レビュー

壁コンセントをオーディオグレードに交換してみた。効果と注意点は!?

筆者宅、リビングの環境

電源タップや、電源ボックス、電源ケーブルをオーディオグレードの製品に交換する――
壁のコンセントをオーディオグレードの製品に交換する――

この2つの行為には、大きな断絶というか、ハードルの違いがありはしないか。もっと言えば、「壁のコンセントまで交換するのは極端な人がやること」などと敬遠されていないだろうか。かくいう筆者もライターとして記事を書き始める前は、そんな風に思っていた。

「オーディオは好きだけど、家の設備にまで手を入れるなんて……」

もし、この記事を読んでいる方がそう考えているとしたら、大いに共感する。交換の是非以前に、そもそも電気工事士の資格がない人が自分で壁コンセントを交換する行為は違法だ。かといって、町の電気屋さんに依頼すると数千円の工賃が掛かる。持ち家ならともかく、賃貸なら引っ越すときに元に戻さないといけない。決して気軽に出来ることではない。

ただ、そんな筆者も六畳一間の1Kアパートでオーディオをやっていた頃、ひょんなことからコンセントでも替えてみるかと思い立ち、やってみたらビックリ。電源ケーブルを変えるのと同じか、それ以上の音質変化が得られたのは衝撃だった。

本稿では、数年ぶりに我が家のコンセントを自分で交換したエピソードを解説しつつ、コンセント交換の魅力についてお伝えしたい。

【注意】コンセントの交換工事は、第二種または第一種電気工事士の資格が必要です

作業の流れ

筆者のオーディオ環境は、防音スタジオとリビングのホームシアターの2拠点だ。防音スタジオは、設計段階で厳選したコンセントとコンセントベースを使用し、施工時にまとめて設置してもらった。空調&照明回線とオーディオ回線とでブレーカーを分けるなど、基本的な対策も実施している。

対してリビングのシステムに使用しているコンセントは、入居時の一般的な家庭用コンセントのままであった。元々、地上波テレビが見られて、ながらでネットワークオーディオが楽しめればいいと思っていたので、特に対策をしていなかった。それがここ最近のリビングオーディオのクオリティアップに伴い、ようやく重い腰を上げてコンセントも対策するぞと決意した訳だ。

リビングにある2口の一般的なコンセント

まずはこの写真を見てほしい。リビングにある2口の一般的なコンセントだ。上のコンセントは、電源ボックスに行くAV機器用の回線。下のコンセントは、モデムやルーター、スイッチングハブ、NASなどのIT機器用の回線になっている。左側にあるのは、テレビ用のコンセントだ。CATVのインターネットに加入しているため、2口フルで利用している。

今回、右側にあるコンセントをオーディオ用に交換することにした。

入居時から取り付けているコンセントは一般的な家庭用コンセント(ナショナル製:現パナソニック)。前の居住者のタバコのヤニ汚れでボディが黄色く変色し、度重なる挿抜で内部のバネが劣化。SAECの電源ケーブルは、挿しても微妙に垂れ下がり、上からブレードが数ミリ見えてしまう。

コンセント交換は、電気工事士の資格がないと作業してはいけない。とても簡単な作業なので、無資格でやってしまう人もいるかもしれないが、電気工事士法違反なので必ず町の電気屋さんに依頼しよう。違反すると、3カ月以下の懲役または、3万円以下の罰金だ。

筆者は、高校生の頃に取得した第二種電気工事士の免状と、専門学生のときに受験した第一種電気工事士の合格証がある。実務経験はないので、一種は免状を持ってない。しかし、一般家庭のコンセントなら第二種電気工事士の免状で交換が出来る。

今回選んだのは、元祖オーディオ用コンセントともいえる、パナソニック電工製のホスピタルグレードのコンセント「WM-1318」にRAC処理を施したサウンドアティックスの「RAC-1318」だ。

RAC処理とは、エレクトロニクス専用のクライオ処理とノイズパルス電流を印加する物性複合処理の総称。クライオ処理は、液体窒素による低温処理で物性処理の改善を図る。若干ながら抵抗成分の減少(0.5~2%)が確認されているという。パルス電流を印加することで、エージングの効果と素材の均質化・安定化を図るそうだ。

では、作業を開始する。テレビコンセントから同軸ケーブル2本を取り外し、続けてコンセントカバーを外す。カバーを取り付けるベース部分のネジを4箇所外して、ベースを取り外す。ご覧のように、アンテナコンセントと100Vのコンセントが並んでいる。

