レビュー
全部“つぶれる” 刺激が少ないイヤーピース「SednaEarfit MAX」とは何か
2022年8月4日 08:00
以前は“イヤフォンを使うのは通勤・通学の時間だけ”という人も多かっただろう。しかし、リモートワークの普及でオンライン会議でもヘッドセットとしてイヤフォンを使う人が増えており、“1日数時間イヤフォンを着けっぱなし”な人も珍しくなくなった。
そうなると、飛躍的に重要になるのがイヤーピースだ。以前は自分の耳にフィットするサイズを選ぶくらいだったが、長時間装着するのであれば、より快適で、負担が少なく、そしてイヤフォンの音質も損なわないモノにこだわりたい。
そんな人に向けて、今までのイヤーピースとかなり違う製品が登場した。AZLAが展開している高品質イヤーピース「SednaEarfit」シリーズの最新機種「SednaEarfit MAX」だ。
今までのイヤーピースと何が違うのか、一目瞭然。以下の写真と動画を見て欲しい。「え? イヤーピースは柔らかいシリコン製だから指でつぶれるのは当たり前でしょ?」と思われたアナタ、イヤーピースの中央部分にご注目。イヤーピースどころか、耳垢などを防ぐメッシュの“ワックスガード”部分まで、全部が“指でつぶせている”のだ。こんなイヤーピースは、今まで存在しなかった。
「究極の低刺激フィット」を実現する100%医療用シリコン
イヤーピースに求められる重要なポイントは、耳の穴、つまり“耳道内”にしっかりフィットする事。一方で、単純に“フィットすれば良い”というものではない。素材が硬かったりすると、常に耳の中に異物が入っている感覚を覚えて不快だったり、長時間装着していると耳が疲れてしまったりする。要するに、柔らかくて、刺激の少ない素材である必要があるのだ。
そこで、一般的なイヤーピースではシリコンが使われる。SednaEarfit MAXも同様なのだが、採用しているシリコンが、他のイヤーピースとはちょっと違う。
KCC SILICONEというメーカーが手掛ける、色素やプラスチックなど、どんな成分も混合していないと認証された医療用メディカルシリコンを採用しているのだ。このシリコンは、外科手術中に体内への挿入などで使用される100%医療用シリコンで、安全性を持ちつつ、しなやかな弾性とパウダリーな質感も備えている。この100%医療用シリコンを、耳道内に触れるイヤーピースの傘部分に使っており、耳道内が敏感な人でも、低刺激で使えるというわけだ。
さらにユニークなのが、前述のメッシュのワックスガード部分。普通のイヤーピースでは、ワックスガードフィルターはプラスチック製で、イヤーピースに接着剤などで取り付けられている。
しかし、SednaEarfit MAXは特許技術を用いて、傘部分からフィルターまで全部シリコンで一度に成形している。この部分にも当然、先程の100%医療用シリコンが使われている。指でつぶすと、フィルター部分まで全部「ヘニョッ」と潰れるのは、こういう秘密があったわけだ。
この構造により、別途化学薬品を使わずに製造できるようになり、100%医療用シリコンの低刺激を活かしたイヤーピースになったほか、指で潰してみるとわかるのだが、このフィルター部分がダンパーとして機能するため、イヤーピースの形状が変化しやすく、装着時の圧迫感軽減にも寄与しているそうだ。
傘の厚さと、穴の形状にも工夫
素材だけでなく、形状にも工夫がある。一般的なイヤーピースの傘の部分は、傘の先端部分に向かうほど“厚く”なる、もしくは先端から末端まで同じ厚さで作られている。しかし、先端に向かうほど厚くなっていると、装着時の圧迫感が強くなり、この継続的な圧迫と刺激が痛みを誘発する事もあるという。また、密閉性が低いため、遮音性に欠けてしまう。
そこでSednaEarfit MAXでは、先端に向かうほど薄くなるテーパード型構造を初採用。成形が非常に難しいとのことだが、難題をクリアし、低圧迫と高遮音性を両立したという。
工夫はこれだけではない。先程、指でつぶせるほど柔らかいシリコンフィルターを一体成形していると書いたが、このフィルター部分の“穴”にもこだわっている。
通常のイヤーピースに使われている穴は、丸や四角だが、SednaEarfit MAXは蜂の巣のような六角形になっている。こうする事で、余白が最小限に抑えられ、音の伝搬を邪魔せず、それでいて異物が入ってくる事は防げるそうだ。
「Standard」「for TWS」「for AirPods Pro」の3種類を用意
ラインナップは大きく分けて3つ。
「Standard」は一般的な有線イヤフォンや、それと同じノズルの長さで充電ケース内に余裕がある完全ワイヤレスイヤフォン向けで、細軸ノズルアダプターもセットになっている。
2つ目が、短いノズルで充電ケース内にピッタリ収まる完全ワイヤレスイヤフォン向けの「for TWS」。イヤーピースに厚みがあると、充電ケースが閉まらなくなるので、Standardよりも短く、軸の長さを4.9mmに変更している。
3つ目がAirPods Pro用の「for AirPods Pro」だ。こちらは、AirPods Pro向けの形状になっているだけでなく、ウレタンコーティングしたアダプターとイヤーワックスガードを採用している。AirPods Proとの密着度が上がり、低域強化と音漏れ防止、アクティブノイズキャンセリング効果も高まるという。
また、軸の部分と傘の部分が分離する構造になっているため、メンテナンス性も高まるという。
この3ラインナップそれぞれに、豊富なサイズバリエーションを用意。Standardは、SS/S/MS/M/ML/Lの6サイズ。for TWSとfor AirPods Proは、さらに小さいSSSサイズを追加した7サイズ展開となっている。価格は3サイズ1ペアで3,980円、1サイズ2ペアで2,980円だ。
実際に使ってみる
では、実際に装着してみよう。最初に試すのは、持っている人が多そうな「AirPods Pro」用だ。AirPods Proに標準で付属していたイヤーピースでしばらく音楽を再生し、そのあとで「SednaEarfit MAX for AirPods Pro」に交換してみた。
先程「耳道内に触れる傘の部分に100%医療用シリコン使っているので低刺激」と書いたが、ぶっちゃけ刺激が少ないかどうか、比べてわかるものなのだろうか?
標準のイヤーピースも、べつに耳の中がチクチクするわけではないので、「違いがわからないかも」と一抹の不安を感じながら装着したのだが、SednaEarfit MAXを耳に入れた瞬間に「あああー!! そういう事ね」とハッキリ違いがわかる。
シリコンを耳穴に突っ込んでいるので、あたりまえの話しなのだが、標準のイヤーピースでは「耳の中にゴムっぽい何かを突っ込んでいる感」がある。SednaEarfit MAXでもそれは同じハズなのだが、実際に装着してみると「何かを突っ込んでいる感」があまりしない。別にイヤーピースが小さいわけではなく、指で触ってみると、耳穴全体にしっかり傘が広がり、密着している。にも関わらず「何かを耳に入れている感」が少ないのだ。
これはいったいどういう事か、どう言葉で説明したらいか、SednaEarfit MAXを入れたり出したり、小指を耳に突っ込んだりしながら考えていたのだが、ハッと気がついた。SednaEarfit MAXは“超肌っぽい”のだ。
例えば、椅子に座っている時に、膝の上に手を置いているとする。多くの人は「膝の上に手が密着している事」を、あまり意識していないハズだ。代わりに、膝の上にあるのがスマホだった場合、「硬いスマホが膝の上にある」と、意識するハズ。AirPods Pro標準イヤーピースとSednaEarfit MAXの違いは、これに似ている。
標準イヤーピースは、柔らかいものの、肌とは違う“異物”が耳穴に入っているので、ずっと「何かを耳に入れている」という意識を抱き続ける。しかし、SednaEarfit MAXは耳穴に入っているのに、肌に近い感触なので、しばらく音楽を聴いていると“異物を入れている事を忘れる”。これに気付くと、ちょっとした感動を覚える。
試しに仕事をしながら1時間ほど装着し続けてみたが、標準イヤーピースの時のように、外した時に「ああ~」と言いながら耳を穴を指でほぐすような疲労感が、SednaEarfit MAXには無い。これは、長時間装着し続ける人ほど、恩恵を感じる部分だろう。
遮音性にも違い
標準イヤーピースと比較しながら、屋外を歩いたり、電車に乗ったりしてみたが、疲労感以外にも大きな違いがある。それは遮音性だ。音楽を流していない状態で、幹線道路を走る車の音や、地下鉄の騒音などが耳の中に入ってくる量が、SednaEarfit MAXの方が少ない。
例えば地下鉄では、「ゴォオオー!!」という車体の響きや、トンネル内の反響音が充満しているが、標準イヤーピースの場合、耳に入れると中低音の騒音がある程度消え、「シュー」という高音だけが残る。
しかし、SednaEarfit MAXではこの「シュー」もほとんど聴こえなくなり、たまに電車のモーターがうなる「クゥーン」という音や、連結部分がぶつかる「ガシャン」という不規則な音が残る程度になる。これはかなり効果的だ。
比較的静かな室内でも、エアコンやパソコンのノイズをさらに消してくれるため、集中力を高める時にイヤフォンを装着している……という人にも、SednaEarfit MAXは効果的だろう。
音の聴こえ方も変化する
次に、「for TWS」をULTRASONEのTWS「LAPIS」に装着してみた。耳の中の異物感の少なさ、自然さは、AirPods Pro用とほぼ同じ。LAPISの方が、AirPods Proより、少し奥に押し込むイメージの装着となるが、その場合は装着時の自然さがより重要になってくるため、SednaEarfit MAXの利点がさらに活かせると感じる。
音の聴こえ方も、通常のシリコンイヤーピースと違う。通常のイヤーピースは、シリコンぽさというか、ゴムっぽさというか、イヤーピース自体が出すかすかな音が再生音に乗っかる感じがある。
だが、SednaEarfit MAXの場合はその“イヤーピースの音色”みたいなものが、あまり感じられない。素材による違いもあるのだろうが、余白が最小限に抑えた六角形のシリコンフィルターが効いているのかもしれない。
一般的な有線イヤフォン向け「Standard」を、Astell&Kern×Campfireコラボイヤフォン「PATHFINDER」で使ってみたが、ここでもSednaEarfit MAXの新しい効果に気付く。
有線のPATHFINDERのようなイヤフォンの場合、イヤーピースを耳に深く挿入し、ケーブルを耳の裏に通す、いわゆる“シュア掛け”をする人が大いと思うが、しっかり装着すればするほど、密閉度や遮音性は高まるものの、装着した時の“閉塞感”がアップしてしまう。
だが、SednaEarfit MAXのStandardを使うと、イヤーピースそのものの異物感が少ないため、あまり“耳穴にイヤーピースがギュッと押し込まれている”感覚が発生しない。これにより、閉塞感が強いと感じにくい。それゆえ、SednaEarfit MAXを装着した方が、開放的で爽やかな気分で音楽が聴ける。心理的な影響も含まれていると思うが、これは面白い体験だ。
なお、イヤーピースのサイズにもよると思うが、Astell&Kern完全ワイヤレス「AK UW100」に装着するのは、「SednaEarfit MAX for TWS」ではなく、Standardの方が、充電ケースにキッチリ収納できた。
“自然さ”という新たな快適さ
イヤーピースは、「耳穴にしっかりフィットするか」「イヤフォンが抜け落ちないかどうか」というサイズで選んできた人がほとんどだろう。SednaEarfit MAXは、サイズがピッタリかどうかという次元を超え、“耳に入れた時の感触の自然さ”という新たな快適さを提供してくれる。
小さなパーツではあるが、長時間使えば使うほどありがたみが身に染みる。つけ心地が快適なだけでなく、閉塞感の低減や聴こえる音がナチュラルになる効果もあるので、イヤフォンのそうした部分が苦手だという人にも試して欲しい。何気なく使っていたモノを、ちょっと良いモノに変えると、想像以上にストレスフリーになる……そんなイヤーピースだ。
(協力:アユート)