本田雅一のAVTrends

新次元のオーディオ体験。RoonとPlayPointがもたらす革新

 オーディオ製品は成熟したジャンルだ。素晴らしい音に出会う時の感動は、どんな時代にも共通しているが、使いやすさや機能の面で”驚き”を感じる製品に出会う機会は、そうそう簡単には訪れない。

中央がexaSound「e22 mk2」、右が「PlayPoint」

 しかし、そんな“新たな出会い”の少ないオーディオ業界において、exaSound Audio DesignのPlayPointおよび、PlayPointが最新ファームウェアで完全対応したRoonは、業界に大きなイノベーションを起こすかもしれない。やや大げさに言えば、Roonにネイティブ対応しないネットワークオーディオ機器は売れなくなり、PlayPointのような新しいタイプのオーディオ機器が持てはやされるようになるだろう。

 我々は、そんな時代が変化する境界線上に立っている。

 デジタルオーディオというジャンルは、音をデータ化し、それを再生するだけのシンプルな機能で構成されている。デジタル信号をコンピュータデータとして扱うことで、かつて90年代後半にはMP3ブームが起きた。その後、コンピュータで音楽を扱うことが当たり前となり、ロスレス圧縮技術のFLACなどが登場すると、ハイレゾ音楽データがネットで配信されるようになった。

 単なる信号処理と記録の手法だったデジタルオーディオ技術は、コンピューティング技術と出会うことで新たなイノベーションを起こし、ネットワークと交わることでここ数年の業界の前進を後押ししてきた。

 しかし、本当に本質的な面で“音楽の楽しみ方”が刷新されたかと言えば、必ずしもそうは思えないという読者もいるだろう。

 データファイルとなったオーディオデータを再生するには、それらデータの効率的な管理方法の提供が不可欠だ。しかし、使い勝手に絞り込むと今でも我々は、'90年代半ばにWinAMPを動かしていた頃さほど変わらない方法で音楽を愉しんでいる。しかし、Roon LabsのRoonと、それに完全対応したexeSound Audio DesignのPlayPointを使用してみれば、今まさに革命的なことが起き始めていることを感じることができるだろう。

Roon

 PlayPointはネットワークを通じて音楽を再生するあらゆる手順に対応するネットワークデジタルトランスポートとも言える製品だ。海外では「ブリッジ」という新ジャンルとして定義され始めているが、明確な機能の定義はない。ただし、ネットワークやファイルを用いたデジタルオーディオとコンベンショナルなD/Aコンバータの間を橋渡しする装置という意味合いで使われることが多い。

 そんなPlayPointはDLNAやOpenHomeのレンダラー、TIDALなどクラウド音楽配信のクライアントなどとなってUSBを通じてD/Aコンバータを鳴らすのはもちろん、欧米で急速にファンが増え、対応機種も増加している音楽サービスRoonにも対応している。

 PlayPointを簡単に言えば、グラフィカルなユーザーインターフェイスを持たない”音楽専用パソコン”である。基本ソフトとしてLinuxがインストールされ、動作はすべてリモート操作となる。しかも専用の管理、コントロールアプリを持たず、世の中で使われている様々なネットワークオーディオ規格(手順)に対応している。

 ユーザーはDLNAやOpenHome、あるいはRoonなどを用いて再生指示を行なうと、それぞれの手順によってPlayPointが再生を行なう。独自のユーザーインターフェイスを持たない代わりに最新手順(プロトコル)への対応を素早く行ない、最新トレンドにいち早く追従するというコンセプトである。

欧米で話題沸騰のRoonとは?

 さて、このような構成のためPlayPointは、世の中で知られているほとんどのネットワークオーディオ系プロトコルでの再生が可能だ。しかし今回、特に注目したいのはRoonへの対応である。

 Roonは、「プレーヤーソフト」と言われることもあるが、基本的にはホームネットワーク上で動作する統合的なオーディオソリューションといえる。価格は年間119ドル。14日の試用期間があるが、クレジットカード情報の登録が必要で、2週間を超えると課金される。また、499ドルの終身メンバーシップも用意されている。

PlayPoint

 他のプロトコルに関しては、多種多様なネットワークオーディオ機器が対応している。しかし、Roonは他プロトコルとは異なる要素を持っている。単にオーディオプレーヤ(トランスポート)にデジタル音楽データを流し込むための手順ではなく、音楽と音楽再生にかかわる様々なサービスと一体化されているからだ。

 その”一体化”を実現するために、DLNA Rendererに相当するEndpoint(再生部分)だけではなく、Core(核)と言われるサービスモジュールが必要となる。

 Coreには音楽ファイルデータとストリーミングを統合的に扱い、それぞれについて背景情報(単純なタグだけでなく、創作にかかわった人物の背景や他アーティストとの関係性などを、クラウドを通じて統一されたフォーマットのデータベースサービスで提供する)や音楽ファイルそのものの分析を通じて集計する機能がある。

 通常、こうした処理には大きな演算能力が必要になる。Roonに関しても、現状のCoreはパソコンで動かすことが多い。Coreは必ずしもプレーヤーの近くには必要ないため、書斎のパソコンでCoreを動かしておき、リスニングルームのEndpointで愉しむといった使い方が想定されるが、常にパソコンを起動しておくとなると、少々腰が引ける読者もいるだろう。

Roonではコアに全ての情報を集約。通常はPCがコアになるが、PlayPointもコアとして動作する
様々な機器にオーディオ出力可能

 実はインテルプロセッサを搭載する一部のNAS向けにはRoonが提供されており、これをパソコン代わりに利用できるのだが、かなり高い能力を持ったNASでしか動作しない。ところが、スペックは非公開だが“オーディオ専用Linixパソコン”的な作りになっているPlayPointの場合、EndpointだけでなくCoreも実装できる。ということで、最新のバージョン10でCore機能が追加されたのである。

 これにより、PlayPoint、それにPlayPointが対応するD/Aコンバータ(現時点ではexaSoundの独自プロトコルで動作するためexaSound製DACが必要だが、近い将来、他社製のD/Aコンバータにも対応する予定だ)が揃っていれば、ノンPCで完全なRoon環境を整えることが可能になった。Roon用のストレージとしては、背面端子にUSBメモリ・USB HDDを接続しても、ごく一般的なNASをネットワーク経由でマウントしても、どちらでも問題ない。

exaSound「e22 mk2」

”ソレが使えるだけで買う価値がある”と思えるRoon

 Roonというサービス/アプリケーションは数年前から開発が進められ、今年のCESで正式版がローンチされた製品だ。デジタルファイルと多様なストリーミングサービスを統合した音楽管理機能を提供する。

 Roonは“プレーヤーソフト”と紹介されることもあるが、筆者は音楽管理サービスと呼びたい。確かにプレーヤーの一種なのだが、そのもっとも大きな特徴は再生ではないからだ。こればかりは実際に体感しなければ、そのすばらしさは見えてこないかもしれない。

Roonのプレーヤー画面。様々なメタデータ対応が特徴

 ご存知のように、“ネットワークオーディオ”と言われるジャンルのデジタル音楽には、リッピングやダウンロード販売で入手した音楽ファイルを直接管理する方法と、クラウド型の音楽データベースで管理した上で、インターネットストリーミング配信を受ける方法の2種類に大別される(+インターネットラジオサービスも含めるなら3種類)。

 ここでは便宜上、前者をファイル型、後者をクラウド型と呼ぶことにしよう。

 クラウド型にはApple MusicやAmazon プライム・ミュージックなど、音質より利便性やプレイリスト管理などに重点を置いたカジュアルなものに加え、TIDAL(日本未展開)を筆頭に、高音質にフォーカスを当てたサービスも登場した。

 TIDALに注目するとHiFi契約ではCD品質のFLACファイルで配信されている。Apple MusicやSpotifyほどの幅広い楽曲カバーがないとはいえ、かなり広範な楽曲をサポートしているため、洋楽ファンならば価格に見合う楽しみ方ができる(余談だがTIDALはプロクシーサーバーを経由することで日本からも契約はできる。支払いは日本だとPayPalのみが決済可能)。

 Roonを用いれば、この二つをひとつにまとめることができる上、洗練された音楽データベースを、ほとんど自動的に作り上げることができる。自分がファイルとして所有している音楽と、クラウド上の再生する権利を保有している音楽。この両方について、多面的な属性情報でデータベース化し、それぞれの切り口で簡単に並べ替え、検索などを手早く行えるのだ。

ファイルフォーマットやサンプリングレートでの絞り込みも可能

 とはいえ、そうした音楽情報の管理は煩雑で、統一されたフォーマットがなく、結局のところ役になど立たない……とあきらめている人が多いと思う。Roonの最大の特徴は、まさにそれを解決したことにある。

 リレーションのデータベースを作るための情報は、曲ごとのメタ情報やストリーミング配信元のサービスが管理している情報に”依存していないのだ”。その代わりに音楽データの指紋データ(音楽的な特徴)を抽出して、どの曲なのかを分析・判別した上で、自社が管理する音楽情報データベースを参照するように設計されている。

 たとえばメタ情報をろくに与えていない楽曲、あるいはメタ情報が埋め込めないWAVファイルをRoonに登録すると、その楽曲の特徴からどの曲かを認識し、作詞、作曲、実演、制作など、その音楽にかかわる様々な情報で整理される。

 Roonで扱うこのような情報はメタ情報が埋め込まれている場合でも、Roon側の情報が優先的に使われるため、どんなに“メタメタなメタ情報管理”をしている場合でも、実に洗練された体験を得ることができるのだ。

 ポピュラー楽曲においても、90年代からメタ情報を管理していて、当時と今とで情報の充実度がまったく違い、管理スキームも途中で変えてしまった……しかも修正は大変だから放置しているといった場合に役立つが、クラシック楽曲ではなおさらで、指揮者、ソリスト、作曲家、オーケストラ名などが充実し、しかも正確で表記揺れがないため、実に気持ちよく音楽を操れる。

 さらにはデータベースは“コア”と呼ばれるパートを担当するコンピュータ上のサーバーで一括管理されるので、検索もリスト表示も実に素早く”快速・快適”な音楽ライフを約束してくれる。

 さらにはこのRoon。複数の音楽ライブラリを個別にデータベース化できるのはもちろん、TIDALでアクセスできる楽曲も串刺しで検索でき、TIDAL提供のプレイリストとも連動する。さらにはインターネットラジオ曲の管理まで行なえる。Roonを使ってさえいれば、その音楽がクラウドにあるのか、LAN内のNASにあるのか、それとも使っているパソコンの中にあるのか、まったく気にしなくて済む。

 さらに加入型音楽サービスにみられるような、好きなアーティストによく似たアーティストやアルバムを紹介してくれる機能などもある。

 すべてとは言わないものの、ネットワークオーディオで不満に感じていた大部分がRoonによって解決できた。筆者宅では、もうRoonなしではいられない……というほど。その使い勝手の良さを、さらに決定的になものにしているのが、Roonのスマートフォン/タブレット用アプリの出来の良さである。

DLNAにあった“待ち時間”はほぼゼロに

 Roonは音楽ファイルやサービス上でアクセス可能な音楽などを分析したり、ネットワークサービスとして提供されるメタ情報データベースとのマッチングを行なうCoreと、音楽再生の制御を行なうユーザーインターフェイス部分、それに再生が行なわれるEndpointが分離された設計になっている。

 Coreは事前分析を行なっているため、ユーザーインターフェイスを担当するアプリから要求されると、すばやく曲情報や他コンテンツとの関連性を返し、検索もすばやく結果を出してくる。重要な処理はCore側で行なっているので、スマートフォンやタブレット上のアプリ動作は実に軽快。OpenHOMEやDLNAでは味わえない素晴らしい体験が得られるのも特徴となっている。

 いや、Roonそのものの体験が、一般的なパソコンによるファイル管理よりも優れているので、結果的にはスマートフォン/タブレット/パソコンを問わずに、各デバイスの画面サイズやユーザーインターフェイス次第で最高の結果が得られるようになっている(スマートフォン版のみ、一部機能が省略されている)。

 Apple Musicなどでお馴染みのキュレーターが作成したプレイリストも、TIDALのプレイリストが利用できるほか、Roon側が”インターネットラジオ”のよう(PANDRAのようにというのが正しいかもしれない)に再生する機能も提供される。

 たとえばMichael Jacksonのアーティストページ(Roon側で提供されている)を開き、Michael Jacksonの関連する楽曲をランダム再生なんてことはもちろん簡単にできるのだが、このときに「Start Radio」を選択するとMichael Jacksonに関連する楽曲、よく似た楽曲、影響を受けた/与えた楽曲がラジオ的に流れるのである。

アーティストページから関連楽曲をすぐに再生できる

 さらに所有している音楽(ファイルとして所有してるアルバムに加え、TIDALで自分の音楽タイトルとして登録しているものも所有アルバムとして扱われる)の中身を、多様な視点で掘り下げて絞り込む”Focus on similar”という機能もある。

似た曲を絞り込んで再生する「Focus on simller」

 Focusでは、曲やアルバムを選んでFocusボタンをクリックすると、Roonで管理するデータベースの情報に沿ってよく似た音楽を選んでくれる。ここで面白いのは、ジャンルなどの単純なメタ情報だけで絞り込まないことだ。

 見つかった音楽が多すぎる場合は、さらに音楽フォーマットや品質(ハイレゾか否かなど)、年代の範囲や制作にかかわった人物などでの絞り込みも行なえる。Roonのデータベースは、作曲家などはもちろん、録音に参加した人物まで追いかけることができる。

絞り込んだ楽曲の、年代別構成
ジャンルやフォーマットで絞込
レーベルによる絞込も

 加えて、音楽がどのようなパスで再生されているのか……すなわち、どこに音楽ファイルのフォーマットが何で、それがどの経路で、どんなミキサーを通じて再生されているのかが一目で見られる機能も備えられているのも便利だ。

再生機器や再生経路を簡単に確認できる

 これだけのことを、画面にタッチするだけで、ほぼ待ち時間ゼロでこなす音楽再生環境が他にあっただろうか。実際にはもっと多くの機能があるのだが、それは自分自身で確かめてもらいたい。

 パソコンで音楽再生環境を構築している人は、今すぐにでもRoonを試すといいだろう。筆者は買い切りプラン(499ドル)で購入したが、当初はお試し期間(14日間)が設定されている。日本からでも購入が可能だ。

PlayPointとパソコン再生の音質差に愕然

 Roonに関しては、まずはお試しで遊んでみることをオススメしたい。TIDALとの統合も素晴らしい出来なので、こちらも同時に無償試用期間を合わせて使ってみてほしい(ただしTIDALは通常、日本国内からは申し込みできず、北米のプロクシーサーバー経由での登録などが必要)。

 では、RoonのCoreとEndpointの両方が動くことが、PlayPointの唯一かつ最大の利点かというと、オーディオ機器として“音質が良い”ことがもっとも大きな価値になっていると感じた。

 前述したように、現時点でPlayPointはexaSoundの専用プロトコルで動作する自社製DACとしか繋がらない(将来のアップデートでUSB Audio Protocol 2.0に対応した場合、音質がどうなるかは現時点で聴き比べていない)が、WindowsやOS X用にも専用プロトコルで動かすドライバが配付されている。

 視聴ではe22 mk2のバランス音声出力をLINN ProductsのKlimax DSMに接続して、SoundSpace Optimizerをかけた上で、同じくLINNのアクティブスピーカーAkubarikに入力して試聴を行なった。

 Macとe22 mk2の組み合わせは、揺るぎない低域の安定感と見通しの良い音場感、音場の高さ方向にも拡がりが感じられるが、何より演奏者が魂を込めるひとつひとつの音のディテールが素晴らしい。筆者の今、一番のお気に入りは同じくエミライが扱うBricasti DesignのM1SEなのだが、50万円前後に限ればベストな製品のひとつだろう。

 と褒め称えてみたが、実はPlayPointと組み合わせてみると、愕然とするほど音質が上がるのだ。M1SEとは音質傾向が異なるため直接の比較は避けるが、PlayPointをブリッジデバイスとして使うことで(すなわちパソコンをシステムとケーブルで接続する機器から解除することで)、ここまで音質が良くなるとは驚きだ。

 通信プロトコルが共通で、しかも非同期転送のため、基本的な違いはUSBケーブルを通じてのノイズ流入ぐらいしか考えられないのだが、S/Nの差は歴然で音質傾向そのものが変化する。

 具体的には低域の解像感が増し、音の立ち上がりが早く感じられる。ミッドバスには“張り”が出てきた。中域から上のバランスに大きな違いはないが、音場空間にしっかりと音が充満し、優秀なライブ録音ならば“気配”さえ感じられるかのようだ。演出による”高音質感”ではなく、明らかに情報量が増えている。

 USBケーブルの違いによる影響は大きく、パソコン用ケーブルではせっかくのシステムが台無しになるのは、パソコンを使った場合と同じ。筆者はZonotone 7N・USB-Shupreme 1(0.7m)とAIM電子「UA3」(1m)を使ってみたが、ケーブルのキャラクターにも強く反応する。このあたりは、パソコンをUSB DACに直結する際と同じように気を払うべきだろう。

 メーカーによると、将来的にはPlayPointの(現在は使われていない)HDMI端子からの出力を有効にする可能性もあるという。そうなれば、Klimax DSMなどHDMI入力を持つ高音質機器の活用も可能になるだろう。

 もちろん、PlayPointをRoon以外で使ってもいい。Roonが同種のソフトウェア/サービスより高価な点に抵抗感を持つ読者もいるかもしれない。しかし、これだけの素晴らしいシステムを最大限に活かせ、今後登場するだろうRoon対応機器でも活用できることを考えれば、決して高い投資とは思わない。PlayPointの導入を検討するならば、Roonと同時に評価することを勧めたい。

(協力:エミライ)

本田 雅一