第459回:ローランドの4入力/4出力「QUAD-CAPTURE」を試す
~OCTA-CAPTUREの高機能を受け継ぎ、バスパワー対応に ~
QUAD-CAPTURE |
4月6日~9日にドイツ・フランクフルトで開催された国際楽器・オーディオ専門見本市、MusikmesseでRolandは新型シンセの「JUPITER-80」やコンパクトなMTRである「MICRO BR BR-80」といった機材を発表するとともに、小型のUSBオーディオインターフェイス、「QUAD-CAPTURE」を発表した。
発売は5月下旬(オープン価格:実売価格は26,000円前後の見込み)となるQUAD-CAPTUREを一足早く入手することができたので、詳しく検証した。
■ 4IN/4OUT対応でUSBバスパワー駆動する数少ないオーディオI/F
10IN/10OUTで8つのマイクプリアンプを内蔵した「OCTA-CAPTURE」 |
昨年10月に10IN/10OUTで8つのマイクプリアンプを内蔵したUSBオーディオインターフェイス、「OCTA-CAPTURE」を取り上げた。それまでのヒットモデル「UA-101」の後継として登場したオーディオインターフェイスで、USB 2.0対応としては第3世代目にあたる製品。
高品質を実現するとともに、入力レベルを自動調整する「AUTO-SENS」機能を搭載しているのが特徴だった。その記事の最後で、「この音質、この機能のままチャンネル数を減らしたコンパクトな機材としてQUAD-CAPUTREといった製品が登場してくれないだろうか」と書いたのだが、その名もズバリの製品が登場することになったわけだ。
このQUAD-CAPTURE、位置づけ的には「UA-25EX」の後継モデルであり、UA-25EXは生産完了になった。確かに大きさ的には近いが、システム的に見ればUA-25EXとはまったくアーキテクチャの異なる製品であり、OCTA-CAPTUREのミニ版と捉えるのが正しいようだ。
ただし、OCTA-CAPTUREのOCTA=8がマイクプリアンプの数を指していたのに対し、QUAD-CAPTUREのQUAD=4はマイクプリアンプではなく、入出力の数に置き換わっている。総入出力数的に見るとOCTA-CAPTUREが10IN/10OUTであったのに対し、QUAD-CAPTREは4IN/4OUTとなっている。ちなみに先日紹介した「TRI-CAPTURE」および「DUO-CAPTURE」のTRI=3、DUO=2は入出力数ではなく、入力の系統数を示している。したがって、それぞれ製品名が単純にスペックを表すわけではないので注意が必要だ。
UA-25EX(右)と比較 | OCTA-CAPTUREの上にQUAD-CAPTUREを重ねたところ |
4IN/4OUTに対応しているということでお気づきの方も多いと思うが、これはUSB 2.0対応になって初めて実現できるスペックで、USB 1.1対応で2IN/2OUTのUA-25EXとは根本的にアーキテクチャが異なっているわけだ。だからこそ、UA-25EXの後継と捉えるより、OCTA-CAPTUREのミニ版と考えたほうが分かりやすいところでもある。またサンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれに対応している。また、電源はUSBバスパワーが利用できるため、ACアダプタがいらないというのも大きな特徴。先日紹介した第3世代のMboxなど他社製品でもないわけではないが、QUAD-CAPTUREは4IN/4OUT対応でUSBバス電源供給というまだ数少ないオーディオインターフェイスなのだ。
さて、その4IN/4OUTのQUAD-CAPTUREだが、実際の端子としてはフロントにコンボジャックの入力が2つ、リアにTRSフォンの出力が2つのアナログが2IN/2OUTとなっている。フロントの右側にはヘッドフォンジャックも搭載されているが、ここから出力される信号はリアのアナログ出力と同じものであり、端子の上にあるOUTPUTのノブでレベル調整するようになっている。
前面 | 背面 | ヘッドフォンジャックからの出力レベル調整は[OUTPUT]ノブで行なう |
一方リアにはコアキシャルのS/PDIFの入出力端子が1つずつ用意されているのでデジタルが2IN/2OUT。これによって計4IN/4OUTという構成であり、そのほかにMIDIの入出力が1系統ずつ用意されている。フロントのコンボジャックのINPUT 1のチャンネルのみは、ギター/ベースと直結できるHi-Zへ切り替えることも可能で、これはリアにある一番右のスイッチで設定できる。その左のスイッチである「PHANTOM」を「+48」オンにするとコンボジャックにファンタム電源を供給し、コンデンサマイクを利用できる。Hi-Zもファンタム電源もリアのスイッチなので、どちらの設定になっているかフロントのLEDなどで知らせてくれる機能があると分かりやすかったようにも思うが、そうはなっていないようだった。
このファンタム電源はアナログの2つのチャンネルともに供給することができるほか、両チャンネルともにマイクプリアンプも搭載している。ちなみに、このマイクプリアンプは「VS PREAMP」というもので、OCTA-CAPTUREや、VS-700に搭載されているものと同品質のものであるとのこと。そして一番左にある3つ目のスイッチ「GROUND LIFT」はUA-25EXに搭載されたものと同様のもので、USB接続の音源などと接続した際、グランド信号がループして発生するノイズを遮断するためのものとなっている。
こうしたアナログの回路が複雑に絡み合ってきたときに問題になるのが電源だ。必ずしも安定しておらず、ノイズ混入も多いUSBバス電源をそのまま利用すると、どうしても音質が劣化しがち。そこでQUAD-CAPTUREではUSBから供給された+5Vの電源を本体内の専用DC/DCコンバータで整流化して利用している。具体的にはアナログ回路用に+5Vと-5Vを作り出すほか、ファンタム電源用の+48V、そしてデジタル回路用に+3.3Vと複数のローノイズ電源を作り出している。これによってUSBバス電源供給ながらOCTA-CAPTUREと同等の音質性能を実現しているという。
デジタルは同軸の2IN/2OUT | フロントのコンボジャックのINPUT 1のチャンネルはHi-Zへ切り替えることも可能 | USBから供給された+5Vの電源を本体内の専用DC/DCコンバータで整流化 |
■ ストリーミング技術などOCTA-CAPTUREの高機能を継承
さらに、QUAD-CAPTUREはRoland独自のオーディオ・ストリーミング・テクノロジー、「VS STREAMING」を採用したことで、モニター音のレイテンシーを極小に抑え、PCの性能に依存することなく安定した動作を実現しているという。VS STREAMINGもOCTA-CAPTUREで使われていた技術だが、これを実現するために搭載していたのが、Analog DevicesのDSP、Blackfinプロセッサだった。具体的には533MHz/1,066MMACS(MMACS=メガ積和演算/秒)で動作するBlackfinプロセッサ「ADSP-BF525」というものだったが、QUAD-CAPTUREにもほぼ同等のスペックのADSP-BF524が搭載されている。つまりアーキテクチャ的に見てもOCTA-CAPTUREのものがそのまま継承されているわけだ。
またOCTA-CAPTUREと同様にアナログ基板(下)とデジタル基板(上)を分離するなど回路設計も非常に丁寧にされており、結果として低ジッターも実現できているとのことだ。もちろん、まったく同じことをすると供給電力が足りなくなってしまうため、チャンネルを減らすとともに、液晶ディスプレイを排除するなど省電力化を図って実現しているわけだ。
DSPはADSP-BF524 | アナログ基板とデジタル基板を分離 | 低ジッター化を実現 |
このBlackfinによって実現している強力な機能がアナログの入力レベルを最適な状態に自動設定するための「AUTO-SENS」機能。これもOCTA-CAPTUREと同様のものなのだが、液晶ディスプレイがない分、さらに操作が簡単になっている。フロントにあるAUTO-SENSボタンを押すと、音量の測定が始まるのでギターを弾いたり、マイクに向かって歌ったりする。終わったら再度AUTO-SENSボタンを押すと最適な音量に調整されているという具合で、とにかく簡単だ。
実際設定してみて、もうちょっと大きくしたい、もうちょっと小さくしたいという場合は、INPUT 1、INPUT 2それぞれのノブで調整可能で、ノブを動かせばそちらが優先される。また、入力信号は、このノブの周りに表示されるLEDで確認できるので、視覚的にも分かりやすい。
フロントのAUTO-SENSボタン | 入力信号は、ノブの周りに表示されるLEDで確認できる |
もっとも液晶がないぶん、本体だけではQUAD-CAPTUREの全機能を操作することはできない。この機能をさらに積極的に活用するためには、PCにインストールしたドライバのコントロールパネルを利用する。この画面、一見してOCTA-CAPTUREのものと大きく変わっている。基本的な機能が変わったわけではないが、プリアンプ部、コンプレッサ部を前面に打ち出したユーザーインターフェイスとなり、直感的に使いやすくなっているのだ。
まず左側のプリアンプ部だが、ここにあるSENSはフロントパネルのノブとAUTO SENSはAUTO-SENSボタンと連動している。クリップしないように注意しながらレベル調整を行なうといいだろう。また、ここにはINPUT 1、INPUT 2それぞれ独立してLO-CUT(低域カット)ボタン、PHASE(位相反転)ボタンがあるので、必要に応じてオンにするといいだろう。LO-CUTは100Hz以下の信号をカットすることができる。
PC上のコントロールパネル | プリアンプ部、コンプレッサ部を前面に打ち出したユーザーインターフェイスとなり、直感的に使いやすくなった | SENSはフロントパネルのノブと、AUTO SENSはAUTO-SENSボタンと連動 |
次に中央のコンプレッサ部分は、デフォルトではBYPASSボタンがオンになっていて機能していないので、これを解除してみよう。するとグラフ部分がアクティブになり、コンプレッサの効き具合や出力レベルが表示されるようになる。プリセットの設定が用意されているわけではないので、自分で適当に調整を行なう必要があるが、結果がリアルタイムに表示されるので、比較的分かりやすい。
LO-CUT、PHASE、COMPRESSORを経由した信号がPCへと入力される一方、PCを介さずダイレクトモニタリングの形で出力することも可能であり、そのバランスはフロントパネルのヘッドフォン端子左側にあるMIXノブで調整するのは、これまでのRolandのオーディオインターフェイスと同様。またUA-25EXにもあったMONOボタンをオンにしておくとINPUT 1、INPUT 2のそれぞれが中央に定位するようになる。なお、ダイレクトモニタリングとして返すINPUT 1、INPUT 2またリアのS/PDIFからの音量バランスはコントロールパネルの右下にあるノブを使って設定する。
BYPASSを解除すると、コンプレッサの効き具合や出力レベルが表示される | ヘッドフォン端子左側にあるMIXノブ |
以上の信号の流れをダイアグラムに表すと分かりやすくなる。これを見ると分かるように、S/PDIFのデジタル出力はDIGITAL OUT SELECTORで切り替えるようになっているのだが、このセレクターはコントロールパネルにおいてメニューから「デバイスの設定」を選び、表示されるダイアログで行なう。またこのダイアログでは、デジタル入力を受け入れるか(受け入れると自動的にそのサンプリングレートに設定される)、受け入れないかの設定、またAUTO-SENSに関する設定も用意されている。AUTO-SENSはデフォルトではMANUALになっているが、AUTOにするとAUTO-SENSを実行後、一定時間入力がないとAUTO-SENSによるレベル調整が終了する。またMarginはAUTO-SENS時の最大入力レベルがクリップギリギリの0dBのどのくらいにするかのマージンを設定するもので、デフォルトでは-6dBとなっているのだ。
信号の流れをダイアグラムで表したもの | 光デジタル出力選択は、コントロールパネルから「デバイスの設定」を選び、表示されるダイアログで行なう | 入力レベルのマージン設定 |
そしてメニューからドライバ設定を選ぶと、サンプリングレートやバッファサイズの設定ができるようになっている。これまでのRolandのオーディオインターフェイスのドライバ設定画面とソックリではあるが、「おや?」と思う方もいるかもしれない。実はここに大きな改善点があり、一番上にSAMPLE RATEという項目があるのがポイントとなる。
これまでRolandの歴代のオーディオインターフェイスでは、サンプリングレートはハードウェア側で設定し、ソフト的に設定することができなかった。このことはOCTA-CAPTUREでも同様であり、液晶ディスプレイを用いて設定しなくてはならなかったため、ある意味従来のオーディオインターフェイスよりも扱いづらかった。これは、安定性・確実性という設計思想から、サンプリングレートの切り替えはハードウェア側で行なっていた。そのため、サンプリングレートを切り替えるたびに、オーディオインターフェイスの電源を入れなおしたり、USBやFireWire接続を抜き差しする必要があった。
それが今回ようやくそのソフト側で対応できるようになり、電源を入れたままサンプリングレートが切り替えられるようになったので、利便性が格段に向上した。他社製品では当たり前の機能であったが、これでようやくRoland製品でも対応したというわけだ。なお、QUAD-CAPTUREではサンプリングレートを192kHzにした場合は、使えるのはアナログの2IN/2OUT限定となり、その旨のメッセージが表示される。
ドライバ設定を選ぶと、サンプリングレートやバッファサイズの設定ができる | SAMPLE RATE設定 | サンプリングレートを192kHzにした場合は、使えるのはアナログの2IN/2OUTに限られる |
44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzの4つのサンプリングレートが設定できるが、それぞれのモードでいつものようにRMAA PROを使って入出力ループ状態での音質を測定してみた結果が以下のとおりだ。OCTA-CAPTUREよりも良い結果となった。また、 OCTA-CAPTUREのときは192kHzでの測定がうまくできなかったが、QUAD-CAPTUREでは問題なく動作したので、そちらも載せておく。
【お詫びと訂正】(2011年4月26日)
初出時に、DIRECT MONITORの「MONO」ボタンがオンの状態でのRMAA PROの測定結果を掲載しておりましたが、オフにしたところ、測定結果が大きく向上しました。そのため、「MONO」ボタンがオフ時の測定結果と、評価内容に差し替えました。
44.1kHz | 48kHz |
96kHz | 192kHz |
■ レイテンシ―はOCTA-CAPTUREよりも低減、より使いやすい製品に
ところで、従来からRolandのドライバのバッファ・サイズ設定はMinからMaxまで9段階で設定するというものであり、バッファサイズを直接指定することはできず、実際バッファサイズが何サンプルなのかをドライバの設定画面で知ることはできなかった。9段階の設定という点では従来どおりだが、ここにASIOバッファ・サイズが表示できるようになったのだ。実際チェックしてみると、44.1kHzでは48サンプルから2048サンプルまで、96kHzでは96サンプルから4096サンプルまでとサンプリングレートによって設定可能なバッファ・サイズが変わるのもRoland独自の仕様。これは高いサンプリングレートにしても安定して動作するように配慮した結果のようだ。
ここで各サンプリングレートにおける入出力をループさせた場合のレイテンシーをチェックしてみた。44.1kHzの場合のみ128サンプルでの測定も行なっているが、基本的に最小のバッファ・サイズで行なってみた結果が以下のとおりだ。192kHzではOCTA-CAPTUREとまったく同じ結果になったが、それ以外では若干ではあるがOCTA-CAPTUREよりレイテンシーが小さく、より高速になっていることが分かる。この点でもなかなか優秀な機材といえるだろう。
このバッファ・サイズを見て、ふと思いついたのがWindowsにおけるPro Tools 9との相性問題。以前、Pro Tools 9を紹介した際、Windowsでは使えないオーディオインターフェイスが結構多く、その理由がバッファサイズにあるということに触れた。そして、Rolandのオーディオインターフェイスでは、動かないケースが多かったのだが、このQUAD-CAPTUREのバッファ・サイズを見る限りは問題なさそうだ。試しにPro Tools 9をインストールして使ってみたが、問題なく動かすことができた。
44.1kHz/128 samples | 44.1kHz/48 samples | 48kHz/48 samples |
96kHz/96 samples | 192kHz/192 samples |
SONAR X1 LEがバンドルされている |
もっともQUAD-CAPTUREには標準でSONAR X1 LEがバンドルされており、これとの相性はもちろんバッチリ。プリインストールされているプラグインこそ少ないが、好みに応じてフリーのエフェクトやソフトシンセをインストールしてしまえば、かなり使えるDAWとなる。多くのユーザーの場合、このSONAR X1 LEで十分なのではと、思ってしまうほどだ。ただし、64bit対応モードは用意されていないため、64bit版Windowsにおいては32bitモードでの使用となる。
MAIN出力を取り込める |
なお、SONARでもPro ToolsでもASIOの入力ポートを確認すると、1-2、3-4のほかにMAIN(Macの場合は5-6ポート)というポートがあることに気づく。これは先ほどのブロックダイアグラムにおけるMAIN出力を取り込めるというもの。実際出ている音をバウンスしながらレコーディングするといった使い方ができそうだ。
以上、QUAD-CAPTUREについてついて見てきたが、この価格帯のオーディオインターフェイスとしては非常に高機能、高性能で、かつ使い勝手のいい製品だと思う。OCTA-CAPTUREですっかり馴染んでしまったAUTO-SENSはやはり便利で手放せないが、それがこのコンパクトな機材で実現しているのは、とても嬉しい。入出力のポート数が問題にならなければ、USBバス電源供給である点、サンプリングレートの切り替えが容易になった点などを含め、OCTA-CAPTUREより使いやすく、いいオーディオインターフェイスだと感じた。