レビュー
5万円前後のスリムAVアンプ「RX-S600」でTVの音質を強化する
薄型TVにマッチするヤマハ新モデルを試す
(2013/11/15 10:30)
今や6畳部屋に50インチクラスの薄型テレビを置く人も珍しくなく、PlayStation 3(PS3)のように、ゲーム機でありながら高度な映像再生能力を持った機器が身近になっていることもあり、手持ちの映像再生環境のクオリティに合わせて、サウンド環境もちゃんとしたい……と考えるユーザーは少なくない。
ゲーム機で再生できるDVDやBlu-rayの映像ソフトはもちろん、今やゲームのサウンドもサラウンドに対応しているし、テレビ放送がデジタル放送に完全に置き換わったことで、テレビ放送視聴時にも5.1ch収録の番組をサラウンドで楽しめるようになった。機器さえ揃えれば、身の回りには優れたサラウンドサウンドのコンテンツが溢れかえっているのだ。
そんなわけで、最近では、これまでサラウンドサウンドにそれほど関心がなかった人も、テレビの買い換え時などに、テレビの前面下部に設置する一体型のいわゆる「サウンドバー」の購入を検討する人が多いという。
ヤマハは、そうしたサウンドバー製品として「YSPシリーズ」もリリースしているが、リアル・ディスクリートなサラウンドサウンド環境を構築したい初心者に向けて、手の届きやすい価格帯のホームシアターシステムを提案している。
今回紹介するのは、1ランク上のサラウンドサウンド環境を目指す初心者向けのAVアンプ製品とスピーカーセットだ。AVアンプは「RX-S600」(68,250円)、スピーカーセットは「NS-PA40」(オープンプライス/実売4万円前後)で、両製品のパッケージ「YHT-902JP」(実売85,000円前後)も発売された。
筆者(西川善司)も長年のヤマハAVアンプユーザーだが、しばらく機材は更新していない。最新のAVアンプの音や機能、使い勝手を実際に体験してみよう。
ローボードに収まるコンパクトデザイン
RX-S600は入門機ではあるが、左右端に回転型ノブスイッチをあしらったデザインや、前面のアルミパネル、落ち着いた色調のVFD表示部の採用など、高級感はしっかりある。
寸法は435×320×111mm(幅×奥行き×高さ/脚部含む)、で、サイズ感はBlu-rayレコーダに近いが、奥行きはそれらよりも短め。Blu-rayレコーダが入れられるローボードやテレビ台であれば、難なく収納することができるだろう。
ハイエンドAVアンプの重厚な存在感はそれはそれで所有する醍醐味はあるのだが、RX-S600は、そこまでの主張はなく、他のAV機器や映像機器に馴染んで設置できる謙虚な面持ちとなっている。
内蔵パワーアンプ数は5で、定格出力は95W/ch。D/Aコンバータはバーブラウン製192kHz/24bitを採用。コンパクトな外観とは裏腹に、重量は7.8kgと重い。上級AVアンプはみんな重いが、RX-S600の重さはまさしく高性能の証といったところか。定格消費電力は220W。上位クラスのAVアンプと比較すると控えめな値だ。
充実の接続端子。HDMI以外のアナログ系も充実
RX-S600は、BDレコーダサイズの背面パネルに、最新世代の接続端子と、レガシーなアナログ端子をバランス良くまとめて実装している。入門機だからといってシンプルな最新デジタル端子オンリーにしていないのが嬉しい。
まずは入力系から見ていこう。HDMIは5系統で、うちHDMI5はスマートフォンなどで採用が進むマルチメディア端子MHLに対応している。MHL機器を接続しないのであれば、HDMI5も通常のHDMIとして利用できる。なお、全てのHDMI入力は3D立体視と4K入力のパススルーに対応する。
その他の入力端子は、映像と音声のペアで入力する「AV入力」、音声のみの入力である「AUDIO入力」に分類され、AV入力はAV1~AV5まで、AUDIO入力はAUDIO1とAUDIO2が用意されている。
AV1とAV2は映像入力としてコンポーネントビデオ入力に対応し、AV3~AV5は映像はコンポジットビデオ入力に対応する。音声はAV1とAUDIO1が光デジタル入力、AV2とAV3が同軸デジタル入力、AV4とAV5、AUDIO2がアナログステレオ音声入力に対応する。
これだと、AV1やAV2のコンポーネントビデオ入力では、アナログ音声入力との組み合わせができないのかと思われてしまいそうだが、この辺りは柔軟性が設けられており、ちゃんとOSDメニューの設定でアナログ音声入力とを組み合わせを選択できる。
コンポーネントビデオ入力であればAV4、AV5、あるいはAUDIO2のアナログ音声入力のうち1つを組み合わせて利用できるし、HDMI入力とアナログ音声入力を組み合わせることもできる。HDMI映像入力とアナログ音声入力は、やや古めのPCなどを接続する際に便利かも知れない。
出力端子は、HDMI、コンポーネントビデオ、コンポジットビデオが各1系統ずつある。これらのモニター出力端子は、入力映像種別と同種のモニター出力端子にだけ出力されるという点に注意したい。例えば、コンポーネントビデオ入力に入れた映像はHDMIからは出ない。上級機では、入力信号を問わずに変換出力できる機種もあるが、このあたりは入門機ゆえといえるだろう。
オーディオ出力端子はアナログ2chのみ。また、アナログプリアウトはサブウーファ接続用の端子のみだ。この他、ネットワーク機能を利用するためのEthernet、AM/FMラジオを受信するためのアンテナ端子、USB給電を行なうためのUSB端子がある。
リーズナブルながらも本格派のスピーカーセット「NS-PA40」
今回、RX-S600と合わせて借りたのは、新発売となったサラウンドスピーカーセット商品の「NS-PA40」だ。こちらは、5.1chサラウンドを実現するための入門セットで、メインステレオスピーカー2基、センタースピーカー1基、サラウンドスピーカー2基、サブウーファ1基という商品構成だ。
メインステレオスピーカーは2.5cm径ツイータ、7cm径コーン型ウーファ×2基の2ウェイ3スピーカー(再生周波数帯域67Hz~100kHz/-30dB)からなるトールボーイタイプ。スタンド部はプラスチック製だが、足元を絞ったデザインは設置した状態でも引き締まった出で立ちでかっこがいい。
センタースピーカーおよびサラウンドスピーカーは7cm径コーン型ウーファー×1基(50Hz~45kHz/-30dB)という構成で共通だが、エンクロージャのデザインがセンタースピーカーは横長で横置き、サラウンドスピーカーは縦長で縦置きを想定した感じになっている。
メインステレオスピーカーは、台座への組み付けが必要だがプラスドライバーがあれば誰にでも行なえるほど簡単だ。
スピーカーケーブルは約25mのものが一本付属しており、これをユーザーが適宜切断して使うことになる。RX-S600との接続は、ケーブルを皮むきしてスピーカーとRX-S600側のスピーカー端子と接続するだけ。サブウーファは、アンプ側のサブウーファ出力端子と接続することになるが、この接続用ケーブルはNS-PA40に5m長のものが付属する。
RX-S600との接続が完了し、各スピーカーを所定の位置に設置したあと、やるべきことはヤマハのAVアンプ製品ではすっかりお馴染みとなったYPAO(ヤマハ・パラメトリック・ルーム・アコースティック・オプティマイザー)によるキャリブレーションだ。YPAOを実践すると、スピーカーの再生周波数特性、スピーカーの設置位置、部屋の広さ、部屋の中に置かれた家具等による音波の反射特性などに配慮した最良の音響空間となるように最適化がなされる。初期はハイエンドAVアンプにしか搭載されていなかったこの機能も、今や入門機に搭載されるようになったのは感慨深い。
やり方は簡単で、付属するYPAOマイクを視聴位置に設置し、測定開始をメニューから選択して、あとは自分は部屋からそーっと出るだけ。測定自体は3分程度で完了する。YPAOマイクの台座下部には一般的なカメラ三脚と合致するネジ穴が切られているので、そうしたものを流用してYPAOマイクを立てるといいだろう。今回の評価でも筆者はビデオカメラ用三脚を用いてYPAOマイクを立ててキャリブレーションを実践した。
活用し甲斐のある音響プログラム。NS-PA40の再生能力との相性も良好
最初に視聴したのはBlu-ray映画ソフト。「4デイズ」と「オープン・シーズン2」の2本だ。
ヤマハのAVアンプの音響プログラムである「CINEMA DSP」のラインナップは、筆者が所有しているヤマハの往年の名機「DSP-A1」とほぼ同じ。RX-S600でも、その見慣れた音響プログラム名のそれぞれをためしたが、RX-S600を通してNS-PA40から出てきた音の聴感も慣れ親しんだものであった。
DSPプログラムによって残響特性や視聴位置に対する音像の距離感は変わるが、どのDSPプログラムでもしっかりした定位感が感じられる点は一貫して守られている。各映画がもつ雰囲気に応じて使い分けるといいだろう。例えばSF映画ならばクリアな台詞再生を確保しつつも伸びやかな音像表現が楽しめる「Sci-Fi」、戦争映画ならば豊かなワイド感が堪能できる「Spectacle」がいい。
まぁ、そうした特別な音響プログラムの活用は慣れ親しんだタイトルを見る際に活用するとして、初見映画は、シネマDSPを使わずに入力信号を忠実に再生するのが基本となるだろう。
NS-PA40を使って上記タイトルを見たが、NS-PA40は、大口径スピーカーではないにもかかわらず、かなりの大音量でも、破綻のない素直な音を出してくれていた。
さすがはセット商品だけあって定位感のバランスも良く、音像が駆け回るシーンでも、各再生スピーカーの継ぎ目を一切感じさせず、音像の動きを的確に感じる事ができた。各チャンネルごとに行き当たりばったりで異なるメーカーやグレードのスピーカーを選択して構築したサラウンドシステムでは得られない音像特性だ。YPAO調整の効果もあってだろう、サブウーファの効き方もナチュラルで心地よい。
個人の好みで言えば、サラウンドスピーカーから再生される音はもう少し音圧があってもよいと感じることもあったので、この辺りが気になる人は、「スピーカー設定」の「音量」設定を調整してもよいかも知れない。
音楽ライブのBlu-rayも視聴してみた。タイトルは「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2006:"Player's Player" SPECIAL」。
5.1ch LPCM収録の同タイトルは、手拍子などのオーディエンス・エフェクトなどはサラウンドに回し、メイン楽曲をメインステレオに配置、ボーカルをセンターに配置した音像構成になっており、心地よいディスクリート感とアンビエント感は得られていたが、音楽ライブ視聴用の「The Roxy Theatre」や「Music Video」といったDSPプログラムとの相性も良かった。これらのDSPプログラムではグッとステージまでの距離感がつまり、ボーカルの定位感はそのままにバンドサウンドの楽曲音像はワイド感が強まる。オーディエンスエフェクトは音圧は上がるものの距離感の遠い聴感になるので、楽曲リスニングに集中できつつ、ライブ会場にいる臨場感は損なわず、絶妙であった。
続いて、2chステレオの音楽ソースを再生してみた。試聴コンテンツとしては、Capsuleの新アルバム「CAPS LOCK」を選択。
2chステレオ音楽用に用意されているDSPプログラム「2ch Stereo」は音源に対して忠実な再生が楽しめるので、普段のリスニングにはこれで必要十分と感じるが、「5ch Stereo」もパワー感があって好感触だ。これは、2chステレオ音源を2chステレオ感を崩さず5chサラウンドに拡大するDSPプログラムで、部屋のどこにいてもバランスの良いステレオ感が楽しめるのが特徴。お気に入りの音楽をステレオ感を維持したまま部屋に満たしたいときにはとてもいい。テレビ視聴にもオススメだ。
それと、この「5ch Stereo」は、部屋のどこにいても、的確に全音像が聞こえるので、片付け、掃除をしながらのリスニングにもおあつらえ向きだ。オーナーになった際にはぜひ試して頂きたい。
充実のネットワーク機能。使えるスマートフォン連携機能も!
RX-S600は、ネットワーク機能やスマートフォンとの連動機能も搭載している。
スマートフォンとの連携には幾つかの実現手法が用意されている。1つはRX-S600前面にあるUSB端子とiPod/iPhoneを直接接続して、機器内の楽曲をRX-S600側で再生する方法だ。再生可能な楽曲はWAV(PCMフォーマットのみ)、MP3、WMA、MPEG-4 AAC、FLACなどで、再生可能チャンネル数はモノラル(1ch)かステレオ(2ch)のみ。このUSB端子はスマートフォンだけでなく、FAT16/FAT32フォーマットされたUSBメモリ内のコンテンツの再生にも対応している。もちろん、その場合も再生可能なのは楽曲のみだ。
映像までもスマートフォンで再生したいということであればMHL機能をすればいい。前述したようにRX-S600のHDMI5はMHL接続に対応しているので、MHL-HDMIケーブルを用いて接続することで映像と音声の両方をスマートフォンから再生することができるのだ。MHL経由での接続の場合はコンテンツさえ対応していれば、3Dや4K、5.1chサラウンドサウンドの再生もスマートフォンから行なえる。
もう一つのスマートフォン連携機能は、RX-S600のネットワーク機能を応用するアプローチだ。
RX-S600を家庭内ネットワークに有線接続し、その家庭内ネットワークが無線LANに対応していれば、スマートフォンにヤマハから無償提供されているスマートフォン用アプリション「AV CONTROLLER」をインストールして活用する事で、スマートフォンとRX-S600を無線LAN経由で接続することができる。
なお、誤解のないように言っておくと、RX-S600は家庭内ネットワークに接続され、RX-S600とスマートフォンが直接Wi-Fi接続されているのではない。ただ、使用感はほとんど直接、RX-S600と直結しているような感覚だ。
面倒なペアリング作業などは必要なく、RX-S600が家庭内ネットワークに接続されてさえいれば、AV CONTROLLERはインストール直後からRX-S600を認識して、アプリからのコントロールが可能となる。
この状態になると、スマートフォン側に格納されている楽曲は、ネットワーク経由でRX-S600で再生が可能だ。繰り返しになるが、使用感覚は無線でRX-S600に楽曲を飛ばしている感覚だ。
AV CONTROLLERは、スマートフォン内の楽曲を伝送再生するだけでなく、その名が示すようにRX-S600のリモコン代わりとしても利用ができ、電源オンや入力切り替え、音量調整などの操作も行なえる。
RX-S600のネットワーク機能は、スマートフォンとの連携だけでなく、他にも多様なものが用意されている。1つはインターネットラジオの受信だ。放送局はあらかじめプリセットされているので、リストから選曲するだけで聴くことができる。
もう1つはDLNAサーバー内のコンテンツ再生だ。こちらも、USB機器の場合と同じく再生可能なのは音楽のみだが、RX-S600はDLNA 1.5に準拠したネットワークプレーヤーやアップル製品での無線LAN音楽再生AirPlayなどに対応している。
DLNAサーバーへのアクセスは、RX-S600に接続したテレビ画面上に出したOSDメニュー経由からも行なえるが、OSDメニューの表示は全角フォントを全て「_」に置き換えてしまうので、日本語表記のフォルダ名、ファイル名を正しく表示出来ない。
しかし、焦ることなかれ。前出のAV CONTROLLER経由でDLNAサーバーにアクセスした場合にはちゃんと全角フォントも表示される。まぁ、一般的な日本国内ユーザーはほとんど楽曲ファイル名は日本語表記にしていると思うので、実質DLNAサーバーアクセス機能はAV CONTROLLER経由で活用する事になると思う。
対応音楽形式は、WAV/FLAC/MP3/WMA/AACで、WAVやFLACはCDを超える高音質のハイレゾファイルにも対応。最高24bit/192kHzまでのハイレゾファイルが再生できるなど、ネットワークオーディオとしての機能も充実している。
最後に、もう一つ。この価格帯のAVアンプとしては珍しいゾーン機能についても触れておこう。
RX-S600のサラウンドスピーカー(L/R)接続端子は、本体側の設定を変更することで、別系統の2.0chシステムとして駆動できるのだ(ZONE2機能)。こちらを別室に配置したスピーカーで再生すれば1基のRX-S600で、2コンテンツを再生することができるのだ。ただし、ZONE2側で再生できるのは、FM/AMラジオを含んだアナログ音声、USB機器、DLNAサーバー、インターネットラジオ、ネットワーク接続経由のスマートフォン内コンテンツに限定される。リビングとキッチンで異なる楽曲コンテンツを再生したりなど、住居内の二人が思い思いにサウンドを楽しむのに便利だ。なお、メインゾーンとZONE2とであえて同じコンテンツを再生することも可能となっている。こちらは、ホームパーティなどで住居内を同一楽曲で満たしたい場合に活用ができるだろう。
・おまけ~表示遅延を計測
個人的な興味もあり、表示遅延についての計測も行なってみたが、DSPプログラム=オン、DSPプログラム=オフ(STRAIGHTモード)のいずれにおいても、420fps撮影で確認した限りでは目立った遅延は確認できなかった。ほぼ遅延無しと見て良さそうだ。
おわりに
実は「そろそろ自宅のホームシアターのAVアンプを買い替えたいなぁ」と思っていたので、最新のAVアンプ製品には興味があった。
RX-S600は入門機という位置づけではあるものの、筆者が私物で持っているものよりもだいぶ新しいモデルだったこともあり、レビューと言いつつも「最新製品にはこんな機能もあるのか」「この機能は便利だな」などと、かなりユーザー目線で機能の1つ1つを楽しむことができた。
特に感銘を受けたのはスマートフォン連動機能やネットワーク機能周り。「AVアンプは今やネットワークオーディオ機器の1つなんだなぁ」としみじみ思ってしまったが、逆に言えば、こうした機能を積極活用しないと、もったいないとも思った次第だ。
一方のNS-PA40は、しっかりとした音が出せている割にはコンパクトなユニットで構成されているので、ホームシアター入門セットとしてはもちろんのこと、1ルームマンションや書斎などに省スペースで置くデスクトップホームシアターとしても訴求できるのではないかと感じた。
サウンドバー製品がテレビ内蔵スピーカーから1ランクアップする商品だとすれば、RX-S600 + NS-PA40は2ランクアップするセットといえる。両方セットになったパッケージ「YHT-902JP」も、実売85,000円前後だ。映画や音楽、ゲームを楽しむ音響環境をグレードアップしたいユーザーは、検討してみてはいかがだろうか?
RX-S600 | NS-PA40 |
協力:ヤマハ