かれている

2chアンプとしての音からチェック

まずは全ての基本、2chのサウンドをチェックしよう。本機は7ch分のパワーアンプを搭載しており、フルディスクリート構成のパワーアンプが、同一の構成/クオリティで作られている。実用最大出力100W、定格出力は50Wとなる。

筆者の防音スタジオStudio 0.xに設置。ソース機器はアイ・オー・データ機器のNAS「Soundgenic」とUSB-DACのiFi Audio「NEO iDSD」。DACからのアナログ出力を、RCAケーブルでNR1711のCD入力に接続。スピーカーはブックシェルフタイプのDALI「RUBICON2」だ。

ハイレゾ音源をいくつか試聴。パッと聴き、明るめの音色にまず気付かされる。高域はブライトで、中低域はあまり膨らませずにスッキリとした印象だが、ローエンドまで音楽に必要な帯域は出ている。楽器の音の輪郭がとてもはっきり描写できており、分離も優れているため、オーケストラなどの一発録音ものは、ホールの高さや奥行きがリアルに感じられた。一般的なオーバーダビングの楽曲では、各トラックの音の粒が細かく、音数の多い楽曲でもサウンドステージが混濁していない。

現代的なフュージョンでは、ビートの早さにきちんと追従できている。音の傾向として特筆すべきは、音像の輪郭の精密さ、音場の透明感だ。

薄型AVアンプなので、もっと巨大で高価なアンプと比べると、電源やアンプ部の物量差を感じる部分はある。例えば、鬼太鼓座のアルバムから「鼕々(とうとう)」やFINAL FANTASY VII REMAKEのオーケストラアルバムの「Orc: 闘う者達 -バトルメドレー-」などをかけると、音の重心がもう少し下がって欲しい。一方で、一般的なポップスでは、不満はない。

オーディオで最も重要な2ch再生が予想以上に高いクオリティだったので、映画の前に2chソースの映像コンテンツもいくつか試してみよう。

今年の秋に発売されたPS4のゲーム「黎の軌跡」をPS5でプレイ。こちらはサラウンドではなく、フロントのみの2chで制作されたゲームだ。まず、音像の粒立ちがすこぶる良好だ。効果音やボイス等の音像はシャープで滲み無く描いているし、見通しのいい音場はリバーブの余韻もクリーンだ。結果として奥行き感も申し分ない。プレーヤーの操作に応じて効果音の鳴るタイミングが変わるゲームでは、音の明瞭度が臨場感に欠かせない要素であることに気付かされる。

ソニーのUHD BDプレーヤー「UBP-X800M2」

続いて、ソニーのUHD BDプレーヤー「UBP-X800M2」と接続し、2chのリニアPCMで音声が収録されたアニメを視聴。NR1711のサウンドモードは、ピュアダイレクトを選択した。本モードは、ディスプレイをオフにして、アナログビデオ回路を停止することで音質を高めるという。

ソースは、KeyのPCゲームが原案となった外伝小説をアニメ化した作品「planetarian(プラネタリアン)~雪圏球~」だ。テレビ放送や劇場上映されていない、純粋なOVA作品だ。

最初に気付くのは台詞の音の良さだ。声の輪郭はとてもくっきりとしていて、非圧縮のPCM音源らしい精緻な雰囲気を味わえる。音の純度も高く、自然と物語の世界観に集中してしまう。BGMとセリフの分離が良好で、効果音が鳴っても他に埋もれずちゃんと聞こえてくる。劇場作品でなくても、思わず腰を据えてじっくり観たくなる音のクオリティだ。

グッと音が良くなる音場補正機能

映画を再生する前に、AVアンプでは定番の音場補正機能を使ってみよう。AVアンプは、一般家庭にホームシアター音響を作り出す機器だが、一般家庭は映画館の様に理想的な環境ではないし、映画館レベルのものを構築するのはほぼ不可能と言ってもいい。

そもそも部屋は左右非対称で家具も不規則に置いてあり、床や壁や天井は映画館よりもヤワだ。専用室を作った筆者ですら、リスニングポイントから左側に録音用のラックやデスクがあって、左右対称の音響環境ではない。そういった一般家庭ならではの事情を解決すべく、AVアンプを開発する各社は、マイクを使ったテストサウンドの測定と、その結果を踏まえた音場補正機能を多くの機種に搭載している。

