レビュー
4K、1080/60p、Wi-Fi、小型化。最強の「GoPro」
GoPro HERO3 Black Editionの圧倒的性能を試す
(2012/12/27 10:15)
コンシューマー向けのウェアラブルスポーツカメラ(アクションカメラ)市場は、この1、2年で大きく様変わりした。なにより、放送用素材としても耐えうる画質の製品が、一般のユーザーでも気軽に試せる価格帯まで下りてきたのは大きい。
中でも、いち早く高性能なモデルを投入して業界をリードしてきたGoProシリーズは、個人ユースだけでなく、業務用としてもコストパフォーマンスが抜群で、今や放送業界でも半ば使い捨てするかのごとくあらゆる場面で採用されるに至った。
GoProの座、あるいはその次を狙って、Contour、JVCケンウッド、ソニーなど、さまざまなメーカーが市場参入し、しのぎを削る中、そのGoProからダメ押しの一手となる新モデル「GoPro HERO3 Black Edition」が12月5日に国内発売された。39,900円と価格がワンランク上ではあるが、結論から言えば、またしても他社製品の1、2歩先を行った、と断言できる性能である。今回は、富士急ハイランドのアトラクションの乗車映像などをサンプルとして交えつつレビューしてみたい。
なお、HERO3シリーズは、性能を抑えたエントリー向けの「White Edition」(21,000円)と「Silver Edition」(31,500円)、そして今回紹介する最上位機種の「Black Edition」の3モデルがラインナップされている。「Black Edition」はさらに付属品の違いによって「Adventure」と「Surf」の2種類に分かれるが、国内で現在販売されているのは「Adventure」のみ。「Surf」は2013年1月下旬発売予定となっている。「Black Edition」は初回入荷数が極めて少なかったようで、12月27日現在も国内代理店のWebサイトでは入荷待ちの状態が続いているほどの人気ぶりだ。
製品名 | GoPro HERO 3 Black Edition | GoPro HERO 3 Silver Edition | GoPro HERO 3 White Edition |
---|---|---|---|
動画 | 1920×1440 48P/30P/24P 1920×1080-60P/48P/30P/24P 1280×960-60P/48P/30P 1280×720-120P/60P 4K Cinema-15P(ProTuneのみ) 2.7K Cinema-30P/24P(ProTuneのみ) 848×480-240P | 1920×1080-30P/24P 1280×960-48P/30P/24P 1280×720-60P/30P 848×480-120P | 1920×1080-30P 1280×960-30P 1280×720-60P/30P 848×480-60P |
ビットレート | 最高45Mbps | 最高35Mbps | 最高15Mbps |
ProTune | ○ | - | |
色温度 | オート 5500K 3000K 6500K | オート | |
写真 | 1,200万画素 | 1,100万画素 | 500万画素 |
Wi-Fi | ○ | ||
価格 | 39,900円 | 31,500円 | 21,000円 |
4K/2K解像度対応の高性能ハードウェア
Black Editionのスペックで最も目を引くのが、4K解像度をサポートしている点だろう。HERO2の約2倍に向上したという動画処理性能を活かし、最大4,096×2,160ドット、12fpsの動画撮影が可能になっている。フルHD動画では待望となる60fpsのフレームレートも実現した。レンズはF2.8で、暗部撮影についても従来の2倍強いとしている。ホワイトバランスはオートのほか、3000K/5500K/6500Kの色温度を手動選択でき、色調整などのない“Cam Raw”も指定できる。記録される動画ファイルはMPEG-4 AVC/H.264 AVCコーデックのMP4フォーマットだ。
画角は基本がWideで、1080pでのみMediumとNarrowも選択できる。実際の視野角は解像度によって異なるためか本製品からは明示されなくなったが、HERO2でのWide約170度、Medium約127度、Narrow約90度から大きくは変わらないだろう。動画撮影のモードと解像度などを表にすると以下の通り。
このうち、WVGA以外はProtuneモードに対応する。Protuneモードをオンにして撮影した場合は、主にビットレートが向上し、ポストプロダクションに適した生データに近い色合いやディティールで記録されるとしている。HERO2でもファームウェアのアップデートで対応したが、Black Editionでは購入直後から利用可能だ。高ビットレートの動画を記録することから、Class10対応のメモリカードが必須となっていることに注意しておきたい。ProtuneがオフのときはClass4のメモリカードでも十分だ。
静止画の画素数は1,200万画素で、最大4,000×3,000サイズのJPEG画像で保存できる。1,100万画素だったHERO2からはわずかな向上に感じられるかもしれないが、バースト撮影時は1秒間に30枚と、HERO2の3倍の速度で記録できるようになった。タイムラプス撮影機能もHERO2から引き続き搭載しており、本体の撮影ボタンを押している間だけ3~10連写するコンティニュアスフォト機能も新たに用意している。その一方でタイマー撮影機能は廃止されたが、これはタイムラプス撮影である程度代替できる。
さらに、動画撮影中に静止画像を撮影する機能も備えた。動画解像度やフレームレート、静止画解像度は制限されるが、動画撮影しながら一定間隔で静止画像を自動撮影したり、あるいは好きなタイミングで手動で静止画撮影したりと、用途やシチュエーションに合わせて使い分けられるのは便利だ。他社製品では搭載されていることが増えてきた手ブレ補正機能は、光学式/電子式ともに備えていない。
音声はどの動画解像度でもAAC/48kHz/128kbps固定ビットレート。内蔵マイクでモノラル録音でき、後述するが、別途変換ケーブルを用いることで外部マイクにも対応可能。音量は自動調整となる。
本体・ハウジングはさらに小型化し、操作性が向上
外観を見ると、HERO2と比べて明らかに小型化されていることがわかる。本体サイズは59×30×40.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量73gで、幅と高さはHERO2とほとんど変わらないが、奥行きがかなり薄くなった。HERO2の突起状になっているレンズ部を除いた厚さが、ちょうどHERO3のレンズを含む奥行きと同じくらいだ。
本体を格納する専用ハウジングのサイズは72×37×66mm(幅×奥行き×高さ)で、本体の奥行きが小さくなった分、ハウジングの奥行きも減少している。しかし、ハウジング上部にあるバックルの形状変更や、レンズ部周辺のデザインが変更になったためか、重量は23g増の95gに。結果、本体+ハウジングの合計重量は、HERO2から1gの減量にとどまっている。
マウントアクセサリーは従来のものをそのまま流用可能。本体とハウジングのみ入れ替えればアップグレードできるというのは、既存製品のユーザーにはありがたい。本体背面に取り付けるバックパック類も、Wi-Fi BacPac以外は従来製品用のものをほぼ流用可能なようだ。
ボタンは大きめのプラスチック素材に変わって押しやすくなり、スピーカーとマイクの位置は側面に移動。メモリカードは従来のSDカードからmicroSDカード(最大32GBのSDHC/64GBのSDXCに対応)に変わったほか、このメモリカードスロットと端子類はカバーに隠される形になり、見た目はすっきりとした。端子類はHDMIマイクロ出力と充電・データ転送に使うミニUSBの2種類。HERO2にあったHDMIミニとRCA出力はなくなった。
microUSB搭載機器が多くなってきている中、あえてミニUSBのままにしたのはHERO2やアクセサリーとの互換性を考慮したためだろうか。
マイク入力端子は廃止され、代わりにミニUSBポートにマイク入力するための変換ケーブルがオプションで用意される。バッテリ容量は1,050mAhで、HERO2の1,100mAhから若干減少した。HERO2ではWi-Fi BacPacのバッテリが独立していたことを考えると、Wi-Fi機能内蔵でありながらのHERO3のバッテリ容量が減ったことは、正直言ってかなり厳しい。記録解像度も上がってバッテリの消耗がより激しくなっていると思われるため、予備バッテリ(3,150円)やBattery BacPac(6,300円。1月下旬発売予定)の導入も検討しておきたいところだ。
「Wi-Fi リモート」とスマートフォンアプリによるリモート操作に対応
Black Editionには小型のリモコン「Wi-Fi リモート」も同梱されている。9月に発売されたHERO2用のWi-Fi Combo Kitと全く同じで、カメラ本体と一度ペアリングしておけば、離れたところからでもWi-Fi リモートの操作で撮影や設定変更などが行なえる。Wi-Fi機能のオン・オフ スイッチは本体側面に設けられ、本体前面のLEDではWi-Fiの稼働状況がわかるようになった。Wi-Fi Combo Kitのバックパックと同じように、カメラ本体の電源とは独立しているため、Wi-Fi機能のみオンにしておき、リモートからカメラ本体の電源を入れることもできるようになっている。
iOS/Android用のスマートフォンアプリについては、発売から遅れること10日、12月15日の「GoPro App」のアップデートとカメラ本体のファームウェアアップデートで対応した。White EditionとSilver Editionはすでに11月末のアップデートで対応していたが、いち早くBlack Editionを入手したユーザーにとっては、やっとという思いが強い。
この「GoPro App」についても、HERO2のWi-Fi Combo Kitでレビューしたものと同様で、Wi-Fi Directで接続したiOS端末やAndroid端末からカメラ本体をリモートコントロールし、映像のプレビュー、撮影、各種設定変更、カメラのバッテリ容量やメモリカードの容量確認、メモリ内のファイル削除といった操作が可能になるものだ。このアプリによって、撮影効率は大幅に高まるだろう。なお、Wi-FiリモートとGoPro Appの同時利用はできない。
ちなみに、Black Editionに同梱のWi-Fi リモートには、腕などに巻き付けて固定するためのバンドが付属していない。代わりに付属している金属製のリングにストラップなど結びつけてぶら下げたりすることはできるが、すぐに使い始めたい場合は困りそうだ。
富士急ハイランドでHERO3 Black EditionとHERO2の比較撮影
さっそくこのBlack Editionを使って、どんな映像が撮れるのか試してみた。今回は富士急行様にご協力いただき、富士急ハイランドのアトラクション「ええじゃないか」、「FUJIYAMA」、「高飛車」の3つに乗車。自転車用ヘルメットの左右側面にHERO3とHERO2を1台ずつ、粘着テープで固定するカーブマウントと3方向ピボットアームで固定して同時撮影を行なった。また、万が一の脱落防止のためにワイヤーも結びつけている。動画の視点はわずかに異なるが、画質比較にも役立てていただければ幸いだ。
HERO3の映像は、明らかに発色、解像感、ダイナミックレンジの広さなど、多くの点でHERO2に勝っているようだ。全体的に乾いた雰囲気の質感や、富士山の雪面に反射している光のメリハリにも注目したい。他の製品と比べても、発色の自然さやノイズの少なさは1段上に感じられる。露光調整のアルゴリズムがHERO2とは変わっているのか、逆光時は全体的にやや暗めになる傾向にあるようだが、それでも暗部が黒つぶれするようなことはなく、隅々までしっかり描写していることがわかる。動きが激しいシーンは、特に30fpsではさすがに見にくくなるものの、60fpsであればさほど気にならない。手ブレ補正機能がないからといって、不安になることはなさそうだ。
音声についても大幅な高音質化を果たした。ビットレートは128kbpsでHERO2と変わらず、サンプリング周波数が32kHzから48kHzに向上しているが、その差以上に音をきれいに拾えていると感じる。HERO2では高音域や低音域がカットされ、人の声も金属的でノイジーに聞こえるが、HERO3ではかなり自然な音声として聞こえる。ただ、かえってそのせいで振動からくる耳障りな低音も拾ってしまっているようで、特に「高飛車」の映像ではヘルメットとヘッドレストが接しているせいか、アトラクションの振動がカメラにまで伝わってノイズとして聞こえる。
【注意】-----------------------------------------
※アトラクションにおける撮影は、富士急ハイランド様より特別に許可をいただき、乗員や周囲に対して十分な安全性を確保したうえで行なっています。通常、乗車時のカメラ撮影や衣服以外の付属物を伴った乗車は固く禁止されていますので、絶対に真似しないでください。
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4Kで富士山を撮影
4Kなどの高解像度動画と静止画像についても、画質や画角確認の参考までにサンプル撮影を行なった。4Kはフレームレートが低いことから、動きのある映像にはあまり向かない。そのため、変化の少ない富士山を遠くに眺める湖畔を撮影している。残念ながら筆者は4Kや2.7Kをドットバイドットで表示できるディスプレイを所有しておらず、本来の画質を確認することができないが、4Kディスプレイをお持ちの方はぜひじっくりと確かめていただきたい。
【静止画】山中湖畔
圧倒的な性能。周辺環境の充実に期待
1万円台から2万円台という比較的安価な価格帯にある同種の他社製品と、4万円弱のBlack Editionとを単純には比較できないかもしれないが、それにしても1世代か2世代分はHERO3が先んじてしまったという印象だ。12月20日にはライバル製品CONTOURの新モデル「CONTOUR+2」もリリースされるが、同価格帯でありながらカメラスペックだけ見ればHERO3が圧倒している。
発売されたばかりのためか、本体ディスプレイでの操作中に不意に無関係な画面に切り替わってしまうといった不安定な挙動が見られたり、Wi-Fiの電源がオンになりやすく、知らず知らずのうちにバッテリを消耗していたり、前述したようにバッテリ容量が不足気味であるなど、粗探しをすれば欠点がないわけではない。ただし、高性能さを考えればこれらは全くの許容範囲内。「買いか?」と問われれば間違いなく買いの一手でしかない。
気にかかるのは、ここまでの性能を一般のユーザーが使い切れるとは思えないところだ。4Kディスプレイを所有しているユーザーはまだ少ないだろうし、2.7Kや1440pも使いどころが難しい。1080p 60fpsの映像はすばらしいものの、一部のエンスージアストやさらなる高画質を要求される業務以外にはオーバースペックかもしれない。ファイルサイズは、Protuneモードでは、わずか1分で350MBになる。サイクリングやダイビングの映像をちょっと見たいだけなのに、数分でGB単位になるファイルの扱いに手を焼きたくはないだろう。
カメラの性能進化が急激すぎて、一般的なユーザー向けの周辺環境が整っていない。それだけ性能が圧倒的に進化してしまっている。そういう面から見れば、White EditionやSilver Editionのほうが、価格面でも性能面でも、気軽に使いたいというユーザーにとっては十分に楽しめる製品といえるかもしれない。
何かとハイスペックな製品に魅力を感じてしまうが、しっかり用途を見定めて、自分にとって必要十分な性能のスポーツカメラを選びたいものである(とはいえ、今回のBlack Editionは自腹で購入してしまった……)。
HERO3でGoProは性能面ではライバルを視界から消し去ったかもしれない。しかし、“高性能すぎる”がゆえにかえってユーザーを遠ざけてしまわないか、という懸念を覚えた。CineForm Studioというフリーの動画編集ソフトを提供しているのもGoProなりの普及活動の一環と言えなくもないが、HERO3の高性能さをより多くの人が簡単に使いこなせるよう、スポーツカメラの新しい活用スタイルを提案するようなプラットフォームや環境作りが、今後HERO3(特にBlack Edition)がロングセラーを達成するためのカギになるかもしれない。