レビュー

超小型コンポで最新USB DAC/真空管どちらも楽しむ。Sound Warrior「SW Desktop-Audio」

ノートPCと「SW Desktop-Audio」シリーズを組み合わせた利用イメージ

 長野の城下工業が、Sound Warriorブランドの新製品として2月下旬から順次発売するのが、小型コンポ「SW Desktop-Audio」シリーズだ。片手で持てるコンパクトさが特徴で、USB DAC「SWD-DA10」(70,350円)、CDトランスポート「SWD-CT10」(57,750円)、真空管バッファ付きのD級パワーアンプ「SWD-TA10」(51,450円)の3機種がラインナップされている。

 ノートPCや小型スピーカー、ヘッドフォンなどと組み合わせ、デスクトップで利用する事を想定。PCオーディオ時代にマッチした新しいスタイルのコンポと言え、Olasonicの「NANOCOMPO」のライバルになりそうな製品だ。サイズはNANOCOMPOが149×149×33mm(幅×奥行き×高さ)、「SW Desktop-Audio」が146×165×40mm(幅×奥行き×高さ)と、さほど大きな違いはない。

 短期間ではあるが、3機種を試聴したので印象をお伝えしたい。

片手で持てるコンパクトサイズ

 アルミ製の筐体は、触れるとヒンヤリ冷たく、高級感がある。DACとアンプのボリュームツマミも肌触りの良いパーツが使われている。全体的に、ネジが見えないシンプルな外観のNANOCOMPOと比べると、SW Desktop-Audioの方が“無骨でメカっぽい”印象だ。底面のインシュレータは防振ゴムのようで、安っぽい。なお、本体は3モデルとも横置きできる。

本体は縦置きも可能
上からCDトランスポート「SWD-CT10」、USB DAC「SWD-DA10」、真空管バッファ付きのD級パワーアンプ「SWD-TA10」
筐体サイズは146×165×40mm(幅×奥行き×高さ)
質感が高いボリュームツマミ
インシュレータは防振ゴム
フロントパネルは取り外しでき、前面プレートのデザインや向きを変えられる

 フロントパネルの四隅にネジが配置されているのは、パネルを外して、縦置き用、横置き用のパネルを入れかえるため。付属の六角レンチで外す事ができ、ユーザーが自作したパネルを入れる事も可能だ。

 USB DAC「SWD-DA10」は、USB、同軸、光デジタル入力を搭載。USB DAC動作時はPCMの32bit/192kHz、DSDの2.8/5.6MHzまでサポート。USB DACとしてスペック的には申し分ない。RCAのアナログ入力も1系統備えている。

 アナログ出力はRCAとステレオミニのヘッドフォン出力を各1系統搭載。ヘッドフォン出力には高音質のオペアンプを使っているという。

USB DAC「SWD-DA10」

 組み合わせるCDトランスポート「SWD-CT10」は、同軸、光デジタル出力を各1系統搭載。アップサンプリング機能を備え、16bit/44.1kHzのデータを、192kHzに変換して出力する事もできる。スロットインドライブなので縦置きも可能だ

 DACとCDトランスポートに共通する特徴は、この価格・サイズの製品でありながら、外部クロック入力を備え、別途用意したクロックジェネレーターと連携できる事だ。

右端がCDトランスポート「SWD-CT10」。スロットインドライブであるため、縦置きも可能だ
CDトランスポートの背面。クロック入力も備えている

 「SWD-TA10」は、プリ段に真空管「12A7」を1本、パワー段にD級アンプを採用したパワーアンプだ。D級パワーアンプの出力は12W×2ch(4Ω)。入力はRCAのアナログを1系統用意する。

 ステレオミニのヘッドフォン出力も備え、ヘッドフォンアンプとして使う事もできる。ヘッドフォン出力も、真空管通過後のD級アンプ出力を使っている。パワードスピーカー向けに真空管のみを通過したステレオミニの出力も1系統用意している。

パワーアンプの「SWD-TA10」
部屋を少し暗くしてみた。真空管の光がほのかに見えて、気分を高めてくれる

 真空管はギターアンプなどに使われる12AU7のミニチュア管。利用中はほんのりとオレンジ色に光る様子が、フロントパネルの窓から確認できる。デスクトップに設置し、頻繁に視界に入るアンプなので、真空管のビジュアル的な美しさが日々味わえるのは、デザイン的にも大きな魅力と言えるだろう。

音を聴いてみる

Sound Warriorのモニターヘッドフォン「SW-HP10」と接続したところ

 まず、PCと接続。USB DAC「SWD-DA10」の音を、ヘッドフォンで聴いてみる。ヘッドフォンはSound Warriorのモニターヘッドフォン「SW-HP10」や、同モデルをベースに、e☆イヤホン、マリモレコーズ、城下工業の3社がコラボした「SW-HP11」を使っている。再生ソフトはfoobar2000だ。

 24bit/192kHzの「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を再生すると、冒頭のギターから、個々の音の輪郭がピシッとクリアで精密。音場の広がりも非常に広大だ。音の色づけは少なく、ギターやベースの弦が震える様子も良く聴き取れる。

 ベースの低音は「グォーン」と量感たっぷりに再生する一方、膨らみ過ぎず、タイトで締まりが良い。各社AV機器のOEMなども手掛ける城下工業だが、サウンド面の特徴としてはモニターライクな、ソリッドで実直な音という印象だ。前述のように音場は広いのだが、ギターやヴォーカルの音像は耳に近く、鮮度の良い音がダイレクトに聴き取れる。モニターライクだと感じるのはそのためで、ビットレートの低いMP3などを聴くと、ダメな部分が非常に良くわかる。

 モニターヘッドフォンで聴いているというのもあるが、しばらく聴いていると個人的な好みとして、高域にもう少し艶や、低域に量感が欲しいと感じる面もある。だが、この“むき出し”な感じのサウンドが好きだという人も多いだろう。ハイレゾの豊かな情報量を実感しやすいDAC兼ヘッドフォンアンプと言える。

 次に、「SWD-DA10」と「SWD-TA10」を接続。SWD-DA10の真空管を通した音をヘッドフォンで聴いてみると、これが実に面白い。ソリッドでシャープなDA10の音が、TA10の真空管を通すと、艶っぽく、まろやかになるのだ。

 坂本真綾「Be mine!」(世界征服~謀略のズヴィズダー~OP)で聴き比べると、DA10では冒頭の息を吸い込む音、ギター、左側から聴こえるドラムのスティックの乾いた音がダイレクトに感じられ、キツイと感じる部分もある。しかし、TA10から聴くと、そうしたキツさが薄れて、高域にしなやかさが出てくる。

 悪く言えば音がナローに、丸くなったという事なのだろうが、音場の広さやレンジの面で、狭まったという印象はまったくないので、音の質感だけが変化したように感じる。確かに情報の鮮度という面では、DACからダイレクトに聴く方が有利だが、TA10を通して聴くと情報量が多いながらも、アナログっぽいホッとするサウンドにまとめられており、これはこれで魅力的。PCMデータなのに、DSDっぽく聴こえる楽曲もあって面白い。

 しばらく聴いた後で、ヘッドフォンをDACに直接接続すると、薄いベールを剥いだように音像がクッキリ描写され、立体感が増加。暖房の効いた室内ホールのようだった音場が、冬の屋外ステージに切り替わったように、音場にキンと冷えた空気が広がる。DAC直接では、TA10を通した時より、音場の奥行きが深く、音の余韻が広がる様子が、音が消える瞬間までよく見える。

 ここまで味わいが違う音が、接続する端子を変えるだけで楽しめるというのは面白い。平日の夜は真空管でまったり、休日はDAC直接接続でハイレゾの情報量をダイレクトに楽しむなんてリッチな使い分けもできそうだ。余談だが、YouTubeで動画を見るような、圧縮率の高い音楽データを再生する時は、TA10の真空管を通した方が、アラが目立たず楽しめた。

 小型ブックシェルフスピーカー(Blueroom Loudspeakers mini pod)も接続したが、TA10をヘッドフォンで試聴した時と同様に、情報量の多さと、中高域のまとまりの良さが両立できており、繊細だが、ボリュームを上げてもキツくなく、ドラマチックに聴かせて欲しいところは、その期待に応えてくれる。15W×2(4Ω)の出力は、デスクトップのPC周りで使うには十分すぎる音量が出せる。映画やゲームなどをボリューム上げ目に、ダイナミックに楽しみたいというニーズにも対応できるだろう。

山崎健太郎