レビュー
Apple、ソニー、Anker、final、気になる完全ワイヤレスを編集部4人で聴いてみた
2022年12月29日 08:00
2022年も多数の新製品が登場した完全ワイヤレスイヤフォン。しかし、数が多くてどれを選べばいいか迷ってしまうもの。そこで、人気の定番モデルや注目の最新機種など、4機種をAV Watch編集部が独断でチョイス。編集部員4人で聴いてみました。TWS選びの参考になれば幸いです。
ピックアップした4機種は以下の通り。
- Apple「AirPods Pro(第2世代)」39,800円
- ソニー「WF-1000XM4」オープン/ソニーストア価格33,000円
- Anker「Soundcore Liberty4」14,990円
- final「ZE8000」直販価格36,800円
Apple「AirPods Pro(第2世代)」
御存知の通り、AirPods Proは“アクティブノイズキャンセリング機能搭載の完全ワイヤレス”というジャンル自体を定着させた、TWS市場の立役者的な存在。その進化モデルとして9月に登場したのが「AirPods Pro(第2世代)」だ。価格は39,800円と、高級TWSの中でも少し高めになっている。
名前が大きく変わっておらず、外観も初代とほぼ同じなので、どこが進化したのかわかりにくいが、音質が大きく改善。より高解像度なサウンドになっている。さらに、空間オーディオのパーソナライズ、つまり個人最適化も可能になった。
イヤーピースにも「XS」が追加され、4サイズ展開と豊富になっている。「U1」チップを内蔵し、AirPods Proをどこかに置き忘れても、iPhoneからどこにあるのか、cm単位の精度で表示できる機能も搭載するなど、使い勝手も大きく進化した。
さらに、アクティブノイズキャンセリング(ANC)性能も進化。騒音をより低減できるほか、工事現場など、外音の大きさを検知して、聴力に影響を与える値にならないように抑える「適応型環境音除去」なども追加されている。
ソニー「WF-1000XM4」
言わずと知れたソニーTWS、WF-1000Xシリーズの最新モデルが「WF-1000XM4」。発売は2021年6月だが、まだまだトップクラスの人気を誇っており、高価格なTWSの定番モデルになっていると言えるだろう。実売は約33,000円。
第4世代にあたるモデルだが、前世代からの進化点は、統合プロセッサー「V1」を搭載する事で処理能力がアップし、低歪率、高SN比といった高音質化に加え、アクティブノイズキャンセリング性能も向上した事。
さらに、LDACコーデックをサポート。圧縮音源をハイレゾ相当に変換して再生する「DSEE Extreme」も搭載し、空間オーディオの360 Reality Audioも楽しめる高機能な製品。アプリも高機能で、イヤーピースのサイズが耳にマッチしているかも測定できる。
細かい点では、付属ピースがフォームタイプで独自開発のノイズアイソレーションイヤーピースになっていたり、本体と充電ケースがコンパクトになっている。風ノイズ低減、外音取り込み機能も向上させているほか、4つのマイクと骨伝導センサーで通話の声もクリアに集音できる。
Anker「Soundcore Liberty4」
高い実力を持ちながら、リーズナブルな価格の製品を投入する事で、イヤフォン市場でも、トップクラスの人気ブランドに成長したAnker。そのAnkerが「ブランド史上最高傑作」として投入したのが「Soundcore Liberty 4」だ。
進化した音響構造や独自のノイズキャンセリング機能を備えるほか、心拍モニタリングなどのヘルス機能など、ユニークな機能も盛り込まれている。
音質面では、2基のダイナミック型ドライバーを1つのモジュールに統合して同軸上に配置する独自の音響構造「A.C.A.A」の最新版となる3.0や、外部環境にあわせてアクティブノイズキャンセリングの強度を自動で調節できる「ウルトラノイズキャンセリング 2.0」を搭載。
ヘッドトラッキング対応の3Dオーディオ機能、LDAC対応によるハイレゾ再生もサポートする。“Ankerの技術全部盛り”なTWSに仕上がっている。それでいて、価格は14,990円と他社のフラッグシップモデルと比べ、かなりリーズナブルに抑えているのが最大の強みとも言えるだろう。
final「ZE8000」
finalの「ZE8000」は、12月16日に発売されたばかりの新製品だ。価格はオープンプライスで、実売は36,800円前後。final初の平面磁界型ヘッドフォン「D8000」や、音の知見の具現化ができたというイヤフォン「A8000」と同様に、革新的なアイデアを具現化できた際に使用する「8000」のナンバーを冠している。つまり“finalのTWS自信作”だ。
従来はドライバーの欠点の部分を補正する役割を果たしていたデジタル信号処理技術を、音質の向上に活用するため、TWSに最適なドライバー「f-CORE for 8K SOUND」を新たに開発。
さらに、一般的なTWSではD級アンプを使うが、ZE8000ではあえてAB級アンプを採用。薄膜高分子積層コンデンサやPLMキャップなど、こだわりのパーツも投入。低歪を追求し、「楽器や声のどこに注意を向けても、奥行きも含めて全てにフォーカスが合うという初めてのサウンド体験」ができる「8K SOUND」とアピールしている。
本体はバッテリーやアンテナなどを内蔵したスティック部分の先に、イヤフォンが取り付けられたような形状。イヤフォンのサイズに対して、充電ケースが大きめだが、これは、ユーザーの耳に合わせたカスタムイヤーピースを2023年春頃に展開予定であり、そのカスタムイヤーピースを装着した状態も収納できるよう、大きめに作られている。
4機種を、AV Watch編集部全員で試聴する
試聴は、それぞれ手持ちのスマートフォンで、各自が普段音質チェックに使っている曲を聴いた。さらに、共通の課題曲として「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」を設定。この曲は全員が聴く事とした。
Apple「AirPods Pro(第2世代)」39,800円
程よい低域と何かを強調することなくバランスの良い音ながら、解像感は高すぎず、BGMとしてゆったりと聴き続けるのに向いていそうな印象。様々な楽曲をシャッフルして聴き流すという今主流の聴き方にはバッチリ当てはまっているのではと思う。
密閉感もそこまで強くなく、程よいNCで、iPhoneと組み合わせたときの操作感を含め、音質などに強いこだわりがなければノンストレスで使えるというのはやはり強いところだなと感じる。もう少し価格が安ければちょうどいいのになぁ。
こちらも、まずは「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」をApple Musicで聴く。ZE8000と比べると、歌い出しからボーカルにベールがかかっているように感じられ、クリアさ・解像感は1~2段階ほど低く感じられ、ステージ感も少し狭く感じられるが、ウタ(Ado)の力強く、伸びのあるボーカルはキチッと再生される。またベースやドラムなどの低域は量感もあって、迫力もあった。
「エド・シーラン/Shivers」も、ZE8000と比べると、パーカッションの表現力がいまひとつに感じられたが、冒頭でベースのサウンドがズンッと響くなか、シーランのボーカルや、特徴的なクラップ音などがしっかりと耳に残った。全体的に細かな音の描写力には少し物足りなさがあるが、そのかわり長時間聴いていても聴き疲れしにくい印象。それでいて低域がしっかりと再生されるので、気持ちよく音楽を味わうことができた。
また、今回比較した機種のなかで、もっとも装着時の圧迫感が少なかったのも、このAirPods Pro(第2世代)。ケースもコンパクトながら、光沢感がある材質が高級感もあり、所有感も満たされる印象だった。またアップル端末と組み合わせると空間オーディオが利用できるのも強み。
試聴には、昔使用していたApple「iPhone Xs Max」を組み合わせた。
最も聴き心地が良く、音の好みとしては一番(言っておくが信者ではない)。課題曲のポップスからクラシック、ジャズ、どれを聴いても不満がない。「Piano Concertos No.1/Melodie Zhao」でのピアノの音も伸びやかで美しく、「Song of Bernadette/Jennifer Warnes」のボーカルにも透明感がある。ドラムのアタックも締まりが良い。
AirPods Proは、他の3機種とタイプが異なるので、なかなか比較が難しい。ノズルやイヤーピースを耳穴深くまで挿入するのではなく、耳穴の入り口に蓋をするような装着方法であるため、圧迫感・閉塞感が少なく、装着時のストレスは4機種の中で一番少ない。この“自然さ”がAirPods Proの大きな魅力で、それは第2世代になっても健在だ。
密閉感が少ない事は音にも影響し、他の3機種よりも開放的なサウンド。例えるなら、他の3機種は密閉型ヘッドフォンで、AirPods Pro(第2世代)だけ開放型のような音だ。再生している音楽と、外の世界が溶け合うような音場が楽しめる。これはAirPods Proならではの心地よさ。装着感の面でも、「カナル型の異物感が苦手」という人も、AirPods Proなら違和感が少ないだろう。
音の自然さは1位final「ZE8000」、2位ソニー「WF-1000XM4」、3位がAirPods Pro(第2世代)だが、ソニーとの差はそれほど大きくなく、AirPods Proが肉薄。AirPods Pro(第2世代)になって、確かに解像度はアップしており、細かな音も聴き取れるようになったが、WF-1000XM4と比べると解像度は不足しており、ドキッとする生々しさには至らない。
「フォープレイ/Foreplay」の肉厚な中低域は描写できており、ゆったりと音楽に身を任せる心地よさは感じられる。ギターの弦の描写こ細かい。しかし、グワーッと押し寄せるような中低域の迫力、パワフルさは弱めだ。
ジャズボーカル「ダイアナ・クラール/月とてもなく」も、アコースティックベースの低音が心地良い曲だが、ベースの低域は、比較した4機種の中で一番弱い。弦がベシベシと揺れる音は聴こえるが、その振動が筐体で増幅される「ズーン」という深く沈む低域はあまり聴こえない。音像との距離は遠め。ダイアナ・クラールの口の中を覗き込むような解像感、生々しさは無い。
「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」の冒頭ボーカルソロの後に続く、大太鼓の乱舞も4機種の中では一番弱い。ただ、スッキリとしたサウンドなので、細かな音が踊る様子はよく見える。
他の3機種と比べて低域が弱いのは、密閉度が低い構造的に仕方がない。逆に、この構造が、外界と溶け合うような音場の広がりを生んでいるため、この開放感を味わうのがAirPods Pro(第2世代)の醍醐味だ。イヤフォンで音楽を聴いている事を忘れるような、どこから鳴っているのかわからない店内BGMのような、音の発生源を意識させないような感覚は、他の3機種では味わえない。
オーディオファンが音楽とじっくり向き合うような聴き方をするイヤフォンは別に用意して、通勤通学やお散歩など、もっと気軽に、開放的な気分で音楽を楽しみたい時にはAirPods Pro(第2世代)がピッタリだろう。
アクティブノイズキャンセリングも進化し、かなり優秀になったが、他の3機種と比べると密閉度が低いため、キーボードのカチャカチャ音など、高い音はすりぬけて耳に入ってくる事もある。鼓膜への圧迫感も少し感じる。無音の耳栓として使うよりは、薄くでも音楽を流した方が良さそうだ。
ソニー「WF-1000XM4」ソニーストア価格33,000円
中高域がきれいに抜けて、解像感が良くてくっきりクリアに聴こえる。低域の迫力は弱いものの、音の層が見えるような表現力がそれを補っていて、「Ado/新時代」のサビの部分の低域のスピード感と広がるボーカルが一体となる感覚が聴いていて心地良い。
コーデックによる音の差はそこそこあり、AAC接続の場合はLDAC接続と比較して、若干解像感が落ち、空間もやや狭く感じる。イヤーピースとANCの組み合わせによるNC性能は今回の4機種の中では1番強力。それ故、装着感で好みは分かれそう。
まずは「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」から。最初に驚いたのは低域の表現力。グンッと沈み込むような低域ではなく、今回比較した4機種のなかでは、もっとも大人しくめ。ただ低域のスピード感・キレ感は一番で、小気味よい印象だった。ボーカルの解像感はAirPods Pro(第2世代)は上回るものの、ZE8000と比べると薄いベールがかかっているような聴き心地だった。
「エド・シーラン/Shivers」では、パーカッションの細かな音も正確に描写され、その表現力はZE8000に近い。ハイスピードな低域も相まって、イントロからビートを心地よく味わえた。細かな音の描写力という点では「櫻坂46/摩擦係数」の間奏のギターソロが、弦を爪弾く指の動きが見えそうなほど精細に描かれていた。
ちなみに、装着感については、今回の4機種のなかで、唯一スティック型ではなく、丸いフォルムを採用していることもあり、もっとも圧迫感を感じた。ケースは大きすぎない程よいサイズ感で高級感もある。ただ、今回試聴中、一瞬ではあるが音途切れがあったの点も気になった。
音源をきめ細やかに表現。スピード感もあり素直な傾向。ただ、個人的にはやや大人しめのサウンド。「Billie Jean/Michael Jackson」や「甘いワナ~Paint It,Black/宇多田ヒカル」ではビートが柔らかく、パンチが物足りない。シリーズ最大の進化点であるLDACを活かす意味でも、iPhone以外との組み合わせが好適なのだろう。
前モデル3は低域がパワフルで押し出しが強く、メリハリの効いた“元気の良い音”だった。最新のWF-1000XM4は、低域のパワフルさは控えめで、全体のバランスが良くなり、モニターライクな解像度重視サウンドに。派手さが無くなったが、どんな音楽でもキチンと鳴らす、優等生TWSに進化した。
例えば「フォープレイ/Foreplay」のようなムーディーなインストを再生すると、ベースの肉厚な低域がグワッと押し寄せながら、その中のベースラインはタイトで締りがあり、低音として非常にクオリティが高い。さすがの描写だ。例えば、Soundcore Liberty 4の低域と比べると、1000XM4の方がよりピュアで、情報量が多く、洗練されている。
価格帯・サウンドクオリティとしては、finalのZE8000がライバルと言える。ZE8000と1000XM4の低域を比較すると、低い音の沈み込みの深さ、アタックの強さ、そしてベースラインの細かさといった面で、ZE8000が勝る。「じっくり比較してわかる」というレベルではなく、一瞬でわかるくらいの違いがある。1000XM4も、発売当初は低域のクオリティの高さに驚いたが、ZE8000を聴いたあとでは「まぁフツー」と感じてしまう。
音が広がる音場の広さ、その空間の静けさ、スッと音が立ち上がる時のトランジェントの良さなどは、1000XM4・ZE8000のどちらも高いレベルにあるが、その部分もZE8000の方が少し上手だ。特に、奥行きの深さで、ZE8000の方が大きく勝っている。一方で、低域から高域までのバランスの素直さ、音色のナチュラルさといった面では、1000XM4もZE8000も甲乙つけがたい。いい勝負だ。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」でも、ナチュラルな描写で、ジャズボーカルの熱気を表現してくれるが、ややスッキリし過ぎるきらいがあり、ヴォーカルの音像に厚みが足りない。もっと胸に迫る、エモーショナルな聴かせ方をして欲しいのだが、ステージに対して前のめりではなく、一歩引いた姿勢で聴いているような気分だ。高解像度ではあるが、final ZE8000で感じられる、ボーカルの口の開閉が目の前に浮かぶような、ゾクゾクするリアルさ、情報量の多さには届かない。
「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」。ヴォーカルの声の自然さでは、1000XM4とZE8000はいい勝負だ。SN比はZE8000の方が良い。この曲でも、ZE8000のような音のむき出し感は1000XM4には無く、ステージやヴォーカルがやや遠く感じる。
1000XM4の凄さを実感するのは、ノイズキャンセリング機能の強さ。エアコンや人の話し声だけでなく、パソコンのキーボードを打つ時のカチャカチャした音までかなり静かになる。これだけ強いNC効果を発揮しつつ、鼓膜への不快な圧迫感も抑えられているのは見事だ。
Anker「Soundcore Liberty4」14,990円
結論から述べると、「3万円台のTWSに対して『これでいいじゃん』とはならない」。コーデックによる差が結構大きく、LDACで聴いた場合、高域のすれる音や刺さるような音が強すぎてあまり心地良く聴けないというのが正直なところ。
この高域がiPhoneとのAAC接続ではだいぶマイルドになり、低域と高域が強めのTWSという立ち位置に落ち着く。装着感は軽く、ANC特有の圧迫感も強くないので、ANCが苦手という場合に良さそう。
「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」を聴くと、中高域に透明感があり、シャープな音を楽しめる。ただ、シャープ過ぎて、特にボーカルのサ行などは時おり耳にキツく感じる部分も。25秒くらいからベースとドラムが鳴り始めると、そのサウンドが「ズンッ! ズンッ!」と沈み込むような深さと重さで広がっていく。低域のパワフルさは、比較した4機種でダントツだった。中高域には、そんなパワフルな低域に負けないシャープさがあるので、気持ちよく楽曲全編を楽しめる。
ただ、中高域のシャープさが仇となり、アイドルグループなどの女性ボーカル+打ち込み系の楽曲は、トゲトゲしさを感じるので、アプリのイコライザーを使って音質を調整したくなる。
装着感については、AirPods Pro(第2世代)に次いで圧迫感が少なく、それでいて耳から落ちてしまいそうな不安も感じなかった。ソニーやfinal、アップルなどと比較すると、やはり音質面では2~3歩遅れを取っている点は否めないが、比較した4機種のなかで一番リーズナブルな14,990円という価格を踏まえると、初めての完全ワイヤレスイヤフォンや、ANC付きのちょっといいモデルが欲しいというニーズにはピッタリで、やはり「これで良いじゃん」とも思ってしまった。
ひと際ボリューミーな低域と、高域の伸びが特徴的なドンシャリサウンド。「Billie Jean/Michael Jackson」や「The Weeknd feat.Kenny G/In Your Eyes」では、低域がブーミー過ぎる嫌いはあるが、高域のヌケは必要十分。価格が他の半分でありながら、ノイキャンやヘルスモニタリング等の機能を全部盛りしていることを加味すれば、コスパは優秀。
Soundcore Liberty4は、4機種の中では最も低価格、それどころかほぼ“半額以下”だ。それゆえ「大丈夫かな?」と不安がよぎるが、聴いてみるとなかなかなどうして、「意外といいじゃん!」とニヤニヤしてしまう。
音のバランスとしては、ややドンシャリタイプ。だが、低い音がズシンと出ているかというと、そうでもなく、中低域を少し持ち上げて“迫力があるように演出する”タイプ。特筆すべきは中高域のクリアさ。清涼感があり、非常に気持ちが良い、開放的なサウンドだ。この中高域のクリアさがあるからこそ、中低域がやや膨らみがちでも、全体の印象ははモッサリせず、キレのある、生々しさが感じられる。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴くと、音場はかなり広く、見通しも良い。アコースティックベースにも適度に迫力はあるが、やはり低い音はそこまで深く沈まず、“凄み”を感じるほどには至っていない。低域の深さ、迫力、解像度で比べると、1位final、2位ソニー、3位Ankerという順序だ。
「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」を聴くと、歌い出しのAdoの声は自然だが、情報量はそれほど多くなく、“生々しい”とまではいかない。太鼓の乱舞が続く迫力のあるシーンだが、前述の通り、低音はそこまで沈み込まない。
ただ、中低域の張り出しは豊かなので、音がグワッと押し寄せてくる迫力は感じられる。また、音場の空間は広いので、グワッと音が押し寄せても、狭苦しいとは感じず、広い空間で押し寄せる音の気持ち良さをたっぷりと味わえる。モニターイヤフォンのような、正確さ、バランスの良さとは方向性が違う。中低域の張り出し、高域のクリアさをたっぷり味わうタイプ。その方向性としては非常に良く出来ており、価格を超えた満足度もある。
この価格でノイズキャンセリング性能はかなり優秀。ソニーやAppleとも比較できるレベルにある。全体としてコスパの高さが見事だが、1点だけ残念なのがイヤフォン本体の操作性。スティック部分をつまんでボタンを操作するのだが、つまんだ拍子に耳から抜けて落としそうになる。慣れればなんとかなりそうだが、個人的にはもう少し改善して欲しい。
final「ZE8000」直販価格36,800円
音の解像度が非常に高く、全体的に音がくっきりクリアと聴こえるだけでなく、低域の迫力も併せ持っている。ボーカルが低域の迫力に負けずにしっかりと聴こえるため、「Ado/新時代」のほか、「KICKBACK/米津玄師」のような曲でも、ボーカルが引っ込まずに力強く聴こえる。
コーデックの違いによる音の差はあまり感じられず、aptXやAAC接続でも全体的な音がクリアに聴こえる。ANCは特有の圧迫感を一切感じない程度でそこまで強くないものの、イヤーピースの密閉度が高く、遮音性は十分。
iPhoneと接続して、「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」をApple Musicで聴くと、歌い出しから空間の遠くまで響くような広大なスケール感を感じられた。それでいてウタ(Ado)の歌声の生々しさも、小さなリップノイズさえ感じ取れてしまうほど、しっかりと描写される。サビの部分も、ボーカルが引き立ちつつ、ベースや打ち込み系の音もキレ良く、クリアに鳴ってくれる。
同じくApple Musicで「エド・シーラン/Shivers」を聴くと、こちらも今まで完全ワイヤレスでは感じたことのないほど広大なステージに音が広がっていく。それでいて、冒頭のクラップ音に埋もれがちなパーカッションも、シェイカーの中でぶつかりあう粒のひとつひとつの音さえ聴き取れるのでは、と思うほど細かく描写される。この情報量の多さや音のクリアさ、バランスの良さは、愛用している有線のカスタムIEM「UE RR」に近いものを感じ、それをBluetoothで味わえていることに改めて驚愕した。
ただ細かな音まで精密に表現されるので、じっくりと腰を据えて音楽を向き合いたくなってしまうので、いわゆる“ながら聴き”には不向きにも感じる部分も。イヤーピースを少し大きく、圧迫感を感じてしまった。また「櫻坂46/摩擦係数」のようなアイドル楽曲の場合、バックコーラスに男性ボーカルが使われることが多いのだが、ZE8000ではバックコーラスもしっかり表現されるので、そこが妙に耳についてしまう感覚もあった。
イヤフォンの装着感は、少し耳に圧迫感を感じた。ケースは表面に梨地のような処理も施されていて高級感はあるのが、見た目よりもかなり軽く“スカスカ感”も感じてしまう。実売36,800円前後という点を踏まえると、もう少し所有欲を満たせる仕上がりにしてほしかったところもあった。
他の3機種とはだいぶ毛色の異なるサウンドで驚いた、というのが第一印象。一音一音のディテールをつぶさに表現するも、感じ方によってはノイジーで、全体的にはアンバランス。様々なジャンルを試すも、個人的にはしっくりこなかった。
「コールドプレイ&セレーナ・ゴメス/Let Somebody Go」を再生、音が出た瞬間にぶったまげた。SN比が、今まで聴いてきたTWSの中ではバツグンに良く、無音の空間から音がスッと立ち上がる様子が実にクリアで感動。その音が広がる空間も、驚くほど広大で圧倒される。
中低域がパワフルに押し寄せて、身を任せるのが心地良い楽曲なのだが、その魅力をZE8000はシッカリ再生できている。低域には締りがあり、ベースラインもタイトだ。低域だけでなく、中域から高域にかけても、全体的に分解能が高く、自分の耳の性能が良くなったかのように、細かな音が聴き取れる。
「フォープレイ/Foreplay」のパワフルなベースの低域が、グォーンと地下まで沈み込む。沈み込みながら、途中で音程が変化するのだが、その様子が克明に描写される。低音の中の表情の変化が聴き取れるので、パワフルなだけの大味なサウンドに聞こえない。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」では、ヴォーカルの生々しさがスゴイ。「スッ」と息を吸い込む音にドキッとする。口が開閉する様子が目に見えるかのよう。さらに、歯と、舌が接触し瞬間のかすかな音まで聴き取れる。こんなに細やかな音まで聴かせるTWSは初めてだ。
「Ado/新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」も圧巻。Adoの声が出た瞬間に、彼女の口元が頭の中に出現したようなリアルさにドキドキする。大太鼓の低域も深く、タイトで、切れ味バツグン。広い空間に、様々な音が乱舞する様子が、高解像度で描写される。音像の輪郭がクリアで、見通しが良いため、音が飛び交ってもガチャガチャしない。「こんな音で構成された曲だったのか」という新たな発見がある。
打ち込み系の音が乱舞する中でも、Adoの声は“人の声の自然さ”をキープしている。音色の描き分けがしっかりできている。ドライバーユニットのクオリティの高さにも驚かされる。
4人ぞれぞれの“ベストバイ”は?
一番好きなイヤフォンは「WF-1000XM4」。様々な楽曲を聴く楽しさは「ZE8000」の方が優勢に感じられるが、自分にとって重要なのは“人の声”。とくに好きな猫又おかゆやAimerの歌唱/声をじっくり聴くにはこの「WF-1000XM4」でLDAC接続したときの音のバランスが一番しっくりくるので、声フェチ仲間やおにぎりゃーにTWSをお勧めするなら今回の4機種だったらコレ一択。
次点が「ZE8000」で、こちらも情報量が凄まじく、解像感も高いのだが全体的に前に出過ぎているようにも感じられるため、声以外の部分でも、引くべき部分はしっかり引く「WF-1000XM4」のバランスの方が個人的には好みなのでこのような結果になった。
一番気に入ったイヤフォンはfinal「ZE8000」。愛用のカスタムIEMと変わらない音のバランスの良さ、解像度・表現力の高さには脱帽した。“とんこつラーメン”のように濃いサウンドは、移動中などの“ながら聴き”よりも、自宅などでじっくり楽しみたくなる。しかし、完全ワイヤレスは通勤時や外出時など屋外での利用頻度が高く、自宅にいるなら有線イヤフォン/ヘッドフォン使えば良いのでは? とも思ってしまう。「ZE8000」の大柄なケースも、普段ケースをズボンのポケットにしまいがちな筆者には合わないと感じた。
そうなると、普段遣いの相棒となるのは「AirPods Pro(第2世代)」。ズボンのポケットにしまいやすいコンパクトなケースサイズ、前モデルから低域が強化されたサウンド、長時間でも疲れを感じにくい装着感は、外出時には最高のパートナー。アップル製品&Apple Musicなら空間オーディオも楽しめるというオマケもついてくる。唯一ネックに感じるのは39,800円という価格の高さ。初代「AirPods Pro」が3万円以下(発売時27,800円)で購入できたことを考えると、コストパフォーマンスの面ではオススメしにくいなと思ってしまう。
コスパという点では、やはりAnker「Soundcore Liberty4」が最強。より高級な3機種と比べてしまうと、音の作り込みの面で粗さが目立つが、アプリのイコライザーをうまく活用すれば問題ない。なにより、14,990円という高コスパで、ANC機能、IPX4の防水仕様、さらに今回は試さなかったが心拍計測などヘルスモニタリング機能まで盛り込まれていることを考えると、はじめての1台にはピッタリ。愛用イヤフォンの故障や紛失など、もしものときのバックアップ用に1台用意しておく、という使い方もアリだろう。
ソニー「WF-1000XM4」は、個人的には一番しっくり来なかった1台。前モデルからモニターライクなサウンドに変わったモデルだが、これまで低域の量感がほとんどなかった「AirPods Pro」が、第2世代で低域表現にテコ入れしてきたこともあり、結果的に「WF-1000XM4」の低域は“大人しすぎる”と感じてしまう。装着時の圧迫感の強さも個人的には不満点。なによりも試聴中に唯一、音途切れが発生してしまったことを考えると、iPhoneに電波が減衰しやすいアルミ製バンパーを装着している筆者の環境にはマッチしないだろうなと思ってしまった。
1人だけ浮いた評価で恐縮だが、音の好みはダントツでApple「AirPods Pro」だ。音質、そして定期的に充電が必要という理由からイヤフォンもヘッドフォンも有線一択で(iPodを使っていることもあるが)、完全ワイヤレスはいまだ自腹購入した経験がないのだが、AirPods Proであれば購入して使っても良いと感じた。
結論から言うと、今すぐ欲しいと思うのはfinal「ZE8000」だ。SN比の良さ、解像度、音の繊細な表現などが、今までのTWSとは違う1つ上の次元に到達している。有線のハイクラスなイヤフォンと高級DAPで味わうような音が、3万円台のTWSから聴こえるのは驚きだ。
音の細かさだけを追求したハイ上がりな音ではなく、全体のバランスも良好。低域もしっかりと深く、分解能も高いため、ノリの良い音楽を聴いた時の満足感もある。オーディオファンはもちろんだが、あまり詳しくないという人が聴いても気に入るだろう。
スティックの先にイヤフォンを取り付けたようなデザインだが、装着感も悪くなく、安定度も高い。強いて不満点を挙げるならば“充電ケースがデカい”事だが、これはカスタムイヤーピースの装着を想定したものなので仕方がない。イヤーピースをカスタムするステップアップの幅が設けられているところも、オーディオファンの心をくすぐる。逆に、カスタムしない人向けに、サイズがコンパクトな充電ケースを別売して欲しい。
次点はソニー「WF-1000XM4」。高級TWSの中でトップクラスの実力を持っているのは間違いなく、このモデルを選んでおけばまず間違いはない。前モデルと比べると低域は大人しくなったが、逆にモニター寄りの音に進化しており、オーディオファンにとっては嬉しい進化だ。音質だけでなく、NC効果の凄さはTWSで1、2を争うレベル。地下鉄で通勤しているとか、飛行機に乗る機会が多い人などには、頼りがいのある相棒になるだろう。
3位はAnker「Soundcore Liberty4」。パワフルで元気のいい、いわゆる“ドンシャリ”系だが、高域は素直でクリアなのでゴチャゴチャした音にはなっておらず、非常に良くできている。NC効果も高く、機能も豊富。これで他社の半額以下というコストパフォーマンスには脱帽だ。
「AirPods Pro(第2世代)」は正直ランキングに入れるのが難しい。純粋な音質としての評価ではソニーに次ぐと感じるが、聴こえ方が他の3機種と異なるため、他と比べて購入するというよりも、AirPods Proの聴こえ方が気に入るかどうかが重要になるだろう。個人的には“通勤で使いしたいイヤフォン”かつ“長時間使うならコレ”という印象で、使い心地の良さ、ストレスの少なさを評価したい。その面では間違いなく、4機種中トップだ。音楽をとことん楽しむイヤフォンというよりも、“日常生活を快適にするツール”というイメージだ。