藤本健のDigital Audio Laboratory

第880回

英Audientの“弁当箱”な低価格USB-Cオーディオ「EVO4/EVO8」を試す

1997年に設立した、イギリスのプロオーディオ機器メーカー「Audient(オーディエント)」。同社のミキサーコンソール「ASP8024」(現行モデルは「ASP8024-HE」)はロンドンのAbbey Roadスタジオほか、世界中のレコーディングスタジオに導入されており、高い評価をうけている。

彼らは、ミキサーコンソールやマイクプリアンプなどの業務用機器を展開する一方、DTMやPCオーディオ用で使えるコンパクトなオーディオインターフェイスも数多く発売しており、それらオーディオインターフェイスは、国内では、オールアクセスインターナショナルが取り扱っている。

今回は、Audientのエントリーモデルである2IN/2OUTのオーディオインターフェイス「EVO4」、そして4IN/4OUTの「EVO8」を紹介しよう。実売価格(税抜)はそれぞれ14,000円前後と、24,000円前後と価格も手ごろ。音質やレイテンシーなども含めてテストしてみた。

「EVO4」「EVO8」の製品概要と特徴

EVO4、およびEVO8は、数あるAudient製品の中ではやや異色の製品で、ホビー用、エントリーユーザー用に向けたオーディオインターフェイスとなっている。

そのことは形状からもなんとなく感じ取れる。まるで樹脂製のお弁当箱のようなデザインで、角も丸まっているカワイイ感じの仕上がり。手元にあるいくつかのオーディオインターフェイスと並べてみると、雰囲気的に異なることがお分かり頂けるだろう。

EVOのような、角も丸まったデザインは珍しい

とはいえ、EVO4、EVO8ともにスペック面では引けをとらない。どちらもUSB-C接続のUSB 2.0対応オーディオインターフェイスで、最大96kHz/24bitに対応する。前述のとおり、EVO4は2IN/2OUT、EVO8は4IN/4OUTとなっており、入出力端子はかなり充実している。

まずEVO4から見ていくと、リアにTRSフォン/XLRの双方に対応するコンボジャックでの入力が2つ、そしてTRSフォンのバランス出力を2つ持つ。さらにフロントには、左側にHi-Zに対応したギター入力、右側には標準ステレオ端子のヘッドフォン出力が用意されている。

EVO4の背面。リアはTRSフォン/XLR入力と、TRSフォンのバランス出力を搭載
前面。ギター入力とヘッドフォン出力を備える

EVO8は、リアに4つのコンボジャック入力があり、TRSフォンでのバランス出力が4つある。またフロントにはギター入力が1つあるほか、右側には独立した2系統のヘッドフォン出力を備える。

EVO8の背面。4つのコンボジャック入力と、4つのバランス出力を搭載
前面。ギター入力と、2系統のヘッドフォン出力を用意する

入出力の構成は珍しいものではないのだけれど、ユーザーインターフェイスがユニークで、とても使いやすくできている。

Windowsの場合は、ドライバとセットとなったユーティリティーをインストール。macOSの場合は、ユーティリティのみをインストールして使う形で、そのドライバやユーティリティはEVO4、EVO8とも共通のソフトになっている。ただ、どちらを接続するかによって、起動するソフトや画面が結構違ってくる。

EVO4を接続すると「EVO Control」というソフトと、「EVO Loop-back Mixer」という2つのソフトが起動する。EVO ControlはEVO4のトップパネルを表示させたような形で、本体と連動して動くようになっている。

EVO Control
EVO Loop-back Mixer

携帯電話のアンテナのようなアイコンは、ヘッドフォン出力を指しており、このボタンをオンにした上で大きいノブを回すとヘッドフォンの音量を調整できる。また、1を押してからノブを回すと入力1のゲインを調整でき、2を押してからノブを回すと入力2のゲイン調整が行なえる。

本体中央にノブは音量調整

48Vのファンタム電源は、入力1・2それぞれが独立していて、片方だけをオンにすることも可能。また2つのフェーダーが並ぶミキサーのようなアイコンは、モニターミックスを調整するためのもので、これを押してからノブを左に回すと、入力端子からの音をモニター、右に回すとPCの出力をモニターでき、そのバランスを調整できるようになっている。

さらに目立つ緑のボタンは「Smartgain」という名称のもので、これを押すと両チャンネル、または各チャンネルの入力ゲイン設定を自動で行なえる。つまりマイクなどの入力状況に合わせ自動的に最適な音量に設定してくれるわけだ。こうした操作がすべて本体のトップパネルだけでできるのはなかなか快適。

Smartgainボタン。両チャンネル、または各チャンネルの入力ゲイン設定を自動で行なえる

EVO Loop-back Mixerは、メイン出力に出す信号のバランスを調整するミキサー。Loop-backと名付けられている通り、ループバックに対応したもので、たとえばOBSのようなソフトで入力をLoop-back 1/2(Audieont EVO4)に設定することで、このミキサーで調整した結果を配信できるようになる。

入力をLoop-back 1/2(Audieont EVO4)に設定

EVO8のほうも基本的な操作は同じで、本体トップパネルからほとんどの操作が行なえる。ただしEVO Controlはなく、ミキサーのみとなっている。このミキサー画面を見ても分かる通り、外部入力が4ch、PCからの出力も4chあるほか、それとは独立してループバック用の出力もある。そして、これらをミックスした上でメイン出力、ヘッドフォン出力に出せると同時に、先ほどと同様、OBSなどにループバックで出すこともできる。

EVO8。基本的な操作はEVO4と変わらない
EVO8はミキサーのみ

音質とレイテンシーを検証する

実際の音質やレイテンシーはどうなっているのだろう?

EVO4、EVO8の製品ページを見ると、マイクプリアンプのゲインレンジはともに58dB、マイクプリのEIN(入力換算雑音)は-127dB、そしてダイナミックレンジは113dBと表記されている。

オールアクセスのEVO製品ページより

というわけで、いつものように、EVO4、EVO8それぞれの入出力を直結させたうえで、RMAA Proを使って測定した結果が、以下のものだ。

Audient EVO4の場合

44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合

Audient EVO8の場合

44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合

聴いたところ、非常に解像度が高い音という印象だったが、この解析結果を見ると、EVO4、EVO8ともに非常に近い傾向であり、ともにTHD + Noiseの結果があまりいい値にはなっていないようだ。

グラフで見てみると高調波、つまり倍音成分が多めに出ている結果、THD=高周波歪として記録されているのだろう。確かにピュアオーディオの観点からすると、正確な出力とはいえないかもしれないが、倍音が出ているためにクッキリとした音になって聴き取りやすいという面もあるだろう。

これはAudientの音作りによるもので、好き嫌いの問題はあるかもしれない。個人的にヘッドフォンでモニターする上では、多少強調された結果、音の特徴をつかみやすくなっている印象だった。

ではレイテンシーのほうはどうだろう? これについても、いつも使っているCentrace「ASIO Latency Test Utility」を使って試した。

128 samples/44.1kHzの結果(EVO8の場合)
8 samples/44.1kHzの結果(EVO8の場合)
8 samples/48kHzの結果(EVO8の場合)
16 samples/96kHzの結果(EVO8の場合)

EVO8では44.1kHz、48kHzにおいてバッファサイズを8Samplesにまで縮めることが可能であり、テスト結果も4msec程度となかなか好調だ。96kHzでは16Samplesとなってしまうが、やはり4msec程度という良好の結果だった。

EVO4でも試してみたのだが、ループバック機能が標準で機能し、ASIO Latency Test Utilityがループバックを拾ってしまうため、うまく測定することができなかった。まあ、おそらくはEVO 8とほぼ同様のレイテンシーであると思われる。

以上、AudientのEVO4およびEVO8について紹介してみたが、いかがだっただろうか? 小さくてユニークなデザインだが、かなり便利に使えるオーディオインターフェイスだといえそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto