日沼諭史の体当たりばったり!

第29回

360&180度カメラで“バイクの精”に!?「Insta360 EVO」の臨場感MAX走行撮影

Insta360 EVO

こんにちは! バイクの妖精です!

とまあ、冗談はさておき、360度カメラをアクションカメラ風に車載して使いたい! そう思う人は少なくないはず。そりゃ、従来のアクションカメラを使った1人称視点の映像でも、撮影者の視界を再現できるし、その場の臨場感やスピード感の一端をかいま見ることができる。でも、視界が1方向に限られるせいで、可能なのはあくまでも撮影者の経験の片鱗を共有するところまで。

対して周囲360度すべてを撮影できる360度カメラなら、視界にほぼ制限はない。撮影時の出来事を追体験できるだけでなく、その経験を強化したり拡張したりすることにもつながるはずなのだ。ところが、従来型の360度カメラを車載しようとしたとき、特にバイクに取り付けて使う際、詳しくは後述するけれど、多くの製品は主にサイズや形状の点で課題があった。

そんなところへ登場したのが「Insta360 EVO」だ。価格は56,570円(税込)。全周撮影ができる360度カメラと、3D撮影を可能にする180度カメラのハイブリッドとなっているこの製品、アクションカメラとして使うには実は課題がないわけではないのだが、とりあえずチャレンジしてみようではないか。

バイクの車載に向いたコンパクトさと高画質。だが……

Insta360 EVOの詳細については、すでに別記事でレポートが掲載されているのでそちらも参照していただきたい。基本的な部分を改めて紹介すると、Insta360 EVOは、折りたたむと前後2つのレンズを備えた360度カメラになり、開くと前方に2つのレンズがある180度カメラに変身する製品だ。

折りたたんだ360度カメラの状態

180度カメラでは視差による3D撮影が可能になる。なので、全周撮影するときは360度カメラに、3D撮影したいときは180度カメラに、という使い分けが可能。もしくは、視界は最大限に広げながらも撮影者本人(自分)が映らないようにしたいときは180度カメラにする、という使い方もできそうだ。

開くと……
180度カメラになる
ロック機構があるので、撮影中に開いたり閉じたりすることはない

動画撮影時の画質は5.7K(5,760×2,880ドット/30fps)や4K(3,840×1,920ドット/50fps)などを選ぶことができる。最大解像度時のフレームレートの低さは気になるものの十分に高性能だ。明暗差の大きいシーンを補正するHDR撮影機能、「FlowState Stabilization」による手ブレ補正機能も備える。サイズは折りたたんだ状態で50.3×49×52.54mmとほぼ5cm角のキューブとなり、手のひらに収まるコンパクトさとなっている。

5cm角のキューブ状でコンパクト

360度カメラをバイクに車載しようとすると、これまで一番の課題となっていたのがこの筐体サイズや形状だった。背の高いスティック状になっていることが多い360度カメラは、バイクのように外気にさらされている車両に取り付けようとしたとき、視界を広く確保しようとすると外側に飛び出て風圧の影響をもろに受けやすい。最悪の場合走行中に根元からもげる、なんて事態も想像してしまう(飛び出ているのは安全面でも問題があるだろう)。かといって風圧がかからないようにカウルの内側に収めると、視界が狭くなって360度カメラの本領を発揮できない……。

同シリーズの360度撮影が可能なタイプとして、アクションカメラに分類されているInsta360 ONE Xもあるが、やはりスティック状の縦長筐体だ。他社ではリコーのTHETAシリーズも縦長。かろうじてGoPro Fusionは縦長ではなく、ほとんど唯一のアクションカメラ的な用途に向いた機種だが、サイズが縦横7cm以上と意外に大きいため、高速走行する際には工夫が必要になりそうだ。

その点、Insta360 EVOはコンパクトで、画質面でもGoPro Fusionの5.2K(4,992×2,496ドット/30fps)を上回る。HDR撮影や手ブレ補正も、周囲の環境がめまぐるしく変わることがある走行シーンの撮影に向いた機能と言えるだろう。ただ、心配なのは防水・防塵のような耐久性能を備えていないところ。保護するハウジングも用意されていないので、雨の降っていない日にオンロードを走るシチュエーションであればなんとか……というところだろうか。

microSDカードスロットもカバーなどはされていない。防水性はほぼないと言ってもいいだろう

筆者のバイクに装着するも、悲劇が!

せっかく試すなら公道をのんびり流しているのを撮影するより、それなりに本気で走っているところをInsta360 EVOで収めたい。Insta360 EVOを借りることができた4月、ちょうど筆者も出場するバイクのジムカーナイベント「NAPS MOTOGYM」が開催されたので、ここで試してみることにした。

視界をできるだけ広く取り、かつ走行中に邪魔にならない場所となると、コンパクトなInsta360 EVOの筐体といえども選択肢は限られる。スポーツ走行するような場合、ハンドル周りは操作の妨げになる恐れがあるためNG。ジムカーナといえば転倒がつきものなので、その際にカメラが破損するような位置にあってもいけない。筆者のバイクだとInsta360 EVOの三脚穴を利用するマウントとともに、(汎用の)接着式マウントなどでフロントカウルに固定するか、リアシートのグラブバーに固定するかのいずれかに絞られる。

筆者のバイクのグラブバーに装着してみた
かなりガッチリ固定できている
マウントとの接続には本体底面にある三脚穴を利用した

ひとまずグラブバーに取り付けてみたが、結論から言えば、撮影はできなかった。というか、操作ミスで撮影に失敗してしまった。申し訳ありません!

事前に何度も撮影操作をシミュレーションしていたものの、筆者の走行は予選の1回きりで終わった。情けないことに予選落ちである。そこで撮影に失敗してしまったため再トライする機会がなかったのだ。予選を勝ち抜いて本戦に出場すれば2回以上チャレンジすることもできたのだが、無念……。

だからといって「動画なし」で終わらせるわけにはいかない。急きょ他の出場選手にお願いし、撮影させてもらうことになった。装着したのはジムカーナ最高峰クラスのA級に属する中澤伸彦選手のSUZUKI GSX-R1000。転倒時に車両を保護するバンパーの上に固定した。出場車両のなかでは、ハンドル以外への取り付けで、転倒時にも破損しにくい固定場所があり、固定場所からの視界がある程度開けている、という条件に最も合致する車両でもあった。

中澤伸彦選手のSUZUKI GSX-R1000に装着させていただいた

折りたたんだ360度カメラの状態はもちろん、開いた180度カメラの状態でも取り付けスペースに問題はなし。視界は右側の大半が車両に遮られると思われたが、結果的には走行中のライダーの様子を観察でき、フロントタイヤの動きもある程度把握できる位置に取り付けることができたので、見どころは多いだろう。視点が低いので、スピード感もまずますだ。

バンパーの張り出しより内側にあるため、よほど激しい転倒でなければ問題ない
180度カメラの状態での装着でもスペースには余裕あり
「Insta360 EVO」アプリを使えば、Insta360 EVOのリモート操作や撮影した360度・180度動画の再生などを行なえる
撮影中のプレビューも可能

付属VRスコープで迫力の視聴(ただしVR酔いにご注意)

撮影した動画ファイルはPC用ソフト「Insta360 Studio 2019」で簡単に編集できる。このソフトで編集し、出力してYouTubeにアップロードして公開すると、そのまま360度動画や3D(180度)動画として認識される。かつて360度動画といえば、いったん他のツールを用いてメタデータを付加するなどの追加処理を施さないとYouTube上で360度動画にならないこともあったが、Insta360 EVOではそのあたりを意識する必要はまったくない。

PC用ソフト「Insta360 Studio 2019」で簡単な編集が可能
ファイル出力後、YouTubeにアップロード。特殊な加工やメタデータの付加を行なう必要はなし

ただ、YouTube上で「非公開」にしている状態だと、スマートフォンとVRスコープの組み合わせでは再生できないようだ(VR再生時に起動するYouTube VRアプリが自分のアカウント情報を保持していないからかもしれない)。公開前の確認のためにアップロードユーザー本人しか再生できないようにしているときは注意したい。

動画再生を開始したらVRスコープのアイコンをタップして、スマートフォンをVRスコープなどに装着して視聴しよう

というわけで360度撮影した映像が以下。できればVR対応のスマートフォンとVRスコープ、もしくはOculusシリーズなどのVRヘッドセットを使って視聴していただきたいが、それらがなくても360度動画として視界を変えながら再生することは可能だ。

Daydream ViewなどのVRヘッドセットでの視聴を推奨!
付属する3Dグラスを使って、VRスコープに近い形で楽しめる
Insta360 EVOによる“360度撮影”(ライダー:中澤伸彦選手)

これをVRスコープなどで視聴した人は、もしかするとVR酔いしてしまったかもしれない。筆者はした。ゴールしたときは身体がなんかふわっとした。それはともかく、手ブレ補正による見やすい映像と、バイクがリーンして(傾いて)いても水平を保っている点は特筆ものだ。

この安定した画質のおかげで、VRスコープを使わずそのまま再生したときはもちろん、VRで視聴した場合でも多少のVR酔いこそあれ安心して見ることができる。そのせいか会場の臨場感も感じ取りやすい気もする。もともとの解像度が高いことと、ブレの少なさによって、YouTubeにアップロードした後でも画質劣化を最小限に抑えられているようにも見える。

でもって次は180度でも撮影した。途中でバッテリーが切れてしまい、コース走行ではなくウォームアップ走行のシーンのみとなってしまった点はご容赦願いたい。

Insta360 EVOによる“180度撮影”(ライダー:中澤伸彦選手)

こちらは3D動画となっており、360度動画とはまた違う意味で迫力のある映像となっている。VRスコープを使わないと360度動画との違いが(視界が前方のみに限定されている以外は)ほとんどわからないが、VRスコープで視聴すると、右側にある車体や他の走行車両、パイロンなどが浮かび上がって見え、遠近感がつかみやすい。迫り来る障害物の怖さは360度映像よりも増しているように感じられる。

ライダーに感情移入してしまう圧倒的な臨場感

それにしても、こういった1人称視点の映像は、ライダー視点だとあくまでもライダーの追体験に近いものになるが、今回のようにバイク視点で撮影すると、とりわけVRスコープを使って見たときに、3人称視点というか、まるで自分がバイクに取りつく“バイクの精”になったような気がする。「あのとき実はここでこっそり見守ってたんですよ」みたいな感覚さえ湧いてきて、ともするとライダーに感情移入してしまいそうな……。

表示する端末の解像度にもよるが、Insta360 EVOの映像は視点やブレがきれいに補正されることもあり、個人がさほど工夫することなく気軽に撮影したものでもVR体験を大幅に向上させることができる。防水・防塵や耐衝撃などの性能を備えていないため、アクションカメラとして本格的に使うのには向かないのが残念なところだが、サイズや形状、画質といった面ではポテンシャルが高いだけに、なんとかこれを活かしてバイクなどの車載にも気軽に使えるようになれば、と思う。耐久性能を補うハウジングの登場が待たれるところだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。