NR1711は「Audyssey MultEQ」という技術を採用している。Audyssey(オーディシー)は、デノンやマランツのAVアンプに搭載されている音場補正技術でその採用の歴史も長い。実際のテストは、最大6ポイントの測定結果をもとに各スピーカーの距離、レベル、およびサブウーファーのクロスオーバー周波数を最適な状態に自動設定してくれる。

接続されたスピーカーとリスニングルームの音響特性を測定し、時間軸と周波数特性の両方を補正することで、ルームアコースティックを最適化するという。

Audyssey MultEQを設定するには、まずスピーカー/アンプの割り当てを設定する。画面の内容を見て、一番自分の環境に近い物を選ぼう。サラウンドバックやトップスピーカーが無い場合は、フロントスピーカーをよりハイクオリティにドライブするバイアンプ接続も選べる。バイアンプ対応のスピーカーを持っていれば、迷わず試してみよう。

2chスピーカーでも十分楽しめるが、個人的には、リアのサラウンドスピーカーは一組だけでもあった方がいいと思う。また、ダイアログを担うセンタースピーカーは必須ではないと思うが、サブウーファーは1台で十分なのでぜひ揃えて欲しい。

Audyssey MultEQの測定に話を戻そう。付属の測定マイクを、これまた付属のマイクスタンドに取り付け、実際に自分が聞く(座る)エリアに設置。マイクを、耳の高さに合わせる。あとは、画面の指示に従って少しずつスタンドの位置をずらしながら6ポイントすべてを測定していく。

筆者宅にはカメラの三脚があったので、付属のスタンドではなく三脚を使用することにした。テストトーンは、接続しているスピーカーの数だけ個別に鳴る。

付属のマイクで測定しているところ

筆者環境では、フロントは2つ、センターは無し、サラウンドが左右に1つずつ、サラウンドバックが後方に2つずつ、天井に2つスピーカーがある。サラウンドバックと天井は、いっぺんに接続できないので、ひとまずサラウンドバックのみ接続して測定した。

サラウンドが左右に1つずつ、サラウンドバックが後方に2つずつ

存在しないスピーカーは、最初の測定の時点で検知されて、次の測定ポイントからはスキップされるので安心だ。測定が終わると、Dynamic EQ機能とDynamic Volume機能のON/OFFを設定するのだが、これらはOFFにした。前者は、小音量時に聞こえにくくなる帯域を補正してくれる機能、後者は映画などの音量の大小が激しいコンテンツを自動的に整えてくれる機能だ。一般的な住環境では助かる機能だと思う。

なお、ドルビーイネーブルドスピーカーについては、Audyssey MultEQによる自動補正に加え、天井までの高さを設定することでさらに補正の精度を高めることができる。天井にスピーカーを設置できない環境では、天井へ反射させることで真上からの音場を再現するドルビーイネーブルドスピーカーは強い味方だ。筆者も以前、6畳1Kのアパートに住んでいた頃はフロントスピーカーの上に乗せていた。

天井設置が難しい場合は、ドルビーイネーブルドスピーカーを使うというのも手だ

AVアンプの音場補正は、マルチチャンネルのみで効果が発揮されると思われる方もいるかもしれないが、そんなことはない。フロントスピーカーのみの使用でも効果は明らかだ。「planetarian~雪圏球~」の同じシーンをピュアダイレクトと補正有りのAutoと比較すると、まず周波数バランスが変わった。部屋や家具に吸音されている帯域、主に中域を補正で増強させていることが分かる。台詞は、音場全体にべったりと貼り付くように定位が曖昧だったのが、真ん中により近くなって自然な音場感が実現した。いわゆる”ファントムセンター“がより明確になった。

さらに画面の中から聞こえるような自然な鳴りに変わったのにも驚いた。スピーカーのユニットと、スクリーンの距離は数十cm離れているが、映画館のようにスクリーンの内側から聞こえている感じになった。これはメーカーが謳っている効果にはないので、偶然かもしれない。音の鮮度感は少しばかり犠牲になるが、メリットの方が大きいと思う。

サラウンドスピーカーを設置できるご家庭はもちろん、フロントスピーカーにサブウーファーを加えた2.1chのシステムでもぜひ測定を実施していただきたい。筆者のように専用に設計されたシアタールームでも効果が明確に感じられるのだから、一般家庭であればなおさら使わない手は無いと思う。

ホームシアターサウンドをステップアップしながらチェック!

次にリニアPCM 96kHz/24bitの2chで収録されたライブBlu-rayをチェックしよう。「CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019」の中野サンプラザで催されたファイナル公演をBlu-ray化に合わせて映像/音声ともに新たにリミックスしたファン垂涎の1枚。まずはピュアダイレクトで聴く。

本機の解像度の高さを活かして、パーカッションやシンバルなどのきめ細やかな音の鳴りがより際立っている。楽器数が非常に多いが、音場はゴミゴミせず、ひとつひとつが明瞭に鳴っていて聴きたい楽器に脳内でフォーカスを合わせるのに苦労しない。一方で中低域のエネルギー感の不足は気になる。「時のみる夢」でドラムのタムが激しく鳴らされる中盤のシーンは迫力がいまひとつだ。だが、Autoモードで視聴すると、中域を中心に音が分厚くなって迫力が確実に増した。反面、楽器の音像がややファットになるので好みが分かれそうだ。補正を使うかはON/OFFで効果を比較しながら決めるのがいいかもしれない。

いよいよここからは、映画のマルチチャンネルを視聴しよう。収録音声フォーマットごとにスピーカー構成を変えながらチェックしていく。サラウンドバックやトップミドルなど、導入ハードルの高いスピーカー環境もレビューしているので、「将来的にそれらを購入したら、こんな音になるのか」と、イメージしていただきたい。

まず、Dolby TrueHD 5.1chで収録されている洋画「ミッドウェイ」と、DTS-HD Master Audio 5.1chで収録されているアニメ「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」をセレクト。

「ミッドウェイ」は、センター無しの4.1chから視聴した。フロントとサラウンドが一組ずつ。あとはサブウーファーの計4.1chだ。おそらくこれがサラウンドスピーカーを追加する場合の最も実現しやすい構成だろう。

センタースピーカーは、個人的にダイアログだけが中央から聞こえるのがあまり好みではないので設置していないが、リアに置くスピーカーに比べて設置のハードルは低いので映画館らしさを味わいたい方は積極的に導入されたい。

ピュアダイレクトでまずは視聴。パートは、冒頭の真珠湾攻撃~レイトン少佐が建物に入るまで。補正無しでもまったく悪くない。十分に大迫力だ。砲撃のシーンも瞬発力があって、説得力がある。サブウーファーは、戦争映画やアクションなど派手に音作りされたソースではうるさい時もあるので、少し音量を絞った。海外のアクション映画らしくダイナミックレンジは大きいが、セリフは聞きやすい。分離がいいからだろう。もし、深夜などで音量を出せないときはDynamic Volumeを使おう。

続いて、サラウンドバックを加えた6.1ch。サウンドモードは、ドルビーサラウンドを選択した。DSP演算によって、5.1ch等で収録されたチャンネルベースのサラウンドを、サラウンドバックやドルビーアトモスイネーブルド、トップスピーカーなどへ割り振ってくれる。

一聴して、映画のシーンにすっぽり入り込んだような感覚。サラウンドバックが鳴るようになったことも大きいが、ドルビーサラウンドの高精度演算により、隙間の少ない音響空間が実現した。エンジン音や風の音などの環境音が辺りを包み込む。銃撃などはきちんと映像に合った方向と定位で鳴ってくれる。恐怖がより増幅された。

試しに、同じドルビーサラウンドモードで、サラウンドバックを鳴らさないように設定を変えてみた。意外にも大きな違和感はない。聴き比べれば物足りなさはわかるかなという感じ。確かに真後ろ近辺に音場の穴がある気がする。しかし、サラウンドスピーカーの置く位置を工夫すれば(真横から後方にすれば)ある程度はカバーできるから、サラウンドバック無しが大きく劣っているとは必ずしも言えないだろう。

試聴に使ったソフト

「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」は、夜のジャングルで大洗学園に知波単学園が奇襲してから、大きな凹地に落ちるまでのシーン。変化球的に、本来サラウンドスピーカーやトップスピーカーを設置できない環境で使用するDTS Virtual:Xを適用してみた。スピーカーは4.1chのシステムで使ってみる。

高さ方向を含むあらゆる方向からのサウンドに包み込まれるイマーシブオーディオ体験が可能という触れ込みのDTS Virtual:Xは、2chソースから5.1chや7.1chといったチャンネルベースのサラウンドにも適用できる。元の信号がDolbyの場合は、Dolby Atmos Height Virtualizerという専用のモードもある。

効果のほどは、少々演出過剰気味だ。エフェクトが強く掛かり過ぎて脂ぎった感じ。効果音の定位は散漫になってしまう。DTS Neural:Xに変更すると、定位が定まりつつ、包囲感が自然に広がって、サラウンドの隙間も減った。サラウンドスピーカーや天井スピーカーが設置できる場合は、Neural:X。設置できない場合は、Virtual:Xをお勧めしたい。

天井に2つスピーカーを配置している

続いて、トップミドルを有効にした4.1.2ch構成でNeural:Xを選択。事前にスピーカーの繋ぎ替えとAudysseyの測定の再実施している。トップスピーカーは、前方からトップフロント、トップミドル、トップリアと呼ばれていて、筆者宅では視聴エリアの真上にトップスピーカーがあるため、トップミドルを選択した。天井方向の隙間がなくなった感じはあるが、わざとらしく鳴っていないのは好印象。上方から聞こえると効果的なそれっぽい音を天井方向に割り振っている模様だ。これみよがしにトップスピーカーに定位させるというよりも、プラネタリムのてっぺんの穴を塞いだような音場に変わった印象。台詞の定位がやや上方に広がる感じになるので、好みは分かれそうだ。

試しに、Neural:XもVirtual:Xも使わずに、DTS-HD Master AudioのストレートデコードでAudyssey MultEQのみ有効にして確認した。4.1chでのチェックになる。定位はよりはっきりと、効果音や戦車の軌道の位置関係もシャープになった。天井方面の包囲感は一気に減る。真後ろの音場の抜け感は気になった。一長一短かと思う。ストレートデコードで楽しむか、Neural:XやDolby Surroundにするかは、映画ごとに好みで選ぶといいだろう。

部屋を暗くして楽しむホームシアター向けに、フロントディスプレイの明るさを抑えるディマー機能も搭載している

最後にチェックするソースは、オブジェクトオーディオのDTS:Xで収録された「ジュラシック・ワールド/炎の王国」。Dolby AtmosやDTS:Xといったオブジェクトオーディオでは、天井スピーカー(トップスピーカー)か、天井に反射させて仮想的にトップスピーカーの効果を得るドルビーイネーブルドスピーカーのどちらかを使うとより本来の意図に近いサラウンドが実現出来る。

サラウンドバックからトップミドルにスピーカーケーブルを繋ぎ替えて、Audysseyの再測定を行った際、測定結果が2種類保存出来たのは暁光だった。筆者のような専用室を使っていない場合でも、3.1ch用の測定結果と5.1ch用の測定結果、それぞれ保存しておいて、リアスピーカーを出す場合と出さない場合で使い分けるといった例が想定される。リビングシアターを構築している方は、リアスピーカーを出せないというシチュエーションも有り得るだろう。測定は、準備も含めると10分くらいかかってしまうので2種類保存出来るのは地味に嬉しい機能だ。

Audysseyによる補正の設定を2つ保存できる

視聴したのは、オーウェン一行が火砕流から走って逃げるシーン~海に墜落~ジャイロスフィアを脱出するまでだ。最初に2chでVirtual:Xを有効にしてチェックする。だいたい真横ぐらいまで仮想的なスピーカーの存在が感じられた。恐竜が画面の右端・左端を奥から手前に移動していくシーンは、自分の座っている位置からちょっと後ろくらいまで定位の移動が分かる。恐竜がぶつかり合う重い音が迫力満点。サブウーファーを無効にすると、低域が全部フロントスピーカーに振り分けられてしまうからか、少しセリフが聞きにくいのは惜しい。

次に2.1chにして同じくVirtual:Xで確認。フロントに振り分けると出過ぎだった重低音(LFEチャンネル)は、サブウーファーのボリュームを下げることでいい案配に調整できる。中高域に掛けて、歪み感も少ない。台詞も聞きやすくなる。音場がすっきりしたお陰でジャイロスフィア内に水が流れ込んでくるシーンでも空間の狭さが分かりやすい。

今度は、サラウンドスピーカーを追加してNeural:X。サラウンドスピーカーが一組あるだけでまったく違う。横の定位も俄然はっきりした。ティラノサウルスの咆哮が横後方からしっかり聞こえたときは、思わず拳を握り締めた。ジャイロスフィア内で水が流れ込んでくるところや噴石の落下など、上からの音が予想以上に感じられる。

さらにサラウンドバックを追加してDTS:Xのデコードでそのまま視聴する。効果音やBGMがより明瞭に聞こえるようになった。スピーカーの数が少ないと、1つ1つのスピーカーが受け持つ音の情報量が多いため、ややゴミゴミした音場感になることがあったが、空間の容積や効果音の定位も臨場感が豊かに変わった。噴石がジャイロスフィアの上方に落下して海水が入ってくるシーンは格段にリアルになって恐怖感が増す。

今度はサラウンドバックの接続を外し、トップミドルが鳴るように繋ぎ替える。Audysseyのプリセットは、トップミドルで測定した結果を呼び出す。思ったより、天井スピーカーに割り当てられる音は少なめだ。派手に天井方面から効果音等を鳴らすというよりは、包囲感を充実させるために使われている印象。噴石落下や、ヘリの飛行などは、ちゃんと真上から聞こえるので新感覚だ。

現実問題として、サラウンドバックを置くか、ドルビーイネーブルドスピーカーを置くかは悩み所かもしれない。天井設置のトップスピーカーは現実的ではないので、どちらかを選ぶことになるだろう。視聴者の人数、視聴者からスピーカーまでの距離、部屋の広さ、等々複数の要素が絡むため、一概にどちらが最適かは難しいところだ。とはいえ、まだまだオブジェクトオーディオの映画ソフトは少ないため、設置できるならサラウンドバックの方が恩恵は大きいと筆者は考えている。チャンネルベースの映画ソフトなら、経験上、トップスピーカーよりサラウンドバックを鳴らした方が自然に決まるからだ。

音楽配信も楽しめるAVアンプ

最後に、ネットワークを使用した音楽再生も紹介しよう。ストリーミング再生とリモコンアプリだ。

Amazon music HDは、HEOSアプリでAmazonアカウントにログインして選曲すると、AVアンプ本体で受信・再生できる。CDプレーヤーなどのソース機器を買わなくても、AVアンプとスピーカーだけで膨大な音楽が楽しめるのは魅力だ。残念ながら、自分のライブラリやプレイリストは参照出来ないが、公式のプレイリストはアクセス可能だ。

なお、再生バッファを貯めているのか、曲の再生時に1~3秒の待ち時間が入る。同じHEOSを採用しているデノンのAVアンプも同じような挙動なので、今後の改善を期待したい。

ネットワークを介した操作もできる。「Marantz 2016 AVR Remote」という公式のリモコンアプリだ。ボリューム調整や入力切替えはもちろん、各種設定(一部の設定に限る)も可能だ。反応はややもっさりしていて、メニュー階層の遷移で一瞬のラグがあるのが気になるが、ボリュームやミュートの操作はサクサク反応した。

以上のように、2ch再生から、サラウンド再生、ネットワーク機能など、シーン別に試聴してきたが、「こんな使い方をしたいかも!」と、ピンとくるポイントが1つでも見つかってくれたら嬉しい。

AVアンプはできる事がとても多く、本記事ではNR1711の全てをとても紹介しきれない。一方で、多機能で高音質ながら“薄い”というのがNR1711最大の魅力だ。これまでホームシアターの構築を躊躇していた人にこそ、設置しやすいスリムサイズはなによりの魅力だろう。

そして、見た目に似合わず本格派な仕様とよくばり機能。そして拡張性の高さは、長く愛用できるという安心感にも繋がると思う。音楽に映画にゲームに、そしてストリーミングまで。音を楽しむあらゆるエンタテインメントがこの一台に集結している。音にこだわる最初の一歩をAVアンプから踏み出してはいかがだろうか。”オーディオの入り口“は、実はとっても入りやすい。

(協力:マランツ)

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト