第403回:MOTUの「UltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2」を試す
~ FireWireとUSBのハイブリッドオーディオI/F ~
Mark of the Unicorn(以下MOTU)からちょっと変わったオーディオインターフェイス、「UltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2」が登場した。何がハイブリッドなのかというと、FireWireとUSB 2.0の両方が使えるという仕様になっているのだ。
もちろんWindowsでもMacでも使えるハイブリッドでもあるわけだが、今回はこのUltraLite mk3 HYBRID FW-USB2を発売元のオービット・ミューズテクスからお借りしたので紹介しよう。
「UltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2」 | FireWireとUSB 2.0の両方が使用可能 |
■ 最高24bit/192kHz対応のFireWire/USBハイブリッドオーディオI/F
ご存知のとおり、現在オーディオインターフェイスの主流はFireWire接続だ。USB 2.0対応の製品も増えてきているものの、選択肢としてはFireWireが多いというのが実情で、プロフェッショナル仕様になればなるほどFireWireが中心となってくる。
しかし、Windowsマシンの場合、FireWireのインターフェイス自体がオプション扱いであることがほとんどで、FireWireを進めてきたAppleもMacBookや、Macbook Air、iPodなどではFireWireポートが省略されてしまった。
一方で、USB端子はすべての機種に搭載されているわけで、USB 3.0がどう広がるのかまではよくわからないが、レコーディングの現場でも、今後どうするのかという話題がよく登場するようになっている。その解決のアプローチのひとつとして面白いのが、UltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2だ。
これは、2008年に発売されたFireWireオーディオインターフェイス「UltraLite-mk3」を改良して、USB 2.0にも対応したもので、スイッチ類などの変更はあるが、基本的な仕様や形は前モデルをそのまま引き継いでいる。10IN/14OUTで最高24bit/192kHzに対応しており、コンパクトなハーフラックサイズにまとまっている。オープン価格だが、実売で70,000円前後と、このクラスでは平均的か若干高めの設定といったところだろうか。
もちろん、ハイブリッドといっても、FireWireとUSBを同時に使うわけではなく、どちらか一方で利用するわけだが、ユーザー側はFireWireで接続していようが、USBで接続していようが違いを感じず、セッティングも変えることなく、そのまま同じように使えるのが大きな特徴。
実際、WindowsにおいてもMacにおいてもインストールするドライバは1つ。これを入れておけば、どちらで接続しても使え、PC側からは見えるドライバ名なども変わらないようになっている。
FireWireかUSBかで1点大きく異なるのが電源供給部分。FireWireと比較してUSBはバス電源供給電力が小さいために、ACアダプタを接続する必要がある。9VのACアダプタが付属しているので、USBで使う場合はこれが必須というわけだ。
WindowsにおいてもMacにおいてもインストールするドライバは1つ | ACアダプタが付属 |
■ 入力/ミックス/出力設定や、オシロスコープなどが利用可能な「CueMix FX」を同梱
UltraLite-mk3 HYBRIDはフロントにギターやマイクが接続できるコンボジャックの入力とヘッドフォン出力がある。リアにはコンボジャックの入力が1つとメインのステレオ出力が1組、そしてアナログのTRS出力が8つ、TRS入力が6つ、そしてS/PDIFコアキシャルの入出力が1つずつ、MIDIの入出力が1つずつという構成。
フロント | リア |
フロントパネルにはバックライト付LCDとその右に4つのノブがあり、これでさまざまな設定が可能となっているが、基本的にはすべてPCのコントロールソフトでできるようになっているので、ここではこのソフトを使って機能を見ていこう。
サンプリングレートやバッファサイズを設定するMOTU Audio Consoleというアプリケーションを起動 |
まずは、一般のオーディオインターフェイスと同様、サンプリングレートやバッファサイズを設定するMOTU Audio Consoleというアプリケーションがあるのでこれを起動。ここではほかにヘッドフォン出力やメイン出力、リターンのそれぞれに何をアサインするかの設定できるようになっている。
基本的にWindowsもMacも同じだが、Windowsの場合MMEドライバとして使う場合の設定項目があるのに対し、Macのほうが少しシンプルになっている。
96kHzのサンプリングレートに設定されているとき、バッファサイズは最小の128サンプルに設定すると、Cubaseの表示上での入力のレイテンシーは2.354msec、出力は2.896msecとなった。ちなみに44.1kHzの場合は64サンプルに設定が可能で、同じく2.744msec、3.311msecとなった。
Macの方が少しシンプル | Cubaseでの表示 |
また、前述の10IN/14OUTというのはCubaseで見ると、12IN/14OUTとなっているが、その入力のうち2つは先ほどの設定画面にあったReturnとなっている。出力は各アナログ、デジタル端子がパラで出力されているほか、メイン出力およびヘッドフォン出力も独立した出力として設定されているので計14出力となる。
Cubase上では12IN/14OUT | 出力ではメイン出力、ヘッドフォン出力も独立した出力として設定される |
面白いのは、ドライバといっしょにインストールされるソフトにキューミックス用の「CueMix FX」というものが用意されていること。
INPUTS、MIXES、OUTPUTSという3つのタブが用意されており、それぞれ入力の設定、ミックスの設定、出力の設定ができるようになっている。これらの画面を見てもわかるとおり、UltraLite-mk3 HYBRIDは、単なるオーディオインターフェイスというよりも、ミキサーコンソールのような感覚で利用できるデバイスとなっている。
INPUTS、MIXES、OUTPUTSという3つのタブが用意されており、それぞれ入力の設定、ミックスの設定、出力の設定ができるようになっている |
そして、PADやファンタム電源のON/OFFといったコントロールができるのはもちろん、トークバックといったことも可能だ。さらに各チャンネルに対し、6バンドのパラメトリックEQを設定できたり、コンプレッサの設定もできるようになっている。
6バンドのパラメトリックEQを設定できたり、コンプレッサの設定も可能 |
さらに本体にリバーブ機能が用意されており、各チャンネルからセンド・リターンで利用できるので、録音や再生時に利用可能になっている。いずれも本体内部のDSPのパワーによって処理されるため、PC側のCPUパワーを消費することなく、思い切り使えるのが大きなメリットだ。
また、このコンソール上に入出力のレベルメーターも備わっているため、これを見ながら操作していくことも可能だ。なお、各種設定は本体自身で覚えておくことが可能になっているようで、Macで設定したEQやダイナミクスが、Winodwsに接続しなおしても、そのまま再現させることができた。
さらに、オシロスコープ、X-Yプロット、フェーズアナライザといった機能も搭載されているので、各種音響データの分析などにも活用できそうだ。これらも前述のEQやコンプレッサ、リバーブなどと同様にもDSPが処理してくれるCPUパワーの消費を心配することなく利用できる。
オシロスコープ | X-Yプロット | フェーズアナライザ |
MOTU SMPTE Console |
もうひとつ、Pro Tools風な画面のMOTU SMPTE Consoleというソフトもいっしょにインストールされる。こちらも見ればわかるとおり、SMPTEに同期させるためのもので、アサインした入力ポートに届いたSMPTE信号にクロックを同期させたり、反対に設定したポートにSMPTE信号を発生させて流すことができるようになっている。
なお、今回ミューズテクスからお借りした製品では、ドライバは最新版を同社サイトからダウンロードするようにとのことで、CD-ROMが付属していなかったが、製品版ではこのCD-ROMにDigital Performerの簡易版的なDAW、AudioDeskがMac専用ソフトとしてバンドルされているようだ。
■ 音質をチェック
では、実際音質はどうだろうか? いつもと同じように、RMAA Proを用いてテストを行なってみた。最初メイン出力をアナログ入力の3/4chにループさせる方法でテストをしてみたが、出力レベルが若干大きめで、レベルを少し絞る必要があったため、ここでは3/4chのアナログ出力を3/4chのアナログ入力にループさせて実験を行なった。
FireWire接続時に44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで行った結果を見ていただきたい。
24bit/44.1kHz | 24bit/48kHz | 24bit/96kHz | 24bit/192kHz |
いずれも、かなりいい値が出ているが、どのサンプリングレートにおいてもTHD+Noiseの値が若干低めだ。もしかして、バス電源供給ではなくACアダプタでの供給であればいい値になるのではと、接続をFireWireからUSBに切り替えてテストしてみたが、結果的にはUSBの場合もほとんど同じとなった。
24bit/44.1kHz/USB | 24bit/48kHz/USB | 24bit/96kHz/USB | 24bit/192kHz/USB |
そこで改めてRMAA ProによるTHD+Noiseのグラフを見てみると、1kHzの基準波に対して、2kHz、3kHzなどの高調波がやや多めに出ているようだ。音を聴いた感じでは、まったく問題を感じなかったので、手動で同じ実験を行なってみた。つまり同じ接続状態でサイン波を再生したものを、そのまま録音した結果を分析するというものだ。
ここではRMAA Proよりも少し出力レベルを低くして-6dBの信号を使って結果、ノイズも高調波も非常に少ないようだった。もしかすると、この機材の特性上1kHzあたりに大音量を出すと若干歪む傾向があるのかもしれないが、あまり気にすることはなさそうだ。
RMAA ProによるTHD+Noiseのグラフ | 手動で行なってみる |
以上、UltraLite-mk3 HYBRIDについてみてきたが、FireWireとUSBが同居しているというのは、今後もレアケースになるとは思うが、FireWireからUSBへのシフトは加速していきそうだ。バス電源供給ができないのがネックだが、もしかするとUSB 3.0がこの辺の問題を解決するキーになるかもしれない。仕様ではUSB 1.1や2.0での500mAから3.0では最大900mAへと引き上げられるので、オーディオインターフェイスも動作しそうだ。
いずれにせよ、ドライバやDAWなどのソフトウェアとの相性もチェックしつつ、トラブルのない移行を進めるには、UltraLite-mk3 HYBRIDのようなデバイスが重要になりそうだ。