第462回:新アプリ登場。進化を続けるiPadのDTM周辺事情
~「iELECTRIBE」特別版や、MIDIシーケンサを試す ~
iPad 2 |
iPad 2が発売されてから間もなく1カ月。初代のiPad(以下iPad 1)のときのような熱狂的な盛り上がりはなかったものの、Wi-Fiモデルを中心に着実に販売数を伸ばしているようだ。個人的には以前もレポートしたとおり国内での正式発売の前に並行輸入版をちょっと高い値段で購入してしまったが、モノとしてはそれなりに満足して使っている。今回は改めてiPadのDTM周辺について紹介してみる。
■ iELECTRIBEに「Gorillaz Edition」登場
これまでにも何度か記事で紹介してきたとおり、iPadのDTM系のアプリは非常に充実している。最近スマートフォン、タブレット機を含めAndroidの勢いは激しいが、ことDTM系のアプリで比較するとiPadが圧倒的に強いのは誰もが知るところだ。個人的にはぜひAndroidにもがんばってもらいたいと思っているのだが、iOSのようにリアルタイム処理できるMIDIやオーディオなどのAPIがほとんどないため、現状はなかなか難しそうである。
そんな中、アメリカでのiPad 2発売と同時にリリースされた「GarageBand」は、ちょっと反則ワザといっていいほどによくできたアプリ。MIDIシーケンサ、ソフトシンセ、オーディオレコーダー、エフェクト、ミキサーとDAWのすべての要素を備えて600円というのだから、ほかのどのソフトハウスもかなうはずがない。ある意味、iPadの実力を存分に引き出してiPadをアピールするためのAppleの販促用アプリともいえる位置づけのアプリだから、600円と考えるより、「44,800円+600円=45,200円で、iPad 2というすごいDAWマシンが買えるんだ」、と考えたほういいのかもしれない。
iPad 1でもiPad 2でも、iPadを持っているならGarageBandは絶対に入手することをお勧めするが、GarageBand誕生までiPadのDTMの世界を引っ張ってきたのはKORGだったと言って間違いないだろう。そう、iPad 1発売と同時に「iELECTRIBE」をリリースし、その後、昨年11月にはKORGが1978年に発売した初期のアナログシンセ「MS-20」を再現するアプリ、「iMS-20」をリリースさせてシンセ好きな人たちを驚かせてくれた。そのiELECTRIBEやiMS-20が3月にそれぞれバージョン1.5へアップデートするとともに、4月にはiELECTRIBEの別エディション、「iELECTRIBE Gorillaz Edition」がリリースされていたのをご存知だろうか?
iELECTRIBE | iMS-20 | 4月にリリースされたiELECTRIBE Gorillaz Edition |
Gorillaz Editionというのは、“もっとも成功をおさめたヴァーチャルなバンド”としてギネスにも認定されているGorillazとKORGがコラボで作ったiELECTRIBEだ。通常版と見比べてみるとわかるとおり、デザインが大きく変わっているが、ボタンの位置や機能そのものはiELECTRIBEのそれを基本的に踏襲している。ただ、実際に鳴らしてみると、そのサウンドや収録されているグルーヴパターンはまったく違うものであり、明らかに異なる楽器と考えてもよさそうだ。通常版ではパーカッションシンセであった4つパートがGorillaz EditionではPCMシンセに置き換わっていることもあり、よりメロディカルなサウンドになっているのが感じられる。
このシンセサイザ音源にはGorillazの最新アルバム「The Fall」で実際に使用されたサウンドが搭載されているとのこと。具体的には楽器カテゴリ別に分類された8つのパートにそれぞれ16音色の計128音色装備されているほか、Gorillazのグルーヴを再現する64種類のプリセットパターンが装備されているのだ。
ひとつ大きく違うシンセ機能がGORILLAZ WAVEという波形というか音色選択機能だ。通常版では4種類の波形から選ぶだけだったのが、こちらは16個のステップ・ボタンから音色切り替えができるようになっているのだ。シンセの音色はもちろん、キック、スネア、ハイハットなどでも16種類から音色選択できるため、結構面白く楽曲作りができる。
このGorillaz Editionを含めiELECTRIBEはシステム的にバージョン1.5となったのだが、iMS-20のバージョン1.5とも共通する目玉機能がWIST(Wireless Sync-Start Technology)という機能。これは私のようにiPad 1とiPad 2の2台を持っている人には楽しい機能であり、もちろんiPad 1同士やiPad 2同士を仲間で持ち寄って使う場合にも利用できる便利な通信機能だ。名前からも想像できるとおり、2つのソフト間で通信を行ない、同期させるとういもの。通常版のiELECTRIBEとGorillaz Editionで同期させてもいいし、Gorillaz EditionとiMS-20を同期させてもOK。もちろん、同じアプリを双方で起動させて同期させることもできる。
16個のステップ・ボタンから音色切り替えができる | 2台のiPadで通信できるWIST機能 |
この同期はWi-FiではなくBluetoothを用いているのが大きなポイント。そのため、Wi-Fiが使えない場所でも問題なく利用できるし、電波強度を気にする心配もない。ただし、あらかじめiPadの設定でBluetoothをオンにしておく必要がある。使い方は簡単。双方のアプリで「WIST On」をタップすると近くにあるiPadの検出が始まる。しばらくすると相手が見つかるので、表示された相手を選択するのだ。この場合、相手側がMASTER、選んだマシンのほうがSLAVEという関係になる。その後、MASTER側でリクエストメッセージが届くので「Accept」をタップすると同期完了だ。
「WISE On」をタップすると近くにあるiPadの検出が開始 | |
表示された相手を選択 | 「Accept」をタップすると同期が完了 |
この状態でMASTERの再生ボタンをタップすると、双方が同じテンポで同期した形で鳴り出し、ストップボタンをタップすれば、双方ともに止まる。ただ、再生がスタートした後にMASTER側のテンポを動かしてもSLAVE側が追従しないことからも分かるとおり、常に同期信号が流れているというわけではないようだ。再生スタート時にそのときのテンポ情報を送信するとともにスタート信号、ストップ信号のやりとりをしているわけだ。とはいえ、2つの機材を同期して使えるため、応用範囲は大きく広がりそうだ。
倍のトラックで曲作りをすることや、異なる音源を交えての曲作りも可能になるなど用途はいろいろ。もちろんライブパフォーマンスで活用するといったこともできそうなので、ぜひ楽しく使っていきたいところだ。可能ならWISTをよりオープンな規格にして、他社にも参加を呼びかけるともっと広がっていいな、と思うのだがどうだろうか。
■ USB-MIDIキーボード対応、細かく作りこめる「MusicStudio」
GarageBandの印象があまりに強烈だったためか、直近では目立ったDTMアプリは出てきていないように思う。Image-LineがあのFL STUDIOのiPad/iPhone版であるFL STUDIO mobileというアプリを近いうちに出すことを2月アナウンスはしているものの、3カ月経っても出ておらずお預け状態のままだ。そこで今回は定番のMIDIシーケンサアプリを2つ簡単に紹介しておこう。Alexander Grossの「MusicStudio」とBeepStreetの「iSequence」だ。
まずMusicStudioは最大で128トラックまで扱えるMIDIシーケンサでリアルタイムレコーディングもできるし、ピアノロール画面での編集もできるというアプリ。ピアノやギター、ベースなど40種類の音源が用意されているほか、In-App Storeでさらに50種類まで増やすことが可能になっている。PCM音源ではあるが、MusicStudio上でいじれるパラメータはAttackとReleaseのみなので、個別に音色エディットしていくといったことはできない。エフェクトのほうはそこそこ充実しており、リバーブ、ディレイ、EQ、アンプ、フィルタ、ピッチシフトがいじれるので、こちらである程度の音作りは可能となっている。エフェクトではないけれどVUメーターも搭載されているのは楽しい演出だ。
MusicStudio | ピアノロール画面での編集も可能 | 音源は50種類まで増やすことが可能 |
リバーブ | フィルタ | VUメーターも装備 |
演奏はiPadの画面上に表示される鍵盤を弾くのが基本だが、CoreMIDI対応なのでCamera Connection Kit経由でのUSB-MIDIキーボード接続が可能。さらにLine 6のMIDIインターフェイスである「MIDI Mobilizer」もサポートされているので、普段使い慣れたMIDIキーボードなどで演奏することもできる。
こうして完成させた曲はMIDIファイルとして書き出したり、レンダリングしてWAVファイル化して保存することもできる。そしてWi-Fi接続することで、完成した曲をPCへと受け渡すこともできるのだ。オーディオは扱えないがGarageBandとも似た雰囲気を感じる統合型のMIDIシーケンサ、MusicStudio。ピアノロール画面でMIDIを細かくエディットできるという点ではGarageBandよりしっかりした作り込みができるアプリだといえるだろう。
iPad画面上に表示される鍵盤での演奏 | Camera Connection Kit経由でのUSB-MIDIキーボード接続も |
■ 音色作りも楽しい「iSequence」
もうひとつの定番MIDIシーケンサ、iSequenceは単音8トラックのパターンシーケンサで、ドラムマシンのように1小節で1つのパターンを作っていくタイプのもの。メイン画面の上部にはマス目が並んでいるが、上からトラック1、トラック2と8つあり、右に向かって計32ステップで構成されている。ここでパターンを作成し、そのパターンを並べることで1つの曲に仕上げていくというわけだ。各トラックで利用可能な音色は150以上あり、ドラムキットを選ぶと画面下がドラムパッドに、通常の音色を選べば鍵盤になる。このドラムパッドやキーボードでリアルタイムレコーディングすることもできるし、1ステップずつ入力してくこともできるが、現在のところCoreMIDIには対応していない。
iSequence | 各トラックで利用可能な音色は150以上 | ドラムパッド |
また、この音色はプリセットのものだけでなく、自分で作ることができるのも面白いところ。サンプリング音源なので、iPadでマイクから直接サンプリングしてもいいし、PCからWAVまたはAIFFファイルをアップロードすることもできる。またループポイントの設定といったところまで可能となっている。
またオートメーション機能があり、音量の動きやエフェクトのパラメータの記録もできる。ミキサーもしっかりしたものが搭載されており、5系統利用できる。エフェクトとしてはフィルタ、フランジャ、ディレイ、リバーブなど8種類が搭載されており、そのルーティングも自在に行なえるなど、なかなか使いやすいものになっている。
音色を自分で作ることも可能 | オートメーション機能搭載で、音量やエフェクトのパラメータ記録も | ミキサー画面 |
このようにして完成したデータはMusicStudioと同様、MIDIファイルまたはWAVファイルとして書き出すことができ、それをWi-Fi経由でPCへと転送することができる。そのため、iPadで曲のラフを作成し、仕上げはPCのDAWでという連携が可能なわけだ。
以上、iPadのDTM関連情報についてまとめてみたがいかがだっただろうか? 新しい動きがあれば、今後も取り上げていくつもりだ。