【レビュー】50mm&密閉型。新時代のAKG「K550」を聴く

-クールなデザインから伝統のAKGサウンド


K550

 近頃、新しい方向性の製品を積極的に投入しているのが、1947年に創立されたオーストリアの老舗メーカー・AKGだ。プロ用マイクやヘッドフォンなどで知られ、民生機器も手掛ける同社は、今年の9月にバランスド・アーマチュアユニットとダイナミック型ユニットを両方内蔵した高級イヤフォン「K3003」(実売約138,000円)を投入し、話題を集めた。

 さらに、12月上旬からは50mm径ドライバを搭載し、ソリッドなデザインを採用したヘッドフォン「K550」を発売した。Kシリーズ初の密閉型であるこのモデルを、今回は試聴したい。価格はオープンプライスで、実売は29,000円前後だ。




■従来のイメージとは異なるデザイン

 AKGと言えば、一般的にはスタジオモニターヘッドフォンの印象が強いだろう。これまでのシリーズを見ても、その長い歴史を感じさせるような、どちらかというとレトロなデザインの製品が多い。しかし、今年登場した「K3003」や「K550」は、どちらもクールでソリッドな近未来的デザインで、同社としては挑戦的なモデルと感じられる。

バランスド・アーマチュアユニットとダイナミック型ユニットを両方内蔵した高級イヤフォン「K3003」K550のハウジングを平らにしたところどちらかと言うと、レトロなデザインのHIGH DEFINITIONシリーズ。写真はK272HD

 「K550」は密閉型のヘッドフォンで、50mm径の大口径ユニットを採用。振動板にはマイラー素材を使い、軽量のアルミボイスコイルも採用している。

 イヤーパッドが肉厚なのでわかりにくいが、ハウジング自体が非常に薄いのが特徴だ。ハウジングを平らにする事もでき、バッグの隙間など、比較的狭いスペースにも収納できる。また、首掛けした際も、ハウジングが出っ張っていないため、顔に当たったりしにくい。

肉厚なイヤーパッドを採用しているハウジングの中央はヘアライン仕上げかなり薄型のハウジングである事がわかる

 ユニットが大きいため、イヤーパッドの口径も大きく、装着すると耳の周囲をスッポリ覆う形になる。サイズ的に余裕があるため、装着時の負担は少なく、閉塞感も無い。側圧もソフトで、長時間の使用でも痛くなりにくい。イヤーパッドが肉厚なので、メガネをかけていても、つるの部分がしっかり埋もれてフィットしてくれる。なお、通常使用時は問題ないが、椅子に座ったまま大きく背伸びをするとヘッドパッドの位置が後ろに少しズレる事があった。

ベンチレーション・システムの概要図

 ハウジングの中には、もう1つのハウジングを設けており、バスレフ・ポートも内部に用意。さらに、ドライバや内部ハウジングの空気の流れを調整するポートも備え、振動板振幅時に発生する背圧を最適化している。AKGではこれを「ベンチレーション・システム」と名付けている。

 ヘッドアームの長さ調節はラチェット式で、伸び縮みさせると「カチカチ」と硬質な音がして気持ちが良い。ハウジングは中央がヘアライン仕上げで、周囲はつや消し。ヘッドアームは鈍く光を反射する金属製で、全体的に高級感のある仕上がりだ。


LRの表示はユニットカバー部に印刷されており、見分けやすい装着したところ。ハウジングが薄く、フレームもシンプルなので、威圧感は少ないユニットは50mm径で、振動板はマイラー素材
ヘッドアームの長さ調節はラチェット式ヘッドパット部分

 ケーブルは3mで高純度OFC(無酸素銅)を採用。着脱はできず、ポータブルで使用する時はバンドなどでまとめる工夫が必要だろう。実売29,000円前後と、ヘッドフォンの中では高級モデルなので、昨今のトレンドであるケーブルの着脱には対応して欲しかったところだ。

 入力はステレオミニで、標準プラグへの変換コネクタも付属。再生周波数帯域は12Hz~28kHz。感度は94dB/mW。インピーダンスは32Ω。ケーブルを除いた重量は305g。

入力端子はステレオミニで、標準プラグへの変換コネクタも同梱。ケーブルの着脱はできない製品のケース



■音を聴いてみる

 試聴には第6世代iPod nanoと、ALO AudioのDockケーブル+ポータブルヘッドフォンアンプの「iBasso Audio D12 Hj」を使用した。なお、試聴に使った「K550」は100時間ほどエージングしたモデルとなる。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生。すぐにわかるのは、雑味が少なく、クリアで、サッパリとした再生音である事。1分過ぎから入るアコースティックベースの金属的な弦の音、ベースの筐体が反響して増幅される木の音が、しっかり描き分けられる。ハウジングは金属製だが、硬質な付帯音も感じない。

薄型ハウジングとは思えないほど抜けが良く、開放的なサウンド

 特筆すべきは音場の広さだ。薄型のハウジングからは想像できないほど、特に中高域の抜けの良さが素晴らしい。オープンエア型ヘッドフォンを使っているかのようなさわやかさだ。一方で音漏れは少なく、適度な音量で再生していれば、走行中の電車内であれば隣に座った人への音漏れを気にする必要は無いだろう。

 ユニットが50mmと大型なこともあり、低音は12Hzまで再生できる。ただ、この低音の“出方”が特徴的だ。

 AKGの開放型ヘッドフォンを使ったことがある人にはわかると思うが、一部のポータブルヘッドフォンを除き、同社のヘッドフォンはもともと低音をモリモリと強く出す傾向ではなく、解像感の高さや抜けの良さが特徴となる。ただし、“低音が出ない”のではなく、“出せるのだが過度に主張しない”バランスで、ドライブ力のあるアンプと組み合わせてボリュームを上げていくと、ポータブルプレーヤーでドライブしている時とは比べ物にならないほど、沈み込んだ低域が出てきて驚かされる事がある。

 今回の「K550」も同様で、iPhone 4Sで直接ドライブし、1曲聞いただけでは「低い音が出ていないな……」と感じる。しかし、ポータブルアンプに接続し、低音が豊富なKenny Barron Trio「The Moment」から「Fragile」を再生すると、ルーファス・リードのアコースティックベースが「ズーン」と地を這う。デザインは今風になったが、音はまぎれもなくAKGの音だ。

 ただ、最低音はキッチリ沈むが、量感が少ないのは事実。意識的に中低域を膨らませないよう配慮されたサウンドだ。そのため、迫力面では大人しい印象を受ける一方で、中域の細かい音がよく聴き取れる。例えば、「シャンシャン」というシンバルの音では、シンバルを叩くスティックの「カコンカコン」という硬い“木の音”が、きらびやかな高域や、ベースの低域にかき消されずに聴き取れた。

 次に高域を聴くため、坂本真綾「トライアングラー」を再生。この楽曲はヴォーカルのサ行を含め、高音がキツ目で、荒れた高音を出す製品で聞くと、耳に音が突き刺さるような痛みを感じたり、低音が薄いと、ペラペラの音に聴こえる。高域寄りのバランスである「K550」も、そんな音に聴こえてしまうのではと心配したが、非常に上品な高域が出ており、ボリュームを上げても耳がまったく痛くない。

 高域の描写が丁寧な証で、単に高い音だけ出しているのではなく、音像に立体感があり、高域寄りながらもバランスのとれた再生が出来ているため、痩せた高域のみが目立つ事が無い。高域が騒がしいパートに差し掛かっても、低音に意識を向けると、すぐにベースラインだけを聞き分けられる。個々の音の分離が良く、付帯音が少ないことも寄与しているだろう。



■まとめ

 ヘッドフォンに低音の力強さ、量感などを求める人には、あまり向かない。高域の抜けの良さ、中高域のクリアさを重視し、低域には“適度な締まり”を求める人にはハマる音だ。一言で表せば“品の良い音”となるだろうか。

 個人的に少し気になったのは、こうした音の傾向と、デザインのバランスだ。デザインだけを見るとハウジングが大型で、黒を基調としたカラーで、男性的なフォルムであり、見るからに「骨太の低域をガツンと聴かせる」風貌に見える。だが、音を出すと上品で丁寧な伝統のAKGモニターサウンドが流れるところが、ちょっと奇妙であり、逆に魅力でもある。

 密閉型でこれだけカッコイイデザインだと、屋外でも積極的に使っていきたいが、そうなると3mのケーブルは長い。ポータブルアンプとの組み合わせでも長く感じるので、ケーブル着脱可能バージョンや、短いケーブルのモデルも欲しいところ。また、このソリッドなデザインの系統で、よりコンパクトなモバイル向けにも期待したい。“新時代のAKG”を感じさせてくれるモデルだ。


(2011年 12月 21日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]