藤本健のDigital Audio Laboratory

第927回

4K/PCM録音で、マイクカプセル交換も可能! ZOOM「Q8n-4K」

左からQ2n-4K、Q8n-4K

ZOOMから「音にこだわったビデオカメラ」、「Q8n-4K」(オープンプライス/実売約46,000円)が発売された。以前からあったQ8を4K対応の高精細、高性能にしたもので、ZOOMお得意のマイクカプセル交換が可能なのは従来通り。以前取り上げた「Q2n-4K」と比較すると、一回り大きいサイズだが、本格的な高音質動画撮影用としては、唯一無二の存在となっている。実際どんなものなのか試してみたので、紹介してみよう。

よりビデオカメラっぽくなった、Q2n-4Kの兄貴分

Q8n-4Kは、X-Y型のエレクトレットコンデンサマイク搭載で、XLRのマイク入力端子も2つ装備した、最大4chの同時録音が可能なビデオカメラだ。各カメラメーカーとも、画質・動画撮影機能の方は力を入れているけれど、音はおざなりなものも多い。リニアPCMで音を録れるビデオカメラは、ソニーの「HDR-MV」が生産完了となった現在、貴重である。

Q2n-4Kは以前使ってみて、非常によかったので、個人的にも愛用しており、筆者が運営しているYouTube/ニコニコ生放送番組のDTMステーションPlus!においても手持ちカメラとして活用している。今回登場したQ8n-4KはそのQ2n-4Kの兄貴分ともいえる存在のようだ。スペック的には4K、1080、720の各解像度が選ぶことができ、オーディオは96kHz/24bit、96kHz/16bit、48kHz/24bit、48kHz/16bit、44.1kHz/24bit、44.1kHz/16bitの各モードが選択できるようになっている点ではQ2n-4Kとほぼ同じだ(Q2n-4Kは96kHz/24bit、48kHz/24bit、44.1kHz/16bitの3モード)。

このQ8n-4K、Q2n-4Kを並べてみると、大きさも形もかなり異なり、よりビデオカメラらしい形状となっている。

左からQ2n-4K、Q8n-4K

マイク部分は可動式となっており、持ち運ぶときはまっすぐに倒しておき、録音・撮影時は起き上がらせる格好だ。

このマイクを起き上がらせることで、液晶ディスプレイが現れ、ここで画面をモニターしたり、各種設定を行なう。

また、このディスプレイも稼働式になっていて、開くことによって、電源ボタンが現れ、ここでオン/オフの操作をする。

また、microSDカードスロットもここにあり、録画・録音する場合には必ずここにメディアを入れる必要がある。

またディスプレイを開いた場合は画面をレンズの方向から見ることができるため、セルフィーでも使用できる形になっている。

一方、右側面を見るとXLRの端子が2つ並んでいる。ここに外部マイクを接続でき、その入力ゲインは上にあるノブで調整する。ここにダイナミックマイクが接続できるのはもちろん、ファンタム電源を使うコンデンサマイクも接続ができ、ファンタム電源のオン/オフは本体の電源スイッチの横でできるようになっている。

通常は本体内蔵のX-Y型のマイクを使用するが、これもスイッチでXLRの入力に切り替えることもできるし、オーディオだけであれば、合わせて4ch同時のマルチトラックレコーディングも可能というユニークな仕様だ。

そのX-Y型の内蔵マイクは脱着型となっており、これを取り外すことで、マイクカプセルを交換することができる。

手元に、ほかのマイクカプセルがなかったので、今回は試してはいないが、ZOOMのリニアPCMレコーダー用として発売されている、ショットガンマイクやXY/ABマイク、MSマイクなどを取り付けることができる。またまもなくAMBISONIC対応のマイクカプセル、VRH-8も発売される予定だ。

発売予定の、AMBISONIC対応マイクカプセル「VRH-8」

マイク端子の下にはUSB-C端子とmicro HDMI端子、そしてモニター用のヘッドフォン出力がある。USB-Cは内蔵のリチウムイオン電池の充電用に使えるほか、USBモードを変更することで、WebカメラやUSBマイクとしても使用することが可能(13)。

Webcamを選んでUSBでWindowsやMacにと接続すると、Webカメラとして認識できるようになっており、ドライバも不要ですぐに使える。そのためオンライン会議に利用したり、配信用カメラとしても利用できる形だ。ただし、Webカメラとして使用する際は4Kには対応しておらず1080p/48kHz/16bitに固定となる。

Q2n-4Kが単3電池2本での駆動であるのに対し、Q8n-4Kがリチウムイオン電池である点については好き嫌いが分かれるかもしれない。確かにリチウムイオン電池であればスタミナはあるけれど、バッテリーが切れた際に交換しにくいのも事実。また、Q2n-4Kはオプションで電池ボックスが用意されていて、ちょっと大きくなるが長時間使用の選択肢もあったのだ。もっとも、USB-Cで給電しながら使うことは可能なので、電源のあるところならば問題ないし、モバイルバッテリーなどを使用することもできるので、それなりの装備をすれば特に困ることはなさそうだ。

リチウムイオン電池方式になった

さて、本体の電源を入れたら、設定は液晶ディスプレイと、その左右にある8つのボタンで行なっていく。基本的には階層もない、非常にシンプルな設定になっているので、マニュアル不要で操作可能だ。簡単に説明すると、まずは左上のボタンで動作モードを設定する。項目としては動画のみを録るMOV、動画と音声をそれぞれ録るMOV+WAV、ステレオのリニアPCMレコーダーとして使うWAV(STEREO)、そして4chマルチレコーダーのWAV(MULTI)からどれかを選択する。

その下のボタンで画質解像度を設定する。選択肢は4K、1080、720の3つだ。さらに、その下ではフレーム/Sの設定こちらは30、25、24の3つから選ぶようになっている。そして左の一番下は前述の96kHz/24bit~44.1kHz/16bitの各モード設定だ。

画質解像度を設定
フレーム/Sの設定
96kHz/24bit~44.1kHz/16bitの各モード設定

続いて右上のボタンはデジタルズームの設定。広角のWIDEから一番狭いTELEまで5段階となっているのもQ2n-4Kと同様。さらに右の2番目のボタンはシーン設定。通常はAUTOでいいと思うが、必要に応じてINDOOR、OUTDOOR、CONCERT LIGHT、NIGHTから選択できるようになっている。そして右3番目は画面の明るさ設定。これはHIGH、NORMAL、LOWの3段階になっている。

デジタルズームの設定
シーン設定
明るさ設定

そして右下のボタンを押すと、画面はミキサー画面へと切り替わる。ここで4chあるマイク入力のバランスを調整するようになっているののだ。もちろん入力ゲインはそれぞれマイクのそばにあるゲイン調整ノブで行うのだが、ここではその後段の内部ミキサーとなっており、LEVEL調整のほかPAN調整ができるほかエフェクトも装備されている。

ミキサー画面

具体的には初期設定はオフだが、Comp(コンプレッサ)、Limiter(リミッター)、Leveler(レベラー)、DeEss(ディエッサー)、Gate(ゲート)の5種類のうちから1つをチャンネルごとに選択できるようになっており、特にパラメーターはないようだ。また、これとは別にローカットオフの設定も可能で、こちらも各チャンネルごとに、オフ、80Hz、120Hz、160Hz、200Hz、240Hzから選択できるようになっている。

ローカットオフの設定

では、実際、これでどう録れるのか。充電し、microSDカードを挿して、野外に持ち出してみた。微妙ではあるが、風が吹いていたので、付属のウィンドスクリーンをマイクに被せた上で使ってみた。

ここではシンプルにMOVモードを選択し、オーディオは96kHz/24bitに。Q2n-4Kでもそうだが、これで録画すると、しっかりMOVファイルの中に96kHz/24bitのリニアPCMとして収録されるのだ。ビデオ編集ソフトのVegasで確認しても、96kHzのリニアPCMになっていることがわかる。ちなみにMOV+WAVとすると、96kHzには対応せず、最高で48kHz/24bit止まり。microSDへのファイル転送速度の問題などから制限されているのかもしれない。

そして画角は一番の広角から2番目に設定。あとはデフォルトの設定、つまり4K、30fps、AUTO、NOMALでエフェクトやローカットなどはしない状態で、近所の公園へ。ここでいろいろ撮影した中の一つがこちら。

公園で撮影したサンプル
※4Kで表示させるには、YouTubeプレイヤー下部の歯車アイコンから、画質を「2160p/4K」に変更してご視聴ください

カモがもっと鳴いてくれるとよかったのだが、右側に飛んできたムクドリ? の鳴き声や、静かに泳いでいる白黒のカモ(キンクロハジロ)が時折、水の中にポチャンともぐったりする音を映像ともにもにしっかりとらえているのが分かるだろう。

このカメラをそのまま線路沿いまでもっていって電車の音を録ったのがこちら。

電車の音のサンプル
※4Kで表示させるには、YouTubeプレイヤー下部の歯車アイコンから、画質を「2160p/4K」に変更してご視聴ください

このときはマイクの入力ゲインは絞っているが、左右の音の動きなどもリアルに捉えている。

さらに録音性能チェックのために、MOVモードからWAV(STEREO)モードに切り替えて、CDの音を収録。これまでの実験との比較という経緯からいったん96kHz/24bitで録音した後で、ほかと比較しやすいように最大値が0dBになるようにノーマライズした上で44.1kHz/16bitに変換したのがこちら。

【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(44.1kHz/16bit)
ZOOM_Q8n-4K_music1644.wav(6.92MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

また96kHz/24bitから48kHz/24bitに変換した上で、efu氏開発のフリーウェアWeveSpectraで分析したのがこちらだ。Q2n-4Kのものと比較してみると、見た目にもちょっと違うのが分かるし、聴いた音の雰囲気もちょっと異なり、Q8n-4Kのほうがよりオリジナルの音に違い感じ。これまで試してきた、ほかのリニアPCMレコーダーとしては、やはりZOOMのH2nでのX-Y型マイク、H6のX-Y型マイクでの音や波形に近いのは、同じマイクカプセルではないものの、同じZOOMのX-Y型マイクなので、当然なのかもしれない。

96kHz/24bitから48kHz/24bitに変換した上で、WeveSpectraで分析
Q2n-4Kのものと比較

以上、Q8n-4Kについて見てきたがいかがだっただろうか? これだけの性能を持ちながら、実売価格が46,000円程度というのは激安だと思う。ただ、現在Q2n-4Kが25,000円程度になってきていることを考えると、どちらを選ぶかはやや悩ましいところ。音質が絶対であるならば、Q8n-4Kだし、ガンマイクなどマイクカプセルを替えて使いたいという要望があるならQ8n-4K一択となる。でもコンパクトでそれなりの音質で4KというのならQ2n-4Kで十分ともいえるので、どう選ぶかはユーザー次第だ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto