西川善司の大画面☆マニア

第232回

ついに出た有機EL REGZA「65X910」。色、動きのキレ、デザインにみるテレビ近未来

 2017年は、日本メーカー各社から大画面有機ELテレビが発売される。東芝、ソニー、パナソニックの3社が発売予定だが、一番乗りを果たしたのが東芝のREGZA(レグザ)である。型番は「X910」。これまでのREGZAの最上位「Z」ではなく、Xという新たな名称が与えられたことからも、その気合の入れようが感じられる。

REGZA「65X910」

 4K REGZAのフラッグシップシリーズとなり、画面サイズは65型と55型の2モデル展開。実売価格は65型「65X910」が98万円前後、55型の55X910が75万円前後。今回は、65X910を筆者宅に設置して評価した。

設置性チェック~映像が浮いて見える「近未来デザイン」。音質良好

 65X910は65型の大画面モデルだ。重量は42.5kgもあり、一人での設置は不可能だ。特に標準スタンドが24kgもあるため、階上に上げる際にはディスプレイ部とスタンド部を分けて運搬した。

画面の大きさに比べて圧倒的な狭額縁デザイン。下辺の額縁まで狭いのは、バックライトユニットが不要な有機ELならではか?

 ディスプレイ部の厚みはスペック上は5.8cmだが、これは底面側の膨らんだメイン基板収納部の値。ディスプレイ部は実測で約6mmしかない。極薄な大画面は運搬時のねじれ変形に気を付けたいが、フレーム自体は相当頑丈にできている。

 頑丈な作りの堅牢なフレーム構造ということもあり、見た目の薄さとは裏腹にディスプレイ部の重さは18.5kgとなかなかの重量。何でも自分で組み立てて設置したがり屋の筆者も今回ばかりは、関係者にヘルプをして頂いた。

ディスプレイ部は薄いが、下部はシステム基板類があるためそれなりの厚みがある

 画面サイズは142.8×80.4cm。スタンド込みの設置寸法は145.1×85.1×19.0cm。筆者宅の55型REGZA「55Z700X」に対して左右に5cmほど突き出たサイズ感だが、「55型が置けているならば、65型も普通に置ける」という印象を持つ。

 額縁部は上下左右の全てが約12mm。バックライトがどこにもない有機ELパネルだからこそできるデザインというわけである。65型で額縁が12mmしかないと映像はほとんど浮いて見えるという感じで、映像表示状態の65X910は、たたずまいが近未来的である(笑)

ディスプレイ部はかなり薄いがフレーム強度はしっかりしている

 スタンドは回転機構のないリジッドタイプ。非常に低背仕様で、接地面とディスプレイ部最下辺の隙間がわずか26mm、一般的なブルーレイパッケージが2本程度の隙間だ。下辺の額縁も12mm程度しかないので、映像表示部の下辺がとても接地面に近い。55型を常設している筆者の設置環境は、画面が大きければ大きいほど映像の表示位置が高くなっていたのだが、65X910はそういった感じがない。ここは50型クラスからの移行組には嬉しい。

スタンドは低背タイプ。設置台とディスプレイ部の隙間はわずか26mm程度。

 表示面はグレア(光沢)加工だが、周囲の映り込みは少ない。もちろん映り込みは皆無ではないが「有機ELだから」といった特異感はない。

 下辺の額縁がこんなに狭いし、低背スタンドなのにスピーカーはどこに付けられているのか? この製品を最初に見た筆者は心配になったのだが、その構造を確かめる前に、いつも聞き慣れている音楽を再生してみて、その高音質ぶりに驚かされてしまった。

 何しろ非常に低音がしっかりしていて、バスドラの輪郭もはっきり聞こえるし、ハイハットの高音の鋭くもかすかな減衰音までもが聞こえる。大画面☆マニアの評価では内蔵スピーカーの音は、いつも調整メニューに入っていろいろいじってしまうのだが、今回は調整の必要性を感じなかった。

 65X910のスピーカーは、Z20X比で約200%の大容量バスレフ搭載のフルレンジ+ツイーターの2Wayシステム。出力はフルレンジ15W+15W、ツイーターは8W+8Wで、総出力46Wの贅沢なシステムだ。さらにこのスピーカー特性に合わせたデジタル処理を組み合わせることで、フラットな再生特性にチューニングしているとのこと。アンプもウーハーとツイーターを独立駆動しており、担当者は「CELL REGZAに優るとも劣らず」と自信を見せていた。音楽番組もX910単体で高品位に楽しめる音質性能がある。

スピーカー性能は想像以上に優秀だった

 消費電力は定格533W、年間消費電力量260kWh/年。同画面サイズの液晶テレビと比較すると高めの数値だ。もともと有機ELは「光らせる必要のある画素だけを光らせるから、全画面発光が前提の液晶よりも消費電力効率がよい」というメッセージが掲げられていたのだが、それはRGB有機画素での話。X910(というより、現状ほぼすべての有機ELテレビ)が採用するのは、発光した光の1/3しか映像表示に活用できない白色有機EL(RGBW)方式のLG製有機ELパネルで、消費電力は少ないとは言えない。

 また、有機ELにはプラズマと同様に、“焼き付き”の問題もある。X910を始め、最近の有機ELテレビには焼き付き防止策は導入されているが、使わない時にはこまめに消したい。

 なお、液晶もそうなのだが、駆動電極の電荷バランスが崩れた状態で起こる焼き付きであれば白色表示などで復元可能だ。またX910では、電極がらみの軽微な焼き付きであれば「パネルメンテナンス」を実行することで解消が期待できる。ただし、特定サブピクセルの有機材質の過度な劣化に絡んだ焼き付きはこの操作を行なっても解消できないので、やはりユーザーとしてはこまめな電源オフを心がけたい。

軽微な焼き付きであれば「パネルメンテナンス」で解消ができる

接続性チェック~有機ELテレビ初! 1080p/120Hz入力にも対応

 接続端子パネルは、画面向かって左側面と背面にレイアウトされている。HDMIは、4系統全てがHDCP2.2、18Gbps対応、HDR対応。ARCはHDMI1のみが対応する。

側面側にはHDMI端子が2系統ある。SDカードはSDXCカードにも対応
背面側。ついにアナログは赤白黄端子だけに。タイムシフトマシン用HDDはA、B両方接続すると過去番組録画が倍増

 接続性に気を遣っている東芝REGZAなので、HDMI階調レベル(RGBレンジ)の設定は手動にも対応。ただ、オート設定が賢いため、今回の評価ではオート設定でPC、PlayStation 4(PS4)などのゲーム機、Ultra HD Blu-rayプレーヤーが正しいHDMI階調設定で表示できていた。

 PCとの接続親和性も良好。PCやPS4 Proとの4K接続がらみで注意したいのは、機能設定」-「外部入力設定」-「HDMIモード選択」で「高速信号モード」を選択するところ。この設定を行なうことで、本機のHDMI伝送モードが18Gbpsモードになり、RGB888/60fps、YUV444/60fps、YUV422/HDR/60fpsの表示が可能になる。それ以外ではフレームレートの制限や色解像度の劣化が伴うので、注意されたし。デフォルトでは互換性に配慮して「通常モード」(10.2Gbpsモード)になっているので設定変更は必須だ。

 製品開発の際に筆者もアドバイスをさせてもらった、高品位なWQHD(2,560×1,440ピクセル)解像度の表示モードと、フルHD(1,920×1,080ピクセル)解像度の120Hz表示モードなどもX910に搭載されている。

 WQHDモードは「まだ4K/60fpsが描画出来る高性能GPUを持っていないがフルHD以上でプレイしたい」というPCゲーミングファンにおあつらえ向きのモードである。

フルHD/120Hz入力は他社の有機ELテレビもマネしてこない65X910だけの機能となるはず。55/65型の有機ELゲーミングモニターとして使えるのでPCゲーマーは興味津々か

 120Hz表示モードは、65X910にフルHD/120fpsのPCゲーム映像をHDMI入力し、直接表示できるものになる。最近、120Hz以上のハイリフレッシュレートなPCゲーミングモニター製品がPCゲームファンから人気を集めているが、その多くの製品がTN型液晶パネルだ。X910は、有機ELパネルでこの表示が行なえるのだ。いわば、本機は、世界に類を見ないハイリフレッシュレート表示対応の有機ELゲーミングモニターとしてのポテンシャルを持つわけである。

 筆者は今回の評価で、PCと接続して、この120Hzモードを通常のデスクトップ画面としても使っていたが、ウィンドウ移動の際、目で追うと、ちゃんとウィンドウ内容が見えるところに感動を覚えた。PCゲーミング用途ではもちろん、普段使いにも面白く使えるはずだ。

本機はPCゲーミングモニターのようにフルHD解像度の映像を120Hzで入力することができる

 120Hzモードは、他社の有機ELテレビ製品には搭載されていないモードだけに、PCユーザーには積極活用してもらいたいところ。

 アナログ入力は、コンポジットビデオ入力のみで、D端子やコンポーネント入力は装備しない。光デジタル音声出力端子も備えている。

 無線LANはIEEE 802.11a/b/g/nに対応(2.4GHz、5GHz)。この他、背面にはEthernet、地デジ/BS・CS/スカパープレミアム用のアンテナ端子、USB端子群が列ぶ。USBはタイムシフトマシン録画用の2系統がUSB 3.0対応、通常録画用がUSB 2.0仕様となっている。

 側面にはUSB 2.0端子、SDメモリーカード、ヘッドフォン端子。SDカードやUSBメモリ、カメラ機器などの静止画、動画再生にも対応し、動画は4K/60Hz解像度まで、コーデックはMPEG-2からMPEG-4 AVC/H.264、HEVC/H.265と幅広く対応。静止画も16,384×16,384ピクセルまで、2億6千万画素のJPGに対応。対応力はかなり優秀だ。

 USBキーボードの接続にも対応。ただ、キーボードが使えたのは番組検索などのキーワード入力のみで、YouTubeのキーワード検索には使えなかった。対応具合にムラがあるのが少し気にかかる。

操作性チェック~音声入力対応。まるごとchはザッピングに便利。表示遅延は?

 リモコンは、ここ最近のREGZAで見慣れたデザインのもの。Z700Xと比較すると、音声入力対応している点が大きな違いだが、微妙にボタン配置の違いこそあれ、基本操作に大きな違いはない。

リモコンは音声入力対応

 電源オン操作から地デジ放送が映るまでの所要時間は約10.5秒。これは最近のテレビとしてはやや長め。というか最近のREGZAはほぼ5秒以内だったので、本機はREGZAの中でも遅い部類になる。HDMI→HDMIの入力切換の所要時間は約3.0秒で、他のREGZAや他社製品とそん色ない。

 ユーザーの興味のありそうな番組をタイムシフトマシンコンテンツからピックアップしてくれる「ざんまい」機能、ユーザーが事前登録したテーマに準拠したコンテンツをまとめた「みるコレ」機能など、録画機能とクラウド機能を相互連携させた便利機能は、これまでのREGZA Zシリーズと同様に搭載している。

 今回の評価で便利だと感じたのは、デジタル放送6チャンネル分のプレビュー画面を表示してくれる「まるごとチャンネル」だ。CELL REGZAにあったリアルタイムプレビュー機能を彷彿とさせるもので、6チャンネル分の放送内容のサムネイルが出てくるので、ザッピング視聴には大変便利。リモコンの[まるごとCH]ボタンから一発で呼び出せる機能なので積極活用したい。

ザッピング視聴派には便利な「まるごとCH」。デジタル放送6CH分のプレビュー画面を表示してくれる

 音声入力にも対応し、標準リモコンにマイクを搭載している。音声入力は番組検索キーワードを入力するときにも使えるし、キーボードは動作しなかったYouTube検索でも利用できた。なので、ネットコンテンツ利用中心のユーザーでも、この機能は便利に使えるはずだ。

YouTubeの検索にも音声入力が利用できる。認識精度はまあまあだが、YouTube番組名にありがちなネットスラング系は誤変換/誤認識が多い
音声入力は、検索キーワード入力画面から利用可能
リモコン上の[ボイス]ボタンを押してから話すだけの簡単操作
番組表は4K解像度を活かした高精細表示が行なえる

 ゲームユーザーにとって重視される、表示遅延についても検証。いつものように公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測行なった。計測は両者、最速の「ゲームダイレクト」モードで実施した。

 結果は、約16ms、60fps換算で約1フレームの遅延が計測された。ちなみに、東芝が発表している公称値では、60Hz入力時の表示遅延は約17.5msと発表されているので、筆者の実測はほぼ正しいと言える。

X910の表示遅延は60Hz時、約1フレーム。有機ELパネルの画素駆動は高速なのだが、焼き付き防止制御が介入することで結果的に液晶モデルよりも表示遅延が大きくなる

 最近の液晶REGZAは1フレーム未満の遅延を実現したものがほとんどだけに意外な結果である。ユーザー目線では「有機ELは遅延が少なさそうなのに意外」といった印象を受けるかも知れない。

 確かに、有機ELの画素の応答速度は液晶の数百倍は速い。だが、これは表示遅延時間とは無関係なのである。

 補足解説が必要かもしれない。

 まず、X910は映像パネルが倍速駆動に対応しているので、これで60fps映像入力時、倍速駆動回路でバッファリングされるため、原理的に理論値0.5フレーム(約8.3ms)が発生する。

 この後、LG式有機ELパネルでは、焼き付き防止制御のためのゲイン制御が発生し、これが約8.3ms。これは丁度0.5フレーム分の遅延に相当する。これに加えて、映像処理に0.9msほど掛かる。

 そのためトータルで

8.3ms+8.3ms+0.9ms=17.5ms

という計算になる。これは60fps換算で約1.05フレームの遅延となる。

 では、120Hz入力時はどうか。

 これは、倍速駆動回路のバッファリングが無効化されるが、焼き付き防止制御の約8.3msは強制介入するのと、映像処理の0.9msは避けられないので

8.3ms+0.9ms=9.2ms

となり、120fps換算では、約1.1フレームの遅延という事になるのだ。

 ポイントは、現在のLG製有機ELパネルでは、焼き付き防止制御で0.5フレーム必ず遅延するということ。この特性は、これから登場する同系パネル採用のソニー、パナソニック、そしてLGの有機ELテレビでも同様である。

 有機ELパネルの画素自体は液晶よりも何百倍も高速なのだが、焼き付き防止制御が入る関係で、結果的に液晶モデルよりも表示遅延は大きくなってしまう。ゲームなどで遅延スペックを気にする人はここは抑えておきたいポイントである。

画質チェック~鮮烈な“色”、有機ELならではの動きの“キレ”を見よ!

 65X910の映像パネルは東芝はメーカー名を明かしていないものの、サブピクセル構造がRGBW(赤緑青白)であることからLG Display製であることは確実だ。

 LGの有機ELパネルは、全てのサブピクセルが白色有機ELで出来ており、これにRGBカラーフィルターを通して各サブピクセルをフルカラー発光させている。つまり、理論上、発光した光の3分の2をカラーフィルターを通す段階で捨ててしまうことになるので、発光効率が悪い。そのため、輝度を稼ぐ目的から、RGBとは別にWのサブピクセルもあしらわれているのだ。

65X910のサブピクセルを撮影。意外に白サブピクセルの使用頻度は高い
サブピクセルサイズは白が一番大きく、その次に青が大きい。赤と緑は前者2つと比べるとかなり小さいのが特徴的である

 そんなことを踏まえた上で、「有機ELテレビの評価の視点」は幾つかあると考えている。

 1つは、明るさ。

 前述したように、LG式有機ELパネルでは、せっかく光らせた白色光から、カラーフィルターを通して緑と青を捨てて赤、青と赤を捨てて緑、赤と緑を捨てて青……という感じで3原色を取り出すので、輝度性能が気になるところだ。

 X910の輝度は、ピーク輝度で800nit程度とされている。ただ、最近の直下型バックライトシステムを採用した液晶テレビ、たとえば同じ東芝のZ700Xと比較すると、暗く感じる。そうした最近の明るい液晶テレビに見慣れていると、日本のリビングで多い蛍光灯照明下では、「もう少し明るさが欲しい」と思ってしまうかもしれない。ここは「これはRGBW有機ELパネルの特性」と理解する必要がある。

 「X910の高画質をあますことなく楽しみたい」という向きには、やや暗めの照明環境、あるいは間接照明のリビングが適している。映画は、暗室での視聴によりX910の本来の実力が引き出されるはずだ。

 2つ目は、暗部表現の問題。

 有機ELは自発光画素。「自発光画素は、黒表示の時に完全に消灯できるので黒が真っ黒に表現できるからコントラスト性能が優秀」という特性を知っている人も多いはずだ。

 ただ、自発光ゆえに暗部表現は苦手なのである。どういうことかというと、自発光画素は安定させて暗く光らせるのが苦手なのだ。言い換えれば、有機EL画素はある電流量を上回らないと安定して光ってくれない。つまり黒は大得意なのだが、暗い色を出すのが困難なのだ。原理は違うが、プラズマそうした自発光の暗部表現ジレンマを抱えた映像パネルだった。

 しかし、X910は全く問題なし。暗く光らせられない自発光画素では、時間方向や空間方向に発光を分散させる制御を行なうことになるわけだが、これはうまくやらないと、見映えとしてノイジーに見えたりしてしまう。変な言い回しになるが、X910の暗部階調は、液晶のように滑らかに表現できている。

 例えば「HITMAN」のUHD BDのチャプター8 尋問シーンでは、エージェント47の黒スーツや黒光りする銃器の数々が登場するが、漆黒のスーツや漆黒の銃身から淡く立ち上がるほのかなハイライトが非常にアナログ的に描けている。このあたりの制御は相当にうまい。

こういった暗部主体の映像も思いのほか美しい

 3つ目は色の問題。

 X910の有機ELパネルは、前述のように白色の有機ELサブピクセルが発光体のベースとなっている。その白色有機EL画素のレシピは明らかになっていないが、赤が弱いことの指摘は兼ねてからあった。この点について、色度計を用いて計測してみると、実際、青色の強度がかなり強い割には赤が弱い。東芝も、色表現域は液晶のZ810Xの方が広いと語っている。

 だが、実際に映像を見る限りでは、そうした負い目は感じられない。赤が絡んでくる色については、赤基準で色を組み立てなければならないので、そうした色(赤要素を含む混色。例えば肌色や橙色)のダイナミックレンジは小さくなっているはずだが、実際の映像を見ている限りではそうした不自然さはない。例えば「バットマンvsスーパーマン」のチャプター2はエイミー・アダムスの入浴シーンの濡れ場はやや暗がりの肌色が展開し、相当、発色の難しいシーン。暗い領域の色設計が正しくないと、緑のような偽色が出がちだが、X910ではほとんどそうした印象はない。ただ、肌色がグレーに寄りがちで、やや赤不足を感はするが、不自然さを感じるほどではない。

 画質モードは「ディレクター」を中心に試したが、以上3点をチェックした限り、REGZA初の有機ELながら、うまく手懐けた画作りが行なわれている。

暗い中にもかすかな彩度が残るような色表現も、頑張っている。

 Ultra HD Blu-rayを見たときのHDR表現力や広色域表現はどうか。

 有機ELテレビのピーク輝度は、直下型バックライト採用液晶テレビに及ばないが、X910のHDR表現力は良好だ。今回の評価では、「PAN」のチャプター2、空飛ぶ帆船に乗って旅に出るシーンを視聴したが、逆光で輝く太陽、青空に浮かぶ雲がまばゆく輝き、HDR効果は非常に高いと感じる。空に浮かぶ球状の水の塊は陽光に照らされてエメラルドグリーンが混ざったような水色で発光するのだが、こうした色は、これまでのテレビでは見たことがない鮮烈さを感じた。とにかく、空の表現がリアルに感じるのは青色方向の発色が得意な有機ELパネルの特徴が現れているのかも知れない。

 「バットマンvsスーパーマン」の暗がりでの人肌表現に物足りなさは感じたが、標準的な明度での人肌表現は非常に美しい。透明感があり、適度な赤味でリアルな血の気までを感じる。

 今回の評価で、特に面白かったのは、通常のブルーレイ(2K BD)の再生時の疑似HDR表示だ。新機能の「AI機械学習HDR復元」がとても優秀なのだ。

 現在、同一映画タイトルが、HDR対応のUltra HD Blu-rayと2K BDの両方でリリースされているが、こうしたHDR対応コンテンツと非HDR対応(=SDR対応)コンテンツのコントラスト特性を機械学習させてデータベースを構築。「AI機械学習HDR復元」は、このデータベースを元に、入力映像(SDR対応映像)に適したHDR的コントラスト再現を行なうのだ。単純に、画素の輝度値の大小に連動するだけでなく、映像全体の空間的な輝度分布を配慮しているのか、絶妙なコントラスト感を再現してくれる。

 「ダークナイト」など、2Kのブルーレイも見てみたが、太陽のような逆光表現ではやや強めのコントラスト感にするものの、黒背景主体の夜間シーンでは、それほどハイライトを鋭くせず、ナチュラルなコントラスト表現に抑える……といった感じだ。2K BDの視聴もX910ならば相当楽しくなる。

「AI機械学習HDR復元」は、この映像では、空や窓ガラスへの映り込み、そして電灯は鋭く輝き、かなり本物っぽいHDR感を再現してくれていた
通常ブルーレイの映像をまるでHDRコンテンツのように見せてくれる「AI機械学習HDR復元」

 超解像については、X910では「熟成超解像」「アダプティブフレーム超解像」という新機能が搭載されている。

 前者は、毎秒24コマの映画などの映像に対し、超解像処理を2回適用するもので、通常ブルーレイの4K化はもちろん、DVDのSD映像にもよく効く。今回の評価では「ダ・ヴィンチ・コード」のDVDを見てみたが、「DVD映像がまるで4K映像のように!」とまではいかないものの、HDリマスターされたような、陰影や輪郭の鮮明度が向上していい感じだ。ブラウン管でDVDを見た時のような、固定画素感が少なく、アナログ感ある見た目になっていて好感触であった。

映画のような24fps映像に対して超解像処理を2回適用する機能「熟成超解像」
X910は相当な大容量RAMを搭載しており、5フレームのバッファリングを行なって超解像処理する。X910では、その参照先フレームの決定アルゴリズムの最適化が図られた

 動きの激しい映像も見てみたが、これは液晶よりも「動きの切れ」がいいことが実感できた。映像の書き換わり速度は高速で、動体を目で追ったときの見やすさは液晶とは段違いなのである。

 REGZAは、2016年のZ20Xシリーズなど「4KレグザエンジンHDR」搭載モデルから、倍速駆動時の補間フレーム精度が向上したが、65X910の有機ELパネルの高速応答性は、この補間フレーム挿入との相性も良好であった。いつものように「ダークナイト」冒頭やチャプター9のビル群の空撮シーンを見てみてだか、補間フレームのエラーがなく、そのスムーズになった表示自体の切れも素晴らしい。シーン内のビルがドット単位で動いているかのような感じがするほど。

 その端的な証拠映像を示そう。これは前述した表示遅延を計測した際にソニーのDSC-RX100M5で960fps撮影した映像だ。左が液晶の東芝REGZA26ZP2、大きい画面が65X910なのだが、カウントアップされる秒の数字の表示の書き換わり方に注目して欲しい。液晶のZP2は「ぬめり」といった感じで数字が書き換わるのに対して、65X910は「パっ」と瞬間的に書き換わっていくのが見て取れるだろう。

 この違いが、動体の見え方に表れている。“動きの切れ”が有機EL、X910の大きな特徴だ。

液晶(左:26ZP2)と有機EL(右:65X910)の表示の変化に注目。有機EL画素の書き変えの速さを実証

 個人的には、65型の大画面で3D立体視を試したかったのだが、X910では未対応となった。というか、2017年のREGZAには、3D立体視対応モデルは無くなってしまった。これも時代か……。

プリセット画調モードのインプレッション

 画質モードは、環境やコンテンツにあわせて自動で画質調整する「おまかせ」に加え、あざやか、標準、サッカー/ゴルフ、アニメ、アニメプロ、ライブ、ライブプロ、映画、映画プロ、ディレクター、ゲーム、モニター/PCから選択できる。テレビ放送などをリラックスしてみる場合などは、基本「おまかせ」でいいが、明かりを落として映画をじっくり見る場合は、「映画プロ」などが推奨されている。

 今回から色度計を導入し、白色の全白を表示させた時のスペクトラムを示すこととした。これで分かるのは、3原色RGBのうち、どの原色の出力が強いか、だ。

 代表的なモードのサンプルを掲載したが、全体的に、どの画調モードでも青が強いことがわかる。実際の画調の作り込みでは、青成分が多い色については、この強度の高い青のダイナミックレンジをフルに使うことになる。緑は青よりは大部弱く、赤はさらに弱いので、それらの色成分を使う混色はダイナミックレンジ的には狭くなることになる。

 実際の映像では、そうした負い目はほとんど感じられない。ただ、どの画調モードも液晶モデルと比較すると輝度的には暗い。

 輝度優先であれば「あざやか」一択。「標準」はかなり冷たい印象。迷ったら、発色が自然な「ディレクター」が見やすいのでお勧めだ。映画コンテンツなどとの相性もよく万能性が高い。

あざやか
標準
映画プロ
ディレクター
ゲーム

“有機ELならでは”の画質。ポイントは“液晶との違い”

 有機ELパネルを使った初のREGZAだが、十分過ぎる完成度。自発光ならではのコントラスト感は、液晶にはマネのできない、いうなれば「有機ELならではの画質」になっていると思うし、RGBWサブピクセルの負い目を感じさせない色表現と暗部階調表現は、さすが様々な液晶パネルと戦ってきたREGZA開発チームといったところ。

 ただ、X910が「液晶テレビの置き換え機になるか? 」というと、現時点では「そうだ」とは断定できない。

 というのも、前述のように日本の家庭で一般的な、天井からの蛍光灯照明下では、X910は液晶テレビに比べると暗い印象になってしまうから。これはRGBWサブピクセル有機ELパネルの特性なので仕方がない。X910の画質を引き出すのは、やや暗め、あるいは間接照明のリビング環境、そして暗室状態だ。

 だから、「明るいリビングで、高画質に映画やスポーツなどを楽しみたい」という人は、液晶がオススメだ。X910は、「落ち着いた、明かりを落とした部屋で映画に浸りたい」、「有機ELならではの画質を楽しみたい」などのこだわりを持つ人が、部屋の環境特性を意識しながらを選ぶ、「違いが分かる人向けのテレビ」なのだ。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら