藤本健のDigital Audio Laboratory

第539回:Steinbergの24bit/192kHz対応「UR22」を試す

第539回:Steinbergの24bit/192kHz対応「UR22」を試す

実売15,000円でCubase AIも付属のUSBオーディオ

UR22

 ヤマハからSteinbergブランドの新たなUSBオーディオインターフェイス、UR22が発売された。これはUR28M、UR824などのURシリーズの下位モデルとして位置づけられるエントリー用のオーディオインターフェイスで実売15,000円前後という手ごろな価格の機材。しかし、上位機種よりもハイスペックな24bit/192kHzに対応したものとなっている。この新しいオーディオインターフェイス、UR22の使い勝手や音質などをチェックした。

上位機種を超える24bit/192kHz対応。ついにMIDIも搭載

 DAWのCubaseを開発するメーカー、ドイツSteinbergがヤマハの傘下に入ってから9年。その後もずっとSteinbergの独自色は失わず、独立した企業として製品開発を続けてきた一方、ヤマハとのコラボレーション製品もいろいろと生まれてきている。その代表といえるのがオーディオインターフェイスだろう。現行製品としてはFireWire接続のMR816csxやMR816、またUSB接続のUR824、UR28M、それにコントローラ機能を前面に出したUSB接続製品、CI1、CI2、CI2+といったものがある。

 CIシリーズは24bit/48kHz対応というエントリー機材だが、上位のMRシリーズ、URシリーズに共通していたのは最高のサンプリングレートが96kHzに制限されていたこと。実際の音質がどうであるかはともかく、マイナーなメーカーでも192kHzが主流となってきた中、ヤマハ/Steinberg製品は96kHzということでちょっと見劣りしている面があったのは事実だ。

MR816csx
UR824
UR28M
CI1、CI2、CI2+
UR22は192kHzにも対応した

 しかし、今回発売されたUR22は、URシリーズとして最下位に位置づけられる製品ながらも上位機種を超える24bit/192kHz対応となっている。このタイミングで192kHz製品が投入された背景にはCubaseの進化が関係している。前バージョンのCubase 6のリリースで192kHz対応になり、オーディオインターフェイスの192kHz対応が待たれていたのだ。ただバンドル版のCubase AI6は96kHzのままだっので、機材単独で購入しても192kHzの本領を発揮することはできなかった。しかし、まもなくリリースされるCubase AI7が192kHzに対応することで、そうした問題もなくなるわけだ。

【2月18日訂正】記事初出時、「Cubase 6までは96kHz対応だった」としていましたが、正しくはCubase 6も192kHzにも対応していました。お詫びして訂正いたします(編集部)

 この192kHz対応以外にも、上位機種にない機能が用意されている。それがMIDIの入出力だ。なぜこれまでSteinbergのオーディオインターフェイスにMIDIインターフェイス機能が搭載されていなかったかのほうが不思議にも感じるが、CIシリーズも含めたヤマハ/Steinberg製品の現行機種の中で唯一MIDIを搭載した機材となっているのだ。

上位モデルUR28M(奥)と比較

 さて、実機を見てみるとオールメタルボディーの非常に頑丈な機材で、上位モデルUR28Mとはデザイン的にもかなり異なる。大きさ的にはローランドのQUAD-CAPTUREとも近く、高さは1U、横幅はハーフラックサイズよりも小さい158.6mmとなっている。

 オーディオの入出力は2IN/2OUTというシンプルな構成であり、入力はフロントにコンボジャックを2つ搭載、出力はリアのTRSフォンジャックおよびフロントにあるモニター用のヘッドフォンジャックとなっている。入力のコンボジャック、コンデンサマイクを接続した場合は、リアにある+48Vスイッチをオンにすることでファンタム電源供給がされて利用できる。またフロントのHi-Zボタンをオンにすることで、右側のINPUT2をハイインピーダンス対応にしてギター入力も可能になる。またACアダプタは不要でUSBバス電源供給で動作するようになっている。

ローランドのQUAD CAPTURE(左)と比較
前面
背面
マイクプリアンプは、インバーテッド・ダーリントン回路をベースに設計

 そして、UR22最大の目玉機能ともいえるのが、入力部に搭載されたClass-AマイクプリアンプであるD-PRE。ヤマハの説明によると、通常のプリアンプは入力段の+(ホット)/-(コールド)信号それぞれに1基ずつトランジスタを用い、信号を増幅しているのに対し、D-PREは+/-信号それぞれに2基のトランジスタ(合計4基)を搭載するインバーテッド・ダーリントン回路をベースにデザインされているディスクリートマイクプリアンプとなっているとのこと。前述の上位モデルであるUR28MやUR824、MR816csxなどと同様の回路が搭載されているようだ。競合メーカーであるローランドがVS PREAMPというマイクプリを搭載しているのを前面に出しているのと真っ向勝負という感じでD-PREを打ち出している格好だ。

操作系はシンプルに

 ところで、従来機種であるUR28MやMR816csxなどでは、D-PREと対を成すような形で、チャンネルストリップなどのDSPエフェクトがアピールされていたが、UR22にはそうした機能はないようだ。エフェクトは搭載しないシンプルなオーディオインターフェイスということで、価格も抑えられているのだろう。そのため使い方もシンプルで、入力レベルの調整は入力のコンボジャックの左右にあるINPUTツマミを動かすだけ。

 また、PHONEでヘッドフォン出力、OUTPUTでメイン出力の音量を調整できるほか、MIXというツマミもある。これは左のINPUTに回すと入力された信号がそのままモニターできるダイレクトモニタリングの状態に、右のDAWに回すとPC側からの出力がモニターできる形となり、そのバランスをとることもできるようになっている。逆にいうと設定するのはそのくらいであり、初心者にとってもまったく戸惑うことなく使うことができそうだ。

 では、192kHzまで対応したこの新URシリーズ、UR22の音質はどんなものなのだろうか? いつものようにRMAA PROを使ってチェックしてみた。この測定ではメイン出力をそのまま入力へとループ接続をした状態で、各種テストを行なうというもの。UR22では44.1、48、88.2、96、176.4、192kHzのそれぞれのモードで使うことができるが、ここでは44.1、48、96、192kHzの4つのモードでテストしてみた。

 ちなみに、このテストを行なう際、OUTPUTレベルとINPUTレベルの設定をどうするかによって成績がかなり変わってくる。まずはINPUTをもっとも絞った状態にし、OUTPUTを適音量になるように調整していったところ、あるレベルを越すと音が少し歪んでしまうことが確認された。そこで、OUTPUTの音量は約半分に絞った状態でINPUTのレベルを上げていくとちょうどいい結果になってきた。それぞれの結果は以下のとおりだ。

24bit/44kHz
24bit/48kHz
24bit/96kHz

 この結果はあくまでも機械が測定したものであり、その評価は人それぞれだとは思うが、とりあえずこれとUR28M、MR816csxの結果を比較してみると、明らかにその音質は1ランクもしくは2ランク下という印象だ。とはいえ、普通にモニタリングしている限りはいい音だと思うし、特にノイズが気になるということもないので、入門用としては問題なく使えるはずだ。

 一方、レイテンシーのほうはどうだろうか? 44.1kHzのときはバッファサイズを64Samplesまで、192kHzなら256Samplesまで小さくすることができる。たとえば44.1kHz、バッファサイズ64Sampleに設定した状態でのレイテンシーの表示を見ると入力が3.991msec、出力が4.966msecとなっている。もちろん、これは理論値であるので、実際どのくらいになるのだろうか? 使ったツールはいつものとおり、オーディオインターフェイスメーカーCentranceのASIO Latency Test Unityだったが、結果的にはどうもうまく測定することができなかった。ドライバの相性の問題なのだろうか、「The driver requested ASIO reset」というメッセージが出てしまい、どうにもうまく動作してくれないのだ。当初Windows8 64bitの環境で試してみたのだが、ダメなのでWindows7 64bitさらにはWindows7 32bitのそれぞれの環境でも試してみたが、いずれもうまくいかなかった。

44.1kHzのときはバッファサイズを64Samplesまで、192kHzなら256Samplesまで下げられる
64Sample設定時のレイテンシーの表示は入力が3.991msec、出力が4.966msec
ASIO Latency Test Unityでは測定できなかった

Cubase AIをダウンロードして利用可能

 ところで、このUR22にはもうひとつ大きなオマケがある。それがDAWであるCubase AIのバンドルである。そう、実売15,000円のUR22を購入すればCubase AIがバンドルされてくるので、これで即DTMがはじめられるのだ。ただし、これまでのオーディオインターフェイスとは異なり、DVD-ROMがバンドルされているわけではなく、シリアルコードが記載された1枚の紙が入っているだけ。そう、ユーザー登録を行なった上で、ここにあるURLにアクセスしてプログラムをダウンロードすればCubase AIが利用できるようになるのだ。

ユーザー登録すると、Cubase AIをダウンロード可能に

 そしてそのCubase AI、現在のところダウンロードできるのはCubase AI6となっているのだが、これが近いうちにCubase AI7になる模様だ。Cubase AI6では96kHzまでしか利用できないのに対し、夏前に登場するといわれているCubase AI7をダウンロードすれば、UR22が本領を発揮する192kHzでの動作が可能になるのだ。ちなみに、いますぐにUR22をWeb上で登録してCubase AI6をダウンロードしたとしても、Cubase AI7登場時には、改めてCubase AI7をダウンロードできるので、心配はいらないようだ。

パッケージにもProTools 9/10、Reason、SONAR、StudioOne、Live、Logic/GarageBandでの動作を記載

 ここでは、バンドル版のCubase AIではなく、製品DAWであるCubase 7でUR22をWindows8 64bit版にインストールして試してみたが、44.1kHzや96kHzで動作するだけでなく、192kHzでもまったく同じように使うことができた。もちろんSteinberg製品だからといってCubaseだけで動作するわけではない。パッケージにもProTools 9/10、Reason、SONAR、StudioOne、Live、Logic/GarageBandでも動作することが記載されているくらいなので、WindowsでもMacでも、そしてどんなDAWとでも安心して使えそうだ。

44.1kHzや96kHzで動作するだけでなく、192kHzで問題無く使えた

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto