レビュー

“音を犠牲にしない耳栓!?”AZLAのポム栓「POM1000」使ってみた

“ポム栓”こと、AZLA「POM1000」

“静かな場所で仕事や勉強に集中したい”と思って、喫茶店に出かけたら、思った以上に店内が騒がしくて断念。持っているイヤフォンを耳栓代わりに装着したら、静かにはなったけど、耳が詰まったような閉塞感がなんか気持ち悪くてあんまり集中できなかった……なんて経験をした人はいないだろうか。

職業柄、喫茶店だけでなく、シェアオフィスから駅のホーム、映画館のロビーから公園まで、あらゆる場所で記事を書くので“騒音をいかに遮断して集中力を高めるか”は、永遠の命題だ。耳栓は、どんな環境でも手軽に静寂が得られて良いアイテムなのだが、快適に集中するためには“とにかく音を全部遮断すれば良い”わけではないのが難しいトコロ。

そんな“耳栓難民”のもとに、面白い新製品の情報が飛び込んで来た。AZLAが発売した「POM1000」というモデルで、なんでも“ライブの音質を犠牲にしない耳栓”だそうだ。ちなみに“POM1000”なので通称“ポム栓”と呼ばれている。

「音を遮断する耳栓で、音質を犠牲にしないってなに?」とツッコミを入れたくなるが、実際使ってみると、これが非常に面白い“新感覚耳栓”だった。

イヤフォンとイヤーピースのプロが作った耳栓

AZLA「POM1000」。上からガンメタル、ブラックの2色展開だ

AZLAと言えば、ポータブルオーディオファンにはお馴染みのイヤフォンメーカー。近年は独創的なイヤーピース「SednaEarfit」シリーズも展開し、人気を集めているので“イヤーピースも得意なメーカー”と認識している人も多いだろう。

要するにPOM1000は、“イヤフォンとイヤーピースのプロが作った耳栓”というわけだ。価格は6,580円と、音も出ない耳栓としてはちょっとお高めだ。しかし、詳細は後述するが、筐体や携帯ケースはアルミ製で、SednaEarfitのイヤーピースも沢山付属しているので、箱を開けてみると「確かにそのくらいの値段するわな、こりゃ」という感じだ。

本体やケースに加え、SednaEarfitのイヤーピースも沢山付属する

POM1000のデザインを一言で表現すると、「小ぶりなイヤフォンからケーブルを無くしたもの」だ。先端にイヤーピースを装着している事や、その奥にメッシュのガードがついているところまで、イヤフォンとソックリ。そのため、イヤフォン気分で気軽に耳に装着できる。

では、「単にイヤフォンからケーブル抜いて、耳栓として発売しているのか?」というと、そうではない。ハウジングを見ると「AZLA」ロゴの隣に、「C」のような不思議なカタチの溝と突起が見える。これが“ライブの音質を犠牲にしない耳栓”のポイントだ。

「C」のような不思議なカタチの溝と突起が見える

実はこのPOM1000、外の音を遮断するだけでなく、内部に下図のような空間が設けられており、ハウジングの隙間から外の音ある程度取り込む事もできるようになっている。要するに「クローズドモード」と「オープンモード」の2つを用意しており、イヤーピース部分を指で抑えながら、本体をひねると、ハウジングの突起位置が変化し、2つのモードを切り替えられるのだ。

内部構造
左から、[○]マークに合わせるとオープンモードに、[│]マークに合わせるとクローズドモードにそれぞれ切り替えられる
突起の位置で「クローズドモード」と「オープンモード」を切り替えられる

クローズドモードは、騒音を最大-35dB(2~3kHz)カット。高い遮音性を発揮しつつ、高周波も的確に遮断。例えば、耳が痛くなりそうな大音量のライブ会場で装着すると、音質を可能な限り下げずに、自然な音量減衰が出来るように設計されているという。

オープンモードでは、エアホール設計によって空気循環を行ない、より自然な遮音となり、「コンサートホール等での使用環境を想定して設計している」とのこと。

つまり、“外の騒音をとにかく遮断する”のではなく、耳栓で音量を下げつつ、通過して耳に入る音をどれだけ自然にするか? に、こだわった耳栓というわけだ。これは面白い着眼点だ。

当たり前ではあるが、完全ワイヤレスイヤフォンやノイズキャンセリングイヤフォンではないため、バッテリーは内蔵していない。あくまで内部機構の切り替えによって、耳に入る音を調整する。とてもアナログな製品だ。

付属品が充実

ハード的な機構も重要だが、耳栓自体がうまく耳にフィットしていなければ、そもそも耳栓の役割を果たせない。

そこでPOM1000では、カナル型イヤフォンと同じイヤーピース付け替え方式を採用。さらに、高性能なイヤーピースであるTPE素材の「SednaEarfit XELASTEC」(SS/MS/ML)と、最近発売されたばかりの、医療用シリコン素材をふんだんに使い、メッシュ部分まで“つぶれる”「SednaEarfit MAX」(S/M/L)まで付属する。

SednaEarfit XELASTEC
SednaEarfit MAX
SednaEarfit MAXのMサイズは最初から本体に装着されている

ちなみに、SednaEarfit XELASTECとSednaEarfit MAXは、どちらも3サイズ1ペアで直販各3,980円で販売されているため、これを買うだけで8,000円近い。これらがオマケで付属して6,580円のPOM1000は、かなり“お買い得”な製品だろう。

2つのイヤーピースの特徴として、SednaEarfit XELASTECは、素材にKRAIBURG TPEの熱可塑性エラストマー(TPE:サーマルプラスティックエラストマー)を使っている。これは、熱で軟化し変形しやすくなる素材で、耳に挿入すると、人間の体温により傘部分の形状が徐々に軟化し、変形し、耳穴に吸いつくようにフィットするのが特徴。耳に必要以上に負担をかけないため、長時間快適に使えたり、ウレタンフォームと異なり、耐久性が高いといった利点もある。

手前がSednaEarfit XELASTEC

SednaEarfit MAXの方は、KCC SILICONEというメーカーが手掛ける、100%医療用シリコンを耳道内に触れるイヤーピースの傘部分に使っている。このシリコンは、外科手術中に体内への挿入などで使用されるもので、安全性を持ちつつ、しなやかな弾性とパウダリーな質感も備えている。耳道内が敏感な人でも、低刺激で使える素材だ。

手前がSednaEarfit MAX

さらにユニークなのが、メッシュのワックスガード部分。普通のイヤーピースでは、この部分はプラスチック製で、イヤーピースに接着剤などで取り付けられているが、SednaEarfit MAXは特許技術を用いて、傘部分からフィルターまで全部シリコンで一度に成形。指でつぶすと、フィルター部分まで全部潰れる。このフィルター部分がダンパーとして機能する事で、イヤーピースの形状が変化しやすく、装着時の圧迫感軽減にも寄与するそうだ。

フィルター部分までシリコン製なので全部が潰れる

この2つのイヤーピースを、好みに合わせて選べる。詳細はレビュー記事にも記載しているが、個人的には、とにかく“異物感”が少なく、自然な感覚で装着できるSednaEarfit MAXがお気に入り。今回の試用でも、こちらをメインに使っている。

全部“つぶれる” 刺激が少ないイヤーピース「SednaEarfit MAX」とは何か

AZLAのイヤーピース「SednaEarfit」に、フィット感の高めた「XELASTEC」

また、当然ながら、イヤーピースは着脱できるので、付属のイヤーピースより、もっとお気に入りのモノがある場合は、それを使ってもOKだ。

付属品としては他にも、キャリングポーチや携帯用アルミ製ケースを同梱。アルミの携帯用ケースは質感が高く、リングも備えているので、カラビナなどを使ってバッグの端に吊り下げるのもカッコ良さそうだ。

付属品としては他にも、キャリングポーチや携帯用アルミ製ケースも付属

さらに、左右を繋げられるイヤープラグストラップも付属する。耳栓を外しても、首からぶら下げられるほか、装着した状態で激しく動いても落下・紛失を防げる。ノリノリで体が動きそうなライブでは、念のためこのストラップも活用した方がいいだろう。

イヤープラグストラップも付属

耳栓として使いつつ、モードを切り替えてみる

手前がSednaEarfit XELASTEC

まず“ライブで使える耳栓”なので、音楽の聴こえ方がどう変化するかを、スピーカーから大音量で音楽を流しながらテストしてみた。

最初は「クローズドモード」から。装着してすぐに感じるのは、クローズドであっても、一般的な“耳栓”の聴こえ方と、ちょっと違うという事だ。普通の耳栓は、“耳の中にモノが詰まっていて、外の音が入ってこない、入ってきてもくぐもった音になる”のだが、POM1000の場合は、そうではない。

まず、装着しても“こもった”感じはあまりなく、閉塞感も薄い。また、スピーカーからの音楽の音量はかなり小さくなるが、その“小さくなりかた”が自然だ。例えば、ベースの低音や、ボーカルの高音などがある音楽の場合、低音だけ消えて高音だけが入ってくる……みたいな不自然さがない。妙な言い方だが“漏れて入ってくる音のバランスが良い”のだ。

例えるなら、壁が透明の部屋があり、その部屋の中でバンドが演奏をしていて、透明な壁越しにそれを見ている(聴いている)……ような感覚だ。「向こう部屋で誰かがなんかを演奏している」という曖昧な状況ではなく、壁を通過して聴こえてくる音のバランスが良いので、「どんなバンドが、どんな曲を演奏しているのか」がわかりやすいのだ。

オープンモードに切り替えると、間に存在していた透明な壁が無くなったような感覚になる。かと言って、“外の音がダダ漏れ”になったのではない。クローズドモードより、オープンモードの方が届く音の“ダイレクト感”はあるのだが、音量自体はある程度落ちている。“同じ部屋にいるけれど、バンドがちょっと控えめに演奏してくれてる”ような感じだ。この聴こえ方は非常に面白い。

喫茶店で仕事をする時にも使ってみた

確かに“ライブで使える耳栓”だが、毎日ライブに行くものでもないので、普通の耳栓として、自室や喫茶店でも使ってみた。この場合は、遮音性も大事だが、それよりも“集中できる音になるかどうか”が重要だ。

この原稿を書くために喫茶店へ。先程の音楽では“オープンモード”が良かったが、結論から言うと、喫茶店では“クローズドモード”が良い。

オープンモードでも、店内のBGMや、食器から響くカチャカチャした音は減衰してくれる。それでいて閉塞感も少なく、違和感もあまり感じない。それゆえ、かなり原稿に集中できる。

これはイイぞと使っていたのだが、近くの席に年配の女性3人組が座り、おしゃべりを開始すると、そうも言っていられなくなった。オープンモードでは、会話の音量は小さくなるのだが、何を喋っているかがわかってしまい、集中しようとしているのだが、会話の合間に気になるワードがあると、無意識に聞き耳を立ててしまい、意識がそっちに向いてしまう。

それではと、クローズドモードに切り替えると、女性たちの声の“ダイレクト感”が薄くなり、会話の中の1つ1つの言葉の輪郭がおぼろげになる。その結果、“会話している事”は引き続きわかるのだが、“何の話をしているのか”に意識が向かなくなる。これは集中力アップに最高だ。

隣の席の会話が気になりはじめてしまったので、クローズドモードに切り替えると、女性たちの声の“ダイレクト感”が薄まり、気にならなくなる

「静かになる事が重要なら、ノイズキャンセリングイヤフォンでも良いのでは?」と思われるかもしれないが、実際にやってみると、これがちょっと違う。

強力なNCイヤフォンでは、確かに喫茶店から図書館にワープしたような静寂が得られるのだが、NCイヤフォンならではの、鼓膜への圧迫感や閉塞感を少なからず感じる。最近のNCイヤフォンはそのあたり、かなり進化して自然になってはいるのだが、やはり“電気的に作られた静寂の中にいる違和感”はやはりある。

その点、POM1000はアナログな耳栓なので、“電気的に音をいじった感”は無い。それでいて、普通の耳栓よりも自然な遮音になる。この“自然さ”こそが、POM1000最大の特徴と言えるだろう。

閉塞感を無くすために、完全ワイヤレスで音楽を小さく流す……というテクニックもあるのだが、小音量でも音楽が流れていると気が散って集中できないという人もいるだろう。そうした場合には、POM1000はかなり便利に使えそうだ。

また、例えば電車に乗っている時の騒音を適度に抑えつつ、車両内に流れるアナウンスの内容も把握したいという人にも便利だろう。完全ワイヤレスで外音取り込み機能が当たり前になってきたからこそ、同じような機能を“自然な音”で実現するPOM1000の面白さが際立っている。

AZLA「POM1000」

(協力:アユート)

山崎健太郎