日沼諭史の体当たりばったり!
第28回
幅1.2mの超ワイド32:9モニターは、仕事2倍速でゲームが2倍楽しい!?【活用編】
2019年2月14日 08:00
32:9のアスペクト比で解像度5,120×1,440ドットという、ワイドすぎるデルの49型ディスプレイ「U4919DW」を設置してみた前回。幅1.2mを超えるサイズでありながら、一応は標準的といえる大きさのデスクにも(片付ければ)ちょうどいい感じに収まることがわかった。
実売17万円前後という価格のモデルではあるけれど、PBP(ピクチャーバイピクチャー)で画面を左右2分割して2つの映像入力を同時表示できるデュアルディスプレイ的な使い方もできるのが特徴の1つ。さらにUSB Type-C接続が可能で、USBハブを内蔵し、映像入力の切り替えに合わせて利用するUSBアップストリームポートも切り替えられる、といった使い勝手の良い機能が多いのも魅力だ。
一般的な16:9のディスプレイを横に2台並べたのと同じようなスタイルで、通常は避けられない中央の境目のないシームレスな視界を実現できるのも大きなメリットなわけだが、macOSやWindowsだと実際のところどんな風に使えるのだろうか。いくつかの接続方法で見え方などをチェックしてみた。
MacBook Proでは32:9の大画面を活かせない!?
まず筆者の現在のメイン環境であるMacBook Pro 13インチと接続するとどうなるのか紹介したいのだが、実はMacBook Proの環境ではいくつか注意すべきところがある。これはU4919DWの問題ではなく、どちらかというとmacOSもしくはMacBook Proの仕様や性能などに起因するのだが……。
USB Type-Cポートしか備えていないMacBook ProでU4919DWを使う場合、せっかくU4919DWにType-C入力があるわけだから、Type-Cで接続するのが最も合理的と思われる。ケーブル1本を接続するだけで映像出力と同時にMacBook Pro側に給電され、手早く使い始められるのがすばらしい。Type-Cがアップストリームポート代わりになって、U4919DWのUSBハブが使えるし、さらにはMacBook Pro自体の画面も加えてデュアルディスプレイ化も可能だしで、いいことづくめのように思える。
ところが悲しいことに、少なくとも13インチのMacBook Proだと外部ディスプレイにおける5,120×1,440ドットの解像度には対応していなかった。最大でも3,840×1,080ドットとなり、アスペクト比は保たれるものの全体がぼやけた表示になってしまう。Type-Cから変換してHDMI出力するアダプターも試してみたものの、解像度が不足するのは変わりなく、そのうえ映像が正しい色調で出力されない問題が発生した。
これはおそらくmacOSの、強制的にYCbCrで出力されるという仕様(もしくは不具合?)が影響しているようだ。U4919DW側の機能ではRGBとYPbPrの2種類の色空間に切り替えることはできるが、YCbCrは不可。macOS側で面倒な手順を踏んでドライバをカスタマイズすれば解消できるという情報はあるものの、それが成功したところで解像度不足である以上、シングルディスプレイで使う意味はあまりなさそうだ。
裏ワザ的にeGPU(外部GPU)を利用する手も考えられるけれど、そこまでしてシングルディスプレイにこだわりたいかというと微妙なところだ。それよりは、映像出力を2本にしてPBPで使うことをおすすめしたい。Type-C 1本のみの手軽さはちょっとだけ損なわれるかもしれないが、現状MacBook Proで実用的にU4919DWを扱うならPBPで入力するのがベターだ。
今回は、Type-Cと、Type-CからHDMIへの変換アダプタを使って2系統で出力した。U4919DW側の設定で、PBPを利用してその2系統の入力を左右に振り分ける。これならHDMIで入力した映像が変色することはない。デュアルディスプレイ扱いではあるものの、画面中央に境界が一切ないのでシングルディスプレイとして接続したかのようにつながって見える。もちろんMacBook Pro自体の画面も加えればトリプルディスプレイにもなる。
ただし、デフォルトではU4919DWの画面中央をまたがるアプリケーションのウィンドウは、左右どちらかにしか表示されず途切れて見えてしまった。ウィンドウが半分以上見える側の画面に表示され、もう一方の画面に表示されるはずの残りは見えないのだ。これでは一番見やすい中央にウィンドウを移動できない。厳しい……と思ったが、設定を変更することでこの問題は解決可能だ。
「システム環境設定」→「Mission Control」のなかにある、「ディスプレイごとに個別の操作スペース」のチェックをオフにしよう。こうすることで、ウィンドウを中央に移動させても途切れるようなことはなくなる。メインの作業ウィンドウを中央付近の見やすい位置に移動するなどして活用できるだろう。
なお、ウィンドウの全画面表示ボタンを押すと左右どちらかの画面のみで最大化され、もう片方の画面はブラックアウトする。どうしても2画面にまたがって全画面表示したいときは、手動でウィンドウサイズを変更するしかないようだ。こうすると、動画編集ソフトのようにできるだけ左右に長くタイムライン表示したいアプリケーションでは、驚異的なまでの視認性・閲覧性を確保できる。2台のモニターを使ったデュアルディスプレイのように中央で途切れないだけで、PCの使い方が大きく変わってきそうだ。
Windowsなら操作性、臨場感とも最高の環境に(ただしPC性能による)
次にWindows 10をインストールしたデスクトップPCで接続してみるとどうなるか。ビデオカードの性能にもよるが、DisplayPortやHDMIで出力可能な、相応のビデオメモリを積んでいるものなら、5,120×1,440ドットの解像度で表示が可能だ。
情けないことに、筆者の10年選手のデスクトップPCは、そのままだと非力すぎて全く解像度が足りなかった。そこで、一時的にGeForce GTX 1050(ビデオメモリ2GB)に交換したところ無事ドットバイドットで表示。純粋にシングルディスプレイで解像度をフルに活かしているので、画面中央でウィンドウが途切れるみたいな問題は起こりえない。
あえて2系統で出力してPBPで使うこともでき、もちろんその場合でも画面中央でのウィンドウの途切れはなし。通常はシンプルにシングルディスプレイとして表示させたい人が多いだろうけれど、実はWindows 10だとPBPにするか、しないかはけっこう悩ましいところ。用途によってはPBPにもメリットがあるからだ。
シングルディスプレイのメリットは、当然ながらケーブルを1本接続するだけで使えること。最大で4台のPCを接続でき、複数のPCを切り替えて使う場合もオンスクリーンディスプレイから単純に入力を切り替えればいい。PBPにすれば画面を2分割して2台のPCを同時に使えるというメリットもあるが、再び1台で画面をフルに使いたくなったときはPBPをオフにしたうえで入力切り替えを行ない、PC側の解像度設定も変更するというわりと面倒な手間が発生してしまう。
PBP時の映像入力の組み合わせや画面レイアウトを複数記憶しておくような機能はないので、PBP状態から非PBP状態へ、あるいはその逆へは、ワンタッチでスパッとキレイに切り替えられるわけではない。なので、5,120×1,440ドットの広いデスクトップを活かした作業をする場面もあるなら、あくまでもシングルディスプレイで使い続けたほうが結局のところは使い勝手に優れるだろう。
問題がありそうだったのはゲーム用途。手持ちのゲーム5種類(Battlefield V、PROJECT CARS 2、MotoGP 18、PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS、Cities: Skylines)で試してみたところ、1つを除いて5,120×1,440ドットの解像度にも対応していた。しかし、フルスクリーンでプレイする場合は、シングルディスプレイだと実質的に5,120×1,440ドットの解像度しか使えない。より低い解像度設定も選べるが、そうするとぼやけた映像になるし、16:9などのアスペクト比の解像度でも無理に32:9を保とうとするので横長に引き延ばされた見た目になってしまうこともあった。
たしかに5,120×1,440ドットで表示したゲーム画面は、圧巻の迫力だ。レースゲームだと左右の視界が広くなり、スピード感が増す。特にMotoGP 18だと大きく回り込むようなコーナーでもかなり先の方まで見通せて、コーナーの侵入からクリアまでの戦略が立てやすくなる。同じレースゲームでもPROJECT CARS 2の場合は、16:9のときと32:9のときとで、左右の視界の広さは変わらない。単純に上下方向の視界がカットされる形となるが、迫力はやはり増す。上下の視界が狭くなったとしても、レースゲームに限ってはそれほど大きな障害にはならないだろう。
BFV(Battlefield V)やPUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)のようなFPSでも左右の視界が広がり、臨場感は抜群。BFVは上下の視界は通常とほとんど変わらず、左右の視界が大幅に広がる分、臨場感も迫力も増す。が、装備の切り替えや各種ステータスの表示が画面端に追いやられるため、瞬間的に状況把握しにくくなるのがネックだ。一方、PUBGでは上下の視界が致命的に狭くなる。メニュー画面ですらガッツリ上下がカットされ、キャラの顔が見えなくなるほど。フィールド画面では上下が露骨に死角になり、デメリットの方が大きい。
話が少し遠回りになったが、フルスクリーンモードで実質5,120×1,440ドットでしかゲームをプレイできないと何が良くないのか。まず以上のようにゲームによって見え方が大幅に変わるため、異なる解像度で遊ぼうと思っても希望の解像度が選べなかったり、ぼやけたり、アスペクト比が合わなかったりする。5,120×1,440ドットだと、よほど高性能なPCでない限り高フレームレートでプレイできないのも問題だろう。2,560×1,440ドットと、5,120×1,440ドットでは、だいたいどのゲームでもフレームレートは半減してしまった。
どうしても低解像度でプレイしたければウィンドウ表示にするしかない。それで十分という人なら特に問題にはならないのだが、臨場感は薄れてしまうだろう。ちなみに、そもそも5,120×1,440ドットにも、32:9のアスペクト比にも対応していない「Cities: Skylines」は、むしろそうしたトラブルとは無縁だ。フルスクリーン状態でも左右が黒帯になるだけで、しっかり画面中央に表示され、ドットバイドットでアスペクト比もゲーム内での設定通りになる。
PBPで使うべき理由と、U4919DWの注意すべきデメリットとは
では、シングルディスプレイではなく、PBPにすると何が変わるのか。仮に1台で2系統出力してPBPにするとしよう。この状態だと2,560×1,440ドット解像度×2画面の扱いとなる。通常ならゲームでは片方の1画面のみ認識され、U4919DWの左右どちらかにのみ表示される。1画面分に限って言えば、2,560×1,440ドット解像度で、フルスクリーン状態でプレイできるわけだ。
このとき、ゲームによってはもう片方の画面でデスクトップや他のアプリケーションを表示しておけるので、Webの情報を参照しながらゲームをプレイするというデュアルディスプレイの良さを活かしたプレイスタイルを実現できる。いまだにBFVの操作マニュアルと首っ引きな筆者としては大いに助かる方法だ。もし2台目、3台目のPCとU4919DWを共用しているなら、PBPにすることで片方でゲーム画面を表示しながら、もう片方で別のPCの画面を見て操作することも可能となる。
しかし、ゲームで5,120×1,440ドットの解像度を使いたくても使えないのでは、せっかくのU4919DWの性能を発揮できないのではないか、と思うかもしれない。ところが、この状態でも5,120×1,440ドットの解像度でプレイする方法がある。たとえばNVIDIAのビデオカードを搭載している環境であれば、U4919DWをデュアルディスプレイ状態で使っていても仮想的にシングルディスプレイ扱いにできる「Surround」機能を利用可能だ。ドライバーユーティリティの「NVIDIA コントロールパネル」から設定しよう。
ディスプレイは1台なのにデュアルディスプレイ扱いで、でも処理的にはやっぱりシングルディスプレイ、というなんだかよくわからない状況なのだが、こうしておくことで、ゲーム側の設定で2,560×1,440ドットのシングルディスプレイ(左右片側のみ表示)にも、5,120×1,440ドットのシングルディスプレイにも、自在に切り替えが可能な状態になる。
十分に高い性能をもつPCなら、ゲームによっては精細さ重視で5,120×1,440ドットでプレイしたいときもあるだろうし、あるいはパフォーマンス重視で2,560×1,440ドットでプレイしたいときもあるだろう。PBPなら、Windows側での解像度設定を気にすることなしに、ゲームごとに適切な解像度でプレイでき、使い方によってはネットの情報なども収集しながら遊べる。シングルディスプレイよりPBPの方が何かとフレキシブルに対応しやすいのだ。
さて、5,120×1,440ドットという解像度は、ディスプレイ2台分の横幅ということもあって、複数のアプリケーションウィンドウを常時並べながら作業する際にも便利ではある。ただ、画面全体にまんべんなくウィンドウを配置した状態が効率的に作業できる最高の環境かというと、正直なところ疑問が残るのが筆者の感想だ。なぜなら、個人的な感覚にはなってしまうが、U4919DWだと画面の端の方を見るのがけっこう大変になるから。
視線や首をそちらに向けるだけでいいのでは? と思うかもしれないが、U4919DWは湾曲しているとはいえ、そこまでR(曲率半径)は小さくない。画面の端の方までしっかり視認するには、人によっては身体ごとそちらに移動させないと正面から見据えることができないのだ。画面の視野角は広いので視認性に問題があるわけではないけれど、幅があるだけに、極端な話、自分の席から隣の席にあるディスプレイを操作するような感じになる。画面が遠く、どうしても身体ごと移動させたくなるのだ。
身体を動かさずに使うには、スイーベル機構を用いてディスプレイの向きを変えるのが早い。けれども、デスクトップにおける一連の操作のなかでディスプレイの向きをいちいち変えていては、作業効率のために画面を広くした意味が半減するのではないか。頻繁に向きを変えることになれば背の高いものはなぎ倒されるので、なおのことディスプレイ周辺に物を置けない。画面の向きを見やすいように自由に調整できるという意味では、通常のデュアルディスプレイの方が都合が良いはずだ。
「境目ゼロのデュアルディスプレイ」に価値を見いだせるか
まとめると、U4919DWのメリットとデメリットは以下のようになるだろう。
メリット
・5,120×1,440ドットの解像度は超広い! ゲームは大迫力!
・通常のデュアルディスプレイにはない境目ゼロのシームレスな視界
・PBPで用途に合った適切な解像度を確保しやすい
・USB Type-Cでお手軽接続。USBハブも便利
・デスク上を片付けないと使えないので強制的に働き方改革できる!
デメリット
・広大な解像度でのゲームプレイはPC性能に依存
・画面の端が遠い。体や画面を動かすなど工夫が必要な場合も
・通常のWQHDディスプレイ2台よりも高額
このなかで一番のポイントとなるのは、通常のデュアルディスプレイ代わりに使ったときに、境目のないシームレスな視界を実現できること。横長にすればするほど閲覧性・操作性が高くなる動画編集や、さらなる臨場感と戦略性が得られるレースゲームなどでは(リフレッシュレート最大60Hzというのがネックになるかもしれないが)、特にメリットを感じやすい。こうした“境目なし”に価値を見いだせる用途においては、U4919DWは間違いなく買いと言える。
ところで、このまとめを書いている現在、すでにU4919DWは筆者の手元を旅立ってしまい、元の25型WQHDモニターで作業している。なんというか、一気に画面が小型化してチープな環境に退化してしまったような、切ない気分になっている。これが“ペットロス”ならぬ“32:9ロス”なのだろうか……。デルの32:9モニターであるU4919DWを一度でも体験してしまうと、もはや後戻りはできない。もし自宅や職場のどちらかをU4919DWにしてしまったら、もう一方の環境もU4919DWにせずにいられないのではないか。この点も肝に銘じつつ、U4919DWを導入する際の参考にしてほしい。