藤本健のDigital Audio Laboratory

第600回:iPadオーディオI/Fにもなる着脱式マイクのPCMレコーダ。ズーム「H5」を試す

第600回:iPadオーディオI/Fにもなる着脱式マイクのPCMレコーダ。ズーム「H5」を試す

 この連載もスタートして13年半、今回で第600回を迎えることになった。これまでオーディオインターフェイスの性能チェックや、MP3/AACなどのコーデックの比較などさまざまなテーマを扱ってきたが、数多く取り上げてきたものの一つがリニアPCMレコーダだ。メーカー間の競争が激しくなり、超高性能なものがどんどんと低価格化してしまったためか、最近では新製品も少なくなってきてしまったように見える。そうした中、着実に製品を出し続けているのがズーム(ZOOM)。今回は、そのズームの新しいレコーダ、H5についてチェックしてみよう。

ズームの「H5」

H6の着脱式マイクを継承しつつ低価格化

マイクは着脱式で交換可能

 先日発売されたズームのH5は、ちょうど1年前に記事にしたH6の下位モデルとして登場したもの。H6で採用された交換可能な着脱式マイクというコンセプトは継承しつつ、本体に搭載されていた4つのコンボジャック入力を2つに絞ったり、付属の着脱式マイクを1ランク下のXYマイクを1つだけに絞るなどして、低価格化したものだ。H6のメーカー希望小売価格が44,000円であったのに対し、H5は30,000円となっている。

 まずH6とH5を並べてみると似た形状ながら、一回り小さいことが分かるだろう。またH6には、左右に2つずつのコンボジャックが搭載され、本体に4つの入力レベル調整のノブがついているのに対し、H5は2つのみとなっている。

左が上位モデルのH6、右が新モデルのH5
H5の下部にあるコンボジャックは2系統

 左サイドにはライン出力、ヘッドフォン出力、USB端子が装備され、右サイドにはオプションのリモコンと接続するためのREMOTE端子がある。またSDカードスロットもこちら側にあり、2GBのSDカードが付属している。

ライン出力/ヘッドフォン出力/USB端子
リモコン接続用端子
SDカードスロット
電源は単3電池2本

 ボトムパネルを見ると電池ボックスがあり、2本の単3電池で駆動する。アルカリ電池、ニッケル水素電池が使えるようになっているが、アルカリ電池使用時、STEREO FILEモード(後述)の44.1kHz/16bitで約15時間の録音ができる、という。またスピーカーも内蔵されているため、ヘッドフォンなどを接続しなくてもレコーディングした音を確認できるようになっている。

 一方、着脱式のマイクユニット部分、H6と並べて比べると同じXY型ながら、マイクカプセルの口径が明らかに違うのもよくわかる。ここが価格差の一つとなっているのだと思うが、接続コネクタ自体はH6と同じ仕様となっており、近いうちにH6付属のXYマイクとMSマイクが別売にて登場する。試しにH6のXYマイクを取り付けてみたところ、接続はできるがかなり頭でっかちな感じではある。同様にH6のMSマイクも接続して使うことができた。

XYマイクは、H6(左)とH5(右)でサイズが異なる
H6のマイクをH5に装着すること自体は可能
H6のMSマイクをH5に装着したところ

録音品質をチェック。H6との違いは?

 さて、このH5は電源を入れて起動すると、デフォルトではMULTI FILEというモードに設定されている。これはXYマイク側と、コンボジャック側の入力の計4chを同時に録音していくもので、どのチャンネルを録音するかはトップパネルにあるL、R、1、2のボタンを押して選択するようになっている。L、RはXYマイクなのでステレオのファイルとして録音されるのに対し、1、2はそれぞれ独立したモノラルファイルで録音されるのが基本となっている。

デフォルトのMULTI FILEモードは、XYマイク側とコンボジャック側の入力の計4chを同時録音

 ただし、MULTI FILEモードの場合、記録メディアへの書き込み速度の問題からなのか、上限が48kHz/24bitまでとなっている。H5では96kHz/24bitでの録音にも対応しているが、これを利用するためにはMULTI FILEモードではなくSTEREO FILEモードへと切り替える必要がある。

MULTI FILEモード時は上限が48kHz/24bit
96kHz/24bit録音には、MULTI FILEモードではなくSTEREO FILEモードにすることが必要

 なお、ローカットやコンプレッサ/リミッター機能も搭載されているので、必要に応じて使うことができる。またコンボジャック側にコンデンサマイクを接続した場合、ファンタム電源を使うこともでき、その電圧も+12V、+24V、+48Vの3つから選べるようになっている。さらにXYマイク横に装備されているステレオミニジャックのほうはプラグインパワーにも対応しているので、これを利用するのも一つの手だ。

ローカット
コンプ/リミッター
ファンタム電源対応で、電圧は+12/24/48Vの3つから選べる

 ここでは主に、XYマイクを使ってのレコーディングをしていきたいので、STEREO FILEに設定した上で、まずは野外に出て録音してみることにした。

付属のウィンドスクリーンをかぶせたところ

 いつものように鳥の鳴き声を録りに行こうとしたが、この梅雨時期で、台風のタイミングでもあったため、なかなかチャンスがない。そんな中、たまたま晴れた合間に近所を歩いて探してみたのだが、結構、風があったため、付属のウィンドスクリーンをかぶせてみた。これがなかなか大きな威力を発揮してくれ、普通の風であれば、ほぼ気にせず使うことができる。が、暑い季節だからなのか、公園に行ってもスズメすらほとんどいなく、ようやく見つけたのが、住宅建築現場前の電柱の上。背後で大工さんたちの作業する音、声が入る一方、真上で数羽のスズメがチュンチュンとさえずっているのをリアルに捉えているのが分かるだろう。強い風が吹くと、重低音が響いてしまうのは仕方ないところだが、この辺はローカット機能をオンにすれば、キレイに取り除くことも可能だ。

野鳥の声の録音サンプル(96kHz/24bit)
XYマイク録音bird2496.wav(15MB)
※編集部注:24bit/96kHzの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
CDをモニタースピーカーで再生した音を録音して周波数解析した結果

 では、音楽ではどうだろうか? いつものようにCDをモニタースピーカーで再生した音を録音した上で、周波数解析してみた。音を聴き比べてみると、H6と似た雰囲気はあるものの、明らかに違う音で、明瞭度が非常に高かったH6には届いていない印象。低域はしっかり出ているけれど、高域がやや弱い感じなのだ。その辺はH6のXYマイクのグラフと比較しても、20kHz以上のカーブに違いが出ているのが見て取れる。

CDからの録音サンプル(44.1kHz/16bit)
XYマイク録音music1644.wav(7MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:24bit/96kHzの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

ASIO対応のオーディオインターフェイスに。iPad接続も

 以上が、H5のリニアPCMレコーダとしての基本機能であるが、H5にはリニアPCMレコーダ機能のほか、チューナ機能、メトロノーム機能などに加え、オーディオインターフェイスとしての機能も備わっており、ここが結構充実しているので、少し解説してみよう。

チューナ
メトロノーム

 H5をパソコンとUSB接続すると、SDカードリーダーとして使うか、オーディオインターフェイスとして使うかの選択肢が表示される。ここでSDカードリーダーを選べば、H5のSDカードスロットがPCから見えるようになるわけだが、オーディオインターフェイスを選択すると、さらにSTEREOモードかMULTI TRACKモードかの選択肢が登場する。これはリニアPCMレコーダの時と同様で、STEREOの時は2IN/2OUT、MULTI TRACKモードの時は4IN/2OUTとして機能する。またSTEREOの場合、搭載のXYマイクを使うか、コンボジャックの入力を使うかは、本体のボタンで選択する形となる。

パソコン接続時は、SDカードリーダ/オーディオインターフェイスのどちらかを選択
STEREO/MULTI TRACKの2モードから選べる

 STEREOモードの場合は特にドライバは不要で、すぐにPCから利用できる。一方のMULTI TRACKモードの場合、Macならドライバなしで利用できるが、Windowsの場合はズームのサイトからドライバをダウンロードし、これをインストールして利用する必要がある。こうすることによって、ASIOドライバでの利用も可能になり、DAWで利用するといった使い方も可能になる。H5にはSteinbergのDAW、Cubase LE 7のライセンスがバンドルされており、これをダウンロードして利用することも可能なので、Cubaseとともに使うのもよさそうだ。またドライバの設定により、結構レイテンシーを縮めて使うこともできるのだ。さらにWaveLab LE 8のラインセンスもバンドルされているので、波形編集用としても、なかなか有用である。

 なお、STEREOモードの場合もMULTI TRACKモードの場合もサンプリングレートは44.1kHzまたは48kHzで、96kHzには対応していない。

STEREOモード時はドライバは不要
MULTI TRACKモードをWindows PCで使うの場合は、ズームのサイトからダウンロードしたドライバを利用
ASIOドライバでの利用も可能
Cubase LE 7のライセンスがバンドルされている
ドライバ設定でレイテンシーを縮められる
WaveLab LE 8で波形編集も可能
STEREOモード時は、「iPad」も選択可能

 さらに一般のオーディオインターフェイスと異なりH5が持つさまざまな機能が使えるのも一つの特徴。たとえばローカットやコンプレッサを使って、掛け録りすることもできるし、H5本体の設定によりダイレクトモニタリングも行なえる。さらに面白いのは、STEREOモードの場合「iPad」という項目があり、これを選べばiPadから利用することもできるのだ。ただし、この場合、Lightning-USBカメラアダプタやiPad Camera Connection Kitなどが必要となる。

 iPad Airと接続してみたところ、2IN/2OUTのオーディオインターフェイスとして使うことができた。ここで試しにLightning-USBカメラアダプタを介して、iPhone 5sを接続してみたところ、オーディオ出力は問題なくできたが、入力のほうはうまくいかなかったので、やはりiPad用と考えたほうがいいようだ。またMULTI TRACKモードにはiPadという選択肢がないが「PC/Mac(Battery)」というUSBバスパワー動作ではない選択肢がある。もしかしたら、これを使えばiPadで動くのでは……と試してみたが、残念ながら認識されないようだった。やはり2IN/2OUTのiPad用オーディオインターフェイスということのようだが、小型で高性能なiPad用マイクとしても使えることを考えると、なかなか便利に活用できそうだ。

iPad Airと接続してオーディオインターフェイスとして利用できた
MULTI TRACKモードでは「PC/Mac(Battery)」というモードもあるが、iPadでは利用できなかった
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ズーム H5

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto