第460回:オンキヨーの新サウンドカード「SE-300PCIE」を検証
~3年ぶりのハイエンドサウンドカードの実力とは? ~
オンキヨーとして初めてPCI Express×1に対応した |
最近のデスクトップPCでは、すでにPCIバスを搭載しないものも増えており、従来のカードが使えないと嘆いていた人も少なくないはず。ここに来てようやくPCI Express対応の製品が登場したわけだ。このSE-300PCIEは、SE-200PCI LTDの後継製品ではあるが、もちろんバスがPCIからPCI Expressに変わったというだけではなく、すべてにおいてまったく新しいアーキテクチャとなっている。実際、どんな製品なのか使ってみたのでレポートしてみよう。
■ 電解コンデンサが林立したシンメトリー構造は健在
SE-300PCIEは、オーディオメーカーであるオンキヨーの技術、ノウハウをつぎ込んで開発したというある種独特のサウンドカード。これまでのWAVIOシリーズ同様、コンビナートのように電解コンデンサが並び、Lチャンネル/Rチャンネルを線対称に回路・部品が配置されているシンメトリー構造も健在。基板を見ると4箇所ほど抵抗が飛び出ている部分があるのだが、ここは手作業で半田付けしているという。ほかのメーカーにはあまりない、こだわりのPCI Expressカードだ。
スペック的には「24bit/192kHz対応、7.1chのサラウンド出力にも対応している」製品ではあるが、サウンドカード本体の端子部分を見ると、金メッキしたRCAの2ch専用ライン出力端子とヘッドホン端子が1つ、光のS/PDIFの入出力が各1つ、同軸のS/PDIF出力が1つある。
コンビナートのように電解コンデンサが並び、シンメトリー構造も健在 | 2ch出力とヘッドホン、光のS/PDIFの入出力、同軸のS/PDIF出力を備える |
これらの端子がメインであり、ステレオ2ch出力を完全にメインターゲットとしているのがわかる。7.1chは、SE-300PCIEのパッケージ内に入っているマルチ入出力拡張ボードを使って行なう。SE-300PCIE本体とマルチ入出力拡張ボードを接続ケーブルでつなぐ。マルチ入出力拡張ボードには、フロントL/R、サラウンドL/R、センター/サブウーファー、サラウンドL/Rの計7.1ch出力が4つのステレオミニ端子で用意されているほか、マイク入力、ライン入力のそれぞれも同じくステレオミニ端子で搭載されている。
構造上、どうみてもマルチ入出力拡張ボードの端子は、本体搭載の端子とは格が違う。ちなみに前機種であるSE-200PCIではマルチ入出力拡張ボードではなく、ブレイクアウトケーブルを使う形ではあったが、本体の2ch出力とブレイクアウトケーブルでのサラウンドとを分離するという点では同様の構造であった。
メインボードとマルチ入出力拡張ボードは専用ケーブルで接続する |
■ Creative Techonology「20K2-X-Fi」を採用
今回実際にPCにSE-300PCIEを装着して感じたのは、かなり分厚いサウンドカードであるということ。アナログオーディオ回路部には音質に有害な磁気ひずみを発生させいない銅シールドでカバーをし、デジタル回路と電源のDC/DCコンバータには高透磁率の鉄製の磁性シールドでカバーしているのだが、その結果かなり厚くなって、隣のPCIスロットまで侵入してきてしまう。
もっともこのスロットにはマルチ入出力拡張ボードを入れることが想定されているので問題にはならないのだが、ステレオ出力だけでいいという場合はマルチ入出力拡張ボードは無用の長物。実際本体のみで使うこともできるが、PCの拡張スロットの配置と構造をよく確認してから購入したほうがよさそうだ。
Creative Techonologyの「20K2-X-Fi」を搭載 |
まず気になるのが、搭載しているコントロールチップ。従来のSE-200PCIやSE-200PCI LTDではVIAのEnvy24HTが使われていたが、これはPCI用のものでPCI Expressでは使えない。そこでオンキヨーが採用したのが、Creative Techonologyのチップ「20K2-X-Fi」だった。
オンキヨーの開発担当者によれば、当初PCI Express用のチップを自社開発できないかいろいろと研究も進めたようだが、最終的にはそれを断念してCreativeのチップを採用したという。
Envy 24HTのときは、ドライバをインストールしなくてもWindowsが自動的に認識して使えるようになっていたが、今回は付属するDVD-ROMでドライバをインストールする必要がある。実際インストールしてみると、画面デザインの色こそ違うものの、まさにCreativeのドライバであり、Sound Blaster X-Fiとソックリな形でインストール作業を進めていくことになる。
Sound Blaster X-Fiとソックリな形でインストール作業を進めていく |
■ 独自回路「DIDRC」を採用した効果は?
DACは、SE-200PCIではWolfsonのチップが搭載されていたが、SE-300PCIEではBurr-brownのPCM1798が2つ搭載されている。本来PCM1798は2ch出力に対応したDACだが、LchとRchそれぞれに1つずつ搭載することで、正相・逆相の両方を持つバランス信号にできるため、ノイズを軽減できるというわけだ。
さらにオーディオメーカーとしてのこだわりはここから。2chのアナログ出力回路には、OPアンプを使用せずにすべてディスクリート部品(トランジスタ、ダイオード、抵抗、コンデンサなど)でシンメトリー構造に設計した独自回路「DIDRC」を採用している。OPアンプの交換といった遊び心はないが、その分音質にはこだわっている。DIDRCとはDynamic Intermodulation Distortion Reduction Circuitryの略。
Burr-brownのPCM1798を2つ搭載 | 独自回路「DIDRC」を採用 |
もともと「レコードは確かにプチプチとしたポップノイズはあるが、CDよりも音色がよく見えるのはなぜか? CDではわずかではあるが、音にまとわり付くノイズが出て音がぼやけるのは、なぜか?」というところから研究がスタートし、現在はセパレートの同社ピュアオーディオ機器で採用されている回路が採用されている。
DIDRCを一言で説明すれば、DACがオーバーサンプリング処理をしている際に発生する高調波がアンプに入れると歪が発生するのを防ぐ回路だ。高調波だから、当然直接聴こえるものではないため、普通は無視するものだが、高調波同士の周波数が近接していると、ビート現象というものが起こり、実際の音に影響を及ぼしてしまう。そこでMHz帯までの広帯域再生と、反応速度の速いDIDRC回路を開発し、よりクリアな音楽再生ができるということだ。
標準のASIOドライバが使用可能 |
そもそもこうした効果を、いつものRMAA PROのテストで検知できるものかわからないが、44.1kHzで試してみた結果が以下のとおりだ。今回行なったテストではASIOドライバを使っている。従来のONKYO製品はいずれもASIOドライバに対応していなかったため、一部で不満の声があったが、今回はCreativeのドライバを採用しているため、標準のASIOドライバが使える。ただし、ASIOドライバで扱えるのは44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzの4種類で、192kHzには対応していない。20K2-X-Fiの入力が96kHzまでであるため、ASIOがその仕様に引っ張られて192kHzに対応できていない。これはSound Blaster X-Fiと共通する仕様である。
DIDRC回路なども使ってよく作りこんだステレオの2ch出力を、マルチ入出力拡張ボードにあるライン入力にループさせて測定したにで、入力側がネックとなり、出力の性能がうまく現れてこないのだろう。結果は参考程度にとどめて欲しい。さらに48kHz、96kHzでもテストしてみたのだが、いろいろ設定を変えて試しても、エラーが出てしまい断念した。
RMAA PROでのテスト結果 |
■ 再生専用モードにするユーティリティがほしい
それ以外のソフトウェア的な使い勝手という面も、やはりSound Blaster X-Fiとほぼ同様。SE-300PCIEにも、エンターテインメントモード、オーディオクリエイションモード、ゲームモードの3種類があり、モードを切り替えることで、かなり違った性格のサウンドカードへと変身する。
エンターテインメントモード、グラフィックイコライザで音質調整が可能 |
エンターテインメントモードは画面がAVアンプ風であることからも想像できるようにオーディオリスニングを目的としたモード。ここで音量操作や場合によってはグラフィックイコライザでの音質調整をしながら、WAV、MP3、WMAといったデータを楽しむ。オーディオクリエイションモードは、いわゆるDTM向けのモードであり、7.1chあるサラウンドを8chのマルチ出力と見立てて自由にルーティングさせたり、オマケ機能ではあるがマイク入力やライン入力を使ってレコーディングしていくことができる。ゲームモードはその名のとおりゲーム用のモードであり、Sound Blaster X-Fiと同様にEAX ADVANCED HD 5.0にも対応してるので、CPUの負荷を軽減し高い応答速度でのオーディオ出力が可能となっている。
これら3つのモードを見ると、オーディオを聴くのならエンターテインメントモードにするのが順当のように思えるが、実は推奨はオーディオクリエイションモードだ。そうした情報について、SE-300PCIEのマニュアルにも記述はないが、先日行なわれたSE-300PCIEの説明会において開発担当者もそのように明言している。それはなぜなのかというと、答えは単純で、オーディオクリエイションモードがもっとも素の状態で音が出る仕組みになっているからだ。何も引かない、何も足さない音が出せるのがオーディオクリエイションモードとなる。
実際に、各設定画面を見ていくと分かるとおり、SE-300PCIEには前述のEAXのほか、MP3やAACなどの圧縮によって失われた成分を補強することを目的としたX-Fi Crystalizer、バーチャルサラウンドを実現するCMSS-3D、グラフィックイコライザなどなどが搭載されている。もちろん、好みに応じて利用するのもいいが、DIDRCなど回路側でピュアな再生に力を入れているのだから、まずは何も加工せずにオリジナルなサウンドをできる限りそのまま出したいところ。そのためのモードがオーディオクリエイションモードというわけだ。
とはいえ単にオーディオクリエイションモードにすればOKというわけでもない。デフォルトではEAXエフェクトが有効になっているため、このチェックをはずす必要がある。また、グラフィックイコライザはフラットの設定だから基本的には問題ないはずだが、これも無効にしておいたほうがよさそうだ。
SE-300PCIEのASIOコントロールパネルでは、レイテンシーでバッファサイズの指定ができる |
本来であれば、インストールしたデフォルトの状態が、こうした設定になっているといいのだが、現状そうなっていないので、ピュアオーディオ的な観点でSE-300PCIEを使うことを考えているのなら気をつけたほうがいいだろう。また一般的なオーディオインターフェイスであればASIOドライバを選べば、特に何も考えることなく、加工されない音が出るようになっているが、SE-300PCIEはSound Blaster X-Fiと同様、前述のEAXやX-Fi Crystalizer、またエフェクトなどを経由して音が出るので注意したおうがいいだろう。
ASIO関連でいうと、SE-300PCIEのASIOコントロールパネルでは、サンプル数ではなくレイテンシーでバッファのサイズの指定ができるようになっている。最小値は44.1kHzでも96kHzでも1msecとなっているようだ。普通にオーディオの再生が目的であれば、デフォルトの設定である10msecのままで問題ないと思う。DTM用途で使う人はあまりいないと思うが、いつものようにループ状態でのレイテンシー測定を行なった。どのサンプリングレートであっても2.2~2.3msec程度のレイテンシーとなるようだった。
(124samlpes) | (44samlpes) |
最後に触れておきたいのがヘッドフォン端子だ。ラインアウトと同じ、フロントの左右の信号が出力されるのだが、こちらもシンメトリー構造でフルディスクリート構成のヘッドフォンアンプが搭載されている。つまりヘッドフォンを挿すだけで高品位の音が楽しめるというのは大きなポイントだ。また、ヘッドフォン端子に挿せば、RCAからの出力がストップするという設定もできるようになっているので、便利に使えるかもしれない。もっとも、ヘッドフォン端子もカード本体にあるので、PCの裏側に回って接続しなくてはないが……。
以上、SE-300PCIEについて見てきたが、オンキヨーが満を持して出したPCI Express接続のカードだけに、回路部分は非常によくできており、実際オーディオルームで聴くと抜群のサウンドを味わえる。ただ、チップとドライバがCreative製のものであり、本来SE-300PCIEユーザーにとっては不要では……と思える機能も満載されてしまい、かえって分かりにくいのではないか、というのが率直な感想だ。できれば、今後のダウンロード配布などでいいので、簡単にオーディオ再生専用の状態にするためのツールなどが提供されることを期待したい。