西川善司の大画面☆マニア

257回

リビングでも明るい4K大画面! レーザー搭載のJVCプロジェクタ「LX-NZ3」を試す

JVCのDLPプロジェクター「LX-NZ3」

フルHD解像度のDMD(Digital Micromirror Device)映像パネルを採用しながら、ピクセルを時分割表示することで、“ほぼ”ネイティブ4K画質を実現する疑似4Kプロジェクターは、4Kプロジェクターの入門機として一定の人気を博している。

この分野に2018年、まさかの参入を果たしたのが独自の反射型液晶パネル「D-ILA」技術を推進していたはずのJVCだった。JVCは、D-ILAについてはハイエンドにのみ採用し、エントリー機にはTI製DMDチップベースのDLPプロジェクター製品を投入してきたのだ。

既に大画面☆マニアで紹介済みの第1号機「LX-UH1」(第247回参照)は完成度が高く、ブランド名に恥じないものだったが、今回紹介する「LX-NZ3」(実売36.2万円前後)はDLPモデルの第2号機となる。

20万円台前半で購入できる1号機・UH1と比較して、どこがパワーアップしているのか。その辺りについても着眼しながら紹介していくことにしたい。

製品概要チェック~レンズシフト搭載で設置性良好。レーザー光源で交換不要に

NZ3は、ボディ色が黒と白がラインナップされており、今回評価したのは黒モデルになる。

ボディカラーは白と黒がラインナップされている。価格は同じ

本体サイズは405×341×145.8mm(幅×奥行き×高さ)で、UH1よりもややマッチョ化。重さも6.3kgと少し重くなった。とはいえ上位のD-ILAモデルと比べれば、まだまだコンパクトで軽量だ。

LX-UH1よりも若干逞しくなった外観デザイン

台置き設置向けの脚部は、前部左右にネジ式が二脚。後部は固定式のゴム足のみ。前部左右の脚部を調整して意図的に傾きを作ったとしても、後部のゴム足がちゃんと受け止められるように幅広くなっている。

底面には天吊り金具取り付け用のネジ穴が4箇所切ってあり、ネジ径は4mm、ネジ穴の深さは8mmだ。純正の天吊り金具の設定はなし。ネジ間の距離は横方向に約30cm、前後方向に約15cm程度で取り付け金具のアーム長はそれほど長いものが不要。本体重量も軽いので多くの汎用取付金具が利用できることだろう。

四つある盛り上がったネジ穴が天吊り金具組み付け用
LX-NZ3は前面側にネジ式脚部が搭載となった後部はただのゴム足
二脚のネジ式脚部で左右の傾きを調整可能

投写レンズは本体中央にはなく、本体正面向かって右側に大きくオフセットされて実装されている。

手動式の1.6倍ズームレンズ(F=1.809,f=14.3~22.9)になっていて、UH1と同仕様だ。100インチ(16:9)の最短投写距離は3.0m、最長投写距離は4.8mとなる。

ズーム調整、フォーカス調整はともにレンズ外周のリングを回して調整する手動式。上下左右レンズシフトにも対応し、投写映像を左右±23%、上下±60%の範囲で平行移動できる。この特徴もUH1と同じだ。いちおうデジタル画像処理レベルの台形補正にも対応しているが、この機能を利用すると画質は劣化する。

レンズは正面向かって右側にオフセットされている
投写レンズ外枠にズーム調整とフォーカス調整のリングが付いている
レンズシフトも手動調整式。調整ツマミは本体の天板側、投写レンズの近くにある
フォーカス合わせ、拡大率合わせ、画面四辺の直交出しに便利なテスト映像は、リモコンから簡単に呼び出せる

吸排気のデザインもUH1と同じで、本体正面向かって右側に吸気スリット、左側に排気スリットがある。投写レンズ側には吸排気スリットがないため、投写映像が埃や熱気で揺らぐようなことはない。UH1では吸排気口から若干の光漏れがあったが、LX-NZ3にはそれがない。対策されて改善したようだ。

正面向かって左側の側部には排気口がある
正面向かって右側の側部には吸気口がある

騒音レベルは公称値で29dB(ランプ:エコモード時)から34dB(標準モード)となっており、ほぼUH1と同等。本体位置が視聴位置から1m以内だとファンノイズは聞こえるが、2mも離れればあまり気にならない。NZ3はボディが小さい割には高輝度なモデルなので、その分、やや動作音は大きいという印象はある。

定格消費電力は360W。本機は3,000ルーメン出力に対応した超高輝度レーザー光源を採用していることもあり、消費電力は大きめだ。レーザー光源の寿命は公称2万時間で、これは一般的なプロジェクターが採用する超高圧水銀ランプの約10倍の長さとなる。そのため、本機ではユーザーの光源交換は想定されていない。まぁ1日3時間使ったとしても約18年間持つ計算なので常識的な使用範囲では光源交換に迫られることはないだろう。

接続端子パネルは背面側にレイアウトされている。

HDMI端子は2系統あるが、HDMI 1とHDMI 2で機能が違う点に留意したい。HDMI 1が18Gbps伝送に対応した、いわゆるHDMI 2.0/HDCP 2.2対応の端子。一方、HDMI 2は10.2GbpsのHDMI 1.4/HDCP 1.4対応となる。Ultra HD Blu-ray(UHD BD)再生機器や4K対応ゲーム機、PCなどを4K/60pで出力する場合は、HDMI 1につなぐ必要がある。

背面側の接続端子パネル

古めのPC入力を想定したアナログRGB入力端子(ミニD-Sub15ピン端子)を装備するが、コンポジットビデオのような一般的なレガシーなアナログビデオ入力には対応しない。

USB端子はTYPE Aとmini Bの2端子を持つが、TYPE-Aは給電用、mini-Bはメンテナンス用となっており、ストレージデバイスなどを接続してのメディア再生には対応しない。またRS-232C(Dsub9ピン)端子も備えるが、これは外部ターミナルソフトなどを用いて本機を制御するために利用する。

この他、本体の稼動に連動してDC12Vを出力するトリガー端子がある。これは主にNZ3の電源オンと共にスクリーンやカーテンの開閉、照明のオンオフなどの制御に利用するためのもの。なお、プロジェクター入門機にはよくある内蔵スピーカーは搭載しない。

電源オンを押してから、JVCのロゴ(あるいは青背景)が表示されるまでの時間は約30秒。HDMI入力の映像が表示されるのはそこから7秒後の約37秒。レーザー光源採用機としては、時間がかかる。

入力切換は[INPUT]ボタンで行なうが、押すたびに順送りで切り替わる順送り式ではなく、表示映像に覆い被さるようにして出現する入力切換メニューを操作する方式。切換所要時間は、HDCPありコンテンツで約14秒、HDCPなしコンテンツで約4.5秒だ。HDCPありのコンテンツは結構待たされる印象だ。

本体天板側には、リモコンのかわりに使える操作パネルがレイアウトされている

付属リモコンはUH1と同デザインのシンプルなもの。ボディ上半分にボダンが集中していて、ちょっと寂しく、もう少しボタンがあっても良かったと思う。

リモコン上にあるのは画質モード切換用の[NATURAL]、[CINEMA]、[DYNAMIC]、[USER1]、[USER2]に加え、ガンマカーブ切り換え用の[GAMMA]、ブライトネスやコントラスト調整用の[BRIGHTNESS]、[CONTRAST]ボタンくらいだ。せめて入力切換操作は目的の入力系統にダイレクトに切り換えられるボタンが欲しい。

リモコンはほぼUH1と同一デザインのものが付属
[LIGHT]ボタンを押すと、ほぼ全てのボタンが発光

[USER1]、[USER2]は、ユーザーメモリに相当。任意のプリセット画質モードの設定をここにコピーし、編集して好みにカスタマイズすることができる。保存した2つのユーザーメモリは、その他のプリセット画調モードと同様にリモコンから[USER1]、[USER2]ボタンを押すことで呼び出すことができる。

HDR映像入力にも対応するが、HDR映像を検知すると、画調モードはHDR映像信号形式ごとに用意された「HDR10」モード、ないしは「HLG」モードにロックされる。なお、あえて手動で「SDR」と設定することで、NATURAL、CINEMA、DYNAMICといったプリセット画調モードを選択することはできる。またHDR画調モードでロック中も「明るさ」「コントラスト」「色の濃さ」「色あい」「シャープネス」といった基本画質の調整は行なえる。

画質調整関連メニュー画面の「ピクチャー」
ガンマカーブを選択可能
「MOVIE PRO」メニューでは、映像エンジン側の振る舞いをカスタマイズできる。フルHD映像の4K化などに効力を発揮する超解像処理の設定もここから行なえる
ステータス画面。HDR映像信号のメタデータMaxCLL/MaxFALLなども確認できる
データプロジェクター的な活用も想定してなのか、アスペクトモードに「16:10」がある
「天吊り投影」などの投影モード設定は「設置」メニューにて可能
「ダイレクトパワーオン」は、電源コードに給電が開始された途端に本機の電源が投入される動作モード。会議室や学校のAV視聴覚室などには便利な機能か
HDMI設定では、階調レベル(0-255/16-235/自動)の設定が可能

入力遅延の計測は、前回の大画面☆マニアで紹介した、Leo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて計測した。

4K Lag Testerはプロジェクターの遅延計測にも対応しており、やり方は基本的に直視型映像機器に対して行なう手法と同じ。投写映像の測定ポイントに測定器を持っていくだけだ。しかし、測定器の向きが直視型映像機器の時とは逆で、プロジェクターの場合は投写レンズの方に測光センサーを向ける。

4K Lag Testerを用いた遅延測定の様子

測定時の画調モードは「HDR10」(4K/60p映像を入力するとそれ以外の画調が選べなかったため)。測定結果は42.1ms。60fps換算で約2.5フレームの遅延だ。リアルタイム性の高いゲームをプレイする用途には向かない。

画質チェック~カラー&解像度ダブル時分割機構の実力は?

NZ3は、いわゆる単板式DLPプロジェクター製品だ。

一般的なプロジェクターでは赤緑青(RGB)の3原色映像それぞれに割り当てた3枚の映像パネルを用いるが、単板式DLPプロジェクターでは映像パネルを一枚しか搭載せず、RGB映像を1枚の映像パネルで時分割生成する。

そんなNZ3が採用する単一の映像パネルは、UH1と同じ0.47型のフルHD/1,920×1,080ドットのDMDチップ「DLP470TE」だ。

このパネルからのフルHD投写映像をSpatial Light Modulator(SLM:空間光路変調器)素子でパネル上のピクセルを空間的に4回分、時分割表示することで疑似的に4K(3,840×2,160ドット)表示を行なう。

SLMとは白黒の液晶パネルに似たような構造の光学素子で、表示用映像パネル(本機の場合はDMDチップ)と重ね合わせ、その各画素からの出力光路をわずかにずらす効果を与える。このメカニズムを採用した最初の民生機は、本連載でも紹介したことのあるBenQの「HT2550」(第246回参照)で、HT2550登場以降、各社からこのメカニズムを採用した4K/DLPプロジェクターが各社から発売された。

つまりまとめると、NZ3は「フルカラー生成を時分割で実践」「4K解像度表示も時分割で実践」というダブル時分割メカニズムを採用していることになるわけだ。

フルHD表示(映像パネルネイティブ解像度(e-shiftオフ)。映像パネル上の1画素1画素が表示映像の1画素1画素に対応した表示になっているのが分かる
4K表示(e-shiftオン)。表示映像の1画素1画素が映像パネル上の1画素1画素と一致していないため、良くも悪くも「画素感」を感じさせないアナログチックな表示となっているのが分かる

この手のダブル時分割メカニズム採用機では「ちゃんと4K相当の表示が行なえているのか」「ちゃんと十分なフルカラー表現が達成できているのか」といったところが"勘所"ということになる。

UH1評価時と同様に漢字を含んだ日本語文章を表示させてみたが、高品位な4K描写が行なえている。まあ、表示メカニズムの関係で、1ピクセル1ピクセルの鮮烈さについては、リアル4K映像パネルを採用したモデルと比較すれば及ばないものの、かつての「歯抜け」が目立つ4K表示にはなっていなかった。ドットバイドット表現が求められるPC画面、ゲーム画面の表示においても満足のゆくレベルに仕上がっている。

フルHD表示(映像パネルネイティブ解像度(e-shiftオフ)
4K表示(e-shiftオン)。疑似4K表示にもかかわらず、画数の多い漢字がちゃんと描けている。ただ、色収差のため色ズレは目立つ
【西川善司の大画面☆マニア 第259回】JVC LX-NZ3の表示映像……時分割解像度と時分割フルカラーのダブル時分割メカニズムで表示されている漢字テキスト画面を40倍スローで撮影してみた。赤緑青が高速に切り替わり、なおかつ4方向に位置がずれて画素が表示されているのが分かる

投写映像のフォーカス感は良好だ。

中央でフォーカスを合わせれば、画面外周もそれなりにあってくれる。多少は甘くはなるが「ボケている」という実感はなく立派。今回の評価では、画面シフトをそれなりに活用して行なったのだが、それでも、このフォーカス均一性はおおむね良好だった。

輝度均一性は良好

色収差はそれなりにある。4K表示における4Kピクセルをはみ出るかはみ出ていないか…という微妙なレベルだ。ここがもう少し改善されればリアル4K感が増すことだろう。

輝度性能は申し分なし。さすが公称輝度が3,000ルーメンもあるだけあって、非常に明るい。蛍光灯照明下でも、カジュアルなスポーツ観戦は十分に楽しめるレベルだ。

発色も明るめの映像を楽しむ分には不満がない。詳細は後述するが、一部の条件下でやや苦手な色の発色があることを感じたが、ダブル時分割メカニズムを採用していることを配慮すれば、頑張ってチューニングしている方と思う。

下に、いつものリファレンス画像と白色のカラースペクトラムを示す。

画質モード「NTURAL」。ややコントラスト重視のチューニング。汎用性は高い
画質モード「CINEMA」。やや階調表現重視のチュニーニング。人肌表現は自然
画質モード「DYNAMIC」。輝度最優先の画調で白色が水色に寄っている

本機は青色レーザーから白色光を得る、JVC独自の光源技術「BLU-Escent」を採用している。

青色光源から緑と赤を得るという原理上、青のスペクトラムのピークが鋭くゲインも相当に高いことが一目瞭然であるが、相対的に赤緑のスペクトラムピークは低く、また緑と赤のピークの分離度も悪くなる。

同じ青色レーザーから白色光を得る上級機種では、シネマ用カラーフィルタなどを組み合わせることで調色するが、輝度成分を捨てることになる。おそらく、本機の場合はエントリー機と言うことで発色性能よりも輝度性能を優先したのかも知れない。

最大輝度が得られる「DYNAMIC」は、スペクトラム上で赤のピークが消失しているが、実際、この画調モードでは白がかなりシアンに寄った発色になる。ただ、輝度は相当に高い。明るい照明下で「とりあえず映像を見られるようにしたい」という用途向きだ。暗室で色再現性を重視して映像鑑賞をしたい場合は「NATURAL」か「CINEMA」の二択となる。

黒浮きあるものの、階調や色のコントロールはさすがJVC

今回も定点評価的に使っている「マリアンヌ」「ラ・ラ・ランド」「GELATIN SEA」の4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)を視聴した。本機はHDR10映像を入力すると画調モードは強制的に「HDR10」となるため、同モードで視聴した。

「マリアンヌ」では、チャプター2冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーン、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴。

ここを見ると、異なる明度下での肌色の出方が分かるのと、かなり暗い領域のカラーボリュームの作り込み度が分かる。実は、このシーンは相当に“映像機器イジメ”なシーンである。

夜の街のシーンは、さすが3,000ルーメンの高輝度性能、街灯の煌めきはかなり明るい。社交場に入ってから見上げるシャンデリアも、高輝度に輝くだけでなく、クリスタル一つ一つに輝度の強弱が感じられてリアルだ。

