西川善司の大画面☆マニア
第269回
4K120p対応の有機ELレグザ「X8900K」。Android化した48型は買いか!?
2021年11月18日 07:50
今年は、日本メーカー各社からHDMI2.1対応テレビが多数発売された。中でもレグザは、有機ELで2シリーズ7モデル、液晶で4シリーズ15モデルを投入し「レグザ史上最大の豊富なラインナップ」と謳う。
今回の大画面☆マニアは、Android TVを搭載した4K有機レグザ「X8900K」シリーズから、最小サイズの48型を取り上げる。一部のネット通販では、最安値で15万円を切る価格で販売する店舗もあるなど、今期有機ELレグザでは最も手頃に購入できるのがピックアップした理由だ。
にしても、随分と有機ELテレビも求めやすい価格になったものである。
外観:軽量ボディで非光沢な表示面。音響性能にも力
まずは外観から見ていこう。
ディスプレイ部分の外寸は、106.8×5.9×64.9cm(幅×奥行き×高さ)。重量は15.7kgで、スタンドを含めると16.5kg。成人男性ならば、一人で持ち上げて階段移動ぐらいはできるレベルだ。
スタンドは画面下部の左右端に組み付けるタイプで、画面の角度や向きを変えることはできない。スタンドの奥行きは約23cmで、左右スタンドの距離は約80cm。画面がはみ出してもよいならば、幅80cm、奥行き23cmの設置台があれば置くことはできる。
接地面からディスプレイ下部までの隙間は約33mm。ブレーレイソフトのパッケージが2本は入るが3本目がギリギリ入らない程度のスペースで、景観としてはかなり低背な印象だ。サウンドバーとの組み合わせを検討している場合は、画面下部がサウンドバーで隠れるか否かを事前にチェックしておきたい。
ベゼルは実測で、上左右が約8mmで、下が約29mm。近年の有機ELテレビが採用する標準的な狭額縁デザインだ。
有機ELでは珍しいノングレアに近い低反射仕様の表示面が特徴。室内の情景が強く映り込まないので、モニター的に活用したい人にはありがたいだろう。
内蔵スピーカーの総出力は72Wで、40型台のテレビとしては高出力なスピーカーシステムを実装している。内訳は、出力12Wのフルレンジユニット×4(左右に2つずつ)、12Wのツイーター×2となる。
音楽を聴いたが、スピーカーユニットが実装されている下側に音像が定位している感はあるものの、出音自体のクオリティは高い。低音と高音のバランスもいいし、解像感は優秀だ。
2chステレオを疑似的にサラウンド化する「サラウンド」モードとは別に、Dolby Atmosフォーマットに対応したバーチャルサラウンド再生機能も備える。疑似サラウンドモードを試すと、通常再生時にはテレビ画面内にあった音像定位感が画面外に飛び出して迫力が増す。Dolby Atmosによるバーチャル再生にすると、左右の音像移動がよりクリアになる印象。ただし、上下移動や後ろに回る表現はそれほどでもない。ここはバーチャル方式の限界だろうか。いずれにせよ、サウンド機能はかなり頑張っている方だとは思う。
消費電力は257Wで、年間消費電力量は137kWh/年。同画面サイズの液晶テレビに比べると1.5倍大きい数値。この傾向は各社同じであり、現状の有機ELテレビは消費電力がやや高いと言えよう。
インターフェース:HDMI2.1仕様で4K120Hz入力をサポート
接続端子類は、正面向かって左側背面と側面に用意されている。
HDMIは4系統で、HDMI入力1~3が背面側、入力4が側面側にある。HDMI2.1の4K120Hz入力に対応しているのは入力1、2のみ。入力3、4はHDMI2.0相当の4K60Hzまでをサポートする。なお、入力2はARC/eARCにも対応する。
最近の機種にしては珍しく、側面側にはアナログビデオ入力端子を搭載。ビデオカメラなどでお馴染みの3.5mm径の4極ミニジャック端子で、赤白黄のRCA端子付き変換ケーブルを接続して利用する仕組み。最近はこうした変換ケーブルは別売りとしている機種もあるが、X8900Kは製品パッケージに1本標準添付しているようだ。
音声出力端子としては、光デジタル端子と、ヘッドフォン接続向けの3.5mmミニジャックのアナログステレオ音声出力端子を1系統ずつ備える。
USB端子は3系統。うち1つは背面側のUSB 3.0端子となっており、録画用HDDを接続するためのもの。残りの2つは側面側にあるUSB 2.0端子で、USBメモリーやUSBキーボード、USBマウス、ビデオカメラなどの接続に利用する。HDDも接続できるが、ここにつないだ場合は録画はできない(メディアファイル等の再生のみ)。
USBメモリーを接続すると、メモリー内に記録したDolby AtmosのMP4動画も問題なく再生出来たし、JPG画像のスライドショーも行なえた。
USBキーボードも使えるが、YouTubeの検索ワードの入力では英字/記号に限られてしまった。ただ、後述する番組表からのキーワード検索においては、USBキーボードからローマ字入力、漢字変換が行なえた。
またマウスに関しては、ホーム画面に表示されるアプリ選択からYouTubeアプリの動画サムネイルからの選択&再生、ホイールによるアプリ内の上下スクロールなど、便利に利用することができた。
ゲーム関連機能:120Hz入力時の遅延は業界最速0.83ms
いつも通りLeo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて入力遅延を計測した。
映像モードは「標準」と「ゲーム」にて計測。「ゲーム」モードにおいては、今期有機ELレグザの新機能である「有機ELゲームダイレクト」の設定を「オフ」「オート」(事実上のオン)をそれぞれ計測した。
計測画面の解像度は、フルHD(1080p)の120Hz、4K/60Hzで実行。4K/120Hzの計測データがないのは4K Lag TesterがHDMI2.0までの対応となっていることが理由。なお、レグザが公開している4K/120Hzの入力遅延は、約0.83msと非常に高速だ。
1080p/120Hz | 4K/60Hz | |
---|---|---|
標準 | 非対応 | 104.9ms |
ゲーム ※1 | 9.9ms | 18.1ms |
ゲーム ※2 | 1.6ms | 9.8ms |
※1:有機ELゲームダイレクト オフで計測
※2:有機ELゲームダイレクト オートで計測
※3:測定結果はHDMI入力1~4で変わらなかった
上記結果を見ると「有機ELゲームダイレクト」のオフもしくはオートで値がだいぶ異なっていることが分かる。具体的には、1080p/120Hzと4K/60Hzの双方で、オフ設定とオート設定とでは綺麗に8.3msの差があることが分かる。
これの理由について解説せねばなるまい。
世界で発売されている大型有機ELテレビはLGディスプレイのパネルを採用しているが、昨年までの外販向けパネルは、焼き付き防止機構が介入する関係で、どうしても8.3msの遅延が強制的に上乗せされてしまっていた。実は、この焼き付き防止機構を簡素化しているのが「有機ELゲームダイレクト」なのである。
詳しい動作原理は不明だが、いずれにせよ焼き付き防止機構をなくすわけはないので、恐らく直前までの過去の映像フレームの輝度情報で輝度ゲインを算出するような制御となっている可能性が高い。
実はLGの2020年モデルでは、今回の有機ELゲームダイレクト相当の機能が既に有効化されていた(記事参照)。思うに、1年経ってLGディスプレイは、外販向け有機ELパネルにおいても当該機能を開放したということなのだろう。
4K/60Hzに関しては、有機ELゲームダイレクトがオン設定であっても、入力遅延が9.8msある。これは、本機の有機ELパネルが倍速駆動パネルだからで、60Hz映像の表示時には原理的に8.3msの遅延が介入してしまうためである(記事参照)。
なお、2021年のLG製有機ELテレビでは、この問題に対する改善が行なわれており、倍速駆動パネルであっても60Hz入力時の遅延を5.2msまで削減している(記事参照)。おそらく、来期のレグザではこの新しいパネルが利用できるようになるはずなので、今期の9.8msがどこまで短縮出来るかが見物だ。
昨年から、一部メーカーの4K/120Hz入力対応テレビにおいて、4K/120Hz表示を行なうと垂直解像度が半減したり、ちらつくといった珍現象に見舞われることが話題になったが、本機ではそうした現象は確認されず、正常に4K/120Hz信号が表示できていた。
また本機は、HDMI2.1が提供するVariable Refresh Rate(VRR)に対応し、可変フレーム映像を美しく表示できるが、筆者が試したところでは、NVIDIAのG-SYNC Compatibleにも対応していた。
音ずれのチェックも行なった。
今回も映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の中から「A/V Sync」テストを実施。読者からの要望に応え、今回から公開する動画は、通常の再生速度で再生して20倍スローとして再生されるように加工している。
なお、計測にあたっては、サラウンド関連、音声調整系の機能は全てオフとし、画調モードは「ゲーム」、「有機ELゲームダイレクト」も有効化した。
動画を再生してもらうと分かるように、発音はちょうど「0」のタイミングで行なわれており、遅延がないことが分かる。この特性はゲームプレイにおいては重宝する。さすがはレグザといったところか。
操作:Android TV化でUI大幅変更。マニアック表示消滅もMy Choiceは便利
昨今の“Android TV化”の波に乗る形で、ついにレグザもシステムがLinuxからAndroid TVベースとなった。リモコンもデザインが新しくなっているが、やや他社のAndroid TVリモコンと似た印象を持つ。システムがAndroid TVで統一されてくると、UIやリモコンもみな同じようなものになっていくのかもしれない。
電源オンから、HDMI入力の映像が出るまでの所要時間、および地デジの受像画面が出るまでの所要時間は実測で約7秒。地デジ番組のチャンネル切り換え時間、HDMI入力の切換時間はともに約2.5秒だった。
少し気になるのは操作系の変更だ。前述したように今回からAndroid TVに切り替わっているため、操作系が変わるのは当たり前なのだが、歴代レグザユーザーからは戸惑う部分が多いかもしれない。
例えば、HDMI入力の切り換え操作。以前のレグザは、HDMI入力3から入力4への切り替えが入力切換ボタンで容易に切り換えることができたのだが、新操作系では切替ボタンを押しても必ずHDMI入力1にカーソルが戻るため、入力4への切換えに手数がかかる。
また、以前は希望の入力系統にカーソルを合わせれば、少し待つだけで自動でその入力に切り替わったが、新操作系では選択後、絶対に決定ボタンを押さなければならない。
入力切換ボタンはリモコンの最上部にあり、かたや決定ボタンは中央より下にあるため、片手で操作するときにリモコンを持ち替えないといけない。色んな機器を繋ぐ筆者のような「入力系統切替☆マニア」には辛い操作系なのだ。
ただし、この問題。新規搭載されたカスタマイズ技を活用すれば、ちょっとだけ、その辛さを軽減することができる(詳細は後述)。
もう一つ。レグザで画面表示ボタンを押すと「おまえは計測機器なのか?」というくらいに、選択チャンネルやHDMI入力された信号の素性を表示してくれたが、この機能の呼び出すための操作系も変わってしまった。
どのように変わったかというと、画面表示ボタンではなく、サブメニューボタンから「信号フォーマット詳細表示」をオンにしてようやく表示することができる。しかも旧モデルでは階調特性、ヒストグラムのマニアックな情報も表示してくれていたが、今期のAndroid TVモデルではそれらがカットされてしまった。これも残念だ。
それと、歴代レグザではリモコン下側にあった設定ボタンが、リモコン最上部の放送種別切り換え系のボタンが列んでいるあたりにある。YouTubeボタンと4K放送選局ボタンに囲まれている設定ボタンを見ると、歴代レグザに慣れたユーザーほど「なぜお前がそこにいるのだ?」と問いかけてしまいたくなる。
実際、前述の入力切換の操作と同じく、このリモコン最上部にある設定ボタンを押してメニューを出したあとは、十字ボタンを押すためにリモコンを持ち替えないといけない。この持ち替え操作が面倒という方は、利用頻度の高い設定メニューを起動出来るサブメニューボタン(リモコン下部)を使うといいだろう。
Android TV化されたということで、番組表の仕様変更が心配になったが、これは大丈夫。歴代レグザと同様、4K解像度ネイティブの情報量の多い番組表のままだった。
レグザの番組表は本当に見やすい。文字サイズ変更、番組検索の機能についても仕様変更なし。なお、番組検索キーワードの入力については、従来の「あいうえお」表からリモコンでポツポツと選択する従来の入力方式ほか、USBキーボードを使ったローマ字による漢字かな入力も行なえる。これは便利だった。
Android TV化されたことで、UI・メニュー系統がだいぶ変わってしまったものの、操作レスポンスは以前と同等か、それ以上の体感速度となっている。ABEMAやAmazon Prime Video、YouTubeなどのVODサービスを使った際にも、PCで見ている時と変わらない応答性が実現できていた。マウスを使えば、再生タイムラインのスキップもPC感覚で瞬時に飛ばせるし、前述したように再生サウンドも良好なので、動画再生マシンとしても優秀だ。
本機はGoogleアシスタントの自然言語入力に対応しているので、いつもの「西川善司をYouTubeで検索」実験を行なってみたところうまく通った。審査員の心証は良好である(笑)。
操作系で便利と思ったのは、リモコン最上部にある「My.Choice」ボタンだ。これは平易にいえば“ユーザーが定義できるダイレクト入力切換ボタン”といったところ。
例えば、My.ChioceボタンをHDMI入力1に割り当てれば、このボタンを押すだけでワンタッチでHDMI入力1に切り換えることができる。前述した入力切換の操作もこの機能を活用すれば、そしてよく使うHDMI入力系統1つに限っては、My.Choiceボタンを押すだけで直接その切り換えることができる。
面白いのが、任意のAndroidアプリをここに登録することで呼び出しができるところ。
例えばAmazon Musicをアプリメニューからダウンロードしてインストールしてボタンに割り当てれば、My.Choiceボタンから一発でAmazon Musicが呼び出せる。
ボタンに割り当てるアプリは、メディア再生系に限定しなくてもいい。鉄道乗り換え案内や天気予報なども登録ができる。未だ見ぬ、将来登場するかもしれないサービスをここに登録できるわけで、かなり利用価値の高い機能と思う。とても便利なので、できればこのボタンをあと2~3つ付けてほしい(笑)。
画質チェック:放送やUHD BDは安定のクオリティ。ネット動画の画質も良好
本機は、48型の4K/3,840×2,160ピクセルの有機ELパネルである。むろんLGディスプレイのパネルなわけだが、気になるのはパネルの世代。画素の拡大写真を見る感じだと、今年度のLG製のOLED55G1PJA(G1モデル)とは形状が異なることが分かる。
こうしてみると、世代的には「OLED48CXPJA」のパネルに近い。前述した遅延計測に関しても、48X8900Kの計測値はG1よりもCXに近かったので、恐らくそういうことなのだろう。
今ある有機ELパネルの特性として、コントラストに関しては液晶を圧倒するが、色域の面では液晶パネルと大差がない。LGの最新機G1は、サブピクセル駆動を改善させることで色域拡大した新パネル「OLED evo」を採用する。
48X8900Kのパネルはそうした色域拡張はないが、さすがはレグザ。相変わらずカラーボリューム設計は丁寧に行なわれており、暗い領域から明るい領域まで、不自然な発色がなく、この世代のパネルの性能を十分に生かし切っている。
なお、55型と66型については、独自開発の高効率な放熱板を組み合わせることで、輝度性能を開放する仕組みを搭載するが、48型の本機はこの構造を採用していない。よりハイコントラストな、鮮烈なHDR表現を楽しみたい人は55型以上を選択すべきかもしれない。
地デジ放送の画質はすこぶる良好だ。やはり日本メーカー勢の地デジ映像は美しい。超解像の精度も高く、微細な凹凸表現からは説得力のあるリアリティが伝わってくる。文字や図形などはボカしたような拡大ではなく、斜め線などもくっきりと美しく描かれている。
また、デジタル放送のMPEG2映像に盛大に出るブロックノイズやモスキートノイズの抑え方も優秀で、単にボカしてごまかすだけでなく、元々描かれていた表現の解像感を極力維持させような意思を感じる描写が素晴らしい。
最近は、海外メーカー勢のテレビも日本の地デジ放送の表示を上質に処理できるようになりつつあるが、動体を含む映像などでは、まだ日本勢に軍配が上がる印象。
海外メーカーも静止画状態であれば、解像感やノイズ低減感はだいぶ良くなってきているのだが、カメラが動いたり、画面内を動体が動くような映像になると、とたんにアラが目立つ。本機はそうした弱点がなく、どのような放送映像であっても安定して映像品質が高い。
今回も4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の映画「マリアンヌ」から、冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内までを映したシーンや、夜のアパート屋上での偽装ロマンスシーン等を視聴した。使用した画質モードは、映画プロである。
チャプター2、夜の街のシーン。社交クラブのネオンサインや街灯はその周囲の描写物よりも格段に明るく、それ自体が自発光体であることをちゃんと伝えてくる。自動車の赤いテールランプも同様だ。
車のボディには、前述した街灯を含む情景が映り込んでいるが、それは、光源たる自発光物の街灯などよりは幾分か暗い。高輝度表現の中にもそうした“輝度差”を感じられるのがHDR映像の醍醐味であり、本機は、それを味わうために必要な高輝度階調力を備えている。
高輝度表現だけではない。このシーンでは、ブラッド・ピットを乗せた古い車が登場し、そのボディ後部は相当に暗いのだが、朽ちた後部バンパーの形状がしっかりと見える。そしてその後部バンパーが地面に落とす影は、車体底面や中央奥まで漆黒。この漆黒の本影(Umbra)から薄暗い半影(Penumbra)までのグラデーションの描写力が立派なのだ。
有機ELは自発光ゆえに漆黒表現は得意だが、一方で、一定の輝度以下の表現能力を持たないことから、暗色表現が本来苦手である(この弱点、意外と一般に認知されていない)。そこで、有機ELでは、時間と空間方向に輝度を映像エンジンの制御で分散させることでこの問題を低減させる。本機では、その案配が上手なのだ。暗部階調の表現力は液晶に負けていない。
このシーンでは見どころがもう一つある。
少し離れたところに街灯などの高輝度物があるが、液晶では、こうした暗部階調は、高輝度物表現のためのバックライト輝度に引っ張られて、黒浮きで淡くなってしまいがち。こうした現象は、たとえ直下型バックライト採用の液晶機でも多少なりとも起こってしまう。本機のように、高輝度物の表現と、前述してきたような高精度な"超"暗部表現が同居できているのは凄いことなのだ。
さて、夜の屋上の偽装ロマンスシーンも、有機ELの魅力が活かされている。薄明かりの中で照らされる、屋上の石畳のような床の細かな凹凸はしっかり見えているし、夜空の暗さも申し分ない。しかし、マリオン・コティヤールの携行しているランタンの炎は煌煌と燃えて、その暗闇の中で鮮烈に輝いている。
暗いシーンにおける、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの肌の質感も違和感はなし。薄明かりに照らされているマリオン・コティヤールの肌はもちろん、かなり暗めの照明条件のブラッド・ピットも灰色に落ちることなく、ちゃんと血の気を感じる肌の質感が再現出来ている。カラーボリューム設計の完成度は高い。
最近やや視野角特性でクセが強い液晶機を評価していた影響もあってか、有機ELの広視野角性能に改めて感心させられた。
画面中央に相対した位置から結構ずれてしまっても、色変移・輝度変位がほとんどない。IPS液晶もそのあたりは優秀だが、有機ELはやはりその上を行く。発色性能自体は液晶と有機ELとそれほど変わらないという実感なのだが、やはり黒表現力と視野角性能が優秀な分、パッと見の高画質感は有機ELに軍配が上がる。
続いて、映像機器評価用ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」を再生。メニューで10,000nit・HDR10をセレクトし、映画プロモードで視聴した。
まずは「Stimulus」で階調表現能力をチェック。純白階調は1,000nitあたりまでで、各色の階調は赤で200nit、緑で400nit、青で100nit、シアンで400nit、マゼンタで200nit、イエローで600nitあたりまでが筆者の目視で識別可能だった。このあたりは、上級クラスの現行テレビとしては平均的な性能だ。
自発光パネルの有機ELではあるが、高輝度な動体表現がどの程度ハロー(光芒)を及ぼすかをチェックできる「FALD ZONE counter TEST」も実行。眼球側で起きている視覚上のハローは見えるが、その周囲の漆黒背景には一切の輝度変化がない。当たり前なのだが、これこそが自発光たる有機ELならではの特質といえる。
最後に、普段よく見ているYouTubeも再生してみた。
HDRのYouTube動画も正しく描かれていたし、「ネット動画ビューティ」機能の恩恵もあってか、SDR映像も美しくHDR風に仕立てて表示してくれて見応えがある。粗めな画質のYouTube映像もそれなりに見られるようになる。フレーム補間も動作し、横方向に流れるパンの表示品質も優秀。スマートフォンやタブレットではなく、レグザで見る価値はあると思う。
総括:有機ELの「X8900K」にする? 液晶の「Z670K」にする?
最後に、2021年レグザのラインナップを特徴と共に整理・解説しておこう。
2021年モデルの特徴は3つほどある。
1つ目は、大画面モデルの充実化。2つのに4K液晶シリーズ(Z670KとM550K)で75型の大型モデルを用意した。なお、Z670Kシリーズの85型は諸般の事情で発売中止になっている(大画面☆マニアの筆者としては残念だった)。
2つ目は、液晶モデルの細分化。液晶ハイエンドの象徴型番だった“Z”が、3シリーズに増加。さらに中堅機的な位置づけだった数字“500”が、Z570KとM550Kに分岐された。ちなみに、Z570Kは4K/120Hz入力対応、M550Kは非対応機となる。
3つ目は、2021年レグザ・6シリーズのうち、4シリーズがAndroid TVベースとなったこと。本文でも従来との差異に触れたが、過去モデルからの買い換え組が、そのあたりをどう判断するのかが注目されるところだ。
個人的には、これまでハイエンドレグザの証であったZ型番モデルに、全録機能「タイムシフトマシン」が必須でなくなったのがやや気になった。ちなみに、現在レグザのラインナップでタイムシフトマシンに対応しているのは4K有機EL「X9400」「X9400S」、4K液晶「Z740XS」の3シリーズなのだが、これらはHDMI2.1の4K/120Hz入力には対応していない。
ということは、今期レグザにおいて「Android TV」「4K/120Hz入力」「タイムシフトマシン」の全部入りモデルは無いわけだ。
となれば「どの要素を妥協して選ぶか」という話になってくるわけだが、「2021年に購入」と言うことを考えれば「HDMI2.1対応」(≒4K/120Hz入力)は外せないと思う。そうすると、有機ELモデルは今回取り上げた48X8900Kが属する「X8900K」シリーズか、液晶モデルの「Z670K」もしくは「Z570K」シリーズが候補に挙がってくる。
Z670KとZ570Kとの違いは、簡潔に説明すれば、Z670Kの方が高輝度性能に優れ、音響性能も上位設計となっている事。HDR表現能力を重視するならば、Z670Kの方がオススメだ。Z670Kの最安値モデルの43型は、実勢10万~14万円といったところで、今回取り上げた48X8900Kよりも数万円安い。ちなみに、1サイズ上の50Z670Kは11万円~15万円で、43型との価格差は大きくない。
40型台の48X8900Kと43Z670Kのどちらを選ぶかについては、有機ELならではのハイコントラスト画質を選ぶならば48X8900Kを、視距離を短く取ったモニター的な活用を主体とするならば、価格も安い43Z670Kがよいだろう。