【レビュー】1080p対応した新「Apple TV」の魅力

-地味だが着実な進化。Storeの1080p拡充に期待


Apple TV

 アップルは16日、高精細なRetinaディスプレイを搭載した新iPadとApple TVを発売開始した。第3世代となる新iPadについては、ディスプレイの精細さ、フルHD撮影対応など多くのアップグレードが図られたことなど、弊誌でも多く記事で触れてきた。

 一方、Apple TVは地味なアップデートということもあり、それほど注目度も高くないようだ。新iPadについては、iPad 3でもiPad HDでもなく「iPad」というシンプルなネーミングになったことが話題になったが、Apple TVは新モデルも名称が全く変わらず「Apple TV」のままだが、この件はほとんど話題になってない。外形寸法や重量も変わらず、価格も据え置きの8,800円だ。

 外観の変更はないが、プロセッサはApple A5にアップグレードされ、処理能力を向上したことで、最高1080pまでの動画再生に対応(従来は720pまで)。iTunesで管理している動画や、YouTubeやNetflix、Vimeoなどの1080p映像がストリーミング再生可能となった。また、新UIも採用しているが、これは旧Apple TV(720pモデル)でもアップデートで対応したので、新モデル固有の機能は1080p対応のみといっていい。

 1080pに用がなければ、旧モデルでも構わないわけだが、新Apple TVにあわせてiTunes Storeにおいても1080pの動画配信がスタートした。つまりiTunes Storeで映画をより高画質に見られるようになるなど、配信コンテンツの底上げが図られた、よりよい映像体験が可能になる点がポイントといえる。早速、新Apple TVの実力を検証した。



■ デザインや外形寸法は従来モデルと同じ

パッケージ1080pの文字が入っている点が従来モデルとの違い

 同梱品は、アルミニウム製Apple Remoteと取扱説明書、電源ケーブルだけ。外形寸法は98×98×23mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約272gで、従来のApple TVと同じだ。従来モデルと違うのは、パッケージに[1080p]の文字が入っていることぐらいだ。

 天板にはApple TV専用ロゴを、底面にはAppleロゴを配している。前面には赤外線受光部、背面にはHDMI出力と光デジタル音声出力端子、Ethernetを装備する。IEEE 802.11a/b/g/n準拠の無線LANも内蔵している。

 セットアップはシンプルで、HDMIケーブルとEthernetをテレビにつなぐだけ。有線のLANケーブルを抜くと、無線LANの設定が行なえるようになっている。基本的には従来モデルと同じなので、以前のレビューも参照して欲しい。


Apple TV天板にはリングマークとtvの文字底面にリンゴマーク
背面にEthernetやHDMI出力、光デジタル音声出力を装備する同梱品リモコン

■ 1080pの画質は良好。ただし、1080pコンテンツ検索には難アリ 

メインメニュー下にスクロールすると、MLBなどのコンテンツも

 メインメニューを表示すると、ムービー、コンピュータ、設定の3項目を表示。リモコンでスクロールすると、さらに「MLB.TV」、「NHL」、「Trailers」、「WSJ.Live」、「YouTube」、「Vimeo」、「Podcasts」、「Radio」、「PhotoStream」、「MobileMe」、「Flickr」の各項目が現れる。操作はリモコンのカーソルキーを利用し、上下/左右とMENU、決定を選択するだけというシンプルなもので、レスポンスは良好だ。

 主要機能の「ムービー」は、Apple TVでiTunes Storeから直接購入した映画やテレビ番組などを視聴できる。コンピュータはMacやWindows PCで購入したコンテンツ、iTunesで管理しているビデオや音楽を選択し、再生指示できるものだ。

 映画の検索は「ムービー」から行なう。映画の検索は、Apple TVだけでなく、パソコンからも行なえ、それぞれジャンルごとの検索や[HD動画]のみの絞り込み、出演者による検索などに対応する。ただし、Apple TVとパソコンにおける購入コンテンツの扱いは若干異なっている。

Apple TVでムービーを検索ジャンル検索コンテンツ購入画面

 Apple TVで映画を見る場合、パソコンなどのiTunes Storeで購入/レンタルした映画/番組をストリーミングする方法と、Apple TVに直接ダウンロードする必要がある。

パソコンでレンタルした映画はiPhoneにも転送できる

 販売形態としては、レンタル/購入の2方式だが、いずれもコンテンツを一旦ダウンロードしてから再生する。パソコンの場合、レンタル/購入の双方が利用可能で、iTunes Storeから映画をダウンロードし、それをApple TVへストリーミング配信するという方式だ。iTunesをサーバーとして利用するため、Apple TV利用時にパソコンを立ち上げておく必要があるが、コンテンツによっては、iPhoneやiPad、iPod touchへの転送もできる。

 Apple TV単体利用の場合はレンタルのみで、パソコンやiPhoneなどへの転送は行なえない。レンタルした映画の視聴期限は、ダウンロードから30日以内で、最初に再生してから48時間以内。


購入方法Apple TV再生パソコン再生他のデバイスへ
転送
Apple TVでレンタル--
パソコンで購入/レンタル
(PCからストリーミング)

(コンテンツによる)
パソコンのiTunes

 このため、まずはパソコンで映画を買おうとしたのだが、iTunes Storeで検索したところ[HD]コンテンツが多いものの、それが1080pなのか確認できない。同様にApple TVの[HD]を調べたのだが、1080pの表示があるのもが見つからない。試しに「マネーボール」を購入してみたが、これは720pのようだった。

 3月8日のiPadとApple TVの国内発表会では、「猿の惑星:創世記」で1080p再生をアピールしていたとのこと。そこで、同タイトルをチェックしてみたところ、パソコンのiTunes Storeでは[HD]と表示されているだけだったが、Apple TVには1080pと記載されていた。そのため今回は「猿の惑星:創世記」をレンタルしてみた。レンタル価格は500円。

 基本的にiTunes Storeにおける映画レンタルは、HDが500円、SDが400円なので、1080pだからといって価格差が生じるというわけではなさそうだ。


「猿の惑星:創世記」が1080p対応と記載されていた[HD]だが1080pか720pかはこの画面では確認できないApple TVで購入すると、Apple TV「のみ」での再生となる

 猿の惑星を再生してみると、冒頭のFOXのロゴから解像度の高さが感じられる。チャプター1の「ルーカス・タワー」というゲームに猿が挑戦する実験では、クローズアップされる猿の顔のシワやくぼみの陰影、ディテールがくっきりと見て取れ、「1080pだな」と実感できる。42型の液晶テレビ「42Z3」で見る限り、ノイズも感じられず、画質面の不満はほとんど無い。BDとの比較は行なっていないが、これがBDだと言われても信じられそうなクオリティだ。

 720pの「マネーボール」も十分にHDを感じられる品質ではあるものの、ディテールなどは物足りない。もともと、こういう絵なのかと思ったが、BD版と見比べてみると解像度の違いは歴然だ。

 レンタルの場合720p(HD)も1080pも価格が変わらないので、なるべくiTunes StoreのHD作品は1080pで楽しみたい。そのためにも作品数の拡大と、Storeにおける「わかりやすい表示」を希望したい。

 また、画質面では十分満足できるが、音声は最高でもドルビーデジタル 5.1chという点は、Blu-rayとの比較においてはマイナスだ。マネーボールを見るかぎりは顕著な差は感じないものの、音楽系のタイトルやミュージカルなどではやはり力不足となるだろう。

 レンタルのBDも400円程度だが、旧作になれば様々な割引があるので、単純に価格比較すれば店舗でのレンタルのほうが安いといえる。しかし、Apple TVも返却の手間や見たい時にすぐ利用できるというメリットは大きい。Storeのラインナップも充実してきたので、個人的にも「BDを買う程でもない」タイトルは、Apple TVでもいいかなと思えた。


■ iTunes内の1080p動画にも対応。フォトストリームも便利

 新Apple TVにあわせて、iTunesも1080p動画のホームネットワークへのストリーミング配信に対応した。Apple TVの「コンピュータ」にアクセスすることで、iTunes内の動画を選択し、再生できる。対応動画形式は、MPEG-4 AVC/H.264(最大1080p、30fps、High/Main Profile level 4.0以下, Baseline profile level 3.0以下)と、MPEG-4(最大2.5Mbps、640×480ドット、30fps、SimpleProfile)、MotionJPEG(最大 35Mbps、1,280×720ドット、30fps)。

コンピュータからビデオを再生

 今回テストしたところ、新iPadで撮影した1080/30p動画(.mov)や、ニコン「D800」の1080/30p動画(.mov、22Mbps/17Mbps)の再生が可能だった。また、Apple TVの公称スペックを超えているものの、ソニー「HDR-PJ760V」で60p撮影した映像を編集して出力した1,920×1,080ドット/60fps(約25Mbps)の.MP4ファイルも問題なく再生できた。

 ただし、AVCHDビデオカメラのm2tsファイルは、iTunesから認識されないため、Apple TVへの出力はできなかった。

 その他の機能としては、「MLB.TV」や「NHL」などの米国における人気コンテンツのストリーミングチャンネルを用意している。

MLB.TVNHLWSJ.Live
AirPlayとiPhoneのRemoteアプリでネットワークオーディオとして利用

 また、AirPlayにも対応しているため、iTunesをコンテンツ管理サーバーとし、Apple TVをネットワークオーディオ端末として利用することも可能。詳細は以前のレビューを参照して欲しいが、パソコンのiTunesやiPhoneなどの音楽ファイルを、ネットワークを介してApple TVに接続したオーディオ機器に出力できる。使い慣れたiTunesやiPhoneを操作する感覚で、しっかりしたオーディオシステムをコントロールできるという点は、引き続きApple TVの大きな魅力の一つといえる。

フォトストリーム

 もう一点魅力的なのは「フォトストリーム」。iPhoneなどで撮影した写真が、最大1,000枚まで、30日分がクラウドサービスの「iCloud」上にキャッシュされる。撮影したiPhoneと同じApple IDを登録しているApple TVであれば、iCloud上のデータにアクセスし、iPhoneで撮影した最新の写真データにアクセス可能となる。特に同期などを行なわずに最新の写真がApple TVで見られるというのは、とても便利。

 無線LANの接続環境さえあれば自動的にiCloud上のデータに反映されるため、転送忘れといったこともない。ただ、家族などで共有する場合は、撮影した写真が全部観えてしまうため、運用には注意したい。


■ 地味な改善ながら魅力向上の新Apple TV

 基本的には1080p対応とUI改善という地味なアップデート。しかし、1年前に比べて、iTunesやiCloudの機能が強化され、より洗練されているため、活用の幅は広がったと感じる。

 iPhoneユーザーやiTunesをAVライブラリ管理に活用している人はもちろん、単純にHDMIテレビとパソコン関連のコンテンツの橋渡しをするシステムと考えても、とても使い勝手が良い。価格も8,800円と安価なので、ちょっとテレビ周りをAV環境を強化を試したいという人にもいい。また、iTunes Storeのコンテンツ拡充が、さらにApple TVの魅力向上に結びつく、ということも実感できる。今後の拡充に期待すると共に、1080pコンテンツの増加と表示の明確化も望みたい。

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(2012年 3月 30日)

[ Reported by 臼田勤哉 ]