夜の屋上のロマンスシーンは、黒浮きが目立ちコントラスト感に乏しい。本機の最暗部はDLPプロジェクターにしては明るく、黒表示部分に手を掲げれば手の平の影がくっきりとスクリーンに出てしまうほど。黒浮き具合は「透過型液晶プロジェクターと同等」という認識だ。

ただ、さすがはJVC。この黒浮きの中でも暗部階調を作り込んでおり、黒浮きの中にも暗い色の描写はちゃんと行なえている。

暗がりの発色は描写が難しく、この暗がりの中でのマリオン・コティヤールとブラッド・ピットの肌が黒浮きの中に落ち込んでいる。ただそれでも、肌色に近い発色は残っており、少しでも良い見映えにしようとするJVCの意地を感じる。

UHD BD「マリアンヌ」

ところで、超高圧水銀ランプを採用していたUH1では、表示映像の明暗に連動して、光源からの光量調整を行なう「自動アパーチャ」(自動絞り機構)が搭載されていたが、NZ3ではこれが省略されている。

ただ、焦ることなかれ。

レーザー光源となった本機では、この機構の代わりに、レーザー光源の光量を動的変化させる新機能を搭載した。設定は光源モードの設定に相当する「光源の設定」メニューから行なえ、「可変低」と「可変高」の2種類の動作モードが選択できる。

「可変低」は映像中の最大輝度をも暗く光らせるモードで、全体的に暗い映像として投写するモード。黒浮きが気になる際に利用が奨励される。対して「可変高」は、本機の持つ輝度性能を最大限に活かし、HDR映像特有のハイコントラスト感をあますことなく楽しむためのモードだ。

光源制御を使い、動的絞り機構の効果を目指した「可変低」と「可変高」モード

「マリアンヌ」視聴中、実際に光源モードを「可変低」や「可変高」にしたところ、黒浮きがグッと低減され、暗がりの映像にもコントラスト感が甦った。黒浮きがなくなるわけではないが、それでも見栄えはだいぶ良くなるので有効にしたいところだ。

黒浮きに沈んだ肌色も、肌色らしさが改善されるし、マリオン・コティヤールが着るシルクの部屋着のカラフルな模様も「暗がりではそんな色に見えるはず」といった色味が浮かび上がる。

「可変低」と「可変高」、どちらを選んで使うかだが、正直、暗がりでの効果に大差はない。明るいシーンでの高輝度感には違いが出るので、そこでの筆者の好みは「可変高」だ。

なお、このリアルタイム光源輝度制御だが、レーザー光源を用いているわりには映像への追従速度が遅いところが気になった。

例えば、この「夜の屋上のロマンスシーン」に入る直前は「明るい室内シーン」なのだが、「夜の屋上のロマンスシーン」に入ってからレーザー輝度が落ちるまで結構大きい遅延がある。「あ、輝度制御やってる」とユーザーが気付くレベルの遅さだ。

水銀ランプならともかく、高速応答が可能なレーザー光源ならばもっとレスポンス速度は上げられるはず。ここは今後の改善希望ポイントである。

「ラ・ラ・ランド」では、いつものように夕闇の下で主役二人が歌い踊るシーン(チャプター5)を視聴。このシーンは、夕闇なので暗いとはいっても「マリアンヌ」の夜の屋上シーンと比べればだいぶ明るい。なので、エマ・ストーンとライアン・ゴズリングの肌の色も暖かみを感じる自然な発色だし、エマ・ストーンが身に付けている黄色のドレス、赤のカバンの発色もリアルだ。ただ、暗い茂みの中の枝や葉々は黒浮きに紛れ、何が描かれているのが分かりにくい。

UHD BD「ラ・ラ・ランド」

「GELATIN SEA」では、チャプター「Ferry」「Shadow」「Nightfall」をチェックした。

この映像ではBT.2020色空間の再現率をチェックする用途で用いている。端的なチェックにすぎないが、「Ferry」「Shadow」では、エメラルドグリーンで描かれる海面の再現度で発色性能のおおよそを把握できる。また、とても明るいHDR映像なので、高輝度領域の描写力を見ることにも役立つ。同様に「Nightfall」は、赤と紫方向の発色性能を見る用途に用いている。

「Ferry」「Shadow」では、浅瀬付近の海の色はエメラルドグリーンの度合いが強く、遠海に向かって濃い青へのグラデーションが出ているはずなのだが、本機ではここの表現で緑成分が弱く、シアンの濃淡表現に留まっていて、エメラルドグリーン感が弱い。前出のスペクトラム特性から見てもわかるが、緑成分の出力が弱いのだろう。

「Nightfall」の夕焼け雲のシーンは良好。黄色やオレンジ、そして紫がかった雲の陰影はとてもリアルだ。赤い雲はもう少し純度の高い赤味がほしいが、それでも不自然さはない。

UHD BD「GELATIN SEA」

この他、HDR10映像信号のテスパターンを0nitから1万nitまでの輝度値で本機に入力し、どの輝度まで階調が正しく見えるかを評価してみたが、1,000nitが本機の対応上限となっている特性が見て取れた。

というのも、1,000nitを超えると途端にあらゆる有彩色が白に飽和するカラー設計となってしまっていたからだ。まあ、一般的な映像コンテンツは今のところ、1,000nit上限で作り込まれているケースが多いので実害はないだろう。

おわりに~NZ3と併売されているUH1、どっちを選ぶ?

競合機と比較して完成度が高かったUH1の技術要素を引き継ぎながら、性能が強化された今回のNZ3。

進化点の中でも「レーザー光源採用」というキャッチーな新技術に強い期待感を持って望んだが、筆者が実機を評価した範囲では「発色性能は意外に普通」という印象を受けた。とはいえ、「光源ランプが交換不要の長寿命」という部分は民生向け機器としては価値が高いと思う。

NZ3は、3,000ルーメンの高輝度性能がアピールされており、この部分については筆者も圧倒されるほど素晴らしかったが、それと引き換えに暗い映像を出したときに出る黒浮きは「JVCでもここは手懐けられなかったか」と感じた。

UH1も「黒浮き感あり」の傾向が強かったのだが、NZ3では輝度性能が上がったことで、より黒浮きが強まってしまった。JVCのプロジェクターといえば元来、D-ILAで育んできた「JVCプロジェクターは黒の締まりが凄い」というブランドイメージがあるだけに、ここは非常に口惜しい。今後、この4K/DLPプロジェクター製品を続けるのであれば、改善が欲しい。

以上を踏まえた上で「LX-NZ3はどういったユーザー層に勧められるか」ということを考えると、大体こんな感じになる。

  • 1. 30万円台のプロジェクターで4K/HDR映像を大画面で楽しみたい
  • 2. レンズシフト対応で設置自由度よし。投写距離3メートルで100インチ大画面を楽しみたい
  • 3. レーザー光源採用なので光源ランプの交換いらず。ずっと使い続けられる
  • 4. 「暗室でしっとりと映画鑑賞をする」よりは、3,000ルーメンという高輝度性能を活かした明るいリビングで気軽に大画面を楽しみたい

上記4要素が、下記のような感じで妥協できるとすれば、UH1でも十分満足できると思う。

  • 1. 4K/HDR映像をさらに安い"20万円台"のプロジェクターで大画面で楽しみたい
  • 2. レンズシフト対応で設置自由度よし。投写距離3メートルで100インチ大画面を楽しみたい(NZ3と同様)
  • 3. 光源ランプの寿命は4,000時間。寿命が来ても光源ランプ(4万円)さえ交換すれば新品同様に
  • 4. 「暗室でしっとりと映画鑑賞をする」よりは、"2,500ルーメン"という高輝度性能を活かした明るいリビングで気軽に大画面を楽しみたい

NZ3に対する10万円の価格差は、3と4に集約されることとなり、ここにコストパフォーマンスを感じられるかどうかで「NZ3にするか、UH1にするか」が決まってくるだろう。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
YouTube: https://www.youtube.com/zenjinishikawa