カバーを外したところ

その距離はスレスレで、一般的なオーディオグレードのコンセント(楕円形)ではお隣のテレビコンセントに干渉してしまいそうだ。そもそも、アンテナコンセントと楕円形のオーディオ用コンセントを並べた状態のコンセントカバーなど見たこともない。そう、この時点でオーディオグレードのコンセントの大半は選択肢から外れてしまったのだ。

オーディオグレードのコンセントの例

RAC-1318なら、露出部分の形が従来のコンセントと変わらない。念のため寸法も確認したら、一般的な家庭用コンセントと同一だった。

コンセント交換にあたり、感電やショートを防止するため、子ブレーカーを落とさないとならない。同室には冷蔵庫もあるので、なるべくギリギリまで落とすのはやめておいたが、本来は作業開始前に落とすのが基本だ。ブレーカーを落とす前の対処も忘れない様にする。

モデムやWi-Fiルーターに電源スイッチがあれば、必ず切っておく。NASは事前に電源を落としておく。一番やっかいなのがBlu-rayレコーダーだ。番組表の取得などでステルス稼働していることが少なくない。耳を近づけてHDDの駆動音がしないことを確認したら前もって電源コードを抜いておこう。リビングの子ブレーカーを切ったら、テスターでコンセントのホットとコールド間の電圧を測る。AC 0Vになっていたら安全だ。

コンセントを固定する2箇所のネジを外して、埋め込みのスイッチボックスからコンセントを取り出す。コンセントの裏側を見ると、4本のIV線(単線1.6mm)が差し込まれていた。最小の本数は2本だが、どうやら渡りで配線が成されている模様。

スイッチボックスからコンセントを取り出す

差し込み口と配線の色の相対を確認して、交換時に備える。詳細は、家庭の電気工事の基礎が必要になるので割愛するが、他の回線や器具に影響しないよう注意が必要だ。複線図はおろか、配線図(単線図)も居住者の手元にないことがほとんどなので、抜く前に写真を撮っておいた方がいいと思う。特に筆者の様に実務経験の無い素人はマストだ。

コンセントから赤一本と白一本を外し、念のためテスターで計る。電圧が来てないことを確認したら、他の2本も外して、コンセントを完全に取り外した。IV線の酸化した導体部分は、数ミリの被覆を含めてニッパーで切断。ワイヤストリッパーで被覆を剥き直して綺麗な銅線を露出させた。

被覆をどのくらい剥けばいいかは、コンセントの裏側にストリップゲージがあるので、IV線を当ててその長さを参考にすればいい。剥き終わったら、アコースティックリバイブの導通向上クリーナー「ECI-50」を使って銅線部分をクリーニングした。

導通向上クリーナー「ECI-50」

RAC-1318の裏側を見ると、アース線が取り付けられている。この埋め込みボックスには、アース線が来ていないのでアースは接続しないことに。ボックス内はIV線で大混雑のため、アース線は根本で切り落としておいた。

4本のIV線を間違えないように裏面の差し込み口に差し込む。オーディオグレードのハイエンドコンセントになると、ネジ留め式になっていることも多い。特に難しくはないので、接続間違いだけ気を付けるようにしよう。

IV線を曲げながら、コンセントをボックス内にゆっくりと慎重に収納していく。IV線を変な方向に曲げると、収納時に抜けてしまうことがあるので注意したい。コンセント上下のネジとカバーベースのネジを固定。カバーベースは写真のように「UP」という上下の向きがあるので間違えないようにしよう。

コンセント上下のネジとカバーベースのネジを固定。カバーベースには「UP」という上下の向き表示がある

このあたりまで来たら、もうブレーカーは戻してもいいだろう。2口ともテスターで電圧を測って、それぞれAC 100Vが来ていることをチェックしよう。極性のチェックも合わせて行なっておくとよい。

赤のテスト棒をコールド(穴が長い方)orホット(穴が短い方)に差し込み、黒のテスト棒は床に当てて、電圧を測る。正しい配線なら、コールドに差し込んで計ったときの方が低い電圧(ほぼAC 0V)になる。

コールドが接地側に配線されてない事例、いわゆる極性間違いは、残念ながらあり得なくはない。既設のコンセントで見つけたら、電気工事が適当だったと思って自分で配線を修正……は違法なので業者に依頼するしかない。オーディオファイルにとっては、コンセントの極性は大事なだけに切ない限りだ。

最後にコンセントカバーを戻して完成。

今回、CATVの同軸ケーブルが簡単に外せるか不安もあって、作業が後回しになってしまっていた。実際、小型のモンキーレンチを使ってあっさり付け外しが出来たので、怖じ気づかないでさっさと交換すれば良かったのだ。考えてみれば、知人の部屋のコンセントを交換して以来、数年ぶりの作業だった。意外と覚えているものだ。感電することなく無事終えることが出来た。

音と映像はどう変わった?

では、お待ちかね。交換による音と映像の変化を確認してみよう。なお、ECI-50の効果が最適となる24時間以上を経過から視聴している。

まずは映像だ。「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」と「映画ゆるキャン△」のUHD BDを見たが、劇的な違いは確認出来なかった。が、よく見れば違うのは分かる。これは明らかというのは、画面全体のノイズの少なさだ。非常にクリーンで澄んだ映像に変わった。実写映画であれば、本来のフィルムグレインのみに浸ることができるし、アニメであれば、フォトブックがそのままの画質で動いているような感覚だ。映像の純度が上がったと思う。

続いて音声だ。ヤマハのAVアンプ「RX-V6A」でNASの音源をネットワーク再生する。一聴してエネルギー感が高まった。特に中低域に顕著な違いがみられる。芯が入って、土台が安定した印象だ。

コンセントを替える前もそれらは鳴っていたものの、コシが入っていない感覚だった。ちょっと触れるとフニャッと折れてしまいそうな……ハリボテ感とでも言おうか。音像のディテールもより明瞭に、フォーカスが格段に改善している。AVアンプではハイレゾ音源もよく聴くので、本当に交換して良かったと満足感に包まれた。

こんなに改善するならと、余っていた太い電源ケーブルのプラグをメガネタイプから通常のインレットに交換して、電源タップまでの経路も強化した。電源タップからAVアンプまでは交換不能な直出しの細いACケーブルなのだが、大きな音質改善が見られた。

電源というのは、良質なケーブルや電源タップを通すことでだんだんと音に良い影響をもたらすことはあまり知られてないのではなかろうか。要は、壁コンセントから直接アンプなどに電源を取るよりも、ケーブルやタップを介した方が好ましい効果が期待できる。たとえ末端が普及帯のケーブルでも上流を強化することは、決して無駄にはならないということが確かめられた。

さて、コンセント交換をすることで、どのような要素が音質への変化に繋がっているのか、少し考えてみたい。

まず、IV線の被覆を剥き直すことは、スピーカーケーブルのメンテナンスのときに被覆を剥き直して綺麗な銅線を露出させるのと似たような効果が期待できる。酸化すると銅体の表面に酸化膜が形成されるが、それが電気を通しにくくしてしまうからだ。ただ、剥き直した直後は音がバキバキというか固い感じになるので、しばらく慣らしが必要だと思う。

コンセント内部の電極も重要だ。電極自体の素材やメッキの種類も音に影響する。素材は、純銅、ベリリウム銅、リン青銅など、素材によって導電性が異なる。メッキは、金メッキ、ロジウムメッキ、無メッキが代表的だ。メッキは主に酸化防止のために施す。メッキによる音の個性を排除したい人は、あえて無メッキを選んだりもする。

刃受部のバネ性能もプラグのブレードを保持するのに欠かせない要素だ。差し込まれたプラグの刃をしっかりホールドして不要な振動を起こさないようにする。電源ケーブルは、振動対策のため、床から浮かすとよいと言われるが、コンセント内部も振動対策は重要なのだ。

ボディとなるハウジング素材も静電気に強い素材を使ったり、振動対策のため比重の大きい素材を使用したりしている。

上記をザックリまとめれば、電気を通りやすくして、各所で振動対策も施すことで音質を向上させているということになる。

今回交換したRAC-1318は、ホスピタルグレードコンセントがベースモデルになっているため、ハウジング素材が一般的な家庭用コンセントより頑丈に出来ており、重量もあることから制振性能は期待できる。電極のバネ性も実際に差し込んでみて分かったが、かなりの保持力がある。簡単に抜けてしまっては、医療用の機器が止まってしまうので、当然と言えば当然だ。古くなってバネ性能が劣化している家庭用コンセントからの交換は、振動抑止の観点からもクオリティアップすることは期待できるだろう。

また、独自のRAC処理によって、エネルギー感やスケール感の向上、レスポンスの改善、聴感上のレンジを拡大するとメーカーは謳う。ただ、ベースモデルとの比較は行なっていないので、申し訳ないが評価は差し控えたい。

家の設備に手を入れることは、確かに心理的なハードルは高い。しかし、一度飛び越えてしまえば、「なんでもっと早く交換しておかなかったのか」といい意味で後悔することだろう。

一般の家庭用コンセントからの交換は、エントリークラスの製品でも有意義であることは今回の検証で自信を持って言える。無資格の工事は絶対にNGだから、そこだけは注意してもらいつつ、音の最上流となる壁のコンセントにも目を向けてくれたら幸いだ。

【注意】コンセントの交換工事は、第二種または第一種電気工事士の資格が必要です

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト