西川善司の大画面☆マニア
250回
4K REGZAで4K放送を視聴! 一線を画す映像に驚き、善司の妄想は爆発した。
2018年12月29日 08:00
2018年12月1日より、新4K8K衛星放送の本放送がついに開始された。地上波デジタル放送(地デジ放送)開始時ほどの周知はないし、インパクトも薄目だが、これまで「4Kなんてコンテンツがないじゃないか」といわれてきた中で、「(基本的には)無料で見られる4Kコンテンツ」が空から降ってくるサービスが開始されたことの意義は大きい。
今回の大画面☆マニアは、REGZA(レグザ)の2018年モデル「55Z720X」を使って、この新4K8K衛星放送の視聴インプレッションを行なうことにした。
4K REGZAのハイエンド液晶テレビ「55Z720X」
主題は新4K8K衛星放送だが、REGZA 55Z720Xについての簡単な紹介をしておこう。
Z720Xシリーズは、第248回で取り上げた有機ELX920シリーズに次ぐハイエンドの液晶モデルで、55型と49型の2機種をラインナップする。チューナーやHDMI端子などのインターフェイスはX920とZ720Xシリーズは共通仕様となっており、大きな違いは映像パネルの種類とスピーカーシステムだ。Z720Xの映像パネルはIPS型液晶で、エリア駆動に対応した直下型LEDバックライトシステムを採用する。対するX920は、赤サブピクセルが拡大された最新世代の有機ELパネルだ。
映像エンジンの世代もX920とZ720Xは共通仕様。X920の評価の時に筆者も感心した「BS/CS 4KビューティX PRO」「地デジビューティX PRO」「HDRリアライザーPRO」はZ720Xにも搭載されている。
機能の詳細は第248回を参照いただきたいが、本稿でもそれぞれを簡単に説明しておこう。
「BS/CS 4KビューティX PRO」と「地デジビューティX PRO」はMPEGー2ベースの地デジ放送、BS/2K放送を7フレームもバッファリングし、これから表示する映像を起点にして過去3フレーム前、未来3フレーム後の映像フレームからREGZAが得意とする各種超解像処理を適用し、MPEG-2圧縮される前の生フレームに近い映像を再構築するというもの。3フレームを離しているのはMPEG-2映像のGOP構造に配慮したため。これにより、地デジ放送やBS/2K放送がまるでH.264でエンコードしたかのような高品位な映像として表示されるようになる。
「HDRリアライザーPRO」は、HDR映像を表示したときの表示品質の最適化に相当する機能だ。簡単に言えば「ディスプレイトーンマッピング」を行なう機能。Z720Xでは、バックライトシステムが900nitあたりを最大輝度としているため、液晶パネルの表示特性にあわせたチューニングを施したという。最初期のHDR対応テレビは高輝度部分を明るく表示させることだけで「よし」としていたわけだが、最新世代のHDR対応テレビでは映像パネルの特性に配慮して、輝度、階調、色再現性の全てをバランスさせた表示に進化している……という理解でいいだろう。
「BS/CS 4KビューティX PRO」と「HDRリアライザーPRO」は、今回の新4K8K衛星放送の視聴評価においても、大きな効果をもたらすことが期待される。
スピーカーシステムは、Z720Xの総出力が66Wで、X920の46Wを凌ぐ。Z720XもX920も、メインスピーカーのフルレンジユニットと高音再生用のツイーターからなる2ウェイスピーカー構成を採用するが、Z720Xのみ重低音再生専用のバズーカウーファーを搭載する。また、Z720Xではスピーカーレイアウトをユーザー方向に向けたダイレクト再生方式を採用。テレビ単体で活用することを想定し、X920よりも幾分贅沢なサウンドデザインとしている。
“新4K8K衛星放送”を観るために必要なもの
さて、ここからは今回の主題となる新4K8K衛星放送の話題へ移そう。実は本連載のX920の回でも触れているのだが、新4K8K衛星放送を視聴するためには、「当たり前」の要素も含めて、幾つかの必要条件がある。
「当たり前」の要素としては、4Kテレビ、ないしは8Kテレビが必要であるということだ。
4Kテレビでも、2017年発売モデル以前のものは、新4K8K衛星放送に対応したチューナーが搭載されていないため、別途、外付けタイプの新4K8K衛星放送チューナーを準備する必要がある。外付けチューナー製品は東芝、ソニー、シャープ、パナソニック、ピクセラ、アイ・オー・データなど各社から製品が出ており、価格としては3万円から5万円程度となっている。
“新4K8K衛星放送”というくらいなので、そうした外付けチューナー製品は全て8K放送も受信できるのか…と思いきや、実はそうではない。8K放送にも対応した外付けチューナーは、'18年12月時点でシャープから発売されている「8S-C00AW1」のみで、価格は約25万円前後とかなりお高くなっている。前出の3万円から5万円の外付けチューナーは「新4K8K衛星放送」のうち、4K放送の受信・視聴しかできない点に留意しておきたい。なお、8S-C00AW1は4Kテレビと接続することもでき、その際は8K放送は4K/60pのYUV 422/HDCP 2.2で出力される。
2つめの必要条件は「新4K8K衛星放送」対応アンテナだ。といっても、この部分は妥協できなくもない。
「新4K8K衛星放送」では19チャンネル(うち17チャンネルが12月1日が開始)が用意されているが、これらを全部受信したいのであれば、対応のアンテナに交換する必要がある。しかし、従来の衛星放送(BS/110度CS)を受信できるアンテナでも、19チャンネルのうち下記の6チャンネルは受信・視聴が行なえる。
- NHK BS4K
- BS朝日 4K
- BS-TBS 4K
- BSテレ東 4K
- BSフジ 4K
- BS日テレ 4K(2019年9月1日開始予定)
【BS右旋】
これら6チャンネルはいわゆるNHKと民放5局で、民放5局については特別な契約をせずとも無料で視聴することが出来る。というわけで、事実上、この6チャンネルは「新4K8K衛星放送」の主要チャンネルと言うことが出来るかも知れない。
逆に、従来アンテナで見られないチャンネルはというと、下記の13チャンネルで、いわゆる有料放送が主体だ。システムなど含め、敷居の高い8K放送もこちら側に含まれる。
- NHK BS8K
- ザ・シネマ 4K
- ショップチャンネル 4K
- 4K QVC
- WOWOW(2020年12月1日開始予定)
【BS左旋】
- J SPORTS 1(4K) /821ch
- J SPORTS 2(4K) /822ch
- J SPORTS 3(4K) /823ch
- J SPORTS 4(4K) /824ch
- 日本映画+時代劇 4K /880ch
- スターチャンネル 4K /881ch
- スカチャン1 4K /882ch
- スカチャン2 4K /883ch
【110度CS左旋】
3つ目は、アンテナで受信した電波を家内の各部屋へブースターを介して分配をしている環境の場合は、2.2GHzから3.2GHzまでに対応した新型のブースターユニットに置き換えが必要になるという点だ。従来の衛星放送(BS/110度CS)では2.2GHz未満の電波を活用していたため、従来の衛星放送に対応したほとんどのブースターユニットでは、2.2GHz以上の周波数帯をノイズと見なしてカットしてしまう特性となっている。新4K8K衛星放送の全19チャンネルを受信・視聴するためには、この特性はよろしくないのだ。
では、逆に全19チャンネルのうち、従来のブースターユニットを介しても見られるチャンネルはいくつあるのか。実は前出の「アンテナ話の一件」と同様に「BS右旋の主要6チャンネル」というのがこの質問の答えに相当する。「BS右旋の主要6チャンネル」は2.2GHz未満の周波数帯の電波なので、従来のブースターユニットを介しても影響はないのである。
まとめると、「8K放送見ない」「有料放送見ない」……つまり新4K8K衛星放送の「BS左旋」と「110度CS左旋」の13チャンネルさえあきらめられれば、4Kテレビと外付け新4K8K衛星放送対応チューナー、あるいは新4K8K衛星放送対応チューナー内蔵4Kテレビがあれば、従来のアンテナ環境でも主要6チャンネルは視聴することは出来るわけで、「意外と楽に見られる」のである。
新4K8K衛星放送を55Z720Xで視聴した!
ここからは実際に新4K8K衛星放送を見た際のインプレッションを述べていこう。
結論から言うと、地デジ放送や従来の衛星放送とは一線を画した映像体験が楽しめる。コーデックはMPEG-2からH.264ないしはH.265へ、解像度はフルHDから4Kへ、そして色や輝度はBT.709/SDRからBT.2020/HDRへと複数の要素において進化・パワーアップしているのだから、違いは分かりやすいと言えるだろう。
「フロム・ザ・スカイ・空から見た日本~北海道の旅」
まず見たのはネイチャー系番組の「フロム・ザ・スカイ・空から見た日本~北海道の旅」(NHK BS4K)だ。
タンチョウの棲息現場の釧路湿原を紹介するシーンは、一面の雪景色が描かれるが、目映いばかりの銀世界に目を凝らせば、多くの情報が描かれていることに気が付く。
HDR効果として雪原の照り返しはとても分かりやすい描写で、同じ「白色」の雪であっても反射光が鋭い面は段違いに明るく輝いている。同じ白色でも輝度が違う白が画面内の雪景色にちりばめられている感じなのだ。よくよく考えれば現実世界でも雪景色はこう見えている。
微妙な色のニュアンスが描かれているのはBT.2020色空間の恩恵なのか、それとも雪景色と同様にHDR効果の一端なのか。この映像の主役のタンチョウは、陽光の加減で白色にみえたり、やや黄味がかって見えたり、あるいは桃色に寄った色に見えたりするのが興味深かった。
シーンは変わって、日本最果ての大地の知床半島の標高1,600mの羅臼岳のシーンでは、山を覆う雪の中から見せる岩肌と、その沿岸地域を漂う流氷の細かな凹凸が「これぞ高解像度」といわんばかりによく見える。画面の各所で4K解像度の1ピクセル単位で描かれる陰影表現は、画面の近くで繰り返し見るとその度に何らかの発見がある。
この番組は、4K放送の良サンプルになっていると感じた。
「初音ミク×鼓童スペシャルライブ2018」
音楽ライブ番組として「初音ミク×鼓童スペシャルライブ2018」(NHK BS4K)も視聴してみた。
これは、いまや知らない人はいないほど著名なバーチャルボーカリスト(ボーカロイド)の「初音ミク」と、日本の伝統芸能である太鼓楽団「鼓童」がコラボした音楽ライブイベント番組になる。
HDR撮影されているためか、暗がりの中で演奏する人間の演奏者達の姿がよく見える。かなり暗い照明下にもかかわらず、演奏者の顔や指先の動きまでが見えるのだ。
一方で、初音ミクは、スクリーンに映ったプロジェクターからの投射映像であるため、ボケ味が強く、情報量の多い人間の演奏者の映像と比べるとアンバランスに見えてしまう。恐らく、ライブ会場の観客席からは人間の視力性能の限界で、人間の演奏者もプロジェクター映像の初音ミクの姿も同等の解像感で見えて「いい感じで共演している」ように見えていたのだろうが、4K/HDR放送でのこの映像で実写人物達とCG初音ミクとの見え方に差がありすぎて違和感がある。
今後、こうしたバーチャルキャラクター(CG)と実写映像を合成した番組を制作する場合は、ディスプレイやスクリーン上のCGを撮影するのではなく、4K解像度でレンダリングしたCGを直接実写映像に合成する作り方でないと、こうした違和感が気になってくるかも知れない。
「4Kでよみがえるあの番組 新日本紀行 盆地の太鼓~秩父~」
NHKでは、1969年にテレビ放送した「新日本紀行 盆地の太鼓~秩父~」のフィルムを最新デジタルスキャナーで4K映像化し、さらにHDR対応のカラーグレーディングまでを施したリマスター映像を放送。そのリマスター映像を流すだけでなく、メイキング工程なども紹介した番組でかなり面白かった。
4K化された映像を1フレームずつ半自動修正していったそうなのだが、さすがに元映像のアナログフィルムにそこまでの解像度がなかったためか、解像感や時間方向のノイズはそれほど低減されず。しかし、色、階調については、当時のフィルムでも結構な情報が記録されていたようで、その1フレームずつの調整により、見事なまでの色と階調(+輝度)のダイナミックレンジ拡張が施され、「映像としてのリアリティ」は素晴らしいものになっていた。
逆光状態の空をバックに群集がこちらに押し寄せてくるシーンでは、当時の放送映像では「逆光状態の空に群集の人々のシルエットが見えるだけ」だったのに対し、4K/HDR化された映像では群集の一人一人が暖かみある肌色を伴った人々それぞれの表情までが分かるのだ。
ここまで心血注ぎ込んでアナログ時代のフィルム映像をデジタル化するのは,なかなかコスト的に大変だとは思うが、今後、AIなどの力を借りて完全自動で行えるようになった際には、こうした「昔の映像アーカイブの4K/HDR復元」はどんどんやって欲しいと感じた。
「BS民放4社共同企画 大いなる鉄路16,000km走破 東京発→パリ行き」
本番組は、いわゆる「4K/HDR撮影/制作された旅紀行番組」だが、その放送に際してはHLG(Hybrid Log Gamma)フォーマットを採用しているところが特徴。
ちなみにHLGは、従来のSDR映像との互換性を維持しつつ「HDRの旨味」を再現出来るHDR映像向け階調フォーマットになる。
恐らく今後のテレビ放送は、しばらくは、同じ番組を地デジや従来の衛星放送では2K/SDR映像として放映し、新4K8K衛星放送でのみ4K/HDR映像放送で放映する……という流れになるはずで、放送においてはこのHLG形式が利点が多い。
筆者は、展示会などで流れているごく短いデモ映像はともかくとして、HLG形式のHDR映像のちゃんとしたコンテンツをじっくり見たのは今回が初めてだったのだが、高輝度表現などは4K Ultra HD Blu-rayなどに採用されているHDR10映像とそれほど変わらぬ見映えで、「ちゃんとHDRしている」。
なお、55Z720Xで視聴していて気になったのは、番組冒頭、トンネルを抜けたあとの先頭機関車からの3Dスクロール的な一人称視点のシーンで、視点に近い線路手前側と視界左側の草の生えた斜面に倍速駆動の補間フレームのエラー(ざわつくようなノイズ)が顕著に出ていた点。最近のレグザは補間フレームの精度はかなり改善されてきてはいるが、3Dスクロール的な放射状に移動するパターンについてはまだ得意ではないようだ。いろいろと試してみた感じでは,デフォルトでは「クリアスムーズ」になっている「倍速モード」の設定を「スムーズ」にするとこのエラーは気にならなくなる。映像中の動体周辺に違和感を感じた場合は、この設定をいじるといいだろう。
4K/HDR通販番組がキラー? 化粧よりもセキュリティ? 妄想は止まらない……
「じっくり見る評価」にひと区切りをしたあとは、様々な番組をザッピングするような感じで観て回ったが、従来の衛星放送と新4K8K衛星放送とで同一の番組を放送しているケースが多いことに気が付く。
コストをかけて4K/HDR撮影されたネイチャー系、旅紀行系、ドラマ/映画などのコンテンツは、従来の衛星放送と新4K8K衛星放送とで同一の番組内容であっても、圧倒的に新4K8K衛星放送の映像の方が美しかった。新4K8K衛星放送視聴環境導入後は、同一番組をあえて従来の衛星放送と新4K8K衛星放送とで切り換えて楽しむのも一興だと思う。
細かくチェックしてみると、通販番組などはフルHD映像をそのまま4Kアップスケールして新4K8K衛星放送に流しているものと、ちゃんと4K撮影して新4K8K衛星放送に流しているものとがあるようだが、いずれもHLG形式のHDR映像になっている。ただ、前者のパターンではHDR効果の有効性はそれほど見て取れず。しかし、後者のパターンは、けっこう美しい映像になっていて驚かされた。
通販番組は正直なめてかかっていたが、どうしてどうして。通販番組が今後、本格的に4K/HDR映像で制作されたりすると、新たなキラーコンテンツとなるような気もする。産地特産品の食べ物やら宝石などのアクセサリーなどが、高解像度で色鮮やかに紹介されれば、もしかしたら店頭で見る以上に商品が魅力的に見える可能性だってある。「最も金を呼び込めるかもしれない4K/HDRコンテンツ」として、通販番組は侮れないかもしれない、と妄想した。
さて、テレビタレント達が新4K8K衛星放送をプロモーションする番組などを見ていた際に気がついたのだが、4K/HDR映像はあまりにも高解像度で色/輝度の情報量が多いためか、ついにテレビタレントの化粧の「作り物感」に違和感を感じることもしばしばだった。具体的には、たとえば厚化粧なタレントはそれと分かるし、薄化粧の場合は化粧の下に潜む素肌の質感がなんとなく分かるのだ。
映画などはポストプロダクションで映像を作り込んでしまうため、「不都合な情報」は隠蔽してしまうのだが、スタジオ収録の番組はそれほど手が掛かっていないこともあり、テレビタレントの出で立ちは、撮影された映像がそのまま放送されているのが現状のようだ。そうした新4K8K衛星放送プロモーション番組の中でナビゲーターを務めていた滝川クリステルが「私達テレビに映る側の人間も4K対策していかなければなりませんね」的なジョークを述べていたが、彼女らにとっては今後、本当に重大な問題となってくるのかも知れない。
そういえば、この流し見をしていた流れで、細かい作業中の職人の手元を映す場面があったのだが、手のしわや指紋がバッチリと映っていた。多分やろうと思えば指紋画像の採取は可能だろう。余計な心配だろうが「顔面の化粧」の問題よりも、そうしたセキュリティ面での対策も必要になってくるのだろうか……。
新4K8K衛星放送を見ているとそんな妄想にまで到達してしまうのであった。
というわけで、始まったばかりの新4K8K衛星放送だが、フルスペックで導入するには敷居は高いが、8Kをあきらめて主要民放とNHKだけに絞れば既存受信環境でも対応チューナーやテレビがあれば観られる。年末に4K/HDRで放送される紅白歌合戦に興味がある方は、早めの導入をおすすめする。
そうそう。今回評価した55Z720Xに対する要望を1つ最後に記しておきたい。
新4K8K衛星放送の番組を検索する際に設定できる「番組記号」において「HDR」が選択できない点を改善して欲しい。現在「SS(サラウンド)」などの番組記号は設定できるのだが、この新4K8K衛星放送のタイミングで一番、チェックしたい「HDR」が検索対象に入れられないのだ。ファームウェアなどでのアップデートに期待したい。